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ファーストコンタクト <1>

 白い手がコックを捻ると、上から叩きつけていた湯が止まった。長い黒髪が身体にはりつき、しとどに雫を滴らせている。
 1つ息をついて、チチは今まで髪に施していたトリートメントがちゃんと流れ落ちているかを手を滑らせて確認した。さすが、試供品をもらって
取って置きの時のためにと秘蔵しておいた評判の逸品だ。もともとから艶々としなやかなチチの自慢の髪ではあったが、より絹糸のように、烏の濡れ羽よりも
より美しくくろぐろと、風呂の明かりにつやめいている。
 満足に微笑んで髪をまとめて軽く絞り、チチはかがんでいた洗い場から細く白い身体をすらりと立ち上がらせると、終い風呂に蓋をして脱衣所へあがっていった。
籠の上、淡い杏色の手触りのいいパジャマの上にはさっきこっそりクローゼットから引っ張り出してきたこれまた取って置きの下着が鎮座している。

 取って置きの時が、ようやくやってきた。高鳴る鼓動を風呂上りののぼせのせいにしたかったが、白い胸の中の心臓は風呂の中にいるよりもより一層、苦しいほどに
高ぶってきた。
 入院していた病院を飛び出したっきりで、今までずっと家を開けて行方不明になっていた亭主が、今日ようやく戻ってきたのだ。帰ってきてしょっぱなに、今後について
腹立たしい提案をされてまだそれに怒ってはいたが、正直それはそれ、これはこれだ。
 20代も半ばの女ざかりの身体を今まで散々ほうっておいた詫びは、一晩で贖えるものじゃない。
 (たっぷり、身体で払ってもらうだ)
 そう思って、自分で赤面してチチは顔を覆った。下着を穿こうとしたが、穿くそばから、自分でもう体の中から熱い液を滴らせそうになっているのがわかる。また
赤面してタオルでそっと拭い、びくりと感触に身悶えしてからちゃんときっちりと身に纏った。



 歯を磨く間も、髪を乾かす間ももどかしく、いつもより生乾きの髪のまま自分の寝室のノブに手を掛ける。先に風呂に入った息子と亭主はすでに部屋に引っ込んでいる。
 ひょっとして、待たせすぎて、もう寝てしまってたらどうしよう。
 そう密かに懸念しながらそっと恥ずかしげに扉を開けたチチは仰天した。眼前の寝台の上に、全く身も知らぬ金髪の男が下着一丁でどっかりと胡坐をかいていたからだ。

 「ぎ、ぎえええええええええっ!なんだ、おめえは~!」

 ばたん。慌ててチチは寝室の扉を勢いよく閉めた。なんだ、今のは!今の、金髪をいけ好かなくおったてた、まるで不良のような男は!夫はどこに行ってしまったのだ!

 素っ頓狂な高周波の大音声に、隣の部屋からどたっ、と転げる音がして、ばたりと扉が開いて、眠りかけていたのだろう、眠そうな顔のままの息子が顔を出した。
 「ど、どうしたの~、おかあさんっ」
 「ご、悟飯ちゃん。今、中に、変な知らねえ男がいただよ!泥棒かなんかかも知れねえだ!」
 「え~?…じゃあボク、見てみるね。おかあさん、隠れてて」
 「そ、そんなわけにいかねえだ!」息子はとっくに自分よりもはるか強くなっているのだが、そんなことにはお構いなしのままのチチは母親としての義務感から
慌てて気勢を張った。「悟飯ちゃんにそんなおっかねえ真似させられねえだ。わかった。おっかあもっかい見てみるから、後ろに居てな。…い、いくだぞ」
 がちゃ。後ろに子供を立たせて勢いよくもう一回扉を開くと、正面にはさっきの男がいきなり立っていて、またチチは叫びそうになった。
 「なんだ、おとうさんじゃないの」
 後ろで息子が呆れた声を出した。チチは目を丸くして振り返って、また正面の男を見た。だって、こんな金髪。逆光になってはいるけど、翡翠色の鋭い眼。「嘘だべ!?
なんで、こんなのが悟空さなわけあるだ!」
 「何やってんだ、お前等」
 「そういえば、おかあさんは超サイヤ人見るのはじめてなんだったね。おとうさんだよ、この人。前に教えたでしょ」
 チチは顎を落とした。そこに、その不審人物の手が伸びてきて、思わず身をすくめて眼をつぶった。そいつはチチの肩に手を回して後ろに言った。
 「まあチチは入れよ。悟飯は早く寝ろ」
 「うん。でもなんでおとうさん、超サイヤ人になってんの?」
 「あー、なんか、勝手に変っちまった。前はこういうことよくあったんだけどな。明日の朝になれば戻ってるさ。だから気にせず寝ろ、な。明日から修行だぞ」
 「はあい」
 息子が後ろ手にあくびをしながら扉を閉めて寝室を出て行くのを、チチは追いすがりたいような気持ちで振り向いて見ていた。扉が閉まったところで、肩を抱いたまま
引っ付いていたそいつがいきなり目の前でにまりと笑った。

