「2008/5/2 スレ13 77氏 ターレス×チチ」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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「よく似てるだ・・・」
チチは悟天の寝顔を眺めて呟いた。片言で話すようになってから、悟天はまた一段と死んだ悟空に似てきた。
眠る悟天の髪を撫でたとき、突然、チチの脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。悲鳴を上げそうになって声を飲んだが、背中一面に嫌な汗が滲んだ。
悟天の顔を見て思い出したのは今は亡き夫・悟空、ではなくターレスだった。
天災だと自分に言い聞かせ、ターレスとのことは一生胸にしまったまま、あの世に行くつもりでいたが、先にあの世に行ってしまったのは悟空の方だった。
自分は被害者であり、悟空を想う気持ちに変わりはない。それなのに後ろめたさを感じるのは、心ならずも体がターレスに反応したからだろう。
(あれは神精樹とかいう実のせいだべ。おらは悪くねえだ。)
チチはそう納得して布団に入ると、昼間の疲れで、すぐに瞼が重なった。
眠りに堕ちようとした時、チチは体に重みを感じた。骨太の重みは大人の男のものだ。
(これは夢だべ。)
まどろみの中でチチは思う。
(悟空さの夢が見られる・・・)
夢の中で悟空に会えることをチチは素直に喜ぶ。それにしても、体にかかる重み、顔にかかる息。夢にしてはリアルすぎる。
チチは夢の中の感触に驚きながら、自分の上にのしかかる者の背中に手を回した。どんなに手を伸ばしても周りきらない広い背中は、間違いなく悟空だ。
(悟空さ。)
チチは背中に回した手に力を入れた。
力一杯抱きしめても夢は醒めない。背中の筋肉の弾力がチチの腕に伝わってくる。
大きな手がチチの髪を梳きながら頬を包んだ。夢でいい。夢でいいから、せめてその夢が醒めない内に顔が見たくて目を開けた。
薄暗い部屋の中で、鼻がくっつくほど近くに懐かしい顔があった。最後に見たのは金髪碧眼の悟空だったが、今は黒い瞳がチチを見つめている。チチは鼻がギュンと痛くなった。
チチは闇に浮かぶその面立ちを穴が開くほど見つめた。闇に目が慣れると、月明かりに褐色の肌が浮かび、獣のように目が光る。その男は唇の歪めて笑った。
「久しぶりだな。」
「ターレス!」
眠気も醒めて飛び起きようとするチチをターレスは全身で押さえた。
早く悪夢から醒めろ、とチチは必死に手足をバタつかせた。しかし、両手首をターレスに掴まれ、足にもターレスの足が絡められた。夢からは醒めない。
「なして、ここに?!」
「言っただろ?地獄の底からでも戻ってくるって。」
引きつるチチの顔をターレスは見下ろした。
「残念だったな。戻ってきたのが亭主じゃなくて。」
右手でチチの髪を梳きながら、チチの頬に手を当てると唇を合わせてきた。
「ンんっ!」
続いて、ざらついた舌がチチの唇を割り口の中に進入してきた。悪夢がチチの頭に蘇える。これはもう夢ではない。チチは咄嗟に咥内を探る舌に歯を突きたてた。
「懲りないヤツだな。お前じゃ俺を殺せない。もっとも、もうとっくに死んでるけどな。」
ターレスは唇を離し、不敵に笑った。
チチの胸にまた絶望がよぎる。悟空にしか許したことのない唇と身体を、一度ならず二度までも奪われた。
命を吹き込まれた人形のようにチチの両手はぎこちなく動き、その顔を覆った。顔を覆った手の隙間から嗚咽が漏れ始めた。
全てをはかなみ、絶望の淵で、必死に泣き声を外に洩らすまい、涙を見せまいとするチチの姿に、ターレスは無性に腹が立った。
「なにを泣く?!」
怒りに任せてチチの顔を覆った両手首を引き離した。
「カカロットは死んだんだぞ。今さら誰に操を立てるんだ?」
涙で顔を濡らしながらも、チチは言葉を発した。
「悟空さが死んでも、おらには悟空さしかいねえ。」
死んでも尚、この女を支配するのか。ターレスは苛立つ。
「お前がアイツを思うほど、アイツはお前のことなんか考えていない。」
「そんなことねえだ。悟空さは死ぬ前におらにすまねえって・・・」
「すまないと思うなら、なぜ生き返ることを拒んだ?!」
それが悟空の生き方だからと諦めた心の傷を、ターレスは再び切り開き、心臓をえぐり出す。
「そ、それは・・・」
チチの顔は青ざめ、涙は顎を伝わって襟元を濡らす。
「泣くな。」
ターレスは涙で濡れるチチの頬に自分の頬を押し付け、その手をチチの背中に回すとあやすように背中を撫でた。
