とある新聞社員達の農業博覧会 ~決闘編~


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私の名前は、クリス・イートリード。
(西国人+サイボーグ+歩兵+ハッカー)
 フィーブル新聞社に勤める、駆け出しの見習い記者である。

 私は今日、帝国は神聖巫連盟で開催されている、農業博覧会の取材に来ていた。
 事前の説明では、結界がどうとか悪魔がどうとかクーリンガンがどうとか、あれこれと先輩記者の方々に脅されて戦々恐々しながらの帝国入りとなったのだが、神聖巫連盟は平和なものである。各国からの農作物や加工品が集められ、それらの紹介を見たり聞いたり、あと屋台を回ってあれこれ食べたりと、他国からの国民達で大いに賑わっていた。

 私も、仕事半分遊び半分の気分で、神聖巫連盟のみたらし団子屋や温泉や各国の屋台などを、そりゃもうってくらいに堪能したかったのだが、そんなことが出来ない事情があった。残念なことに、本当に残念なことに、私には残念なお目付役がいるのである。

「おい新入り。お前、品評会のほう見てこい。俺、あっちのほうを見てくる」
「だ、だめですっ。そう言って先輩、詩歌藩国の蜂蜜酒をいっぱい飲んでくるに決まってるんですからっ」

 じろり、と赤色の髪に犬耳をした先輩が、私を睨み付けてくる。
 先輩の目付きは、不良のようだった。実際に新聞社では不良社員として有名である。
 まるで狼に睨まれたように心の中でガクブルしていると、先輩は舌打ちした。

「……そんなことねえって。先輩を疑うなんて悪い後輩だなあ。あーあ、酷いねえ」
「ううう。で、でもでも! 新聞社のみんなが、先輩は仕事中に酒を飲むからよく見張ってろって……」
「あいつらめ……いや、大丈夫だって! あの美味そうなじゃがバターとフィッシュ&チップスにどれくらい合うか調べてくるだけだからよ。お、そうだ。あとで星鋼京の美味そうなアップルパイとか差し入れしてやるぜ」

 星鋼京の甘い食べ物の話題に、私の心はふらふらと揺れたが、新聞社の怖い先輩方を思い出して甘い邪念を振り払う。いけないいけない。でも……るしにゃん王国の蜂蜜ケーキと野摘みのベリーとナッツのパイも捨てがたいなあ……ナニワの新作ドリルアイスとか、愛鳴之藩国のチーズケーキもぜひ食べたい……ううう。鍋の国のチョコレートフォンデユ鍋と蜂蜜梅ゼリーってどんなのだろう……ああ! クレープが256種類もあるだなんて……! 神様……!

「おい。新入り。涎、涎」
「わ、や、やだ」 ごしごし。
「ったく……お前だって似たようなもんじゃねえか」
「だ、だって……」 くすん。

「まあ気持ちは分かる。これだけ藩国が参加してる大博覧会だ。テラ領域の食べ物が一カ所にこれだけ集まるなんて、今後あるかどうか分からんし、世の中なにが起こるかも分からん。やっぱり美味しいものは食べれる時に食べておかないとな。人生、後悔だけはしない生き方をしたいもんだぜ」

「でも、先輩……」
「いやまあ、お前の言い分は分かったよ。じゃあ俺は世界忍者国のほうに行ってくる。お前は……」
「はい! 品評会のほう、しっかり見てきますね! メモしまくりですっ」
「いい返事だ。新入り、頑張れよ」

 そう言って先輩は、ったく仕方ねえなあ、といった調子で歩き出す。
 ここからは別行動だ。よし! 頑張って仕事しよう! そして早く一人前の記者に………

「って先輩! 世界忍者国には人狼ビールとか清酒美少年とかありますよね確か!?」
「のど越し最高の宣伝が本当かどうか確認してくるだけだ! ……俺に構うな、早く行け!」
「そんな死亡フラグ風に言ってもだめですっ! あ、逃げた。ま、待って下さいー! ピース先輩ー!」

 追いかける私。眼鏡がずれそうになるのを押さえながら。
 走って逃げる先輩。うわ。あの人、本気で走ってる。お、大人げない……

 ……あの目付きが悪い不良社員、ピース・マウンテル先輩が、私のお目付役である。
 でも、お目付役になった結果がこれなんですよ。今は私がお目付役になっている感じだ。
 こんなので、農業博覧会のレポート、うまく出来るのかなあ。とほほ……
 私は、運動能力の出力を上げることにした。


