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ある日の、ある晩のこと。家の中には、母親一人。
月の綺麗な夜だった。

母親は、寝室に居た。

寝台の片隅で肢体をくの字に折り曲げている。縮めた体と対照的に、
長い黒髪が白い敷布の上で弧を描きながら広がっている。

寝間着はたくし上げられ、両手は股の間に挟まれていた。
膝のあたりにおろされた下着が、もぞりもぞりとすり寄せる太ももの
動きを妨げているが、脱ぎ去ることもしない。脚を固定されて戒めを
受けているかの様な姿であった。

現に、母親は眉間を寄せ、苦しげに呼吸を荒げている。時折、
短く声をあげ、体を震わせ、それを幾度か続けた後、大きく
かぶりをふり、全身を硬直させ息をつまらせた。

「悟空さぁ」

鼻にかかった声で囁いた後、体が小さく跳ね、瞬間糸が切れた
かのように、そのまま脱力した。

母親は今、別の生き物へと変わっていた。

女は寝返り、四肢を広げ、軽く顎をあげた。胸が大きく上下する。
呼吸に合わせて寝台が小さく音をたてた。

しばらく後、部屋に静けさが戻った。女はそのまま眠りに落ちた
かったが、性分がそれを許さず、裾が乱れた夜着と下着を整え
ようと、体を起こし、一つ息を付いた。

「大丈夫か?」

驚いて顔をあげると、寝台の傍らで大きな影が自分を見下ろしていた。
女は何が起こっているのか理解できなかった。

そこには、顔色の悪い異星人が立っていた。

「ピ…、ピーーーーッ!」
「なんだ、名前を忘れたか? そういえば久しぶりだな」
見知った仲故の軽口のつもりだったが、相手の態度は予想外の
ものだった。

「ピッコロ!! なーしておめえがいるんだ?!」
顔を真っ赤にしたチチは、叫びながら寝台の上で軽く後ずさりし、
それから、脚の付け根あたりまでたくし上げられた寝間着を
慌てておろした。

「近くを通った」
「呼ばれもしねえで、人様の家に来るでねぇっ!!」

ピッコロは眉間にしわを寄せた。何ヶ月か前に訪ねてきた
悟飯から聞いたのだ。「お母さんが、いつでも来て下さいって
言ってました」と。いつでもいいから来いと言われたから、
自分は訪ねてきたまでだ。何も眠りにつくような時間に
来たわけでもない。

人造人間が襲来するまでの三年の間に、二人の関係は変化していた。
始めこそは、一方的に忌み嫌われていたが、いつの頃からか
「ピッコロさ、水だけじゃ体に悪いでだぞ」と余計な心配まで
されるようになっていた。ちなみに、最初のうちは無理矢理
押し切られて料理を食べるはめになり、返って体をこわすこと
数回。しかし、チチの目の届かぬ所でひたすら耐え、治癒を待った苦労人
ピッコロである。以来、食事の時間は家に近づかないようにしている。

チチが、がなり声をあげた。
「目ぇつぶって、耳ふさいで後ろさ向くだ!!」
ピッコロは、黙って従った。耳をふさいでも自分の聴覚には全く
影響がないと思ったが、黙って従った。背後から、聞き慣れない衣擦れの
音がした。

力では自分の方が圧倒的優位にあるにも関わらず、チチは時折
絶対服従せざるを得ない威圧感を発揮する。そうなると、単なる
やかましい女だと済ませることができない。何故か冷や汗が吹き出し、
全く抵抗がきかなくなるのだ。理由はさっぱりわからない。
ピッコロにとって、大いなる謎であった。

目をつぶり耳をふさいだまま、ピッコロは聞いた。
「悟飯たちはどうした」
「今晩はブルマさん家に行ってるだ」
「お前は留守番か」
「んだ、ちょっと疲れててな」
「具合でも悪いのか」
「そんな大層なことでねぇよ」
「だが、苦しそうな声をあげていただろう」
「お、おめぇっ!…いつからここに居たんだっ?!」
「日が落ちて間もない時間に灯りが消えているので誰もいないと
思ったんだが人の気配がした。よからぬ者でも潜んでいるかと
中に入ったら、ただならぬ気配がした。するとお前の声がした。それでだな…」

――いつまで俺はこんな格好で、どうでもいいことをベラベラ
くっちゃべっているんだ…。
ピッコロは振り返り、腕を組むと身を乗り出した。チチは、どういう
訳か、おびえたように、小さく身を震わせた。

