原文
Corps1 sublimes2 sans fin3 à l'oeil4 visibles5
Obnubiler viendront6 par ses7 raisons:
Corps,front8 comprins,sens,chief &9 inuisibles,
Diminuant les sacrées10 oraisons11.
異文
(1) Corps : Cors 1589Me
(2) sublimes : sublimés 1557B 1568I, sublimez 1589PV
(3) fin : fln 1568B
(4) à l'oeil : a l'oeil 1588-89 1649Xa, à loeil 1605
(5) visibles : vsibles 1627
(6) viendront : viendrons 1588-89, viendronr 1590Ro
(7) ses 1555 1589PV 1644 1649Ca 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668 1840 : ces T.A.Eds. (sauf : les 1627)
(8) front : seront 1589Me
(9) sens, chiefs & : sans chef & 1557B 1588-89 1590Ro 1649Xa, sens chefs & 1600 1716, sens chiefs & 1610, sens chef & 1605 1611 1628 1660 1665, sens, chef, & 1627 1644, sens, chef & 1589PV 1649Ca 1650Ri 1650Le 1653 1668, sens & chef 1672, sens chief & 1772Ri
(10) sacrées : Sacrées 1672, sacrés 1840
(11) oraisons : Oraisons 1611B 1672 1772Ri
校訂
ピエール・ブランダムールは1行目の sublimes を sublimés とし、2行目の ses を ces とした。
日本語訳
限りなく昇華した可視の物体は、
それらの理由によって曇らせることになるだろう、
額、感覚、頭、不可視の部分を含む肉体を。
神聖な祈りを減らしつつ。
訳について
山根訳1行目「至上の肉体がかぎりなく眼に映る」は、sublimes を採用したなら区切り方によっては可能な訳。
2行目「それらの理性の作用で曇りはじめる眼」は誤訳。「眼」は原文にない。しかも、それを補ってしまったことで、2行目の目的語であるはずの3行目と断絶してしまい、3行目も「肉体 額とともに 感覚と頭 いっさい見えぬ」という不適切な訳になっている。invisibles は他の額や感覚などと並置されている。
大乗訳1行目「天体が たえることなく目に見え」は、「至高の物体」=「天体」と意訳したものだろうが、妥当性は疑問。
2行目「理性をくらまし」は、par を無視しており、不適切。また、「理性」を目的語にしたことで3行目との繋がりが不鮮明になったのは、山根訳と同じような問題点といえる。
4行目「聖なる祈りを捧げていく」は、diminuer (少なくする、減らす)の訳として明らかに不適切。
信奉者側の見解
アナトール・ル・ペルチエは、18世紀以来の物質主義の隆盛と解釈した。望遠鏡の発明により天体を絶えず目にすることができるようになり(1行目)、理性は伝統的な信仰を軽んじるようになり(2、4行目)、知性が肉体に宿っていることも神や精霊を介在させずに理解されるようになった(3行目)と解釈した。
ル・ペルチエの解釈は、3行目の sens (感覚)を sans (~なしに)と読み替えることや、chief (頭、指導者)を「神」、invisibles を「精霊」、front (額)を「知性」と解釈することが土台になっている。
チャールズ・ウォードはル・ペルチエの解釈を引き合いに出してはいるが、フランス革命と関連付けた。
エリカ・チータムは望遠鏡の発明だとする解釈が存在することに触れつつも、ノストラダムスの「オカルト」的な詩のひとつとした。
同時代的な視点
ピエール・ブランダムール、
高田勇・
伊藤進、
ピーター・ラメジャラーらは、いずれも錬金術に関する詩とした。それが精神的にも肉体的にも堕落を招くものとして、否定的に描かれているらしい。
錬金術への否定的な見解は、第一序文(セザールへの手紙)の次の節と整合している。
「隠秘哲学が排斥されている以上、たとえ長い間隠されていた何巻かの文献が私の手許にあったとしても、私はその度の外れた教えを提示したいとは思わなかった。しかし私はそれがもたらすものに憂えて、読んだ後に
ウォルカヌスに捧げたのである。それらが燃え尽きるまでに、空気をなめる炎は自然の炎よりも明るく、あたかも稲妻の輝きのような異常な明るさを放ち、突然に家を照らし、まるで大火災が起こったかのごとくであった。おまえがいずれ月(銀)や太陽(金)の全き変化の研究であるとか、地中や伏流の朽ちない金属の研究などに惑わされないようにと、私はそれらの文献を灰にしたのである。」(第34節、第35節)
しかし、すぐあとの
28番、
29番、
33番などに、錬金術的な操作が描写されているらしいこととは矛盾する。この点はまだ未解明の要素が多い。
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最終更新:2010年10月02日 21:58