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AHAガイドライン2005 - (2009/08/23 (日) 16:37:20) のソース

#image(http://homepage2.nifty.com/treknz/image/g2005bls_l.gif,http://homepage2.nifty.com/treknz/image/g2005bls_l.gif)
***1.心臓マッサージと人工呼吸の割合が30:2に変更

一次救命処置(BLS)に関して、比較的早くからウワサされていた点ですが、やっぱりガイドライン2005では、心臓マッサージと人工呼吸の割合が従来の15:2から30:2に変更されました。心臓マッサージに重きが置かれた結果となりました。心マが重要、この考え方は後述のAED(自動式体外除細動器)のアルゴリズムなど、随所に影響を与えています。
***2.心臓マッサージの重要性を強調

新しい勧告では、次のように書かれています。
効果的な心臓マッサージのためには、力強くそして早く胸部圧迫を繰り返すべきである。新生児以外のすべての年齢層の人に対して、1分間に100回のペースで心臓マッサージを行なう。
胸部圧迫を行なう都度、一回一回確実に力を抜いてしっかりと胸郭弛緩させる。なお、圧迫している時間と無圧迫の時間はほぼおなじ程度とする。
胸部圧迫の中断時間は極力短くする。心臓マッサージの中断は血流がストップすることを意味する。

手技的に考えると前回のガイドライン2000とさほど変わっていないような気がしますが、その背後にある根拠性(エビデンス)がだいぶしっかりしてきました。

世界中からの研究データでわかってきたことは、弱い、もしくは遅い胸部圧迫では十分な心拍出量は得られないということです。また圧迫を始めて最初のうちは勢いが付いていないため(?)有効な血流にはなりません。そのために連続して圧迫し続けることが重要で、中断は極力するなというわけです。
***3.胸部圧迫の位置決めが簡略化

これまで救急蘇生の訓練を受けた方は、心臓マッサージで手をあてる部分の決め方をどう教わったでしょうか? おそらく肋骨の下縁をたどっていって剣状突起を見つけて、胸骨の端から2横指上に手を置くというような話を聞いたと思います。 

なんかわかりにくいよなぁと感じた方は多いと思いますが、今回の改定でズバッと簡略化されました。新ガイドラインでは、「胸の中央で両乳頭のライン上」となっています。部位的には以前となんら変わらないのですが、位置決めの方法がとってもすっきりしました。 

これまでは、剣状突起を圧迫して折ってしまうのを防ぐために、まどろっこしい場所確認の方法を採っていましたが、そんなことで時間を食うことが問題であると言う点が議論された結果のようです。 

実はこの乳頭ラインという位置決め法は、以前からアメリカ心臓協会(AHA)の一般人向け講習(Heartsaver AEDコース等)では取り入れられていました。今回、正式にガイドラインとしても明文化されたことで、他団体の講習でも一般化していくことと思います。 
***4.人工呼吸は1秒以上かけて吹き込み、量は胸部が挙上する程度

今回のガイドライン2005では、とにかく心マが重要であることが随所で強調されています。心マと人工呼吸が30:2という割合もそうですし、呼吸の吹き込みが従来の「2秒以上」というのから「1秒以上」とされたのも、できるだけ多く心マを行えるようにという意図が関係しています。 

今回のガイドライン2005では、人工呼吸に関係したいくつかの重要な理解が示されました。まずは、人工呼吸で必要とされる呼気吹き込みは少なくてもよいというエビデンス ― 心配蘇生中は全身を循環する血流量が減っているため、当然肺の実質に流れる血流も減ります。そのため通常の呼吸時と同じだけの吸気量・酸素濃度を供給したところで肺で酸素化に供されるのは一部に過ぎない、つまり通常よりずっと少ない酸素量で十分であるという点です。

もうひとつは、心室細動による突然の心停止の場合は、倒れた直後には血液内に十分な酸素が残っているので、人工呼吸より心マの方が重要であるという点、そしてさらに過剰な量の人工呼吸は胸腔内圧を上げ、静脈潅流をへらす結果となり、脳と心筋の酸素化を阻害する要因となることなどが示されました。 

そうしたエビデンスに基づいて、呼吸の吹き込みは「胸が上がる程度」に少ない方がよいという勧告に統一されています。 
***5.市民救助者は「循環のサイン」のチェックは不要。すぐに心マを!

ガイドライン2000では、呼吸停止者に呼気吹き込みを2回行なった後、循環のサイン(息、咳、体動)を確認し、それがなければ心臓マッサージを始めることになっていました。

しかしガイドライン2005では、市民救助者に関しては、循環のサインの確認も不要になったようです。2回の呼気吹き込み後、すみやかに30回の心臓マッサージを開始し、以後30:2のCPRを続けます。そして傷病者に体動がみられるか、AEDや救急隊が到着するまで続けるように勧告されています。 

この理由に関しては、市民救助者の場合、循環のサインを確実に評価できる根拠性がなく、心肺蘇生でもっとも重要な心臓マッサージの開始が遅れてしまうからだそうです。 

ちなみに訓練されたヘルスケア・プロバイダー(Healthcare Provider)の場合は、脈拍チェックを行ないますが、10秒以内に確実に「脈あり」と判断できない場合は、その時点ですみやかに心臓マッサージを開始することになっています。 
***6.AED(除細動)は3回連続ではなく、1回行なった後、すぐにCPRを続行する

これまでは、心肺停止者にAEDで電気ショックを与えても反応がない場合は、3回まで連続して電気ショックを与えるようになっていました。しかし今回のガイドライン2005では、ショックを掛けるのは1回だけで、ショック後の心電図解析を待たずにすぐにCPR(心マが先)を再開するように変更されました。30:2のリズムで心臓マッサージと人工呼吸を5サイクルを行なったあとで、はじめてAEDの効果を確認します(心電図の再解析を行なう)。(上図参照) 