「顔が赤い。息も荒い。意識が飛ぶほど苦しかったのだろう?
うめき声もあげていた。気が弱っているわけでもないようだが。
ケガでもしたのか」
「ケ…ケガ?」
「股の辺りを痛そうに押さえていたように、見えた」
「……それで?」
「自分でわかるだろう。血…ではないな、匂いが違う。体液の類が
流れ出ただろう。それを止めようとしていたんんじゃないのか?」

チチは、更に真っ赤な顔で絶句し、軽く身をよじった。その時、
ピッコロの敏感すぎる耳に、先ほどと同じような音が伝わってきた。
常人なら聞こえないだろうが、女の脚の付け根の奥から、漏れ出た音。

くちゅり。

「お前、また出てきているぞ。ちゃんと止めた方がいい」
止血を、と言いかけて、やはり血の匂いではないな、と軽く
鼻をひくつかせる。

「おっ…おめえっ! 今なにやった! 何、嗅いだ?!」
「それは、お前のだな…ああ、その場所では自分でもよく
わからんだろう。見せてみろ」
「ぎええええ!!!!!!」

ごふり。

寝間着の裾をめくったピッコロの腹に、渾身の力を込めた
ケリが炸裂した。

「なーーーにするだあああああ!!! このヘンタイ大魔王!!!!」

戦力は雲泥の差なのだ。いくら不意打ちとはいえ、元武道家の
ケリとはいえ、効果などあるはずはない。のだが、何故か
効いた。それはもう、痛烈に。そんな馬鹿なと思いつつ
顔を上げると、チチは、寝台の上を壁際まで避難し、
枕を盾にしながら、「ヘンタイ!」「スケベ魔人!」とわめき
散らしている。

さっぱり、わからない。

ヘンタイとは、さなぎが蝶に羽化するといった動物の形態変化では
なかっただろうか。卵から生まれ、数年で成長するナメック星人で
ある自分は、ヘンタイにあたるのだろうか。だからといって、何故
今そんなことをののしるように言われるのか。

後の雑言は、さらに解せない。

スケベ。スケベ。スケベ。

聞いたことがあるような、ないような。そうだ、以前、孫が自分の
師匠をそう称していた。あの爺さんと自分との共通点は…。ない。
いや…そういえば、あいつは頭に毛がなかった。…だから何だ。
ええい、わからんと、ピッコロはかぶりをふった。

こういう場合は、孫のやり方でいくのが得策だ。

「すまん。俺が悪かった」
口に出した瞬間、自分を呪いたくなった。が、こんな屈辱的な
言葉を吐くのは、博愛主義な神の野郎と同化したせいだと思うことで
心の均衡を保った。

「よくわからんが、謝る」
「よくわからんってなんだべ!! おっ…おめぇは、
もんのすっげーことしたんだぞ!! あんなとこ、見られてっ!
一生の恥だ!!」

チチは、枕に顔をうずめた。
「いやっ…もう、やんだぁ…。おら…おら…。悟空さに何て…。
こっぱずかしいだぁ…」

いつの間にか、涙声になっている。ピッコロの思考回路は、
完全に停止した。理解不可能だった。腕を組み、眉間を
寄せ深く息をついた。

「悪いが、俺には何が恥なのか、さっぱりわからん。それより、
ケガの手当をした方がいいと思うが」

枕に顔をつっぷしてぐずぐず言っていたチチが、ゆっくり
顔をあげた。

「…おめぇ、本当にわかんねぇのけ?」
「何がだ」
「なっ…何って、おらが、やってた…コト…」
「さっきから、わからんと言っているだろう」
「ホントにケガしてると思っただか…?」
「違うのか? じゃぁ、一体何をしていたんだ?」
「そ…それは…」

『自慰、だな』

ふいに、別の声がピッコロの頭に響いた。神の声だった。
何もないと知りながら、反射的に上空を仰ぐ。

「ジイ?」
「!!おめぇっ! やっぱしわかってるんでねぇけ!!
信じらんねぇ!! こんの、人でなし!!!」
枕が顔面に飛んできた。更に雲行きが怪しくなってはいないだろうか。