「少し痩せたな。」
背中から手を離し、チチの手を握ると、その指先を見つめた。
「前よりずっとひどくなった。」
指先はささくれ、細い指はあかぎれて痛々しい。
「あの時、俺がカカロットを倒していれば、フリーザを倒したのは俺だったかもしれない。そうすれば俺が宇宙を支配し、お前はお姫様のような贅沢ができたはずだ。」
「お姫さま?おらが?」
「そうだ。お姫さまだ。」
ターレスはチチの顔を見下ろして、静かに、力強く言った。
「地獄に堕ちろ。」
「俺と一緒に地獄に来い。こんなに荒れた手でガキの世話する一生なんて地獄も同じだ。」
「い、嫌だ・・・子供達さ置いて死ねねえ・・・」
チチが嗚咽を堪えて絞り出した言葉をターレスは途中でさえぎる。
「ガキはいつかお前の元を離れて行く。それに、お前がどんなに一所懸命にガキの世話をしたところで、カカロットはありがたいなんて少しも思ってねえ。アイツは今頃、あの世で楽しく修行してるんだからな。」
チチの双眸にまた涙が溢れる。
「だから、俺と一緒に地獄に堕ちろ。」
ターレスはまだ何か言おうとするチチの頭を抱えて胸に抱きしめた。チチの長い睫毛が胸板でふるふると震えているのが分かった。
「まだ、お前の名前を聞いていなかったな。お前、名前は?」
「チ、チチ・・・」
「そうか、チチっていうのか。」
名前を呼ばれて心臓が握りつぶされるくらい苦しくなった。何千、何万回と聞いた、自分の名前を呼ぶ愛しい声を再び聞けることは諦めていたのに。
チチはターレスの胸に埋めた顔を上げ、ターレスの顔を見つめた。
「も、もう一度、おらの名を・・・」
「チチ・・・」
チチの名を呼んでターレスが唇を落としてきた。不思議なことに生臭い嫌悪を感じないことにチチ自身が驚いた。薄目を開けると亡き夫にそっくりの端正な鼻筋が見える。
なぜ戻ってきたのは夫ではなく、この男なのだろう?愛しい夫に切なくなるほど酷似しながら別人なのだという。
(この人は悟空さじゃねえ。この人を悟空さだと思っちゃいけねえ・・・でも・・・)
でも、生きて帰ってくるという約束を破り、あまつさえ生き返ることすら拒んだ罰に・・・
(少しだけ、ほんの少しだけ、この人を悟空さと重ねてもバチは当たらねえべ?)
これは悟空の所業に比べたら些細なことなのだ。これから女手一つで二人の息子を育てていくための代償なのだ。チチはそう自分に言い聞かせ、口内に侵入してきたターレスの舌に、自ら舌を重ね合わせた。
ターレスはチチの舌を自分の口の中に引き込んだ。お互いの唾液が混じりあうほど舌と舌を絡めて、深く、深く口を吸いあう。チチの腕がターレスの首に巻きつくと、その乳房の弾力がターレスの胸板に伝わった。
ターレスは初めて知った。人の肌はこんなにも心地よいのかと。
チチも知る。求めていたものはこの強い腕の力と、体中をまさぐる大きな手と、時折、聞こえる懐かしい熱い吐息なのだと。
ターレスが唇を離した。覚悟はいいか?と問うようにチチの目を見る。その鋭い視線に射すくめられたのか、チチは瞳を閉じた。それを了承の合図に、ターレスはチチの夜着の胸元に手をかけ、勢いよく左右に引き裂いた。
チチの体に辛うじて引っ掛かった夜着をターレスは剥ぎ取っていく。最後に残ったショーツを足首まで引き下ろすと、まるで水に潜るように息を大きく吸い、ターレスはチチの乳房にむしゃぶりついた。
「はぁん!」
生暖かい舌がチチの乳首に巻きつくと同時に、チチの花弁にターレスの指が滑り込む。
そしてチチの弱いところを、的確に、何度も何度も責め続ける。
「い、いや・・・うっ!」
「どうだ?久しぶりの男は?」
乳首と陰芽を弄ばれ、強制的に絶頂に導かれる。
(だ、だめだ・・・やっぱり、こんなこと・・・)
チチの中の貞節が理性を取り戻せと抵抗する。唇を噛み締めて快楽を振り払おうとするチチの気力を刈るように、ターレスの舌と指は容赦なく愛し続ける。
「い、いや・・・もう、止めてけれ・・・」
「いやじゃねえだろ?」
すすり泣くチチの懇願にターレスは耳を貸す気は毛頭ない。
「もう十分だろ。」
愛液でふやけた指を引き抜いてターレスは愉快そうに嗤う。 その言葉の意味を察しチチは叫んだ。
「いやぁッ!!」
チチは逃げようと体を捩るが、ターレスの腕による戒めが外れることはない。
「てめえで誘っておいて、まだ言うのか?」
ターレスはチチの腰に両手を添えると、造作もなくチチの体を反転させた。 白いむっちりとした尻がターレスの目の前に晒される。尻から続く瑞々しい太腿に、ぬらぬらと光る蜜が伝い流れている。逃がさぬようにターレスは片手をまわしてチチの腰を抱えた。