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 とある新聞社員達の農業博覧会 ~決闘編~


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 俺の名前は、ピース・マウンテル。
(はてない国人+犬妖精+剣士)

 はてない国人なのだが、いろいろあって帝国にいられなくなり、今はフィーブル藩国で生活している。
 これでも新聞記者だ。帝国の土を踏むのは久しぶりだった。故郷のすき焼きを想いつつ、俺は小うるさい後輩であるクリスから現在進行形で逃げている。まったくしつこい。あのサイボーグ眼鏡、なかなか食いついてきやがる。

 それにしても。ああ、美味そうな匂いがするな……
 博覧会に来た人々の間を縫うように走りながら、俺はごくりと喉を鳴らす。
 こんなにいい匂いがするってのに、真面目に仕事しろってのも拷問だろ? 新聞社も酷な仕事を押しつけやがる。しかも新入りのお目付をやれとは。誰だ? この人選考えやがったやつ。馬鹿じゃねえのか? 俺はサボるぞ。

 ……それとも。まさか。

(まさか、俺の過去を知っていて、それで農業博覧会に送り込んだんだろうか)
 食品には詳しいだろう、と。俺の心に苦々しい過去がリフレインする。いや、過去の話だ。忘れよう。

 そう。そんなものより、今の俺には使命がある!
 なんとしても、あの小うるさいサイボーグ眼鏡っ娘(クリス)を引き離さなければ!

 俺は人混みの中を走り抜けながら、誰も使われていない屋台を見つけて飛び込む。
 うまく隠れて、クリスをやり過ごした。凄い勢いで人混みを数人轢きそうになりながら駆け抜けていく眼鏡小娘。
 あの馬鹿。サイボーグ化した性能に頼りすぎて、ちゃんと自分を扱えてねえじゃねえか。危ねえなあ。

 やれやれと俺は立ち上がり、現在位置を確認する。
 会場の地図は頭の中に叩き込んであるのだ。目標地点である、帝国のあの藩国の屋台を目指して走り始めた。
 もうすぐ、もうすぐだ。全ては秘密裏に行わなければならない!

(そう。俺は……俺は! なんとしても、魔法少女アルミちゃんのミニライブに行くぜ……!)

 ………。

 間違ってもあの眼鏡小娘には、口が裂けても言えねえがなっ!
 確かに酒は好きなのだが、今回はフェイクで本命はそっちであった。アニメの大ファンなのである。

 というか俺は文句を言いたい!
 なぜ、フィーブル藩国ではアルミちゃんのアニメシリーズが放送されていないのか! 週遅れでも文句は言わない!
 せめてTVくらい満足に普及して欲しいんだよ! DVD発売しても家電がねえー!(血涙)

(だから、たまの仕事のついでにミニライブくらい行って何が悪い!?)
 まったくもって正論だと俺は思う。TVを普及させていない藩国政府が悪いのであって、俺は悪くねえ!
 そうして駆け抜けている、その途中のことだった。

「見つけたわ! ピース・マウンテル!」

 聞き覚えのあるその声の主が、俺の前に立ち塞がった。
 俺は足を止める。止めざるを得ない。驚愕が自分の顔面に張り付いていくのを自覚する。
 馬鹿な、何故こいつが………!


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 黒い和服を着た、赤い髪の少女であった。
 その少女の眼差しの、なんという不敵さ。自分より背の高いピースを見下ろすような威圧感である。
 明らかに狼狽しているピースを見て、鼻で笑った。

「くくく。久しぶりね。我が弟子!」
「……ど、どうしてここに!?」

 なんだろう? と周囲で見ていた人々も、その緊張感に息を呑んだ。
 不良社員と少女の対峙は、それだけただならぬ過去を感じさせて―――

「ああ!? 先輩、見つけましたよっ!」
 そこに、ピースを捕捉したクリスが駆けつけてきた。
 ぜえぜえと息を切らせることもなく、けろりとした表情である。

 が、ピースも少女も、これを完全に無視。
 あれー。という表情のクリス。周囲のギャラリーが空気読めと視線で訴える。

「ええと。そちらはどなたですか。先輩のお子さん?」
 ピースと少女が、派手にぶっ倒れた。

「はっ。まさか先輩の隠し子!? 遊びで手を付けた相手の子供とか……! うわ、うわー」
「お、お前な……どうでもいいが、自分で想像してショックを受けるとか器用なことをするなよ……」
「ううう。だ、だってだって! 先輩は女性関係あまり清くないという噂が。女性に手を出すこと数千人……」
「新聞社の人間がゴシップを真に受けるなよ!?」