「い、いや…これは…」
『確かに我々は人間ではないな』

それはそうだ。とうなずきかけて、ピッコロは自身の中に
息づく神に、心の声を荒げた。
(貴様が余計なことを言ったせいで、俺がだな!)
『いや。これは全て、お前の知識のなさが招いたものだ』
(知識だと?)
『お前は、いわゆる一般教養というものに欠けておる。
前々から気にはなっておった』
(お前には、事態が飲み込めているのか?)
『それは、なぁ。一目瞭然、地球人の営みの一種だ』
(…レンアイというやつか?)
『おっ! いいとこついておるの。当たらずといえども遠からずだ。
これも男女の機微というか』
(やはりわからん)
『そうだろうて』

「人を食うんなんて、悪趣味だべ! 黙ってねぇで、何とかいったら
どうなんだ?!」
いつの間にやらにじり寄って来ていたチチが、寝台の上に立ち上がり、
今にも首を締め上げんとしていた。

先ほどに増して身の危険を感じた瞬間、また神の声が響いた。
『<寂しかったのか>と聞いてみい』
(なんだそれは)
『いいから。ホレ早くせんと、絞め殺されるぞ』

「…お前、寂しかったのか?」

藁にもすがる思いで放った一言は、瞬時に威力を発揮した。
ピッコロの首もとにまで伸びていた両腕から力が抜け、眉を
つりあげた顔から一瞬表情が抜けたかと思うと、見る見るうちに
逆の方向に眉がゆがむ。黒目がちの瞳が一気にうるみ、大粒の
涙がこぼれだした。

チチは、そのまま両手で顔を覆った。肩を震わせている。
なんとか命の危険からは脱した。しかし、これはこれで、
とてつもなく――居心地が、悪かった。

目の前の女が、急に小さく見えた。額に汗がふきでた。
今頼れるのは、全知全能の神をおいて他になかった。

(この状況を脱する術はないのか?!)
『お前には至難の技だな』
(お前の余計な一言で、戦況が益々悪化している! 神なら必殺技
の一つや二つ知っているだろう?!)
『ないことも、ないが、人を選ぶ』
(俺には無理だと言いたいのか?)
『得手不得手というものがある』
(いいから、教えろ)
『仕方あるまい。私の言う通りにするのだぞ』

頭の中で、一連の指示が出された。本当に、効果があるのかと
思うようなことばかりだったが、取りあえず従うことにした。

「寂しかったのか」
「…ん」
腕の中に抱え込んだチチは、驚くほど柔らかな体をしていた。
なるほど、地球人の男と女は随分違っているようだ。
などと悠長にしている場合ではない。ピッコロは、片方の手を
チチの頭にまわし、ガシガシなでた。『もっと優しく!力は
いらん』神の啓示に従い、慌てて力を抜く。

馬鹿の一つ覚えのように頭を撫でながら、もう一度言った。
「寂しかったのか」
「…んだ」
嘘のように素直にチチがうなずいた。

「なにも、恥じ入ることはない。そうやって、夫への思慕を
体で確認することに、ためらいは不用だ。しかもお前は
まだ若い。自然の摂理というものだ」

言いながらさっぱり意味がわからないので、実に見事な棒読みだった。
だが、言われたことを全てやり遂げたという妙な達成感が
あった。実際、チチは大人しくなっている。安堵したピッコロは、
体勢を戻そうとしたが、今度はチチがピッコロに抱きついてきた。

「誤解しねえでくんろ! お、おら、さっきみたいな真似、今日が
初めてだったんだかんな!」
『なんと。それはそれで、不憫なことだ』
(今度はなんだ…)

いい加減うんざりとしてきたピッコロは、思わず溜息をついた。
「あっ」
チチが、声を漏らした。

「どうした?」
「な…んでもねぇ…」

なんでもないというが、伝わってくる体温が一気に上がった気がする。
やはり熱があるのだろう。

「寝るか?」

返事はない。が、体に回された細い腕に力が込められた。
どうしたものか。ううむ、とまた溜息をつくと、相手がピクリと
身を震わせた。小さく体を震わせている。寒気もあるらしい。

『ピッコロよ』
(なんだ。どうなった)
『戦況は悪化の一途をたどっている』
(なんだとぉっ?!)
『絶妙な場所に息を吹きかけおって。無意識なのがまた罪深い』
(息がどうした)
『一旦高まってしまうとすぐには熱が引かぬものなのだ。くすぶる
火種を扇ぐような真似をしおって。可哀想に、涙を流して耐えておる』
(そんなに熱が苦しいのか)
『阿呆』
(なにおっ…?!)