眼前の淫らな光景にたまらず、ターレスは空いた方の手で、熱く昂ぶったものを掴むと、赤い受け口の蜜を満遍なく己が分身に塗りつけた。
「あ・・・んんっ!」
堅く熱い男性自身をこすり付けられ、チチが思わず声を上げる
「久しぶりに俺がイかせてやるよ。」
「いや、いやァっ!!」
淡い桜色の尻を引き寄せて、ターレスは一気に後ろからチチを貫いた。
「あ・・んっ!!」
言葉と裏腹に、熱く熟れたチチのそこはターレス自身を苦もなく飲み込んだ。瞬間、チチの背中が大きく反った。連動して膣内の肉壁がターレスにまとわりつく。
ずっと求めていた身体の奥を満たす熱くて堅い肉の棒の感触に、チチは無意識の内に腰を前後に動かし始めた。
チチの手が救いを求めるようにシーツを掴む。ぐちゅぐちゅと濡れた水音と、ぱんぱんと肉がぶつかりあう乾いた音が部屋中に響き渡る。子宮口近くまでねじ込むと、半透明の蜜が滴り落ちて、ターレスの腿さえも濡らす。
ターレスはチチの腰に添えていた手を前へ伸ばして、膨れた肉の芽を摘みあげた。
「はあ!あ、あん・・・!」
「すげえ、濡れてるぞ・・・いいか、これは神精樹の実のせいじゃない・・・おまえが誘ったんだ。」
肉芽をたっぷりの蜜に塗れさせて撫で上げながら、背徳感と罪悪感を煽る台詞をターレスはわざと吐く。
「ち、ちがっ・・・おらは・・・いやっ、もう・・っ・・!」
「もう、なんだ?もう、イかせて欲しいのか?」
「んっ、ちがっ、やめ、てっ・・・やめてっ!や、あァ!」
腰はターレスに合わせて動いているのに、まだ理性と言葉では拒もうとする。
ターレスはチチの膣内を2、3度、浅く穿ち、一気に奥まで突きこみ、ゆっくりと引き出す。肉の花弁がターレスの分身にまとわりつく。
「く、ぅ・・・は、はあっ・・・!」
犯すつもりが、逆に犯されている。ターレスの息遣いが荒くなり、抽送する速度が上がる。
「いやぁ!やめて、やめてけれぇっ。」
チチは振り返り、大きな瞳を涙で潤ませて懇願する。だが、その健気な姿がターレスの
嗜虐心を更に焚きつける。
「ダメだ。」
ターレスはチチの願いをにべもなく却下した。
さっさと堕ちてしまえばいいのに、とターレスは舌打ちする。女盛りの身体で男を焚きつけておきながら、なぜ細い糸を掴むように死んだ亭主へ未練を抱く?あんな最下級戦士のことなど身も心も裏切ってしまえ!
繋がったままの姿勢で、ターレスはチチを正常位へと乱暴に抱え直した。チチの両膝を肩につくほど大きく折り曲げて、腰を高く上げさせる。赤いザクロのような口がターレス自身を飲みこんでいる。その卑猥な光景に、ターレスは堪らず己が腰を突き上げた。
「っ・・・・!」
チチは弓のように身体をしならせ、ターレスは狂ったように腰を打ちつけた。
「あンッ、はあ・・・ああ」
拒絶しながらもチチの身体は素直に反応する。熱い吐息がチチの唇から漏れ始める。目を開けると、まるで挑むようなターレスの目と目が合った。
― サイヤ人は顔のタイプが少ない
チチは以前、ターレスに言われた言葉を思い出した。違うのは肌の色くらいで、髪型も、形の良い眉も耳も悟空に似ている。熱い吐息も、時折「チチ」と呼ぶ声も悟空なのだ。
似ているのは顔と声ばかりではない。チチの身体の奥に溶け合うように入り込んでいる熱い肉の動きまで悟空に似ている。
(悟空さ。)
悟空と交わした最期の夜からどれだけ経っただろう。この先どのくらい、一人寝る寂しさを抱えて行かなければならないだろう。だが、今はそのやりきれない思いも、不安も、全て忘れさせてくれている。チチはターレスの両腕を掴み、身をゆだねた。
ターレスを咥えこんだ膣肉は蠢き続ける。熱く、そして柔らく。ターレスの頭は甘く痺れ、睾丸から陰茎にかけて熱い塊がさかのぼり、破裂しそうになる。
「いくぞ。」
ターレスは男根にまとわりつく肉の襞を蹴散らすように、チチの奥を突き続けた。
「あああああっ!」
一際大きな声でチチは叫び、先に絶頂へ達した。
チチは放心したというのに、ターレスを咥え込んだ膣肉だけは、一滴残らず精を搾り取ると言わんばかりに蠢き続ける。最も大きな蠢きを伝えたとき、耐え続けたターレスの欲望も堰を切って溢れ出した。
つま先をこわばらせたチチの足がターレスの顔の傍で上下に小さく揺れる。糸の切れたあやつり人形のようなチチを見下ろしながら、ターレスは断続的に続く射精の余韻に酔いしれていた。
