「膵管内乳頭粘液性腫瘍」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

膵管内乳頭粘液性腫瘍」(2009/12/26 (土) 20:56:01) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

腫瘍性真性膵嚢胞 膵管内乳頭粘液性腫瘍 (intraductal papillary mucinous neoplasm of the pancreas:IPMN) 概念 IPMNの特徴として,大量の粘液産生とそれによるVater乳頭部の開大および主膵管拡張,良好な予後などが挙げられる.男女比は2:1と男性に多く,平均年齢は男女ともに約65歳と高齢者に多く認められる.好発部位は膵頭部である. 分類 主膵管の拡張を主体とする主膵管型,膵管分枝の拡張を主体とする分枝型に大別される.分枝型に比較して主膵管型に悪性のものが多い.すなわち主膵管型に膵実質や他臓器への浸潤が多くみられるのに対し,分枝型では 上皮内癌 in situ carcinoma や腺腫 adenoma,過形成が高率に認められる. 臨床症状 腹痛が52%と最も多いが,無症状で偶然発見される例も9%にみられる.閉塞性黄疸は通常型膵癌と異なり18%と少ない.その他易疲労感,体重減少,発熱などがみられる.臨床経過中に急性膵炎を発生する頻度が比較的高いことや,糖尿病の合併が55%程度にみられることが重要である. 検査・画像所見 血液生化学的検査では特異的なものはない.急性膵炎を随伴すればそれに関係した膵酵素が上昇する.血清腫瘍マーカーのCEAやCA19-9は過形成,腺腫,境界病変では正常のことが多いが,悪性では50~80%の症例で上昇する. 画像診断では主膵管や膵管分枝の拡張や膵管内の隆起性病変,その周囲の変化について検索する.腹部超音波検査は,スクリーニングとして診断の第1の手がかりとなる.CTは膵全体を検索することができるので,病変を見落とすことがない.ERCPによって,膵管の拡張や膵管内の粘液塊,隆起性病変が明らかになる.また膵液を採取しその中の細胞診やCEA,CA19-9などの腫瘍マーカーの測定,K-ras点突然変異などを検索することで診断が可能となる.ERCPの代わりにMRCPも非侵襲性の画像診断の手段としてその有用性が認められ始めている.膵管鏡によって膵管内乳頭状増生がイクラ状腫瘍として認められる.また,内視鏡超音波検査(EUS)や膵管内超音波検査(IDUS)も隆起性病変や浸潤の有無などの診断に有用である. 治療方針 主膵管型IPMNは約80%が悪性なので手術適応となる.分枝型では壁在結節のあるものや,径が3cmをこえるものが手術の適応となる.すなわち分枝型の約20%が癌,約60%が経過観察の対象となる. 手術術式には,定型的な膵頭十二指腸切除術,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術や膵体尾部脾切除術以外に,膵分節切除術,膵鉤部切除術,十二指腸温存膵頭十二指腸切除術,脾動静脈を温存した脾温存膵体尾部切除術などがある.しかし,通常の手術で完治を期待できるIPMNに対して,安易に縮小手術を選択することは避けるべきであり,縮小手術の適応は厳密にするべきである. 予後 通常型膵癌に比較して良好な予後が得られる.手術例の5年生存率は78%である.しかし他臓器に浸潤したものや,穿破したものの予後は悪い (17).フランスのグループは膵の分節切除の検討を行っているが,IPMNに対する手術としては多中心性発生,表層拡大のため再発が約40%と高率なため薦められないと報告している(18).Yeoらも同様にIPMNの1,3,5年生存率がそれぞれ82,67,57%と思ったよりよくないと考えている (19).IPMNは考えられているより悪性であることを認識して治療にあたるべきである. 問題点 われわれはこれまでIPMNの病態におけるさまざまな問題点を報告してきた(20). 1)腫瘍・非腫瘍,良悪性の病理学的な客観的基準はありうるか, 2)hyperplasia→adenoma→carcinoma sequence は存在するか, 3)良悪性の臨床診断は可能か, 4)良性のものは経過観察でいいのか,どの程度のmalignant potential を有するのか? 