「んっ…」

思わず相手の背に回していた腕に力をこめた瞬間、今度ははっきりと
声があがった。しがみついてくる腕の力が、更にきつくなる。
例の匂いが、また強くなっているのに気づいた。

『お前はこの女が恋いこがれる夫ではないが、体に人並みの温もりは
持っておる。それで少しは精神の安寧が取り戻せると思ったのだが…』
(なんだ)
『余計なことをするから、火に油を注いでおる』

(な、ん、だ、と、ぉ)
「ん…」
『鼻息を荒くするな! 耳に息がかかる。体がお前を意識してしまって
いるのだ。お前の一挙一動に身が反応する――息を殺しても、今更遅いわ』

身じろぎ一つできずにいると、喉元にかかる息やら体から伝わる熱やら
腹の辺りにあたっている妙に柔らかい感触やら時々ぴくりと体が跳ねる
度に聞こえる例の水音やら鼻腔から脳天まで充満してきた臭いやらがありありと
感じられて、変に具合が悪い。しばらくすると、神妙な口調の声が響いた。

『――地球人の生殖についてどこまで知っておる?』
(男女間で細胞のやりとりをして、女の腹の中で受胎するのだろう)
『そんな次元か…』
(生殖が関係するのか?)
『まあよい。ともかく、このまま放っておくのも忍びないという
ものだ。お前、この女の助けになってやれ』
(…こいつの、助けに、俺が?)
『相手が希望すればの話だがな。それに、お前の腕にもよる』
(…やりとげてみせる)
『繰り返すが、私の言う通りにするように』

神の声が一連の手順を告げると、ピッコロは一層眉間にしわを寄せた。
誠にもって不可解だが、いたしかたない。一度頭の中で繰り返し、口を開いた。

「おい」
「なん…だ、べ」
「また、苦しくなっているのだろう」
「…えっ?」
「よければ、俺に任せろ」
「ピッコロ…さ?」
「無理にとは言わん。だが、力を抜くための手伝いくらいなら、できる」
「そっただことしたら、悟空さを裏切ることになっちまう…」
「――自分でしていたことを、俺が代わりにするだけだ。その間、
お前は孫のことを考えていればいい」
「悟空さの、ことを…」
「面倒なことは俺に任せて、余計なことは考えるな」

チチは、何も言わずに身を離し、うつむいて寝台に腰かけた。
ピッコロはゆっくりとチチの体を抱えて寝台の中央に横たえた。
ここまでは、神の筋書き通りにいった。

パチンと指を鳴らすと、するすると天蓋布を結わえていた紐がほどけ、
薄い布が寝台を四方から覆った。月光を受けた天蓋布がほの白く輝く。
二人は、やわらかな闇の中にいた。ピッコロは、体重をかけない
ようにして、細い体の上にまたがった。

寝間着のボタンに手をかけると、軽く嫌がるようなそぶりをみせる。
これも神の言った通りである。さすが全知全能の神。肩の力が抜けた。

神は、快感を与えることで余計な力や不安を取り除くことができる
のだと言った。その言葉は、まあ理解ができる。今からせんとする
ことが、快感につながるとは思えないが、やってみるしかあるまい。
ピッコロは、一人、うむとうなずき、別の場所に手をのばした。

ボタンの両脇にある二つのふくらみ。それぞれの中央に、わずかに
もりあがった箇所があった。とりあえず、一方に指を這わせてみる。
びくり、と相手の体が震えた。

「痛ければ、そう言え。やめたい時も、そう言え」

その言葉を皮切りに、指を動かし始めた。細心の注意を払って
触れるか触れないかくらいの感覚で、布越しにつまみ、ひっかき、
なでる。チチの息が、あがってきた。同時に、指の中のふくらみが、
堅さを増し、大きくなる。

片方のふくらみに目をやると。こちらは触れてもいないのに、先端がはっきりと
その姿を現していた。両手で同じように刺激を与える。次第に息だけで
なく、「んん」とくぐもった声も漏れるようになった。

苦痛ではないのだろうか。チチは眉根を寄せ、何かを堪えるように、
下唇を噛んでいる。

『集中せんか。わずかな変化も見逃してはいかん』
(本当に大丈夫なのか)
『今のところ首尾は上々だな。心配は無用だ。本当に苦痛なら
こう大人しくしていまい』
(大人しい? 身をよじったり、呼吸を荒くしているようだが。
 …今、軽く悲鳴を上げなかったか?)
『それでいい。地球人の感情とは、何かと紙一重でな。苦痛と快感が
隣り合わせなのだ。傍目には区別がつかんかもしれぬが、
すぐにわかるようになる』

――快感。ということは、自分のしていることが心地いいということか。
心地よさとは、ゆったりとくつろいだ中に生まれると思っていたが、
目前の女は、せわしなく体を震わせ声をあげている。いまだ解せないが、
神を信じるしかない。

「吸うぞ」
「ぃや!」
宣言して口を胸に寄せると、強い反応が返ってきた。反応が
あれば、逐一自分の行動を言葉にするといい、と言われている。
もう一度試して、決めるか。

夜着の上から、まずはめろりと舐めた。濡れた薄地の生地の下に、
桃色の姿が浮かび上がる。そのまま口に含み、音をたてて吸った。
同時に、片方も今までより強めにつまみ上げる。

「んんんっ」

肩をこわばらせて、かぶりをふっている。ピッコロは一旦口を離すと、
両肩に手をおいた。

「力を、抜け」

首もとに、爪の先を軽くあて、すばやく移動させる。女が、
はぁっと、大きく息を吐いた。

「声を出したいなら、堪える必要はない。好きなだけ出せばいい」

固く閉じた目に、薄く涙がにじんでいるようだった。返事はなかったが、
こくりこくりとうなずくのを見て、ピッコロは再び胸に手と口を這わせた。

今度は、単に吸うだけでなく、口の中で舌をからませたり、
転がせたり、犬歯を頂にわずかにあてたり。その度に、鼻から漏れ出た
ような声があがる。段々と声音が高くなるのがわかった。

そのうち、ふいに片方の耳が軽くひっぱられた。怪訝に思い
顔を上げると、潤んだ瞳がこちらを見つめている。
反対の胸の方へひっぱろうとしているらしい。

「こっちもか?」

チチは、涙をためてうつむいてしまった。小さく、
「こっぱずかしい…」と呟く。

「恥じることは、何もないと言っただろう」
具合が悪くなり、思わず手を黒髪にのばして、がしがしとなでた。

「やんだぁ。痛ぇだよぅ」
慌てて手を離すと、泣き笑いの表情が浮かんでいた。

『お主、なかなかやるな』という声は無視し、「痛ければ、今のように
ちゃんと口に出せ」と念を押すと、もう一方の胸に舌を延ばした。

すると、また耳をつかまれ、今度は胸の中央に顔を
移動された。どうすればいいか、わからなくなった。

『服を脱がせろと言っているのだ』
(それで、どうする?)
『決まっているだろう。今度は直に刺激しろ』

そういうことか。胸元に手をのばしてよく見れば、裾の方まで
留め具の列が続いていた。面倒になり、軽く指をはじく。
瞬間、一斉にボタンがはじけるようにはずれ、胸から太ももまでが
露わになった。

突然の出来事に驚いたのか、相手は反射的に、胸の前に両手を
合わせた。ピッコロは、ゆっくりと片方ずつ腕をはらいのけた。

天蓋布越しに射す月光だけが頼りの薄明かりの中で、青白く光る敷布よりも
白い肢体が浮かび上がっている。みるからに柔らかな曲線を抱いた胸の下に
視線を落とすと、曲線は一旦腰でくびれこんだ後に、また、ゆるやかに
張り出していく。これまでに一度も目にしたことのない姿をした、体。

思わず脇の下から太ももまで、体側に描かれたカーブを撫でおろす。
下腹部を多う布に指がかかった。ついでに引き下ろそうとすると、
小さな手に制止される。『まあ、そう焦るな』と声が響いた。

別に、焦ってなど、いない。邪魔に思えただけだ。
匂いの源と思しき部分を、確かめたかっただけだ。
ピッコロは、気を取り直して胸に唇を寄せた。

「なめる」
そう言った瞬間、はぁっ、と湿度を含んだ声が上から聞こえた。
やはり、行動を口に出した方が、「快感」になるらしい。

今度は胸を軽く握りあげ、先端を更に上にむける。そのまま口に
含み、ゆっくりと吸い上げた。それから一旦口を離し、付け根の
輪郭をなぞるように舌を這わせ、脇に近い場所にも吸い付いたあと
先端に戻り軽く歯をかける。片方の胸は全体を手中に収め、やわやわと
揉み、時折指だけで先端にむかってなで上げる。