全てを吐き出し、ターレスは抱えていたチチの両足を下ろすと、ぐったりと横たわるチチの上に身体を重ねた。チチの全身は汗ばみ、乳房も腿もしっとりとターレスに吸い付く。
ターレスの熱い頬にチチのひんやりとした手が触れた。その心地よさにターレスが気をとられた時、チチ自らターレスに唇を重ねた。それは親鳥が雛に餌を与えるように短いもので、柔らかい唇はすぐにターレスのもとを離れた。
名残り惜しさにチチの顎に手をかけたターレスをチチは下から見つめて囁いた。
「好き・・・大好き・・・」
ターレスはチチの言葉の意味が瞬時に飲み込めず、目をしばたかせた。
「今、何と言った?もう一度言え・・・言ってくれ・・・」
戦闘時と違う胸の高鳴りを覚えながら、ターレスはチチの言葉を待つ。
チチの唇が小さく開く。
「好き・・・」
「もう一度・・・」
「大好き。」
この女と一緒なら地獄の業火に焼かれる苦しみも和らぐかもしれない。ターレスの心に一筋の火が灯ったとき、チチはまた繰り返した。
「好き、大好き・・・大好き・・・・・悟空さ。」
「な?!」
紡ぎだされた言葉は一瞬にしてターレスは奈落の底に突き落とした。
「大好き・・・悟空さ、大好き・・・」
チチの腕がターレスの首に回され、悟空さ、大好きと呟いて唇を求めてきた。
「言うな・・・黙れ!黙れ!!」
ターレスはチチの首を掴んで引き剥がした。
ターレスの燃えるような目を見てチチもまた奈落の底に堕ちた。
「好き」と告げると、おう、と曖昧な返事をして照れたように笑う夫と、この男は別人なのだという現実を突きつけられる。悟空への罰に、似た男との情事に溺れてもいいという考えなど所詮、甘えにすぎない。
「コケにしやがって・・・・!」
こめかみに青筋を立てたターレスは、チチの細い首に右手をかけ、その指先に力をこめた。ターレスの指がかかった部分の肌が赤く変色する。
悟空を裏切り、幼い子供達と年老いた父を裏切り、この男を傷つけた過ちは万死に値する。チチは死を覚悟した。
(地獄に堕ちたら、悟空さに逢えねぇ。)
薄れいく意識の中でチチは考えた。
しかし、ターレスはチチの首から手を離した。
「やめた。おまえを地獄に連れていくのはやめた。」
吐き捨てるように言ってチチを見下ろす。
「俺はカカロットの身代わりなんぞ、ご免だ。」
それはどんな地獄の責め苦よりも耐え難いだろう。
「カカロットは、かほ・・・」
果報者だな、と言いそうになりターレスは口をつぐんだ。言ってしまえば、負けを認めたことになる。
ターレスの身体は次第に薄くなり、やがて闇に溶け込んで、消えた。
朝の光りと、人の気配を感じてチチは目を開けた。
目の前に、ひどく懐かしく、そして、罪の意識から目を合わせるのも怖い人がいた。
「悟空さ・・・」
悟空がチチの顔を覗き込んでいる。丸い、人懐っこい目でチチを見て少し困ったように笑った。
「悟空さ・・・堪忍、堪忍してけろ・・・」
チチは身を起こし、悟空の首に抱きついた。
「く、くるしい、苦しいよ、お母さん!」
悟空の逞しい体には程遠い華奢な体つきに、チチは驚いて手を離すと、腕の中の物を見た。
「悟天ちゃん!」
チチに力強く抱きしめられ、悟天はチチの腕の中で口を尖らせていた。
チチは慌てて悟天を離すと、自分の身体を見回した。引き剥がされたはずの夜着は、ほころび一つなく身にまとっている。
夢だったのか?夢にしては身体の奥に余韻が残る。夢とうつつの区別がつかぬほど気がふれたのか、とチチは案じた。
「おなか、空いた。」
情けない悟天の声にチチは我に返った。目覚めた場所は天国でもなければ地獄でもない。生きていかなければならない現実なのだ。
「兄ちゃんは?」
「まだ、ねんねしてる。ねえ、おなか空いたよ、お母さん。」
「ごめんな、悟天ちゃん。おっかあ、寝坊しちまって。すぐ、ご飯にするかんな。」
急いでベッドから降りようとしたチチの頭に悟天が何かをかぶせた。チチが手に取ってみるとクッキーの空き箱だ。
「これ、悟天ちゃんが全部、食べちまったのけ?」
「だって、おなか空いたんだもん。あ、お母さん、お姫さまみたい。」
悟天はチチにすり寄り、チチの頭にまた空き箱を乗せた。
お姫さまか。チチは苦笑した。そうだ、自分は空き箱の冠をかぶったお姫さまだ。そして、荒れた手で、大切な子供達に飯を食わせないといけない。それは決して地獄ではないのだと。
「おっかあがお姫さまなら、悟天ちゃんが王子さまけ?」
「ううん、僕じゃない。」
即座にかぶりを振る悟天に、チチは肩を落とした。
(この間は、大きくなったらお母さんをお嫁さんにする、なんて言ってくれただに。)