5)in situ carcinoma はいつ浸潤するのか,つまりどの程度の期間 in situ に留まっているのか, 6)浸潤はどの程度になったら画像診断,その他でとらえられるか.微小浸潤は画像診断でとらえられるか. 7)浸潤し始めてからも slow growing か. 8)浸潤してから,あるいは浸潤が明らかになってからの手術で間に合うか. 9)さまざまな進展度の病変に対して,どのような手術がもっとも優れているか. 10)どのような縮小手術が可能か. 以上の問題点ですでに明確な解決がついたものはなく,さらに新たな問題も付け加わっている. 11)膵内多発・残膵再発の問題 IPMN に関する問題点としてはさらに膵内多発の問題および残膵における再発があげられる.このことは診断や手術術式にも重要な問題を投げかけており,常にこの点を考慮した臨床的対応が望まれる. われわれは原則として手術適応となる病変に対してのみ手術を行うことにより,膵全摘はできるだけさける方針にしている. 12)通常型膵癌の合併 IPMNの発生した膵は通常型膵癌の発生母地としても重要であるということである.その頻度として山口ら(21)は76例中7例 (9.2%)に異時性もしくは同時性に認めており,われわれは異時性の発生を28例中2例,7.1%とほぼ同様の頻度に認めている(22).したがって IPMN術後の残膵の follow up はかなり慎重になされなくてはならない. 13)他臓器がんの合併 IPMNには他臓器の癌が合併しやすい.その頻度は約19~32%と報告されており,胃癌6.2~13%,大腸癌3.7~12%などが高率である(23).同時性の合併か,異時性の合併かに合併臓器の特徴はない.これらは手術適応や手術方法,切除後のフォローアップの方法などに大きな影響を与えるものである.術後のフォローアップについては,胃癌,大腸癌の検索のため,1~2年に1回程度の内視鏡検査が必要であろう.
腫瘍性真性膵嚢胞 膵管内乳頭粘液性腫瘍 (intraductal papillary mucinous neoplasm of the pancreas:IPMN) 概念 IPMNの特徴として,大量の粘液産生とそれによるVater乳頭部の開大および主膵管拡張,良好な予後などが挙げられる.男女比は2:1と男性に多く,平均年齢は男女ともに約65歳と高齢者に多く認められる.好発部位は膵頭部である. 分類 主膵管の拡張を主体とする主膵管型,膵管分枝の拡張を主体とする分枝型に大別される.分枝型に比較して主膵管型に悪性のものが多い.すなわち主膵管型に膵実質や他臓器への浸潤が多くみられるのに対し,分枝型では 上皮内癌 in situ carcinoma や腺腫 adenoma,過形成が高率に認められる. 臨床症状 腹痛が52%と最も多いが,無症状で偶然発見される例も9%にみられる.閉塞性黄疸は通常型膵癌と異なり18%と少ない.その他易疲労感,体重減少,発熱などがみられる.臨床経過中に急性膵炎を発生する頻度が比較的高いことや,糖尿病の合併が55%程度にみられることが重要である. 検査・画像所見 血液生化学的検査では特異的なものはない.急性膵炎を随伴すればそれに関係した膵酵素が上昇する.血清腫瘍マーカーのCEAやCA19-9は過形成,腺腫,境界病変では正常のことが多いが,悪性では50~80%の症例で上昇する. #image(http://594orz.jp/images/thumb/c/c6/101A30.jpg/400px-101A30.jpg,http://594orz.jp/images/thumb/c/c6/101A30.jpg/400px-101A30.jpg) 画像診断では主膵管や膵管分枝の拡張や膵管内の隆起性病変,その周囲の変化について検索する.腹部超音波検査は,スクリーニングとして診断の第1の手がかりとなる.CTは膵全体を検索することができるので,病変を見落とすことがない.ERCPによって,膵管の拡張や膵管内の粘液塊,隆起性病変が明らかになる.