 「そういうことだから」



 ファーストコンタクト <2>

 「ぎゃー!『そういうこと』じゃねえだ!」頬に伸びてきたもう片方の手を叩き落として、チチは怒鳴った。「超サイヤ人?だかなんだか知らねえけど、こんな不良みたいなの
おらの悟空さじゃねえ!戻るだ!戻ってけろ、今すぐ!」
 「んなコト言ったって」はたかれた手をひらひらと振って見せて、その翡翠の目を心外そうに更に鋭くして、そいつは嘯いた。「試してみたけど、もどんねえんだよ」
 「しらねえだそんなこと!いいからどうにかして早く戻るだ!でないと…」
 一緒になんか寝たくない!そう怒鳴ろうとしたのを遮って、とんでもない言葉が飛び出した。
 「こりゃ、多分、一発やらねえと戻んないと思う。お前を待ってて、『あー、久しぶりにヤれる』って興奮してたらなっちまったんだよな。この姿だともともとちょっと
興奮状態になるから、それも関係してんだ、きっと」だから、と、背中に回った手に力が込められた。
 「戻したかったら、俺を満足させてみろよ」


 チチが呆然として真っ青になったところに、唇が近づいてきて、荒々しく吸い付いてきた。
 「んっ!」
 咄嗟に口を噤んで閉ざそうとすると、顎を捉えられて、舌を絡められた。
 「んん、んーっ」
 必死の力で顔を背けて、服を脱がそうとして緩んでいた腕の力から逃れて、部屋の隅まで駆け込んだ。心臓が風呂上りとはまた別の意味でどきどきと轟いている。
冗談じゃない。冗談じゃない。こんなの、いやだ。折角帰ってきて、やっと以前のように幸福を『この人と』確かめられると思ったのに、こんなわけのわからない男に抱かれるなんて。
 夫はそんな髪じゃない。そんな眼じゃない。自分のことを俺なんて言わない!そんなぶっきらぼうな物言いはしない!抱く腕だって、もっと優しくて、温かくて、安心できて。
 そんな、ぴりぴりと、怖ろしげな気配に満ちてなんかいない!