やれやれ、と言いながら台所に向かうチチの袖を悟天は引っ張った。
「お母さんの王子さま、あっち。」
悟天は棚に飾られた悟空の写真を指差した。
(終)
「よく似てるだ・・・」
チチは悟天の寝顔を眺めて呟いた。片言で話すようになってから、悟天はまた一段と死んだ悟空に似てきた。
眠る悟天の髪を撫でたとき、突然、チチの脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。悲鳴を上げそうになって声を飲んだが、背中一面に嫌な汗が滲んだ。
悟天の顔を見て思い出したのは今は亡き夫・悟空、ではなくターレスだった。
天災だと自分に言い聞かせ、ターレスとのことは一生胸にしまったまま、あの世に行くつもりでいたが、先にあの世に行ってしまったのは悟空の方だった。
自分は被害者であり、悟空を想う気持ちに変わりはない。それなのに後ろめたさを感じるのは、心ならずも体がターレスに反応したからだろう。
(あれは神精樹とかいう実のせいだべ。おらは悪くねえだ。)
チチはそう納得して布団に入ると、昼間の疲れで、すぐに瞼が重なった。
眠りに堕ちようとした時、チチは体に重みを感じた。骨太の重みは大人の男のものだ。
(これは夢だべ。)
まどろみの中でチチは思う。
(悟空さの夢が見られる・・・)
夢の中で悟空に会えることをチチは素直に喜ぶ。それにしても、体にかかる重み、顔にかかる息。夢にしてはリアルすぎる。
チチは夢の中の感触に驚きながら、自分の上にのしかかる者の背中に手を回した。どんなに手を伸ばしても周りきらない広い背中は、間違いなく悟空だ。
(悟空さ。)
チチは背中に回した手に力を入れた。
力一杯抱きしめても夢は醒めない。背中の筋肉の弾力がチチの腕に伝わってくる。
大きな手がチチの髪を梳きながら頬を包んだ。夢でいい。夢でいいから、せめてその夢が醒めない内に顔が見たくて目を開けた。
薄暗い部屋の中で、鼻がくっつくほど近くに懐かしい顔があった。最後に見たのは金髪碧眼の悟空だったが、今は黒い瞳がチチを見つめている。チチは鼻がギュンと痛くなった。
チチは闇に浮かぶその面立ちを穴が開くほど見つめた。闇に目が慣れると、月明かりに褐色の肌が浮かび、獣のように目が光る。その男は唇の歪めて笑った。
「久しぶりだな。」
「ターレス!」
眠気も醒めて飛び起きようとするチチをターレスは全身で押さえた。
早く悪夢から醒めろ、とチチは必死に手足をバタつかせた。しかし、両手首をターレスに掴まれ、足にもターレスの足が絡められた。夢からは醒めない。
「なして、ここに?!」
「言っただろ?地獄の底からでも戻ってくるって。」
引きつるチチの顔をターレスは見下ろした。
「残念だったな。戻ってきたのが亭主じゃなくて。」
右手でチチの髪を梳きながら、チチの頬に手を当てると唇を合わせてきた。
「ンんっ!」
続いて、ざらついた舌がチチの唇を割り口の中に進入してきた。悪夢がチチの頭に蘇える。これはもう夢ではない。チチは咄嗟に咥内を探る舌に歯を突きたてた。
「懲りないヤツだな。お前じゃ俺を殺せない。もっとも、もうとっくに死んでるけどな。」
ターレスは唇を離し、不敵に笑った。
チチの胸にまた絶望がよぎる。悟空にしか許したことのない唇と身体を、一度ならず二度までも奪われた。
命を吹き込まれた人形のようにチチの両手はぎこちなく動き、その顔を覆った。顔を覆った手の隙間から嗚咽が漏れ始めた。
全てをはかなみ、絶望の淵で、必死に泣き声を外に洩らすまい、涙を見せまいとするチチの姿に、ターレスは無性に腹が立った。
「なにを泣く?!」
怒りに任せてチチの顔を覆った両手首を引き離した。
「カカロットは死んだんだぞ。今さら誰に操を立てるんだ?」
涙で顔を濡らしながらも、チチは言葉を発した。
「悟空さが死んでも、おらには悟空さしかいねえ。」
死んでも尚、この女を支配するのか。ターレスは苛立つ。
「お前がアイツを思うほど、アイツはお前のことなんか考えていない。」
「そんなことねえだ。悟空さは死ぬ前におらにすまねえって・・・」
「すまないと思うなら、なぜ生き返ることを拒んだ?!」
それが悟空の生き方だからと諦めた心の傷を、ターレスは再び切り開き、心臓をえぐり出す。
「そ、それは・・・」
チチの顔は青ざめ、涙は顎を伝わって襟元を濡らす。
「泣くな。」
ターレスは涙で濡れるチチの頬に自分の頬を押し付け、その手をチチの背中に回すとあやすように背中を撫でた。
「少し痩せたな。」
背中から手を離し、チチの手を握ると、その指先を見つめた。
