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1)仮性球麻痺(偽性球麻痺)
原因:延髄の両側性の核上性病変(両側性上位運動ニューロン病変)
中心症状:嚥下障害と構音障害
仮性球麻痺を生じる疾患:脳動脈硬化症、脳血管障害(多発性脳梗塞)、MS(多発性硬化症)、脳腫瘍、進行性核上性麻痺

 両側性病変のため、初回の一側性脳卒中発作では仮性球麻痺は起こらないことが原則であるとされている。しかし高齢者の場合は、もともと無症候性の脳血管障害(silent cerebrovascular disease)をもっていることが多いため、新たな病変が加わると、初回発作でも仮性球麻痺を呈することがあり、注意深い観察が必要である。また、後述するが、一側性病変でも嚥下障害を呈する場合がある。
 初回発作の脳血管障害のリハビリテーション患者のうちで、70歳以上ではCT、MRI検査で小さな病変を含めると80%以上に多発性の脳血管病変を認めている。健常者の集団を検査すればもっと頻度は低いと思われるが、脳血管障害を起こすような人のなかでは、無症候性の脳血管障害の頻度は想像以上に高い。MRI検査で発見される無症候性病変の臨床的意義は現在のところ明らかではないが、高齢の脳血管障害患者では全員に仮性球麻痺(軽症であっても)があると考えて、嚥下障害を予想して対策をたて、誤嚥防止に努めるべきである。
 軽い仮性球麻痺による嚥下障害は適切に対処すればよく改善するが、一度誤嚥性肺炎を起こすと全身状態が悪化したり、習慣性に肺炎を繰り返すようになったりして、その後のリハビリテーションに支障をきたす。また、高齢者のなかには脳血管障害の明らかな発作がなくても軽い仮性球麻痺があって誤嚥するために誤嚥性肺炎を繰り返す場合がある。こうした場合、誤嚥性肺炎を起こすと多くの場合は絶食になるため、嚥下筋を使わなくなる。するとこれらの筋力が弱って、ますます嚥下障害が重度になるという悪循環に入ってしまうので注意が必要である。

【仮性球麻痺による嚥下障害の特徴】
  • 嚥下に関係する筋肉の痙性の出現や亢進
  • 運動の協調性の低下
  • 有効な嚥下筋力の低下

 具体的に述べると、口唇での食物の取り込みが悪かったり、食物が口唇からぼろぼろこぼれてしまったり、咀嚼がうまくできなかったり、食塊を舌根部に送り込めなかったりする。また、舌や咬筋の動きはよいのに、口の中に食物を頬張ってしまって飲み込めないというような症状も認められることがある(嚥下躊躇、嚥下失行)。
また、流涎が目立つことがある。以下に流涎の原因をあげる。
  • 流涎の原因
①実際に唾液の分泌が亢進している。
②口唇の閉鎖が不十分なために流れ出る。
③両者の合伴。

  • 球麻痺との違い → 嚥下反射がほぼ完全なパターンで残っている点。
 嚥下反射は保たれているが、随意的には誘発しにくく、また反射は起こっても弱く、協調性に欠けている。嚥下造影を行うと、口の中で食塊をつくろうとしているときに、食物がダラリと咽頭に流れ込んでしまったり、咽頭に食物が流れても嚥下反射がなかなか始まらない状態がよく観察される。これは口腔や咽頭の知覚が低下していて嚥下反射の誘発を遅らせているためである。知覚のフィードバックによる嚥下反射の強化が妨げられているので、起こった嚥下反射も弱くなり、食塊を1回でクリアできなくて咽頭に残留してしまうこともある。
 仮性球麻痺が軽い場合はほとんど嚥下障害が目立たない。それは延髄の嚥下中枢が働いているためであるが、嚥下中枢単独では十分な嚥下動作が続けられないために、仮性球麻痺が重度になると嚥下障害が目立ってくる。軽い仮性球麻痺があるかないかの臨床診断は口蓋反射をみることがいちばん役立つが、末梢神経障害が加わっていて必ずしも理論どおりにいかなかったり、患者の協力が得られなくて検査ができないこともある。
 仮性球麻痺は嚥下障害とともに構音障害が重要な症状で、しかもこちらのほうが初期から明瞭に認められることが多い。自覚的には「呂律が回らない」「なんとなくしゃべりにくい」と訴えることが多く、家族や周囲の人からは「しゃべり方がおかしい」「言葉が聞き取りにくい」「酔っぱらったときのようなしゃべり方になった」などと表現される。口唇の運動障害で口唇音(パ行、マ行など)の障害、舌の運動障害で舌音(ラ行など)の障害、口蓋の運動障害で口蓋音(カ行など)の障害がみられる。「パタカパタカ…」と繰り返してもらうとどの音が障害されているかわかるが、正確な構音検査が必要である。これらの構音は単独で発音したときには障害がはっきり認められなくても、話をするときになると緊張が亢進して言葉が非常に不明瞭になることがある。
 右片麻痺で失語症とは別に「構音失行または発語失行(笹沼ら、1981)」とよばれる症状を呈することがある。これは個々の筋肉には麻痺がないにもかかわらず、発音しようとすると筋肉が意思どおりに動かなくて別の語になったり、変な発音になったり、発音できなかったりするものである。
 病理学的には両側の皮質延髄路がどこかで障害された場合に仮性球麻痺が起こると考えられている。この皮質延髄路の正確な走行に関してはまだ解明されてい。また文献的には一側性病変による仮性球麻痺の報告もある。

