Adiousté depuis l'impression de 1568.

詩百篇第10巻>1568年版以来付け加えられた詩篇*

原文

Adiousté depuis1 limpression.2 de 1568.

Quand le fourchu3 sera soustenu de4 deux paux5,
Auec six6 demy corps7, & six sizeaux8 ouuers:
Le trespuissant9 Seigneur, heritier des crapaux10,
Alors subiuguera, sous soy tout l'vniuers11.

異文

(1) depuis : pepuis 1628dR
(2) limpression. 1605sn : l'impression 1628dR 1649Xa 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668
(3) fourchu : fourcheu 1611A 1611B 1627Ma 1981EB, fourcheux 1627Di, forchu 1644Hu 1650Ri 1653AB 1665Ba 1720To
(4) soustenu de : soustenude 1627Di
(5) deux paux : deuxpaux 1720To
(6) six : si 1611B 1981EB
(7) corps 1605sn 1644Hu 1649Xa 1650Ri 1653AB 1665Ba : cors 1611A 1611B 1627Ma 1627Di 1628dR 1649Ca 1650Le 1667Wi 1668 1981EB
(8) sizeaux : siizeaux 1627Di, siseaux 1644Hu 1650Ri 1653AB 1668P, ciseaux 1665Ba 1667Wi 1720To
(9) trespuissant : tres Puissant 1627Ma, tres puissant 1627Di 1653AB 1665Ba 1720To, tres-puissant 1644Hu 1650Ri 1667Wi 1668P 1981EB
(10) crapaux : Crapaux 1644Hu
(11) l'vniuers : l'Vniuers 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1653AB 1667Wi 1720To

(注記1)底本には初出と思われる1605snを用いている。比較には1611A, 1611B, 1627Ma, 1627Di, 1628dR, 1644Hu, 1649Ca, 1649Xa, 1650Le, 1650Ri, 1653AB, 1665Ba, 1667Wi, 1668A, 1668P, 1720To, 1981EBのみを使用した(1605年以降の版でも、1650Mo, 1672Ga, 1716PR, 1772Ri などには収録されていない)

日本語訳

フォークが二本の柱に支えられ、
六つの半分の体と六つの開いたハサミを引き連れる時。
ヒキガエルの跡継ぎである非常に強い君主が、
そのときに全世界を彼の許に従えるだろう。

信奉者側の見解

 この詩はルイ14世の予言とされる。二本の柱(I)に支えられているフォーク(V)は Mである。これが6つの半分の体(C)と6つの開いたハサミ(X)をともなっていれば、ローマ数字で1660 (MCCCCCCXXXXXX)を指すことになる。ヒキガエルは初期メロヴィング王朝のシンボルであるから、「ヒキガエルの跡継ぎ」はフランス王を指すことになる。

 アナトール・ル・ペルチエは、マザラン枢機卿が死んだ翌年にあたる1661年3月10日に、ルイ14世が親政を開始したことの予言と解釈した*1

 ジェイムズ・レイヴァーは1659年のピレネー条約を引き合いに出しつつ、世界の王になれなかったにしろ、当時最も力のある君主だったことからすれば的中しているとした*2

 ほかに、スチュワート・ロッブセルジュ・ユタンジョン・ホーグアレクサンダー・チェントゥリオ(未作成)らも、ルイ14世に結び付けている。日本では黒沼健が最初に紹介した*3

同時代的な視点

 この詩は、17世紀初頭に唐突に出現したものであり、ノストラダムス本人の作かどうか疑わしい。また、詩の内容にしても、ルイ14世が世界を制覇したりはしなかったのだから、(レイヴァーの擁護などを視野に入れてもなお)的中とはいえないだろう。

 年代を遠回しに表現した謎詩は、フランソワ・ラブレーの『ガルガンチュア物語』(1534年頃)にさかのぼることができる。その第2章と第58章が謎詩になっているのはよく知られているが、第2章の中には次のような詩句がある(原文は四行詩ではないが、便宜上4行だけ抜き出しておく)。

 Mais l'an viendra, signé d'un arc turquoys,
 De V fuseaux & trois culs de marmite,
 Onquel le dos d'un roi trop peu courtois
 Poivré sera sous un habit d'ermite.*4
 されど、トルコ弓一つ、紡錘五つ、
 釜の尻三つの印ある年はめぐり来りて、
 礼節を弁えざること甚だしき王者の背(そびら)は、
 隠者の僧衣が下にて膿瘍梅瘡を病まむ。*5

 ただし、ここでは単に年代を遠回しに表現しているという以上の類似は見出せない。

 しかし、ロベール・ブナズラはより強い類似性を見出せる詩句を2つ挙げている。
 まずは、エチエンヌ・タブーロ(Estienne Tabourot)が様々な話を集めた『レ・ザコールの領主による雑集』(Les Bigarrures du Seigneur des Accords(未作成), 1586年)で紹介されているものである。

 Il y a quelque temps qu'vn Charlatan feignit auoir trouué ceste prophetie par Notes, qui exprimoient l'an 1570
 Quand vn fourchu aßis dessus deux paux
 Suiuront cinq cors & sept ciseaux ouuerts.
 Lors on verra le grand Roy des Crapaux
 Donter chacun & regie l'Vniuers*6
 あるインチキ屋が、ノートによる1570年をあらわす次の予言を見つけたと称してから数年が経った。
 二本の柱の上にフォークが座り、
 五つの半分の角笛と七つの開いたハサミを従えるであろう時
 その時、人々は目にするだろう、ヒキガエル一族の大王が
 各人に与え、世界を支配するのを。