「前よりずっとひどくなった。」
指先はささくれ、細い指はあかぎれて痛々しい。
「あの時、俺がカカロットを倒していれば、フリーザを倒したのは俺だったかもしれない。そうすれば俺が宇宙を支配し、お前はお姫様のような贅沢ができたはずだ。」
「お姫さま?おらが?」
「そうだ。お姫さまだ。」
ターレスはチチの顔を見下ろして、静かに、力強く言った。
「地獄に堕ちろ。」
「俺と一緒に地獄に来い。こんなに荒れた手でガキの世話する一生なんて地獄も同じだ。」
「い、嫌だ・・・子供達さ置いて死ねねえ・・・」
チチが嗚咽を堪えて絞り出した言葉をターレスは途中でさえぎる。
「ガキはいつかお前の元を離れて行く。それに、お前がどんなに一所懸命にガキの世話をしたところで、カカロットはありがたいなんて少しも思ってねえ。アイツは今頃、あの世で楽しく修行してるんだからな。」
チチの双眸にまた涙が溢れる。
「だから、俺と一緒に地獄に堕ちろ。」
ターレスはまだ何か言おうとするチチの頭を抱えて胸に抱きしめた。チチの長い睫毛が胸板でふるふると震えているのが分かった。
「まだ、お前の名前を聞いていなかったな。お前、名前は?」
「チ、チチ・・・」
「そうか、チチっていうのか。」
名前を呼ばれて心臓が握りつぶされるくらい苦しくなった。何千、何万回と聞いた、自分の名前を呼ぶ愛しい声を再び聞けることは諦めていたのに。
チチはターレスの胸に埋めた顔を上げ、ターレスの顔を見つめた。
「も、もう一度、おらの名を・・・」
「チチ・・・」
チチの名を呼んでターレスが唇を落としてきた。不思議なことに生臭い嫌悪を感じないことにチチ自身が驚いた。薄目を開けると亡き夫にそっくりの端正な鼻筋が見える。
なぜ戻ってきたのは夫ではなく、この男なのだろう?愛しい夫に切なくなるほど酷似しながら別人なのだという。
(この人は悟空さじゃねえ。この人を悟空さだと思っちゃいけねえ・・・でも・・・)
でも、生きて帰ってくるという約束を破り、あまつさえ生き返ることすら拒んだその罰に・・・
(少しだけ、ほんの少しだけ、この人を悟空さと重ねてもバチは当たらねえべ?)
これは悟空の所業に比べたら些細なことなのだ。これから女手一つで二人の息子を育てていくための代償なのだ。チチはそう自分に言い聞かせ、口内に侵入してきたターレスの舌に、自ら舌を重ね合わせた。
ターレスはチチの舌を自分の口の中に引き込んだ。お互いの唾液が混じりあうほど舌と舌を絡めて、深く、深く口を吸いあう。チチの腕がターレスの首に巻きつくと、その乳房の弾力がターレスの胸板に伝わった。
ターレスは初めて知った。人の肌はこんなにも心地よいのかと。
チチも知る。求めていたものはこの強い腕の力と、体中をまさぐる大きな手と、時折、聞こえる懐かしい熱い吐息なのだと。
ターレスが唇を離した。覚悟はいいか?と問うようにチチの目を見る。その鋭い視線に射すくめられたのか、チチは瞳を閉じた。それを了承の合図に、ターレスはチチの夜着の胸元に手をかけ、勢いよく左右に引き裂いた。
チチの体に辛うじて引っ掛かった夜着をターレスは剥ぎ取っていく。最後に残ったショーツを足首まで引き下ろすと、まるで水に潜るように息を大きく吸い、ターレスはチチの乳房にむしゃぶりついた。
「はぁん!」
生暖かい舌がチチの乳首に巻きつくと同時に、チチの花弁にターレスの指が滑り込む。
そしてチチの弱いところを、的確に、何度も何度も責め続ける。
「い、いや・・・うっ!」
「どうだ?久しぶりの男は?」
乳首と陰芽を弄ばれ、強制的に絶頂に導かれる。
(だ、だめだ・・・やっぱり、こんなこと・・・)
チチの中の貞節が理性を取り戻せと抵抗する。唇を噛み締めて快楽を振り払おうとするチチの気力を刈るように、ターレスの舌と指は容赦なく愛し続ける。
「い、いや・・・もう、止めてけれ・・・」
「いやじゃねえだろ?」
すすり泣くチチの懇願にターレスは耳を貸す気は毛頭ない。
「もう十分だろ。」
愛液でふやけた指を引き抜いてターレスは愉快そうに嗤う。 その言葉の意味を察しチチは叫んだ。
「いやぁッ!!」
チチは逃げようと体を捩るが、ターレスの腕による戒めが外れることはない。
「てめえで誘っておいて、まだ言うのか?」
ターレスはチチの腰に両手を添えると、造作もなくチチの体を反転させた。 白いむっちりとした尻がターレスの目の前に晒される。尻から続く瑞々しい太腿に、ぬらぬらと光る蜜が伝い流れている。逃がさぬようにターレスは片手をまわしてチチの腰を抱えた。