 
 気の扱いはほとんどできないし、夫や息子みたいに他者の気をはっきり感じられるわけではないが、それでも触れたものの違いはなんとなく判った。逃れた時に顎に残った
相手の舌の濡れた跡を拭うと、チチの大きな目からも涙がぼろぼろと零れてきた。自分は穢された。このほったらかしにされていた間も必死で守り通した操を、こんな事で
失ってしまったのだ。
 ぐしぐしと泣いていると、前に、そいつが立って見下ろしてきた。チチの後ろにある行李が、手を掛けられたのかがたりと鳴った。
 「そんなに、いやか?」
 低い声がした。ぶんぶんと肯くと、低い声が続けた。「俺は、お前の、亭主なんだぞ?」
 「やだ、やだよう、おら、納得できねえだ」
 「ものわかりの悪い」苛立たしげな声が上から降ってきて、チチは身をすくめた。天井の照明を覆い隠すように立ちはだかる姿が、黒々とした影を投げかけて、すっぽりと
チチの小柄な身体をくるんでしまっている。
 「だって…!」期待していた分、失望は大きかった。さらに、待っていた間の哀しさ、辛い日々までもが止め処もなく蘇ってきて、涙と化してチチの双眸からあふれ出る。
ひどい。勝手ばかりして。勝手な事ばかり言って。もう、意地でも、こんな人、夫だと認めるものか!
 「そんなに、この姿がいやなのか。だったら、見なきゃいい」
 いきなりチチの頭はがしりと固定されて、何かに覆い隠された。それが、行李にかけてあった自分の帯だと悟った時には、あっという間に両の手首ももう一本の帯で
胸の前で合わせるように戒められてしまっていた。そして、身体は絨毯にうつぶせに転がされてしまった。

 「な、なにを…!」
 「あんまり騒いだら、口も塞いじまうぞ」閉ざされた視界の暗闇の中、上から興奮した声がしたと思うと、いきなり脇を抱えて上半身が持ち上げられた。またすぐに
降ろされたが、やけに胸の下がごつごつする。これは、足の脛…?
 背中を、まだ濡れた長い黒髪を束ねるようにして、熱い掌が滑った。避けられた髪は、肩流しに片方に寄せられてチチの首の脇に流れた。動きの自由にならない中で
楽な姿勢を探そうともがくチチの頬を、さっきのおそろしい掌が撫ぜた。
 「しかたねえな、口で我慢してやるよ」
 もぞもぞと、チチの身体の前で気配がしたかと思うと、頬に何か、手とは違う熱いものが押し当てられた。熱くて、硬い、太く逞しい棒状のもの。
 「あ…!」



ファーストコンタクト <3>

 チチの唇は震えた。頑張れよ、という言葉に意図を理解した。

 拒もうと唇を噛んで閉ざそうとしたが、なぜかそれはかなわない。鼻先に突きつけられたもの。その気配を、男くさい匂いを、熱を感じた瞬間から、身体が言うことを利かなくなった。
 胸が震える。呼吸が上がる。背筋が、腰が、柔らかくくねろうとする。舌が、唇をあまやかに押し開けて、それを味わいたいと伸びようとしている。味わうことを欲している。
 体の中が、それが入ってくることを欲して、ぐっと身構える。
 欲している。こんなにも、待ち焦がれたもの…!


 「いやっ」
 身体の内なる声を必死で引き剥がすようにして、チチは顔を背けようと首を振ったが、大きな掌が素早く顔を両側から押さえ込んで、滑らかなその先が赤い小さな唇の横をすべった。
ぬるりとした液が鼻の横を汚して、たちまち石鹸の香りも退ける、若くて青苦い臭いが鼻をついた。それと呼び合うように、自らの体の中からぬるりと湧き出たものを感じて、
思わず小さな戸惑いの声をあげた。
 「あっ…」
 「嫌がってるのに挿れたらかわいそうだから言ってやってんのに。入院してた時に、何度も口でやってくれただろ?あんなんでいいんだぞ?」
 「な…!」

 チチは真っ赤になった。確かに、身動きできないくせに、怪我を痛がるくせに、若いからと2人きりだからと駄々をこねる夫に根負けして、泊り込みの看病の合間に何度も
処理をしてやったのは事実だ。でも、だけど。
 「あん時はお前も嫌がってたくせにやり始めたらノリノリだったじゃねえか。流石に挿れるのは無理だからやんなかったけど、上にまたがって舐めあったり、自分で
あそこいじりながら舐めてくれたりしてさあ。よく看護婦のねーちゃんに見つかんなかったよなあ」
 「わー!」
 「いや、バレてたかな?そりゃそうだよな、静かにしろよって言ってんのに声出しちまっ…」
 「も、もうやめてけれ!いや!忘れてけれ、そんな、そんなことっ!」
 「あ、先にこっちからいじってやったほうが良かったか?言ってたもんな、ずっとそうして欲しかったんだもんな?」