また膵液を採取しその中の細胞診やCEA,CA19-9などの腫瘍マーカーの測定,K-ras点突然変異などを検索することで診断が可能となる.ERCPの代わりにMRCPも非侵襲性の画像診断の手段としてその有用性が認められ始めている.膵管鏡によって膵管内乳頭状増生がイクラ状腫瘍として認められる.また,内視鏡超音波検査(EUS)や膵管内超音波検査(IDUS)も隆起性病変や浸潤の有無などの診断に有用である. 治療方針 主膵管型IPMNは約80%が悪性なので手術適応となる.分枝型では壁在結節のあるものや,径が3cmをこえるものが手術の適応となる.すなわち分枝型の約20%が癌,約60%が経過観察の対象となる. 手術術式には,定型的な膵頭十二指腸切除術,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術や膵体尾部脾切除術以外に,膵分節切除術,膵鉤部切除術,十二指腸温存膵頭十二指腸切除術,脾動静脈を温存した脾温存膵体尾部切除術などがある.しかし,通常の手術で完治を期待できるIPMNに対して,安易に縮小手術を選択することは避けるべきであり,縮小手術の適応は厳密にするべきである. 予後 通常型膵癌に比較して良好な予後が得られる.手術例の5年生存率は78%である.しかし他臓器に浸潤したものや,穿破したものの予後は悪い (17).フランスのグループは膵の分節切除の検討を行っているが,IPMNに対する手術としては多中心性発生,表層拡大のため再発が約40%と高率なため薦められないと報告している(18).Yeoらも同様にIPMNの1,3,5年生存率がそれぞれ82,67,57%と思ったよりよくないと考えている (19).IPMNは考えられているより悪性であることを認識して治療にあたるべきである. 問題点 われわれはこれまでIPMNの病態におけるさまざまな問題点を報告してきた(20). 1)腫瘍・非腫瘍,良悪性の病理学的な客観的基準はありうるか, 2)hyperplasia→adenoma→carcinoma sequence は存在するか, 3)良悪性の臨床診断は可能か, 4)良性のものは経過観察でいいのか,どの程度のmalignant potential を有するのか? 5)in situ carcinoma はいつ浸潤するのか,つまりどの程度の期間 in situ に留まっているのか, 6)浸潤はどの程度になったら画像診断,その他でとらえられるか.微小浸潤は画像診断でとらえられるか. 7)浸潤し始めてからも slow growing か. 8)浸潤してから,あるいは浸潤が明らかになってからの手術で間に合うか. 9)さまざまな進展度の病変に対して,どのような手術がもっとも優れているか. 10)どのような縮小手術が可能か. 以上の問題点ですでに明確な解決がついたものはなく,さらに新たな問題も付け加わっている. 11)膵内多発・残膵再発の問題 IPMN に関する問題点としてはさらに膵内多発の問題および残膵における再発があげられる.このことは診断や手術術式にも重要な問題を投げかけており,常にこの点を考慮した臨床的対応が望まれる. われわれは原則として手術適応となる病変に対してのみ手術を行うことにより,膵全摘はできるだけさける方針にしている. 12)通常型膵癌の合併 IPMNの発生した膵は通常型膵癌の発生母地としても重要であるということである.その頻度として山口ら(21)は76例中7例 (9.2%)に異時性もしくは同時性に認めており,われわれは異時性の発生を28例中2例,7.1%とほぼ同様の頻度に認めている(22).したがって IPMN術後の残膵の follow up はかなり慎重になされなくてはならない. 13)他臓器がんの合併 IPMNには他臓器の癌が合併しやすい.その頻度は約19~32%と報告されており,胃癌6.2~13%,大腸癌3.7~12%などが高率である(23).同時性の合併か,異時性の合併かに合併臓器の特徴はない.これらは手術適応や手術方法,切除後のフォローアップの方法などに大きな影響を与えるものである.術後のフォローアップについては,胃癌,大腸癌の検索のため,1~2年に1回程度の内視鏡検査が必要であろう.

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: