詩百篇第8巻14番


原文

Le grand credit d'or, d'argent1 l'abondance2
Fera aueugler3 par libide4 l'honneur
Sera cogneu5 d'adultere6 l'offence7,
Qui paruiendra à son grand deshonneur8.

異文

(1) d'or, d'argent : d'or & d'argent 1568B 1591BR 1597Br 1603Mo 1606PR 1607PR 1610Po 1611B 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Mo 1650Ri 1653AB 1665Ba 1716PR 1720To 1772Ri , d'or & d'rgent 1611A
(2) l'abondance : l'abundance 1672Ga
(3) Fera aueugler : Aueuglera 1594JF(p.232) 1605sn 1628dR 1649Ca 1649Xa 1650Le 1667Wi 1668 1672Ga 1840, Fera aueupler 1627Di
(4) libide : libidé 1650Mo, lib de 1665Ba, Libide 1672Ga
(5) Sera cogneu : Cognue sera 1594JF, Cogneu sera 1605sn 1628dR 1649Ca 1649Xa 1650Le 1667Wi 1668 1672Ga, Sera connu 1665Ba 1720To 1840
(6) d’adultere : l’adultere 1667Wi 1668P
(7) l'offence : lo'ffence 1627Di, l'offense 1605sn 1628dR 1649Xa 1650Le 1772Ri, l’offenfe 1649Ca
(8) deshonneur : des-honneur 1597Br 1603Mo 1606PR 1607PR 1627Ma 1627Di 1650Ri 1650Mo, des honneur 1716PRa

(注記)1627Maと1627Diのdes-honneur はトレデュニオン(ハイフン)が掠れており、フォトコピーでは印刷か汚れかの判別が難しい。ただし、1627Diと全く同じと考えられる1627年ユグタン版は、明らかにトレデュニオンが見える。

日本語訳

黄金の大きな信用、潤沢な銀が
情欲によって名誉を盲目にするだろう。
贋造の罪が知られるだろう、
その大きな不名誉に行き着く性質の。

日本語訳について

 1568X, A などの句読点の打ち方を尊重するならば、1行目は上のように訳すのがもっとも妥当である(実際ピーター・ラメジャラーはそう英訳している)。
 エドガー・レオニは Le grand credit, d'or et d'argent l'abondance となっている原文を採用し、「大きな信用、潤沢な金銀」と訳している。

 後半は、文法的には「その大きな不名誉に行き着く贋造の罪が知られるだろう」とすべきだが、各行に対応させるため、若干言葉を補っている。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳1行目「クレジットが金銀に代わり豊富になり」*1は、明らかに五島勉の訳に影響されているが、不適切。「代わりに」にあたる語が原文になく、解釈から逆算する形で訳を導いているとしか思えない。

 山根訳はおおむね許容されうる訳。
 なお、その3行目が「姦夫(婦)の罪があからさまになり」となっているのは十分可能な訳。
 レオニなどもその線で訳しているように、adultere は姦夫や姦婦の意味にも取れる。上では、ラメジャラーやジャン=ポール・クレベールの読み方を踏まえた。

信奉者側の見解

 五島勉は大量消費社会とクレジットの使用が予言されていたと解釈し、当時、商業用語としてのクレジットなどなかったと主張していた*2

 セルジュ・ユタンは第二帝政の予言としていた*3

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、近未来に起こると想定していた世界大戦前の経済危機の一場面と解釈していた*4

懐疑的な視点

 中世以降、ヨーロッパでは遠隔地商業が発達しており、それに伴い信用取引のシステムも発達していた。
 crédit というフランス語は当時存在していたし、「信用」という意味も持っていた(この語は詩百篇第1巻88番にも登場している)。

 ゆえに、crédit という一語をもって、ノストラダムスの突出した予言力の証明などと結論付けることはできない。

同時代的な視点

 エドガー・レオニジャン=ポール・クレベールは、この詩を16世紀の価格革命(新大陸などの金銀の流入により、その価値が下落し、物価が高騰した)に関連付けている。
 確かに、金銀があふれかえる様子とその価値の下落という描写は、当時の状況に当てはまっている。

 ラメジャラーは、フランス王フランソワ1世が囚われた際の身代金支払いに絡んで、国内の金貨の質が落とされたのではないかという疑惑が当時持ち上がったことと関連付けている*5


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最終更新:2020年05月18日 02:17

*1 大乗 [1975] p.233

*2 五島 [1973] pp.62-63

*3 Hutin [1978], Hutin [2002/2003]

*4 Fontbrune [1980/1982]

*5 Leoni [1982], Clébert [2003], Lemesurier [2003b]