 慌てて体を起こして膝立ちになって逃れようとしたところを、後ろから抱きすくめられて絨毯に突っ伏した。背中の上のほうを押さえられ、後ろから身体の後ろに
割り込まれて身動きが取れなくなる。
 「なんでそんな、意地悪な事いうだ!おめえなんかやっぱり悟空さじゃねえ!…ひっ!」
 後ろから、パジャマの上から股座にいきなり鼻面を突っ込まれた。
 「濡れてる。匂いもすげえ」
 「い、いやあ」
 「すげえ、いい匂いだぞ」ぐりぐりと高い鼻が襞を分けるように動いた。それが離れたかと思うと、脇から手が伸びて、戒めた手の帯の端を逃げられないように掴んで
引きずってきた。ひっぱる力と、突っ込まれる顔に板ばさみになって、腰は上へ上へと逃れようとする。高く腰を上げたところで、パジャマのズボンが下着ごと引き摺り
下ろされた。
 いきなり、離れた熱い鼻面のかわりに、長くて冷たい指が伸びてそこに触れた。最初は襞の脇を挟むように、そして割れ目をなぞり、2つの穴の間を徐々に強く
往復しだす。
 「ああっ!」更に腰を持ち上げて、チチは悲鳴を発した。
 「ずいぶん可愛らしいのはいちまって。期待してたんだ」くつくつとおかしそうな声がした。さっき選んだのは、白くて細かいフリルと花の刺繍の入った、おろしたてのもの。
「新品なのに、もうこんなに濡れちまってるし」ぐちゅ、と襞にのめりこむ音がした。後ろの穴の周り、ほとんど初めていじられるような部分を、親指が形を確かめるように
くすぐりだした。その間にも、他の指が、熱く熟れた襞を擦り合わせ、こね回しだす。
 あ、あ、あ。
 体の中で、発せられない喘ぎが充満しだした。胸をじんじんと焦がすように噴出してくる。押し殺そうとした響きだったが、指がついに体内に侵入して
ざらりと内側をなめた時に、とうとう自分でも信じられないほどの淫蕩な響きになって唇から長くこぼれだしてしまった。



ファーストコンタクト <4>

 しばらくの後。
 「あーあ、こんなに出しちまって」
 仰向けにベッドの横の絨毯に転がされたチチは、縛られた手を上に持ち上げ振るわせて、陶然と荒い息をついていた。大きくM字に開かされた脚の、太腿の辺りに、
べとべとに掌まで濡れた指が擦り付けられた。
 「も、もう、おら」
 なぜこんな事になっているのか、だんだんチチの思考は暗くかすんできた。いまだ覆われた視界だが、自分の目がうっとりと快楽に濁っているだろう事、もし見える
状態だとしたら怖ろしいほどに色っぽい目つきをしているだろう事はわかった。前をはだけられて、ショーツと揃いに身につけていたスリップドレスも大きくたくし上げられて、
白い乳房が荒い呼吸に上下しているのがわかる。
 「潮吹く、ってんだっけ?こういうの。久しぶりだから、感じちまったか?縛られてるからいいのか?」
 「やめ…!」
 あとは言葉にならない。今度は、今まで何本もの指を激しく出し入れして苛んでいたのを再開するのに加えて、その上で熱く肥大して待ち構えていたところをいきなり
強く舐め上げられたからだ。
 悲鳴にならない悲鳴を発しながら身を縮こまらせ、チチは腰を揺らめかせた。もう逃げようと言う気はこの時点でとうに無くなってしまっていて、頭の片隅はそれを自覚して
ひどく悔しがっていた。でも、でも。