『一点集中は能がない』

気が付けば、教えに疑問を呈することもなく、言われるがままに
動いていた。胸だけでなく、首もと、脇、腕も刺激する。
地球人とは段違いに長い舌と指が、チチの半身をくまなく
行き来した。その度に、鼻にかかった声が、もう加減されることも
なく頻繁に漏れ出た。

『もう、頃合いだろう』

なにが、と聞き返すこともなく、ピッコロの視線は自然と下腹部へ
おりていき、唯一布に覆われている部分で止まった。見れば、
太もも同志をすりあわせ、じれったさそうに震えている。
奥の方からは、例の「くちゅり」という粘着質な音が、体を
よじるごとに聞こえてきていた。

「取るぞ」
「ピッ…コロさぁ…」
下着にかけた手が、再び制された。
何事かと顔を伺い見ると、うっすらと開いた目が、こちらを見つめて
いた。瞳に、頬に、表情に、しめった熱を帯びていた。チチは、
絞り出すように声を出した。

「や、やっぱり…、これ以上は…」
「――やめたいか?」
返事は、ない。二人は、そのまま見つめ合った。チチは、目を
反らさない。熱い、熱い、その瞳を。

ピッコロは視線はそのまま、無言で手を両足にかけ、ゆっくり
広げ、脚の間に体を移動させた。両膝を立たせると、重く湿った匂いが、
天蓋布に仕切られた空間に充満した。

太ももの裏に指先を這わせる。
相手の表情が切なげになる。
だが、視線はこちらを向いたままだ。

今度は、ふくらはぎをつかみ上げると、膝裏を舐めた。そこから、
だんだん脚の付け根へと降りていく。相手の息がそれに従い
荒くなっていく。だが、お互い視線は逸らさない。片方の脚でも、
同じことをする。女の息は、すっかり上がっている。見れば、
口の端から薄く涎が垂れていた。

ピッコロは、そこで初めて両脚の中央に視線を落とした。頭上から、
あっ、と短い声がした。

思わず、息をのむ。白い布に覆われたそこからは、吸いきれなく
なったものが溢れ出る程にぐっしょりと濡れていた。奥では、
女が息をするたびに、何かがうごめいているのがわかる。その部分に
指を伸ばす。自然と、おそるおそるといった手つきになっていた。

くちゅっ。

指が触れた瞬間、チチがのけぞった。瞳は、固く閉じられていた。
布の奥から、一筋の雫が垂れた。直後、両の太ももが、ピッコロの体を挟みこんだ。

全身に、血が逆流するような感覚が走った。

「やめ、たいか?」
震える声で、もう一度、問う。チチは、喉から息だけを絞り出し、
苦悶の表情で、いやいやをするように何度も首を振った。
その度に、ぐちゃり、くちゃりと音が響いた。

「やめはしない」
言うなり、布端に爪をかけると、一気に切り裂いた。

布片を引き抜くと、ぬらり、と糸が引く。そのまま、適当に投げ捨てる。
膝裏に手を掛け、大きく脚を開かせると、中央に顔を近づけた。
目の前に、濡れて光る紅い世界が広がっていた。全く未知の世界だった。

神に言われた場所がどこか、一つ一つ確かめるように、眺める。
髪と同じ色の毛が、薄く上部を覆っている。そのすぐ下に、小さく
せり出した豆状の肉の粒。その下のヒダ状の器官が、中央の体孔を守る
様に取り囲んでいる。孔の奥にも細かなヒダが見える。ヒダは、
何かを誘い込むようにうごめき、透明の雫が溢れ出していた。

『よく、この者の本意をくみ取ったな』
(何の話だ)
『操の固い女故、理性が歯止めとなって自分からは体を開くことが
できなかった。だが、肉体は狂おしい程に快楽を求めている。
お前に、たがを外して欲しかったのだ』
(知らん)
『ん?』
(そんなことは、知らん)
『…ほう』
(俺は、やめない。やりとげると、決めた。それだけだ)
『そうか――これ以上は、何も言うまい。気持ちに寄り添って
あげなさい』

