詩百篇第12巻36番


原文

Assault farouche en Cypre se prepare,
La larme à l'oeil, de ta ruine1 proche2:
Byzance classe3, Morisque4 si grande5 tare6.
Deux differents. le grand vast par la roche7.

異文

(1) ruine : ruïne 1689PA 1689Ma 1697Vi 1720To
(2) proche : s'approche 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba 1697Vi 1720To
(3) classe : Classe 1672Ga
(4) Morisque : Morisique 1611B
(5) grande 1594JF : grand T.A.Eds.
(6) tare : rare 1697Vi 1720To
(7) roche : Roche 1672Ga

日本語訳

粗暴な襲撃がキプロスで準備される。
汝の破滅が近く、目には涙。
ビュザンティオンの艦隊とモール人の艦隊、非常に大きな損失。
二つの異なるもの。岩による大規模な荒廃。

訳について

 3行目の Morisque は形容詞であり、直後に classe が略されていると考えた。これは Byzantine and Moorish fleet というエドガー・レオニの英訳を参照したものである。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳について。
 2行目 「私の目に涙が 汝の破滅が近づき」*1は、「目」に1人称の所有格がついていないので直訳とは言えないが、レオニらもそう訳しているし、文脈を考慮した意訳としては許容されるだろう。
 3行目「トルコの艦隊とムーア人は大損害を受け」は、Morisque を名詞的に使っていると解釈すれば成り立つが、「非常に大きな損失」を与えるのか受けるのか、前置詞がないので、原文からは特定できない。キプロスの破滅が近いという文脈からすれば、むしろ艦隊がキプロスに大損害を与えると読む方が妥当なのではないかと思われる。

信奉者側の見解

 当時のキプロスはヴェネツィアに支配されていたが、1570年にオスマントルコの襲撃を受けた。ヴェネツィアは神聖ローマ帝国やローマ教皇に働きかけて連合艦隊を編成したが、1571年8月6日にキプロスのファマグスタ(Famagusta)が陥落し、オスマン帝国にキプロスを奪われた。その直後、10月7日のレパントの海戦で連合艦隊はオスマントルコに勝利したものの、翌年に再建されたオスマン帝国艦隊によってキプロスは奪われてしまった。

 信奉者たちは、以上の史実の一部分とこの詩を結び付けている。ジャン=エメ・ド・シャヴィニーは1570年9月の襲撃に重点をおいているし、テオフィル・ド・ガランシエールジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは1571年に重点を置いている *2

同時代的な視点

 「この詩は疑わしくも十分に成就した」*3とエドガー・レオニが書いているように、詩の情景は十分に1570年から1571年のキプロス情勢と結びつけることができる。ただし、この詩の発表は1594年のことであり、事後に偽造された可能性も捨て去るべきではない。

その他

 1644Hu 1653AB 1665Ba 1697Vi 1720Toでは詩番号が26番となっている。


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詩百篇第12巻
最終更新:2018年11月13日 00:27

*1 大乗 [1975] p.312。以下、この詩の引用は同じページから。

*2 Garencieres [1672], Fontbrune (1980)[1982]

*3 Leoni [1982] p.757