 抱えられて、今度は上半身だけ寝台にうつ伏せにさせられた。腰を確かめるようになぞる、抗えない圧力を発する手に促されて、脚が自然と大きく開き、腰は
ねだる様に高く持ち上げられた。後ろから、待ち望んでいたもので貫かれた時、ついに胸の奥底から、歓喜の叫びが漏れ出た。
 「あ、いいいっ」
 「こっちも、いい、ぞ、チチ」背中に突っ伏した髪はいつもより強(こわ)くて、首筋をちくちくと刺してくる。でもそれすら、快楽を強調する針の痛みの様で。
 一発、軽く、白い尻が打たれた。「ほら、もっと、腰使えよっ。俺を、満足させなきゃ…」
 「わ、わかっただよおっ!」叫びながら、腰を強く前後に振りだす。

 必死に腰を動かす。そのたびに、襲ってくる快楽を必死で耐える。息を殺して感じる。自分を貫き満たす、この感触。もっともっとと自分の中が叫ぶのを、叱り付けて
振り飛ばすように腰を打ち振るしかない。
 だけど、しばらくして、チチは気付いた。
 こちらが振る動きにあわせて、うねるように、更に奥へと貫いてくる。そのあちらの動き。ふとした、動きのタイミングを合わせるための呼吸。その合間にこぼれる、自分を呼ぶ声。
懐かしい、その感触。
 (悟空さ…!)
 閉じられた視界で、チチの中で不意に腑に落ちた。
 この声。自分を抱く腕。掌。間違いなく、これは夫だ。懐かしい、結婚して5年、この身に覚えこんだ、夫のそれではないか…!
 その歓喜は、より強い快楽となって唐突に上積みされた。チチの全身が急に震えた。


 びくびくと痙攣する白い片腿を持ち上げ、なお夫の動きは止まない。もう、なされるがまま、貫かれるだけ。奥底の、かつて覚えこんだいい場所をあやまたず責めあげる
速い動きに、息も絶え絶えになってチチは数度続けざまに達した。さすがにぐったりと弛緩した白い身体に気付いてか、不意に動きが緩んで、繋がったまま夫が
チチを後ろから抱えて自らも寝台に倒れこんできた。


 
 「気持ちよさそうだなあ、チチ」
 「だって」細い声で、チチはようよう答えた。夫の腕が後ろからチチの片脚を大きく高く持ち上げる。それにも構う余裕も最早ない。「激し…んだもの」
 「いいカッコだな」くつくつとまた笑い声がして、耳の後ろがねろり、と舐めあげられた。「チチはHだなあ」
 意地悪。そう言いたかったが、否定できない。それより、後ろからゆるゆると横たわったまま蠢く腰と、ぬるぬると秘所を出入りする熱いものの動きを一心に感じようとする。
 「だって、…」
 腰を応えるように蠢かせると、身体のうちで、音を立てて擦れるのが判る。その歓喜。陶酔感。ひくひくと震えて、自分の胎内が、必死に夫に吸い付こうとしているのが
わかる。戒められてすがりつけない腕のかわりに、必死に絡み付こうとしているのがわかる。その絡みつく動きそのものが、自分がそう動いている事自体が、
途方もなく、
 「あ…いい…きもちい…」
 とろりと熱っぽく蕩けた声に、夫が満足そうな呻きをチチの耳元で漏らした。しばらくそのようにしていたあと、不意に夫がチチの中から身体を引き抜いて、上に覆い
かぶさってきた。鼻先に、再び濡れて熱いものが突きつけられて、今度はチチは迷いなく赤い舌を伸ばす。



ファーストコンタクト <5>

 「ふ、む、うぅ」
 身体を反転させられて、縛られた腕の下の胸のはざまにに熱い塊をはさまれ、犯すように上下される。チチの舌は必死で舌に伸びて、先ににじんだものを
味わおうとする。以前と変らない、夫の匂いを感じようとする。舌はちろちろとしか届かないが、よりそれが夫を刺激するらしい。
 「うぉ…っ」
 改めて口内深くに突っ込まれて、少しむせながらもチチは激しく頭を上下させ始めた。首筋には乱れた髪が張り付いて邪魔で、自分でもひどい事になっていると思う。