実際にAED講習を受けた方はわかると思いますが、AEDを装着して心電図を解析、電気ショックを加えて、結果を確認(再解析)するまでの間、かなり時間がかかるんですよね。その間は傷病者に触れてはいけないわけですが、心臓も呼吸も停まっているのに、こんな長い間ホントになにもしなくていいのかなと不安に感じた人も少なくなかったと思います。(私もそうでした) 

実際、このAEDを装着したゆえのCPR空白時間が問題となって、今回の改定に至ったようです。これまでは「AEDファースト!」と、とにかくAEDを優先させてきましたが、一番重要なのはCPR(心臓マッサージと人工呼吸)、特に心臓マッサージであるという認識に変わってきたというわけです。 

また、心室細動による突然の心停止から時間が経っている場合、心筋内のエネルギーが少なくなり細動の振幅が小さくなっており、そうした状態で除細動(AED)をかけても正常リズムには戻りにくいという事実があります。こうした場合は、心臓マッサージで心筋に酸素を送り込んで、多少心臓を元気にしてやってから除細動をかけると効果的であるという研究結果も示されていました。 
***7.市民救助者向け心肺蘇生ガイドライン 変更点

アメリカ心臓協会(AHA)発行の機関誌"Currents"に掲載されていた"Lay Rescuer CPR"という囲み記事部分をざっと訳してみました。部分的に私なりの注釈も付け加えています。

ガイドライン2005での主な変更点のうち、市民救助者(Lay Rescuer)向けのCPR(心肺蘇生)に関するものは次の通りです。

1.救助者ひとりで意識のない幼児もしくは小児に対応する場合は、119番通報をするため、もしくは他の救助者を呼びにその場を離れる前に、約5サイクルの胸部圧迫(心臓マッサージ)と人工呼吸(約2分間)を行なう。

⇒従来は、心臓マッサージと人工呼吸の割合が15:2だったため、「約1分間のCPR」とされてきたが、ガイドライン2005からはCPRの割合が30:2と改められたため、時間も2分となった。

2.気道確保は外傷性の傷病者に対してであっても、下顎挙上法(jaw thrust)ではなく、頭部後屈顎先挙上法(head tilt - chin lift)を使うべきである。

⇒市民救助者の場合、下顎挙上法は修得も実践も難しく、しばしば十分な気道確保にならない可能性が高いため勧めない。頸椎損傷があったとしても、確実な気道確保の方が優先される。

3.意識のない成人、もしくは呼吸停止で無反応な幼児・小児に対して、5秒から10秒の間(10秒は越えてはいけない)で、「正常な呼吸」があるか確認する。

⇒「死戦期あえぎ呼吸」などを見逃さないため、呼吸の有無ではなく、「正常な呼吸」があることを確認する。ふつうとは異なる呼吸の場合は、すべて人工呼吸の適応となる。

4.人工呼吸前に深呼吸は不要

⇒これまでは、マウス・トゥ・マウスなどの人工呼吸を行なう際には、吹き込み前に深呼吸することが勧告されてきたが、新ガイドラインでは、深呼吸の必要はなく通常の呼吸で十分であるとされた。

5.人工呼吸は1秒以上かけて行ない、傷病者の胸部が上がる程度に息を吹き込む

⇒これまでは2秒以上掛けることが勧められていたが、最も重要な心臓マッサージをなるべく中断しないために、1秒以上かければよいとされた。短くて強い呼気吹き込みを避けるのは従来とおなじ。胃膨満となり嘔吐を誘発する可能性があるため。

6.一回息を吹き込んで胸の挙上が確認されなかったら、2回目の息を吹き込む前に頭部後屈顎先挙上で再気道確保する。

7.循環のサインの確認はしない。2回呼気を吹き込んだらすぐに胸部圧迫をはじめる。そのままひたすらCPRを続ける

⇒以前は心マの前には頸動脈で脈拍の触知を行なうことになっていました。またその後に改定されたガイドライン2000では脈拍触知を廃止して、呼気吹き込みに対する反応(息、咳、体動=「循環のサイン」)の有無を心臓マッサージ開始の目安としました。しかし今回のガイドライン2005では、さらに簡略化し、循環サインの確認すらを廃止して、「正常な呼吸がない」というだけで「生命の徴候」(sign of life)なしと判断する方針に変わりました。

8.心マを伴わない人工呼吸だけの救助法は教えない。

9.胸部圧迫と人工呼吸の比率は、対象に関わらず常に30:2に統一する。

⇒これまでは乳児と成人では、心マ:呼気吹き込みの比率が異なっていたが、簡略化のため統一された。

10.小児の心マは、乳頭部を結んだ胸の中央を片手もしくは両手で圧迫する。乳児の場合は、乳頭を結んだライン上の胸骨を2本指で圧迫する。

11.AEDを使う場合、1回のショックを与えたら、すぐにCPRを開始し、リズムチェック(心電図解析)は約2分間CPRを続けたあとに行なう。

12.気道内異物除去の方法が簡略化された。

13.応急処置に関する勧告が諸々増えた。頸椎保護や酸素の使用に関することなど。



成人には 150ジュールのエネルギー量、小児用は50ジュールで心室細動または無脈性心室頻脈の細動、頻脈を取り除きます。


1ジュールとは・・・・ 1N(ニュートン)の力が、その力の方向に物体を1m動かすときの仕事と定義されています。

150ジュールとは、理論上、地球上でおよそ15.3キログラムの物体を1メートル持ち上げる時の仕事に相当します