眼前の淫らな光景にたまらず、ターレスは空いた方の手で、熱く昂ぶったものを掴むと、赤い受け口の蜜を満遍なく己が分身に塗りつけた。
「あ・・・んんっ!」
堅く熱い男性自身をこすり付けられ、チチが思わず声を上げる
「久しぶりに俺がイかせてやるよ。」
「いや、いやァっ!!」
淡い桜色の尻を引き寄せて、ターレスは一気に後ろからチチを貫いた。
「あ・・んっ!!」
言葉と裏腹に、熱く熟れたチチのそこはターレス自身を苦もなく飲み込んだ。瞬間、チチの背中が大きく反った。連動して膣内の肉壁がターレスにまとわりつく。
ずっと求めていた身体の奥を満たす熱くて堅い肉の棒の感触に、チチは無意識の内に腰を前後に動かし始めた。
チチの手が救いを求めるようにシーツを掴む。ぐちゅぐちゅと濡れた水音と、ぱんぱんと肉がぶつかりあう乾いた音が部屋中に響き渡る。子宮口近くまでねじ込むと、半透明の蜜が滴り落ちて、ターレスの腿さえも濡らす。
ターレスはチチの腰に添えていた手を前へ伸ばして、膨れた肉の芽を摘みあげた。
「はあ!あ、あん・・・!」
「すげえ、濡れてるぞ・・・いいか、これは神精樹の実のせいじゃない・・・おまえが誘ったんだ。」
肉芽をたっぷりの蜜に塗れさせて撫で上げながら、背徳感と罪悪感を煽る台詞をターレスはわざと吐く。
「ち、ちがっ・・・おらは・・・いやっ、もう・・っ・・!」
「もう、なんだ?もう、イかせて欲しいのか?」
「んっ、ちがっ、やめ、てっ・・・やめてっ!や、あァ!」
腰はターレスに合わせて動いているのに、まだ理性と言葉では拒もうとする。
ターレスはチチの膣内を2、3度、浅く穿ち、一気に奥まで突きこみ、ゆっくりと引き出す。肉の花弁がターレスの分身にまとわりつく。
「く、ぅ・・・は、はあっ・・・!」
犯すつもりが、逆に犯されている。ターレスの息遣いが荒くなり、抽送する速度が上がる。
「いやぁ!やめて、やめてけれぇっ。」
チチは振り返り、大きな瞳を涙で潤ませて懇願する。だが、その健気な姿がターレスの
嗜虐心を更に焚きつける。
「ダメだ。」
ターレスはチチの願いをにべもなく却下した。
さっさと堕ちてしまえばいいのに、とターレスは舌打ちする。女盛りの身体で男を焚きつけておきながら、なぜ細い糸を掴むように死んだ亭主へ未練を抱く?あんな最下級戦士のことなど身も心も裏切ってしまえ!
繋がったままの姿勢で、ターレスはチチを正常位へと乱暴に抱え直した。チチの両膝を肩につくほど大きく折り曲げて、腰を高く上げさせる。赤いザクロのような口がターレス自身を飲みこんでいる。その卑猥な光景に、ターレスは堪らず己が腰を突き上げた。
「っ・・・・!」
チチは弓のように身体をしならせ、ターレスは狂ったように腰を打ちつけた。
「あンッ、はあ・・・ああ」
拒絶しながらもチチの身体は素直に反応する。熱い吐息がチチの唇から漏れ始める。目を開けると、まるで挑むようなターレスの目と目が合った。
― サイヤ人は顔のタイプが少ない
チチは以前、ターレスに言われた言葉を思い出した。違うのは肌の色くらいで、髪型も、形の良い眉も耳も悟空に似ている。熱い吐息も、時折「チチ」と呼ぶ声も悟空なのだ。
似ているのは顔と声ばかりではない。チチの身体の奥に溶け合うように入り込んでいる熱い肉の動きまで悟空に似ている。
(悟空さ。)
悟空と交わした最期の夜からどれだけ経っただろう。この先どのくらい、一人寝る寂しさを抱えて行かなければならないだろう。だが、今はそのやりきれない思いも、不安も、全て忘れさせてくれている。チチはターレスの両腕を掴み、身をゆだねた。
ターレスを咥えこんだ膣肉は蠢き続ける。熱く、そして柔らく。ターレスの頭は甘く痺れ、睾丸から陰茎にかけて熱い塊がさかのぼり、破裂しそうになる。
「いくぞ。」
ターレスは男根にまとわりつく肉の襞を蹴散らすように、チチの奥を突き続けた。
「あああああっ!」
一際大きな声でチチは叫び、先に絶頂へ達した。
チチは放心したというのに、ターレスを咥え込んだ膣肉だけは、一滴残らず精を搾り取ると言わんばかりに蠢き続ける。最も大きな蠢きを伝えたとき、耐え続けたターレスの欲望も堰を切って溢れ出した。
つま先をこわばらせたチチの足がターレスの顔の傍で上下に小さく揺れる。糸の切れたあやつり人形のようなチチを見下ろしながら、ターレスは断続的に続く射精の余韻に酔いしれていた。
全てを吐き出し、ターレスは抱えていたチチの両足を下ろすと、ぐったりと横たわるチチの上に身体を重ねた。チチの全身は汗ばみ、乳房も腿もしっとりとターレスに吸い付く。
