原文
Neuf ans le regne1 le maigre2 en paix tiendra,
Puis il cherra en soif si sanguinaire:
Pour luy grand peuple3 sans4 foy & loy5 mourra6
Tué par vn7 beaucoup8 plus de bonnaire9.
異文
(1) regne : Regne 1672
(2) maigre : malaigre 1588-89
(3) grand peuple : peuple 1600 1610
(4) sans : sang 1660
(5) foy & loy : foy loy 1557B, Foy & Loy 1672
(6) mourra : morra 1557B
(7) par vn : vn 1600 1627 1644 1653 1665
(8) beaucoup : beaucop 1557B
(9) de bonnaire 1555 1605 1610 1716 1840 : debonnaire T.A.Eds.
日本語訳
九年間、やせた男が王国を平和に保つだろう。
それから、彼はひどく血に渇いた状態に陥り、
彼のせいで多くの人々が、信仰も法もなしに死ぬだろう。
はるかに温厚な人物によって殺される。
訳について
山根訳は問題ない。3行目「偉大な国民」(grand peuple)については、当「大事典」では2行目の血に飢えている描写からすれば、人数の規模が大きいことを指していると見るべきと判断し「多くの人々」と訳したが、もちろん「偉大な人々」の意味にも訳せる。
大乗訳4行目「彼はより野蛮な人に殺されるだろう」は誤訳。彼(=やせた男)が殺されると読める可能性は
ピエール・ブランダムールも認めているので、それ自体を誤りということはできないが、debonnaire を「野蛮な」と訳すのは無理がある。
ブランダムールは3行目の「信仰も法もなしに」は、「彼」(=やせた男)にかかる可能性があることを指摘している。
信奉者側の見解
ロルフ・ボズウェルや
アンドレ・ラモンは「やせた男」をヒトラーとしている。ナチスは1930年の選挙で躍進し、その9年後に第二次世界大戦を引き起こし、多くの犠牲を出したことが予言されているとしたのである。
セルジュ・ユタンも疑問符つきながらヒトラーの可能性を示している。
同時代的な視点
情景は読んだままである。
「やせた男」が9年間平和に統治した後で、多くの人々を死なせるような政策(戦争あるいは恐怖政治か)を実行することになる、ということだろう。4行目については、構文どおりに読めば、多くの人々が直接的には「はるかに温厚な人物」に殺されるということだが、ブランダムールはむしろ「やせた男」が政敵である「はるかに温厚な人物」に殺されることを描写しているのではないかとしている。
ジャン=ポール・クレベールや
ピエール・ブランダムールは具体的な関連付けを行っていないが、
エヴリット・ブライラー、
ピーター・ラメジャラー、
ロジェ・プレヴォはいずれもカルヴァンと関連付けている。
プレヴォは1537年にジュネーヴに初めて来てから9年間は処罰などがなかったが、1546年のピエール・アモー事件の処罰以来、反対者に強硬姿勢をとるようになったと指摘している。
カルヴァンが初めてジュネーヴに赴いたのは1536年のことらしいので、若干のずれはあるのかもしれないが、おおむね当てはまっているといえるかもしれない。
なお、プレヴォは4行目の tué を tuer(殺す)ではなく、ラテン語の tueri から来た言葉で「守られる」などの意味だとし、カルヴァンに比べれば温厚といえたテオドール・ド・ベーズの存在が仄めかされているのではないかとしている。
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最終更新:2009年11月06日 23:19