詩百篇第1巻84番


原文

Lune obscurcie aux profondes tenebres,
Son frere pasle1 de couleur2 ferrugine :
Le3 grand caché4 long temps5 sous les latebres6,
Tiedera7 fer8 dans la playe9 sanguine10.

異文

(1) pasle 1555V 1588-89 1606PR 1607PR 1627Di 1627Ma 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba : passe T.A.Eds.
(2) de couleur : couleur 1627Di 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba
(3) Le : La 1588Rf 1589Rg 1716PR
(4) caché : cahé 1665Ba
(5) long temps : longtemps 1611B, lon temps 1627Di 1627Ma
(6) latebres 1555 1840 : tenebres T.A.Eds.
(7) Tiedera : Tiendra 1588-89 1589PV 1590SJ 1612Me 1649Ca 1650Le 1668, Tiedra 1590Ro, Tie dera 1605sn 1628dR 1649Xa, Teindra 1611B 1792La 1981EB
(8) fer : le fer 1667Wi 1668P, Fer 1672Ga
(9) playe : praye 1591BR 1597Br 1611A, pluye 1605sn 1627Di 1628dR 1627Ma 1644Hu 1649Xa 1650Ri 1653AB 1665Ba, Pluie 1672Ga
(10) sanguine : sanguinaire 1611B 1792La 1981EB

(注記)1792La はランドリオ出版社版の異文。

校訂

 2行目 pasle について、ジャン=ポール・クレベールは passe とする異文を支持している。ピエール・ブランダムールもかつては passe を採用していたが、校訂版では pasle を採った*1
 4行目 tiedera について、ブランダムールはかつて tiedira と校訂したが、校訂版では tiedera のままとした(ただし、意味としては tiedira として理解した)。

日本語訳

月は深い闇に曇らされ、
その兄弟は錆色に顔色が変わる。
隠れ家に長い間潜んでいた大物は、
血塗れの傷口で鉄器を生温くするだろう。

訳について

 2行目は直訳すると「その兄弟は錆色に蒼ざめる」となるが、錆色(赤茶色)に「蒼」ざめるというのは日本語として不自然なので、意訳した。「錆色によって蒼ざめる」と訳すことも可能である。

 大乗訳も山根訳は底本に基づく訳としてはおおむね許容範囲内といえる。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、夜に月蝕が起こり、翌日は一日中太陽が鉄の色になる時、隠れていた大物が現れ、多くの人を死なせることになる予言とした*2

 その後、20世紀までこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、バルタザール・ギノーテオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードの著書には載っていない。

 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)は、3行目の「偉人、大物」(Le grand)を反キリストとする以外はほとんどそのまま敷衍したような訳しかつけていなかったが、この詩を1999年7月の直前に置いていた*3
 アンドレ・ラモンは未来の情景とし、太陽と月が立て続けに暗くなるときに、死んだ方がましと思えるような艱難が人類を襲うことの予言とした*4

 ジェイムズ・レイヴァーは、アルトワ伯シャルルとベリー公シャルル・フェルディナンに関する予言と解釈した。
 「曇らされた月」はフランス革命で亡命を余儀なくされ、長い間国外で過ごしたアルトワ伯シャルルを指し、鉄色で蒼ざめた「兄弟」は、ギロチンにかけられた兄王ルイ16世を指すという。「偉人」はナポレオン失脚後にフランスに舞い戻ったアルトワ伯の息子ベリー公で、4行目はベリー公が1820年に短剣で暗殺されたことを指すという*5
 エリカ・チータムはこの解釈を踏襲した*6。なお、その日本語版ではルイ16世がアルトワ伯の「弟」とされているが、「兄」の誤りである(原書では単なる brother なので、これは日本語版特有の誤り)。
 ジョン・ホーグもベリー公暗殺としているが、1行目はその夜が新月だったことを指すという。ホーグはアメリカの占星術師ダン・オルデンバーグ(Dan Oldenburg)の見解として、暗殺事件があったパリ時間1820年2月13日午後9時が実際に新月だったとした*7

 セルジュ・ユタンは錬金術的な意味を持つ詩だろうとしていた*8

 ヴライク・イオネスクは冥王星発見の予言とした。3行目の grand が冥王星を指し、それが発見されたときの星位は冥王星、天王星、海王星を底とし、火星を頂点とする「槍の穂先型」になっていて、3、4行目の描写に対応するという。
 また、3行目の caché (隠された)をギリシア語訳したハイデスないしハデスが冥府を意味することや、4行目の playe の最初の2文字 pl が占星術で冥王星を意味する記号(P と L を組み合わせている)に対応することなども傍証として挙げられている*9
 パトリス・ギナール(未作成)はこの解釈を支持し、イオネスクが第8巻69番第4巻33番とともに、土星以遠惑星(当時。現在は周知のように冥王星が格下げされている)の発見に関する3つの予言としていることを踏まえ、詩番号の84は天王星の公転周期84年と、冥王星発見(1930年)が海王星発見(1846年)の84年後であったことをも示すとした*10

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールは、前半2行が殺人を暗示する凶兆の描写で、後半がその殺人とした。月が隠されることは暗殺者の待ち伏せを暗示し、太陽が錆色になることも流血沙汰を暗示するという。
 ブランダムールは、ウェルギリウスの『農耕歌』の中で、ユリウス・カエサルが暗殺された際に、哀れみを示す太陽が錆色になったと歌われていることや、4行目の「鉄器(剣)を生温くする」という表現が、プルタルコスの『対比列伝』で描かれたカエサル暗殺直後の描写に触発された可能性を指摘した*11
 高田勇伊藤進ブリューノ・プテ=ジラールピーター・ラメジャラーらの解釈もこれを土台にしたものになっている*12


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詩百篇第1巻
最終更新:2018年11月01日 23:16

*1 Clebert [2003], Brind’Amour [1993] p.269, Brind’Amour [1996]

*2 Garencieres [1672]

*3 Fontbrune [1939] p.278

*4 Lamont [1943] p.353

*5 レイヴァー [1999] pp.312-313

*6 Cheetham [1973]

*7 Hogue [1997/1999]

*8 Hutin [1978 / 2002]

*9 イオネスク [1993] pp.288-294

*10 cf. ドレヴィヨン&ラグランジュ [2004] pp.127-128

*11 Brind’Amour [1996]

*12 高田・伊藤 [1999], Petey-Girard [2003], Lemesurier [2003b]