百詩篇第4巻96番

原文

La sœur1 aisnee de l'isle2 Britannique,
Quinzans3 deuant le frere aura naissance:
Par son promis moyennant verrifique,
Succedera au regne4 de balance5.

異文

(1) sœur : sæur 1557B
(2) l'isle 1557U 1557B 1568 1588-89 1627 1644 1650Ri 1772Ri 1840 : l'Isle T.A.Eds.
(3) Quinzans 1557U 1589PV : Quinze ans T.A.Eds.
(4) regne : Regne 1672
(5) balance : Balance 1627 1644 1649Ca 1650Le 1650Ri 1653 1665 1667 1668 1672 1840

日本語訳

ブリタニア島の姉は、
弟よりも十五年先んじて生まれるだろう。
立証されたおかげでその婚約者によって、
(彼女は)天秤宮の王国を継承するであろう。

訳について

 山根訳、大乗訳とも、それほど大きな問題はない。なお、それらの訳は共通して3行目の promis を「約束」と訳しているが、上では「婚約者」の方で理解した。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、ルイ13世が天秤座生まれであったことから、彼と結び付けていた*1

 D.D.の解釈を引き継いだチャールズ・ウォードは、イングランドのメアリ1世と解釈し、ヘンリー7世以降のイギリスの政策がヨーロッパのバランサーとして機能していたことを「バランスの王国」と表現しているとした*2

 20世紀以降にはむしろ、「ブリタニア島の姉」をアメリカと捉え、アメリカ合衆国独立(1776年)がフランスの第一共和政成立(1791年)よりも15年早かったことの予言と解釈されるようになった*3。その場合、「天秤」は公正さの象徴として、民主主義を意味しているという*4

 イギリス名誉革命の予言とする解釈もある*5。年の離れた弟(ただし26歳差)をもつメアリ(2世)は、イングランド議会との「約束」に従ってイングランドに戻り、夫ウィレム(ウィリアム3世)とともにイギリスを統治したからである。この解釈を展開するエリカ・チータムは、占星術上イギリスは天秤宮に属していると主張している。名誉革命と解釈する説は、同じ年のうちに示された1689年ルーアン版『予言集』に掲載された「当代の一知識人」の解釈にすでに見られる。

同時代的な視点

 「天秤宮の王国」は、マルクス・マニリウス(未作成)の分類に従い、ヘスペリア、すなわちローマ(イタリア)かスペインを指すと考えられている。日本語訳されたマニリウス『占星術または天の聖なる学』(白水社、1993年)の該当箇所(p.205)を見ると、天秤宮はローマにしか当てはめられていないが、ノストラダムスの『1559年向けの占筮』(英訳)には「天秤宮に属する国スペイン」(Spayne, whiche is under Libra)という記述もある*6

 「ブリタニア島の姉」はイギリス女王メアリ1世(在位1553年-1558年)、「15年後に生まれた弟」は異母弟エドワード6世(在位1547年-1553年、実際には21歳年下)、「天秤宮の王国」はこの場合スペインとされる。メアリはスペイン王フェリペ2世と結婚していたので、この結婚を足がかりとして(=フェリペが早死にするなどして?)メアリがスペインを継承することになると、ノストラダムスは予想していたようである*7。いうまでもなく、この見通しは実現しなかった。
 この解釈は非常に説得的だが、弟の年齢の違いが少々不自然にも思える。


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百詩篇 第4巻
最終更新:2009年03月31日 23:03

*1 Garencières [1672]

*2 Ward [1891] pp.183-189

*3 Roberts [1949], Hutin [2002]

*4 Hogue [1997/1999]

*5 Cheetham [1990]

*6 以上は Brind’Amour [1996] p.536, n.67による

*7 Brind’Amour [1996] p.536, n.67 ; Lemesurier [2003b]