ターレスの熱い頬にチチのひんやりとした手が触れた。その心地よさにターレスが気をとられた時、チチ自らターレスに唇を重ねた。それは親鳥が雛に餌を与えるように短いもので、柔らかい唇はすぐにターレスのもとを離れた。
名残り惜しさにチチの顎に手をかけたターレスをチチは下から見つめて囁いた。
「好き・・・大好き・・・」
ターレスはチチの言葉の意味が瞬時に飲み込めず、目をしばたかせた。
「今、何と言った?もう一度言え・・・言ってくれ・・・」
戦闘時と違う胸の高鳴りを覚えながら、ターレスはチチの言葉を待つ。
チチの唇が小さく開く。
「好き・・・」
「もう一度・・・」
「大好き。」
この女と一緒なら地獄の業火に焼かれる苦しみも和らぐかもしれない。ターレスの心に一筋の火が灯ったとき、チチはまた繰り返した。
「好き、大好き・・・大好き・・・・・悟空さ。」
「な?!」
紡ぎだされた言葉は一瞬にしてターレスは奈落の底に突き落とした。
「大好き・・・悟空さ、大好き・・・」
チチの腕がターレスの首に回され、悟空さ、大好きと呟いて唇を求めてきた。
「言うな・・・黙れ!黙れ!!」
ターレスはチチの首を掴んで引き剥がした。
ターレスの燃えるような目を見てチチもまた奈落の底に堕ちた。
「好き」と告げると、おう、と曖昧な返事をして照れたように笑う夫と、この男は別人なのだという現実を突きつけられる。悟空への罰に、似た男との情事に溺れてもいいという考えなど所詮、甘えにすぎない。
「コケにしやがって・・・・!」
こめかみに青筋を立てたターレスは、チチの細い首に右手をかけ、その指先に力をこめた。ターレスの指がかかった部分の肌が赤く変色する。
悟空を裏切り、幼い子供達と年老いた父を裏切り、この男を傷つけた過ちは万死に値する。チチは死を覚悟した。
(地獄に堕ちたら、悟空さに逢えねぇ。)
薄れいく意識の中でチチは考えた。
しかし、ターレスはチチの首から手を離した。
「やめた。おまえを地獄に連れていくのはやめた。」
吐き捨てるように言ってチチを見下ろす。
「俺はカカロットの身代わりなんぞ、ご免だ。」
それはどんな地獄の責め苦よりも耐え難いだろう。
「カカロットは、かほ・・・」
果報者だな、と言いそうになりターレスは口をつぐんだ。言ってしまえば、負けを認めたことになる。
ターレスの身体は次第に薄くなり、やがて闇に溶け込んで、消えた。
朝の光りと、人の気配を感じてチチは目を開けた。
目の前に、ひどく懐かしく、そして、罪の意識から目を合わせるのも怖い人がいた。
「悟空さ・・・」
悟空がチチの顔を覗き込んでいる。丸い、人懐っこい目でチチを見て少し困ったように笑った。
「悟空さ・・・堪忍、堪忍してけろ・・・」
チチは身を起こし、悟空の首に抱きついた。
「く、くるしい、苦しいよ、お母さん!」
悟空の逞しい体には程遠い華奢な体つきに、チチは驚いて手を離すと、腕の中の物を見た。
「悟天ちゃん!」
チチに力強く抱きしめられ、悟天はチチの腕の中で口を尖らせていた。
チチは慌てて悟天を離すと、自分の身体を見回した。引き剥がされたはずの夜着は、ほころび一つなく身にまとっている。
夢だったのか?夢にしては身体の奥に余韻が残る。夢とうつつの区別がつかぬほど気がふれたのか、とチチは案じた。
「おなか、空いた。」
情けない悟天の声にチチは我に返った。目覚めた場所は天国でもなければ地獄でもない。生きていかなければならない現実なのだ。
「兄ちゃんは?」
「まだ、ねんねしてる。ねえ、おなか空いたよ、お母さん。」
「ごめんな、悟天ちゃん。おっかあ、寝坊しちまって。すぐ、ご飯にするかんな。」
急いでベッドから降りようとしたチチの頭に悟天が何かをかぶせた。チチが手に取ってみるとクッキーの空き箱だ。
「これ、悟天ちゃんが全部、食べちまったのけ?」
「だって、おなか空いたんだもん。あ、お母さん、お姫さまみたい。」
悟天はチチにすり寄り、チチの頭にまた空き箱を乗せた。
お姫さまか。チチは苦笑した。そうだ、自分は空き箱の冠をかぶったお姫さまだ。荒れた手で大切な子供達に飯を食わせないといけない。そして、それは決して地獄ではないのだと。
「おっかあがお姫さまなら、悟天ちゃんが王子さまけ?」
「ううん、僕じゃない。」
即座にかぶりを振る悟天に、チチは肩を落とした。
(この間は、大きくなったらお母さんをお嫁さんにする、なんて言ってくれただに。)
やれやれ、と言いながら台所に向かうチチの袖を悟天は引っ張った。
「お母さんの王子さま、あっち。」
悟天は棚に飾られた悟空の写真を指差した。
(終)