『雑集』復刻版に解説をつけたフランシス・ゴイエット(Francis Goyet)によれば、フランス国立図書館に所蔵されているフランソワ・ラス・デ・ヌー(François Rasse des Noeux)の手稿「宗教戦争に関する詩篇の集成」(Recueils de vers sur les guerres de religion, 筆写時期未詳)では、同じ詩に「1565年5月にパリ近郊のカルトジオ修道院の図書室で見つかった予言」(Profetie trouvée en la librairie des Chartreux lez Paris. 1565. en May.)というタイトルがつけられているという*7

 もうひとつがデュプレ(Duplex)の『アンリ4世物語』(Histoire de Henri IV)に掲載されていたというものである。

 Lors qu'vn fourchu appuyé sur deux paux
 Et l'arc tendu & neuf ciseaux ouuerts,
 Trois paux suyuis, le grand Roy des crapaux
 Ses ennemis mettra ius à l'enuers.*8
 二本の柱に支えられたフォークと、
 引きしぼられた弓と、九つの開いたハサミが、
 三つの柱を従えるとき、ヒキガエル一族の大王が
 敵どもを乱雑にジュースにするだろう。

 年代は1593年を指しており、アンリ4世の勝利を踏まえた事後予言のようである。この詩は1656年の注釈書でも紹介され、それを以って「1568年版以来付け加えられた詩」は改竄されたものに過ぎないことが指摘されていたようである*9

 これらに加えて、ブナズラが認識していなかったものがある。それは、アントワーヌ・クレスパンの『フランス王とサヴォワ公妃に仕える占星術師の予言集』(Propheties par l'astrologue du treschrestien Roy de France & de Madame la Duchesse de Savoye(未作成), 1572年)に載っている次の予言である。

 A messieurs les secretaires des commendemens du Roy
 (1)Paix, vnion sera & changement, estats, offices, bas haut: & haut bien bas: (2)la ligue neuue d'Ausone faire guerre & contre eux mesmes ils se viendront bander: (3)par vn grand fourchu soustenu par deux paux suiuant cinq corps & ses [= sept ?] siseaux ouuers, apres ce temps l'heritier de crapaux mettra les trois couronnes à l'enuers 1572 passé ledict temps.

 国王附きの指令事務官の方々へ
(1)平和、統一、変化があるだろう。諸身分、公職は低く、高く、そして高く、まさしく低い。(2)アウソニアの新しい同盟は戦うだろう。そして彼ら自身に対抗して、彼らは争いあいに来るだろう。(3)大きなフォークが二本の柱に支えられ、五つの半分の体と七つの開いたハサミを従えることにより、その期間のあとに、ヒキガエルの跡継ぎが上記の期間が過ぎた1572年のあたりで3つの王冠を置くだろう。

(1)(2)(3)はこちらで便宜上つけたものである。(1)は第9巻66番(未作成)から、(2)は第3巻70番から、それぞれ剽窃しているもので関係ないが、(3)は年代表現の基本的な様式(柱、フォーク、半分の体、開いたハサミ)と、「ヒキガエルの跡継ぎ」というキーワードが完全に一致している。
 この出典はタブーロのものに比べると類似性は若干弱いが、現在確認されているもののうち、「柱、フォーク、開いたハサミ、ヒキガエル」が登場しているものとしては最も古いものである。

 クレスパンはノストラダムスからの剽窃を多く行っていた人物であり、これもノストラダムスが出典になっている可能性はなくもない。実際ブナズラは、1570年頃に類似の偽の詩篇を含む『予言集』が出された可能性を想定しているくらいである。

 しかし、現時点ではそうした想定を積極的に支持すべき根拠はない。むしろ逆に、「1568年版以降に付け加えられた詩」は、前出の類似の詩篇群を下敷きにして、16世紀末から17世紀初頭に捏造されたものと見るべきではないだろうか。

その他

 1605sn, 1628dR, 1649Xa, 1649Ca, 1650Le, 1668A, 1668Pでは、正式な詩百篇第10巻100番の後に FIN.(終わり)という言葉が置かれ、その下に Adiousté depuis limpression. de 1568. というタイトルとともに掲載されている(1667Wi の場合、100番と題名の間にFIN.なし)。
 それに対し、1611A, 1611B, 1627Ma, 1644Hu, 1650Ri, 1665Ba, 1720To, 1981EB では、100番のすぐ下に CI(101番)としてタイトルなしで掲載され、FIN はその後に書かれている(1627Diのみは、FIN のあとに CIとして掲載されている)。

 エドガー・レオニの注釈書(1961年)では、補遺篇の中で100番という詩番号とともに紹介され、ジョン・ホーグなどの信奉者にも引き継がれたが、古い版の中にこの詩を100番として紹介しているものは見あたらない。


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詩百篇第10巻
最終更新:2019年11月29日 01:49

*1 Le Pelletier [1867a] pp.118-119

*2 Laver [1952] pp.106-107

*3 黒沼『謎と怪奇物語』1957年、pp.58-59

*4 Benazra [1990] p.159から孫引き

*5 渡辺一夫訳『ガルガンチュワ物語』岩波文庫、p.32から引用

*6 原文は1588年版のファクシミリ復刻版と解説の二巻本であるTabourot, Les Bigarrures du Seigneur des Accords(premier livre), Droz (TLF; 340), 2vols., 1986 のセクション211Hから引用した

*7 Tabourot, op.cit., tome2, p.178

*8 原文は Benazra [1990] p.158から孫引きした。

*9 Leoni [1982]