 ピースが目を細めて唸ると、クリスは涙目でガクブルする。
 そしてその間に少女は調子を取り戻したのか、再び威圧感を放射し始めた。今度は、激しい怒気も混ざって。
 その異様な雰囲気に、さすがのクリスも萎縮したようだった。
 雰囲気だけで言えば、根源力10万以下は死んでしまう気がするくらいである。

「愚民め。聞くがいいわ」
「先輩、この子は一体……!」
「私はニューワールド暗黒料理倶楽部の一人! シーア・フィールドよ!」
「な!? ニューワールド暗黒料理倶楽部ですって……!」
「その通り! なら分かるでしょう! 私の前に立つという、その意味が!」
「そんな……! ニューワールド暗黒料理倶楽部の人間が、なぜこんなところに……!」
「無論! そこの男を殺しに来たのよ!」
「ニューワールド暗黒料理倶楽部が……先輩を……!」

 衝撃を受けた表情のまま。
 くるり、とピースを見るクリス。

「先輩! ニューワールド暗黒料理倶楽部って何ですか!?」
「……お前、知らないのに驚いてたのかよ!」
「えーと。何となく空気に呑まれちゃったというか。頑張ってそういうロール(?)しなきゃというか」
「あー、まあ、重要そうな場面ではそうしないとなあ。でもまあマイナーな組織だし……」
「マイナーと言うなー! いずれメジャーな組織になる予定だから! ISSくらい!」

 それは無理だろ、常識的に考えて……
 この場にいる全員が心の中で呟いた。

「ニューワールド暗黒料理倶楽部。それは(約20000文字省略)」
 ピースが語る、ニューワールド暗黒料理倶楽部の実態に、クリスは今度こそ衝撃を受けた。

「そんな! あらゆる食材や料理を使って敵を倒す暗殺組織ですって!?」
「くくく。そこの男は、組織の一員だったのよ! それもこの私の弟子だったわ! でも……」
 シーアの表情に、僅かな影が生まれた。ピースが目を伏せる。

「あの日。あの初任務の日。貴方は逃げたわ」
「………シーア、俺は………」
「言い訳なんて聞きたくないわ。貴方は私を裏切った。私と組織を裏切った。裏切り者には、死よ!」
「まさか、こんなところで刺客に会うとは……うまく共和国に逃げたつもりだったが……くそ! なんてことだ!」
「我が組織は裏切り者を絶対に許さないことにかけては一流! 決して逃がしはしない!」
「……他は一流じゃないってことなのかしら……」

 クリスの突っ込みも空しく、暗い炎を瞳に燃やしたシーアの両手が、目にも留まらぬ高速で動いた。
 そして瞬いた刹那、少女の手には屋台の食べ物が握られている!

 右手には、世界忍者国産の焼きもろこしを。
 左手には、その指の間に、星鋼京のシナモンアップルパイ4つを。

「いつの間に!?」
「ニューワールド暗黒料理倶楽部の人間であれば、手を伸ばせばそこに食べ物があるのが道理よ」
#ちゃんと屋台でお金を払って購入しています(作者)

「さあ、貴方も武器を取ることね。くくく。師である私が、直々に引導を渡してあげるわ!」
「戦うしか、ないのか……忌まわしい過去からは、逃げるのではなく、断ち切れと……!」
 臓腑を抉られたような苦悩を浮かべて、フィーブル新聞社の不良社員、ピース・マウンテルは両手を左右に広げる。
 こちらもシーアと同様に、瞬いた刹那で、右手にナニワアームズ商藩国の新作ドリルアイス、左手には涼州藩国の鰹のたたきが握られていた。 #ちゃんと屋台でお金を払って購入していますからね(作者)

 目を細めるシーア。音もなく焼きもろこしを上段に構えつつ、アップルパイを投擲する姿勢に。
 精神を研ぎ澄ませて、ピースはドリルアイスを正面に構えつつ、鰹のたたきを頭上に掲げる。これも投擲の構え。

 誰も彼もが、固唾を呑んで二人を見守っている。
 この騒がしい農業博覧会において、今この場に、無音が生まれた。
 ごくり、と息を呑む音さえ、広がるように響いてしまう。

「……タオシムミルクたっぷりのドリルアイスと、鰹一筋30年の業物を選ぶなんて。腕は鈍っていないようね」
「焼きたてこんがり香ばしい焼きもろこしと、リンゴとシナモンとパイ生地の上品なコラボレーションが相手では、な」