偉そうな声が遠くなった。
ガラにもなく深呼吸をする。息のあたった部分が、震えた。
ひくつく孔に向かって、舌をのばした。

じゅるっ、じゅるっ。汁をすくい取るように、なめあげる。
薄く酸味の混じった液体が、負けじとしたたる。

「あ…っ、あんっ」

それに合わせて、はっきりとした嬌声が響いた。
孔の奥まで確認しようと両脇から軽く広げると、その上にある肉の粒
を覆う皮がめくれ、中から充血した部分が露出した。
そこが快感を生むと共に弱点なのだという言葉を思い出し、そろりと
舌先だけを延ばして軽くつついてみる。

「アッ!」

これまでと違う声が上がった。そのまま、下から
つつき上げ、表面をちろちろと刺激していく内に、
声が叫びに近づいていった。

「アァッ!…んっ…ひゃん!!…だめぇ!!」

加減がわかってくると、わざと弱く刺激を与え、
相手が不満そうなくぐもった声になってきたところで
肉全体を口に含み、音をたてて強く吸ってみる。

「いっ…イヤァッ!!!…イヤァ!」

いやだ、と言っていても、嫌ではないはずだ。
勢いよく舌で転がした。

「あああっ!!!!!」

大きく叫んだかと思うと、ももで激しく頭を挟まれた。
柔らかいもも肉に圧迫され、溢れる汁が口元を濡らす。
地上には、自分とこの女しかいないかのような錯覚に
おちいった。

ピッコロの頭を股に挟んだまま、チチはびくびくと体を
震わせた。しばらくして、両脚が少しずつ弛緩してゆき、
止まっていた血が頭をめぐりだす。

終わったのだろうか? 最初、一人でしているところを
見た時は、こうやって終わっていた気がする。教わった
のも、ここまでだった。だが、体孔の奥では、無数のヒダが
激しくひくついている。何かを待っているかのように。

「入れるぞ」

自然に、口に出ていた。入り口が、激しくひきつき、息を呑む音がした。
やはりこれを待っていたのだ。ピッコロはごくりと喉を鳴らした。

指をのばし、自分のとがった爪の切っ先に気づき、止める。
この指を入れては、傷をつけてしまう。ならば。

元々長い舌を更に延ばし、体内へ進入していく。
「アッ…、あぁ」と、とまどったような声がした。
内壁がきゅうきゅうと舌にからみついてくる。

ひどく、熱いものに包まれているような。
ひどく、自分が求められているような。
味わったことのない感覚がした。

内壁の動きに導かれるまま、行き止まりの部分にいきつく。
奥には、こちらに向かってせり出す部分があった。

奥へ奥へと引きずり込むような動きに逆らって、舌を逆流
させてみると、想像通りの声があがった。そのままでも十分な
気もしたが、先ほど散々刺激した部分を見やると、すっかり
中の肉が外に露出している。爪があたらぬよう、そっと
指をあて、体内の舌の動きに合わせて軽くゆするように
してやる。声が一段と高くなり、女がまた、拒絶的な言葉を
吐き出すようになった。

今度は壁を螺旋状にこすりながら、舌を出し入れする。
チチは「ああっ! ダメ…も…もっ!!」と声をたてながら、
脚をばたばたとさせた。やむを得ず、脚を抱えるように
固定し、刺激をつづけると、今度は腰が跳ねる。
たまらず舌を抜くと、「ああ…んっ」と、名残惜しそうな
声と共に、入り口からとろりと汁がしたたった。

「もう少し、じっとしてろ」
口の周りをぬぐう。
「だ…だってぇ」
薄く目を開けて、こちらを恨めしそうな顔で見つめている。
いつの間にか、両目からは何筋もの涙が流れていた。

「辛いか? やめるか?」

本当に、辛そうにも見える。やりすぎてしまったの
かもしれない。快感と苦痛は表裏一体との神の言葉を
思い出す。

すると、女は目をつむり、自ら膝裏を抱えて開脚した。
体の中心が、真っ赤な口を開けて待っているのが見えた。
ためらいは、瞬時に消え去った。

さっきよりも激しく、舌を動かす。空いている片方の手を
延ばし、両方の胸も同時に刺激した。
更に激しく身をよじるようになったが、もう気にはしない。
舌が奥まで到達すると、内側にせり出している部分に
からませていく。そのまま舌を回転させ、せり出す部分の中央にある
小さな窪みも刺激した。内壁は、風船の様に膨らんだり萎んだり
を繰り返す。入り口部分も激しく収縮し、舌の根本を締め付けた。