 こんなに乱れたのははじめての事かもしれないと思う。これまでだって、求められれば夫を喜ばせたいがためにそれに従っては来た。でも、こんなに、自分から欲して、
実際に行動しているのははじめての事かもしれない。身体の奥底から、この人が欲しい、と思う。
 一人寝に泣いた400近くの夜の、どうしようもない情念が、この人を得て抑えきれない悦びに打ち震えている。
 「で、出そう、だ。口んなか、出してやるから。もうちょい」
 口の中で、一段それが熱くいきむ感覚がした。が、チチはびくりと唇を離した。

 「…チチ?」
 急に動きをやめてしまったのをいぶかしんで、夫が苛立たしげな声を出した。また、ぐい、と唇の先に押し付けられる。だが、チチは応えなかった。
 「…やだ」
 「なんで。ここまできて」
 「…入れてけろ」すっかりと溶け去ってしまった理性の後から、やけに涼しげと言ってもいいほどに、素直な心情が唇からこぼれだした。「もっかい、おらの、中、入れて」
 「なんだ。腹の上のが良かったか」
 仰向けに組み敷かれた。チチは縛られた手を持ち上げて、指で、緩みかけていた眼の帯を手繰った。少しずれて、視界に、翡翠の瞳が飛び込んできた。それで、
恥ずかしさがまた襲ってきたが…最初の恐ろしさは、その目を見たものの、今度は微塵も感じなかった…もう一度、小声で言った。



 「悟空さの、欲しい。ずっと、欲しかっただ。だから、おらの腹ん中、出して」


 手が思いがけなくやさしい風に伸びて、眼の帯を取り去った。チチはまっすぐ、自分に覆いかぶさる人を見た。上気した頬に、鋭い目つきに、汗をはらんだ金色の髪が
張り付いていて、なんだかとても綺麗だ、と思った。
 「…悟空さ」
 翡翠の瞳が、一瞬なんとも言えない風にゆがんだのをチチは見た。閉じられたまぶたが、金色の眉が近づいてきて、舌が絡むのと同時に深く貫かれる。
 「あんっ!」
 舌が離れて、首筋を、うなじを、鎖骨を、ぴりぴりと刺激的な手が滑り、胸を柔らかく掴んだ。元から敏感に立ち上がった先端に纏いつく、花火のような快楽。
 ん、とチチが背をのけぞらせて身を捩ると、夫が耐え切れないという風に、頭を打ち振った。顔の前で、金色の髪が激しく左右する。
 「…チチ、チチ、…チチ!」
 いつもと同じ、絶頂が近いときに漏らす、小さな呼び声。やはりこの人は、間違いもなく夫その人だ。
 「会いたかった。会いたかったぞ」
 「うん…!ね、悟空さ、ほどいて、これ」
 「ああ!」
 急いた手つきが、慌しく両手に回された帯の結び目を解いた。赤い帯に戒められていた、赤いあとのついた腕を必死に差し伸べ、首根っこにしがみつく。
 抱き合う。
 「ああ、悟空さっ」2人の間で、熱い胸がつぶされそうになる。こんなに、抱き合うことが気持ちいいなんて。不意に持ち上げられ、向かい合って抱き合う形になる。
下から突き上げられて、眼で会い交わして、自然と自ら脚を立てて腰を上下させ始める。金と黒の髪を振り乱して。交じり合わせて。腰を突き上げて。叩き落して。
怪しくくねらせて。その間も、必死に抱き合って、唇を求め合って。
 求め合って。求め合って。求め合って。

