Roll up into a ball

「なーなー、ねーちゃん。これうまいよ、これ。」
「見た目がへんだからさ、さいしょ大丈夫かなーとか思ったけどっ。」
「においもへんだけどー、もうなれたー。」
「あああ、はいはい。えと、みんなに美味しく食べてもらえて、良かったですー…。」
手に食べかけの団子の串を振り上げた、浅黒い陽に焼けた肌の子供がいるかと思えば、抜けるように肌の白い金髪の子供が、口一杯にほお張ってもぐもぐと格闘しながら、くぐもった声を上げる。様々な人種を取り混ぜた子供達の一群に取り囲まれたえるむは、目を白黒とさせながら、その対応にてんてこ舞いだった。

藩国の農産物アピールに、お菓子作りの腕を買われたえるむは、子供向けの体験教室の先生役として、農業博覧会の一角に設けられたスペースの切り盛りに追われていた。東国人にはお馴染みのみたらし団子は、他の藩国の人々には、かなり物珍しい食べ物だったようだ。だが、粘土状のものを丸めて団子を作るというのは、何と言っても子供達の得意中の得意である。白い団子の生地を歓声を上げながら捏ね、団子を茹で上げた子供達は、自分の作品にご満悦の様子だった。
「これもう一本もらっていい? 向こうでおかーさん達、買い物してっからさ、食べさせてあげるんだ。」
「は、ま、待って下さい。みたらし餡がついてるお団子を、人ごみで振り回したらたいへん…。」
「じゃあ、呼んでくるから、これ取っといて!」
「あ、待ってー、手も口もべたべたですよ。きちんと洗ってからねー。犬士さん達、手伝って上げて頂けますか?」

アシスタント役に駆り出された犬士達が、甲斐甲斐しく子供達の手や顔を拭いて回っているのを、微笑んで見守っていたえるむは、先程まで捏ね回していた団子の生の生地が、いくらかボウルに残っていたのを、悪ガキな少年達が互いに投げ付け始めたのを見咎めて、思わずきりりとした声を上げた。
「こらっ、いけません。」
今の今まで、自分達に振り回されてあたふたとしていたえるむが、始めて厳しい声を出したのに驚き、少年達はぴたりと動きを止め、しんと静まり返った。

「食べ物を粗末にしたら駄目です。こんな風に粉になっていると、分かり辛いけれども、このお米だって農家の方が一所懸命育てて、やっと稔った大切な一粒です。そういう風に丹精込めて育てた農産物を持ってきている方が、この会場にはたくさんいらっしゃるでしょう。その誰かの努力や気持ちを、ないがしろにするようなことは、してはいけません。」
ばつが悪そうにどぎまぎとしている子供達のその手から、今正に投げられそうになっていた団子の生地をそっと取り戻すと、大切そうにボウルに戻しながら、えるむは静かな声で言葉を続けた。

「…今の帝國は、比較的農産物には恵まれているけれども、この一粒の穀物だって、手に入れるのに毎日苦労している方が、ニューワールドにはたくさんいらっしゃるのです。そういうことも、忘れちゃ駄目ですよ。」
予想外の相手から厳しい言葉を投げかけられ、しゅんとした少年達は、もじもじと顔を見合わせている。一応は反省しているらしき子供達の顔付きに、思わず笑みをもらしたえるむは、今度は優しい声で、明るく子供達に声を掛けた。
「分かったら、ちゃんと手を洗って、終わりにしましょう。次の回は、小麦粉を使ってマフィンを作りますから、良かったらまた来てね。」



子供達が三々五々と会場を離れ、ようやく人心地をついて、えるむはほっと一息をつくと、試食用のテーブルにへたりと座り込んだ。異国の見慣れない食べ物というのは、それなりに口にするには勇気がいることも多いものだが、さすがに子供達の順応性は大したものである。自分の手で作る、ということも手伝って、イベントの人気は上々だった。食べ終わった串が散らばるテーブルの上には、既に団子は影も形も残ってはいなかったが、えるむは取り分けてあったスタッフのおやつ用の皿を取り出しながら、思わずぽつりと声を上げた。
「ふー、ちょっとくたびれました…。」
「……大変そうだな。」