白い喉からは、今では声ではなく、激しい呼吸音だけが
出入りしていた。女の体は、うすい桜色に染まっている。
ピッコロは自身の息も荒く、次第に苦しいとも心地いいともつかない感覚に
支配されているのに気づいた。対して動いてもいないにも関わらず、自分も
全身汗まみれになっている。体が熱かった。

「ァァ…ッ!ァッ!」

また、短い嬌声が聞こえてきた。
それに合わせて舌がつぶれそうな程締め付けられる。

――今だ。

奥の壁を刺激しながら舌全体を激しく動かした。
激しく身をよじった女が、突如胸と下に沿えていた手をはぎとり、
そのまま握りしめてきた。指を絡めるようにしてきつく握り返し、
音をたてて舌を出し入れすると、一瞬を身を縮めた後、
「んっ!くぅっ…!!」とうめくような声をたててピッコロの頭を
挟んだまま弓剃りになり、その体勢で膠着したままぶるぶると震えた。

前よりも強く長く頭を挟まれながら、遠くで「あ、あ、あ」という声を
聞く。からまり合ったまま深い深い場所へ諸共に引きずり込まれていく
ような気がした。そのまま全身が麻痺していく感覚に包まれる。
何故か悟飯をかばってナッパの放った閃光に晒された瞬間を思い出した。

真っ白になった頭が意識を取り戻した頃、はあっ、と息をついて、
チチが体を寝台に沈めた。音を立てて、寝台がきしむ。
ピッコロは、ゆっくりと舌を引き抜いた。

二人の手は、つながれたままだった。

「ピッコロ、さ…」
荒い息が静まらないうちに、チチは口を開いた。
「なんだ」
ピッコロも、肩で呼吸をしていた。
「ありが、と、う」
視線を宙に漂わせながら、つぶやくように言った。

ピッコロは、あの刹那、チチの脳裏に去来していたのは、自分では
ないと悟った。今は亡き夫の姿を思い浮かべるよう話したのは、
他でもない、自分だ。自分の感じた一体感は、幻でしかないのだ。
――当然のことだ。握りしめていた手を離そうとした。

その手は、強く握り返された。

怪訝に思い、顔を上げると、チチは半身を起こし、脚の間にうずく
まったままのピッコロを見下ろしていた。瞳は、見たことの
ない、穏やかさをたたえていた。

「ありがとう、な」

目にしたことのない、微笑みだった。
ピッコロは、また違った暖かさで、体が包まれたような気がした。
もっと大きな力に包み込まれた気がした。ふと、周囲が明るくなって
いるのに気づく。天蓋布の隙間から、格子戸の向こうに輝く満月が見えた。

ピッコロは身を起こした。体が異様に重かった。
左手をほどき、何も言わず、静かに寝台を囲む布を開いた。
チチも、自分に寄り添うように月を見上げた。月光が、ゆるやかに
二人を包み込んでいた。片方の手は、つながれたままだった。

ぼんやりとした頭で、こんなことはもう二度とありえないだろうと
思った。そして、それでいい、と思った。

再び、「ありがとう」と声がした。
ピッコロは顔を合わせずに黙って頷き、ゆっくりと右手を離した。

「ところで、ピッコロさ」

なんだ、と視線を落とすと、見慣れた笑顔がこちらを見上げている。
しかし、ピッコロは見た。満面の笑みが、瞬時にして怒りの形相に
変化する様を。本能的に、身の危険を感じて後ずさりすると、チチが
にじりよって来た。

「おーめぇっ、よくもおらの下着、ぼろぼろにしただな?!」
「え?」
「弁償、してもらうだからな!」

チチの指し示す先には、勢い余って切り裂いた、下着の残骸が
所在なさげにたたずんでいた。怒りに震える指と共に、白い
胸がぷるぷる揺れた。それを目にしても、別段何も感じない
ことに、何故か心からほっとした。


「な~にボンヤリしてるだ?! 言い逃れしようたって、
そうはいかねぇかんな!」
胸を震わせながら詰め寄るチチを制して答えた。
「その前に、服を着たらどうだ」

はっと我に返ったチチは、両手で胸を隠し、叫んだ。
「こんの、変態ドスケベ大魔王!!」
ピッコロは苦虫をかみつぶしたような顔でつぶやいた。

「さっぱり、わからない…」

天を仰いでも、神の啓示はなかった。

                   (終)