 「い、気持ちいい、いきそ、おら」
 「俺も…俺も、出る」
 「もぉ…だめ、きて、いっぱい…!」


 
 空白の世界。



ファーストコンタクト <6>

 寝台の上で、どれだけそのまま余韻に浸って夫の胡坐の上に座り込んでいただろう。

 ぼんやりと、息子が寝つきのいいたちでよかった、と考えながらはあはあと熱い息をつき夫の頭に頭を凭せ掛けていると、薄目をあけていた視界の中で
ちかりと何かが瞬いた。
 と思うと、淡い光が急速に薄れて、急に目の前が暗くなった。ぎょっとして顔を上げると、夫が荒い息の中から顔を上げた。その眼は、深い黒色。
 さっきまで金色の光を放っていた髪も、すっかりもとのとおり。

 「…悟空さ…」
 半ば呆れて気が抜けたように、チチは名を呼んだ。
 「あれ、戻ったか?オラ」
 きょとんと子供のような無邪気な声で、夫が自分の頭を撫でた。なんだか今までこの人を精魂傾けて男として求めていたのが嘘のような冗談のような、妙に気恥ずかしい
気分になった。一言なんだか怒鳴りつけたくなって赤くなって口をパクパクさせていると、急に下からまた腰が蠢いてきて、白く熱い液体に満たされたチチの中を
ゆっくりかき回した。
 思わず喘いで、また夫の逞しい首根っこにしがみついた。夫が笑った。
 「チチのエッチ。すっごかったぞ、今日は」
 「ば…おらだって、悟空さがこんな意地悪の変態だなんて思わなかっただ!」
 「結構よがってたじゃねえか。いつもよりすっげえ『いい』、『いい』って思ってただろ。『もっともっと』って、すげえ聴こえてきたぞ」
 「は、はあ!?」身体を思わず押しのけて、悲鳴を発した。そんな事、かろうじて言った覚えはない。「おら、そんな事言ってねえだ!」
 「だって心の声だもん」けろりと夫は言ってのけた。「あ、言ってなかったっけ?なんかいつの間にか心の声読めるようになっちまってさー、読もうと思わなくても
流石にこんだけ引っ付いてたら、ってか合体してりゃ聴こえちまうもんなんだなー。便利便利」
 「な…」


 チチはプルプルと真っ赤になって震えた。冗談じゃない。あの金色の姿よりも、もっとまったくもって冗談じゃない!



 「馬鹿ー!も、もう金輪際おらの心ん中読むの禁止だべ!悟空さなんて、悟空さなんて、もう!…」
 
 あはは、と夫が笑って、飛び退って離れようとしたチチの身体を抱きすくめた。 「リコンなんて、嘘ばっかし。全部聴こえてんだからな。言ってみろよ、ほら」

 見透かしたように笑うその顔の、黒い瞳の奥で、緑の光が意地悪っぽく煌いた。
 チチはため息をついた。間違いない。この人とあの人はひとつのものだ。いや、今までもこの人の中にあったのかもしれない。それに気付いてなかっただけなのかも。
 「…会いたかっただ。…愛してるだ、悟空さ」
 「よしよし」
 ぽんぽんと夫の手がチチの黒髪を撫でた。唇を尖らせると、そこに軽く口付けられた。また繋がったまま抱きしめられる。
 その腕の力に思う。 読まれていても構わない。むしろ、読んで欲しい。
 離さないで。もう、ずっと縛ってくれていていい。ずっとこの腕で自分を縛り付けていて欲しい。自分のこの腕が、どうしたって、この人を縛り付けられないとしても。


 それがかなったのかどうか知らないが、夫が耳元でそっと囁いた。
 「オラの気持ちも、チチに読ませられればいいのにな。どれだけ会いたかったかさ」

 
 その声に、なんだかもう哀しかった事も、待ちくたびれた事も、突きつけられたろくでもない未来の事もどうでも良くなって、チチはくすりと笑った。
 そして、確かに泣くのはいつも女ばっかりだけど、今回だけは許してあげたっていいかもしれないと思ってやることにしたのだった。