そのえるむの背後から、さらにぼそりと声がかかる。慌てて振り返ったえるむの前には、思わぬ人物が佇んでいた。
「えっ、は、はかせ…じゃなくて、岩神さん?」
いつものよれよれの白衣姿ではなく、ラフではあるが、一応のスーツ姿である。藩国内であればともかく、滅多に訪れることのない他の藩国で、身近な人物に巡り合った嬉しさに、えるむはにこにこと立ち上がった。
「岩神さんも、いらしてたんですねー。」
「…ああ、うちからもイベントを出していると聞いて、覗きに来てみた。」
「嬉しいですー、今ちょうど一段落したところなんですよ。お茶でも如何ですか?」
「…一休みしてたところなんじゃないのか。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。ああ、そういえば植物の品種改良はご専門でした。そしたら、お仕事でいらしてるんですね。失礼しましたです。」
「……あ、まあ、そうだな。」

微妙に躊躇する岩神を椅子に座らせると、えるむはいつも通りに動き回って、既に手際よくお茶の用意を始めている。彼女を大人しく座らせるにはどうしたらいいのかと、人並みよりはかなり回転が速い筈の脳細胞を、無駄に空転させている彼の横から、ぼそりともうひとりの声がかかった。
「はかせー、そこでもうひと押ししないと、えるむさん分かんないと思いますよー。がんばー。」

思わずびくりと後退りした岩神の横には、一体いつの間に忍び寄ったのか、バトルメードの小柄な姿が、ちゃっかりと座り込んでいる。顔を引きつらせる彼に向かって、邪気のない顔でにこりと微笑んでみせた彼女は、そのまま素早く手を伸ばして団子の串を掠め取った。
「あ、なつきさん、お疲れさまですー。えと? 何が分からないんでしょう。」
「いやいやいや、それは私がゆったらいけないです、うん。」
「…バトメ部隊も来てたのか…。」
なつきの神出鬼没ぶりに慣れているえるむは、特に驚いた様子もなく、のんびりと声をかける。一方で、ひくひくとその表情を歪めながら、思わずかすれた声を上げた岩神に向かって、想定外の乱入者は団子をほお張った口元を、先程の子供達もかくやという屈託のない表情で動かしながら、もぐもぐと返事を返した。

「お邪魔してますよー。うちの藩国はお酒を出してるので、試飲会の酔っ払い対策ですね。やしな先輩が大活躍ですとも。」
「…大活躍?」
「えとー、メード服で巡回しているので、こう、勘違いの方がですね…。」
「ええもう、迷子の保護から、スリの逮捕から、通訳から、道案内から、あげく、身の程知らずにお接待を要求した酔っ払いをちぎっては投げ…。」
「……微妙に酔っ払いに同情するが。」
「はあ、酔い覚ましの勤労奉仕に、お菓子教室の材料を運んで頂いたりして、ちょっと助かってしまいました。」
「さすがに他の藩国さんに出張すると、地元と違ってなかなか人手が足りなくて、今日はえるむさん、結構忙しいんですよねー。」
「こんなに大人数向けだと、お菓子の材料でも結構な重さになってしまうもので…。」
「粉とかって、意外と重いですもんね。博士、これから時間があったら、夕方までえるむさんを手伝ってあげたらどうですかー。」

その手があったかと、一瞬無意識に岩神は目を見張った。それから、はたと気が付いてなつきに視線を戻すと、こちらはしてやったりと言わんばかりに、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて、彼の顔を伺っている。微かに顔を赤らめながら、憮然とした表情を返そうとした岩神に追い打ちを掛けるように、なつきは思わせ振りに明るい声で、えるむに話を続けた。

「その分時間の余裕が作れたら、えるむさんも博覧会回ったり出来ますよねー。」
「はあ、今回はちょっと、ここを離れるのは無理かと思っていたのですが…。」
「えー、会場も面白そうですよ。ほら、こちらの藩国さんは漢方医の方がいらっしゃるので、薬草とかの研究や栽培が、凄く進んでるんですって。えるむさん、そういうの興味ありそうじゃないですかー。」
「えと、その方面でしたら、岩神さんがご専門ですね。」
「ああ、そうでしたね! じゃあ、一緒に回ったりしたら、いいんじゃないでしょーか? どうですか、はかせ!」
「……あ、まあ、時間はあるので、俺は構わないが。」
「よーし、そしたら勤労奉仕の酔っ払いを、もう何人か捕獲してきますねー。そしたら、少しゆっくり回れますよね。あ、やしな先輩の差し入れに、このお団子貰って行ってもいいですか?」
「それは構いませんが…ほかく…。」
「博士もちゃんと、手伝ってあげて下さいね! あ、そんでもって、何かうちの姉貴が和菓子の材料欲しいとか言ってたので、会場回りながら探して頂けると、助かるんですけどー。」



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