 一陣の風が、二人の間を駆け抜ける。
 動きを止めたまま、二人は微動だにしない。ただ視線だけが絡み合う。
 男は過去を断ち切るために。少女はかつて愛した弟子への想いと、組織への忠誠のために。
 鍔迫り合うように交わる、抜き身の刃のような視線だけが、今の二人の絆を繋ぎ止めているかのようであった。

 ピースとシーア。両者の脳裏を、懐かしい過去の想い出が駆け巡る。
 なにも悪いことばかりでは、なかったのだ。ただ、やがて想い出が哀切の感情に変わる時……
 この戦いは始まり、そして終わるのだろう。

「せ、先輩! そ、その。やっぱりその、食べ物で殴ったりぶつけたりして、殺しちゃうんですか!」
 うわ。このままではガチな殺人劇になってしまうと焦ったクリスが声を上げた。
 すると、二人がクリスを見る。

「いや。我らニューワールド暗黒料理倶楽部はそんな殺し方はしない」
「そもそも殺したら殺人だろうが。アホかお前は」
「我らニューワールド暗黒料理倶楽部は、自らが選び抜いた食材をもて贖罪させ、これを暗殺とする!」
「ただ、全力を持って、相手を美味殺(うまころ)すのみ―――!」

「美味殺すって何なのー!?」

 そのクリスの声を合図に。
 シーアが裂帛の気合いと共に高速で踏み込み、ピースが凄絶な眼差しで迎撃に出る。
 ……そして決着は、まさに一瞬のうちに決まった。


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 どこまでも、突き抜けるような青空。
 いつからだろうか。空を見上げることも忘れてしまったのは。

 地面に大の字に倒れている、男と少女がいる。
 男の口の中には、焼きもろこしの食べ残った芯が刺さっており。少女の口の回りには、アイスが零れていた。
 ああ。ただ二人の表情は、酷く満足そうだった。

 ……あの一瞬で、互いの食品を食べ尽くしたのである。
 ニューワールド暗黒料理倶楽部の人間が食べさせた食品は、通常の数十倍から数百倍の美味しさになる。
 その美味しさの絶頂によって、相手を幸福のうちに断罪させるのが、彼らの必殺手段であった。
 これを専門用語で、美味殺すというのである。
#この物語はフィクションであり、実際の食べ物で相手を美味殺してはいけません(作者)

 そして、今まさにピースとシーアは、その互いの必殺手段によって……
 その、あまりの美味しさによって、ぶっ倒れているのであった。

 うまい! うますぎる! まさにこれは、味の情報補完やー!
 心の中で両手を挙げて歓喜の声を上げながら、二人は音もなく、綺麗な涙を流していた。

「相打ち、のようね」
「ああ。お前も……歳をとったんだな」
「くくく。まあ、そうね。味覚に幼い頃ほどの繊細さがないことは認めるわ」
「まだ若いのに不規則な食生活を送ってたんだろう。いや、俺も……似たようなものか……」
「そうね。お互いに、ちゃんとした食生活は送りたいものね。本当に」

「だが、これだけは言えるな」
「ああ。これだけは言わないと、ね」

 ありがとう、農業博覧会。そして、ごちそうさま―――

 二人は立ち上がると、どこか吹っ切れたような、それでいて切ない笑みを交わした。
 別れの時だった。シーアは長くて赤い髪を振ってから、口元のアイスを拭う。

「相打ちとはいえ、貴方を完全に美味殺すには至らなかった。次は、必ず美味殺してみせる」
「何度でも来ればいいさ。俺はいつでも、受けて立ってやる………」

 そう言って二人は笑って、そして。
 笑ったまま、別々のほうに歩き出していった―――
 どこまで広がる青空。まるで農業博覧会を見守っているような、そんな暖かな空だった。

「……ところで」
 ここまでの一部始終を、屋台の甘い食べ物を食べながら見ていたクリスが、ふと訊ねた。
「どうして先輩は組織から逃げ出したんですか?」

「ああ。初任務中にアニメの録画を忘れていることを思い出して……」
「そんな理由だったのか馬鹿弟子ー!?」 凄い勢いで振り返るシーア。
「先輩って、ひょっとしてアニメオタク……」
「ぎゃああー! しまったああああああああー!!」

 どこまで広がる青空。まるで農業博覧会を見守っているような、そんな暖かな空だった。
 農業博覧会では、その後も、この3人によるドタバタな話があったりなかったりしたのだが―――
 ………とりあえず、ちゃんと品評会の取材もしてこいよお前ら(新聞社の社長より)

 → CLOSED


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