詩百篇第1巻3番


原文

Quand1 la lictiere2 du tourbillon3 versée,
Et seront4 faces de leurs manteaux5 couuers,
La republique6 par gens7 nouueaux vexée,
Lors blancs8 & rouges9 iugeront10 à l'enuers11.

異文

(1) Quand : Quant 1557B 1589PV
(2) lictiere : lictiére 1605sn, lictlere 1610Po
(3) tourbillon : tonrbillon 1590SJ
(4) seront : feront 1667Wi 1668A
(5) manteaux : Manteaux 1672Ga
(6) republique : Republique 1588Rf 1589Me 1594JF 1612Me 1672Ga 1772Ri
(7) gens : gent 1627Di
(8) blancs : Blancs 1594JF
(9) rouges : roges 1557B, Rouges 1594JF
(10) iugeront : iureront 1606PR 1607PR 1610Po 1716PR
(11) l'enuers : l'anuers 1590Ro

日本語訳

敷藁が旋風で裏返り、
彼らの顔がその外套で覆われるであろう時、
共和国は新しい人々に悩まされる。
その時、白と赤は反対に裁くだろう。

訳について

 大乗訳は2行目「顔という顔がマントでおおわれるだろう」*1が若干大げさに見えることを除けば、ほとんど問題はない。

 山根訳1行目「輦台が旋風で転覆し」*2は、誤りではない。lictiere は現代でも中期フランス語でも「藁、敷き藁」の意味と「駕籠」の意味がある。
 2行目「顔が仮面でかくされるとき」は manteaux の訳として「仮面」を使うのは少々疑問である。3行目「新しい共和国はおのれの人民に悩まされるだろう」は、「新しい」(nouveaux)が複数形なので単数の「共和国」にかかることはできない。

信奉者側の見解

 ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは、1561年5月のこととした。前半はフランスが上も下もなく大騒ぎになる中で、フランス人の間では欺瞞が支配的となることとした。後半は、コンデ親王がフランソワ2世の代に死刑判決を受けたものの、1561年5月17日に一転して無罪が宣告されたこととした*3

 テオフィル・ド・ガランシエールは、前半はそのままひどい嵐で駕籠がひっくり返る事件のこととした。3行目の「新しい人々」はノストラダムスの時代にはルター派やカルヴァン派のこととし、4行目はフランス(白)とスペイン(赤)の間の騒動や摩擦とした*4

 ウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエはフランス革命の予言とした。革命の混乱の中、陰謀家たちは自らの策謀を公共の福祉の大義で覆い隠したことや、王党派(白)と共和派(赤)の間で支配する側がひっくり返ったことなどが予言されているとした*5
 この解釈はチャールズ・ウォードエリカ・チータムクルト・アルガイヤー らが踏襲した*6セルジュ・ユタンは、フランス革命にもロシア革命にも適用できる可能性を指摘していた。

 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)は左翼政権やパルチザンに関する詩としていた。ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、近未来の大戦でイスラーム信徒(白)とロシア軍(赤)が仲違いするときに、フランス第五共和制が崩壊する予言としていた*7

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールは、前半の嵐が引き起こす事件が、後半に描かれている出来事を告げる凶兆となっているとし、後半に登場する「白」「赤」はいずれも裁判官の長衣の色とした。ブランダムールは『1562、1563、1564年向けの暦書の予言』で、裁判官の色として白と赤が併記されていることを傍証として挙げている*8

 ピーター・ラメジャラーは、白と赤を裁判官とする見解を引き継ぎつつ、前半はユリウス・オブセクエンスが報告する紀元前152年にユピテル神殿を襲った旋風や、コンラドゥス・リュコステネスが報告する中世ヨーロッパを襲った旋風がモデルになっているのではないかとした。その上で、後半は『ミラビリス・リベル』に収録された予言の中で、イスラーム勢力の侵攻の後で裁判官も堕落し、金銭に目がくらむようになるとされていたことと関連付けた。

 ロジェ・プレヴォは1561年のポワシーの会談のこととした。そこでは、カトリーヌ・ド・メディシスがプロテスタント(白)とカトリック(赤)の融和に努めた*9。しかし、この詩の初出は1555年のことであって、不適切だろう。

その他

 ラメジャラーは「アンリ2世への手紙」第68節との類似性を指摘している。
「我慢している平民が立ちあがり、立法者たちの支持者たちを追い出すでしょう。そして、諸王国が東方の人々に弱らされると、(その時代の人々からは)造物主である神が、大きなドグとドガムを産み出させるために、地獄の牢からサタンを解放したのではないかと思われることでしょう。それら(すなわちドグとドガム)が余りにも酷い憎むべき破壊を教会に加えるので、赤い者たちも白い者たちも双眼と両腕を喪失してしまい、もはや判断ができなくなるでしょう。そして、(赤や白の)彼らから力が剥ぎ取られるのです」。*10


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  • “敷藁”は貧困な学生時代を過したロベスピエールの暗喩、それが“裏返る”とは平民(国民公会)による権力掌握、“外套”は貴族の暗喩。1793年9月21日、フランスは王政から共和制になった。カバラ思想では、白は王冠(=王位)、惑星では海王星、赤は峻厳、惑星では火星を意味する。1758年5月6日生まれの彼のホロスコープは、獅子座で海王星(12度)と火星(17度)に合になってる!! -- とある信奉者 (2013-04-02 19:41:34)

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詩百篇第1巻
最終更新:2018年06月18日 18:16

*1 大乗 [1975] p.46

*2 山根 [1988] p.41

*3 Chavigny [1594] p.82

*4 Garencieres [1672]

*5 Bareste [1840] pp.516-517, Le Pelletier [1867a] p.162

*6 Ward [1891] p.228, Cheetham [1973], Allgeier [1989]

*7 Fontbrune [1939] p.33, Fontbrune [1980/1982]

*8 Brind’Amour [1996]

*9 Prévost [1999] pp.191-192

*10 訳文は姉妹サイト内の「アンリ2世への手紙・対訳」から転用した。