【仮性球麻痺の病変部位による分類】
①皮質・皮質下型
②内包型(大脳基底核病変型、中心型)
③脳幹(橋、中脳)型

 同じ仮性球麻痺といってもこれらの病変部位の違いで臨床症状に特徴があるが、仮性球麻痺の中心症状は嚥下障害と構音障害であって、その随伴症状に違いがあると考えたほうが理解しやすい。随伴症状のなかでは顔面神経(顔面、口唇の動き)や三叉神経(顔面の知覚、咬筋)の症状を呈する患者が多い。
 リハビリテーションに際しては随伴症状が問題になるので、各型別に随伴症状の違いを説明する。まったく同じ症状の患者はいないので、脳のどの部位の障害による仮性球麻痺かをよく理解して患者をよく観察し、個々のケースに即してリハビリテーションを進めていく必要がある。



①皮質・皮質下型
 失語症や構音失行、その他の高次脳機能障害(失行、失認、前頭葉症状、痴呆症状など)を伴うことが多く、顔面筋などでは随意運動はできないのに、意識的でない運動(泣いたり、笑ったりすると動く)はできるといった解離がよくみられる。強制泣きや強制笑いもしばしばみられる。これらは感情を伴わない不随意運動として出現するといわれているが、ほとんどこちらの問いかけや自らの発語に伴って誘発されるといった、感情失禁の要素が混在した強制泣き、強制笑いである。麻痺や小脳症状、病的反射などの症状も病変の広がりに応じてみられる。
 このタイプの人のリハビリテーション上の問題点としては以下のようなものがある。
(1)意識が集中できず注意が守れなかったり、持続しない。
(2)学習効果がない。
(3)失語があって言語指示が入らない。
(4)失行があって食器の使い方や食べる順序がわからない。         
(5)保続のために同じ動作を繰り返す。
(6)食べている最中にしゃべりはじめて誤嚥の危険が高まる。
(7)食べるための訓練が必要であるという意味がわからない。
 ハイハイと返事をしながら指示が入らなかったりするので、高次脳機能を十分チェックして嚥下訓練に臨む必要がある。特殊な形としてビンスワンガー病、多発脳梗塞痴呆などがある。



②内包型(大脳基底核病変型、中心型)
 内包の小さな病変(両側)で起こることもあるが、普通は両側脳内出血後などのように線条体や視床を含んだ病変で、脳血管性パーキンソン症候群の症状を呈することが多い。仮面様顔貌、四肢の筋肉の硬直、振戦、前傾・小刻み歩行、無動や寡動などと表現される運動速度の低下などがみられる。嚥下に関しても咀嚼、舌の運動の速度に低下がみられる。
 このタイプの人は自分のペースでゆっくり食べている間は問題ないのに、周りであと片づけが始まったり、急がせたりすると途端にむせが始まることがある。自分のペースで食べているときは一口の量も少なく、一口について何回かゴクンと飲み込む動作をしているが、急がされると口に含む量が多くなったり、注意が嚥下からそれてしまうために、協調運動が乱れたり、咽頭にまだ食物が残っているのに次々に食べるために、あふれてしまって誤嚥するなどが原因と考えられる。痴呆症状を伴うこともある。



③脳幹型
 延髄より上の橋や中脳の出血や梗塞で起こる。小さい病変でも強い仮性球麻痺が純粋にみられることがある。大きい病変では眼球運動障害や、眼振、失調症、四肢麻痺などを伴う。有名な「封じ込め症候群(locked in syndrome)」も最も重症な仮性球麻痺を呈している。知的にしっかりしている人が多いため、障害が重度でなければ嚥下訓練が成功しやすいタイプである。しかし、球麻痺の要素を同時にもっている場合もあるので注意が必要となる。
 また「めまい」を訴え、それと同時に嘔気、嘔吐を伴って食事どころではないという患者も多くみられる。めまいは脳幹部障害の重要な症状であるが、精神的不安から必要以上にめまいを強く訴える傾向にある。すなわち、動くとめまいが増強するために絶対安静を続け、めまいが軽くなっても不安から起き上がることを拒否したり、起き上がることを考えただけでめまいが始まる、などということになる。眼振が明瞭に認められてめまいが強い時期は安静を保ち、この時期には無理に動かさないで嘔気や嘔吐をなるべく経験させないようにすることが大切である。めまいが治まってきたら、今度は時期を失わずに精神的サポートを行いながら座位訓練、嚥下訓練に入るようにする。眼球運動障害がある場合には複視(ものが二重に見える)が加わってさらに複雑となる。この場合は眼帯をして複視の影響を除くと有効なことがある。
 脳幹型の仮性球麻痺では発症初期に球麻痺と同じ状態を呈することがある。橋や中脳の大きい出血や梗塞の初期に、隣接する延髄の機能が落ちるため、呼吸が停止し、嚥下反射も全く消失して、まさに球麻痺と同じ状態になるのである。急性期を乗り切ると、呼吸とともに嚥下反射も回復してくる。このように当初は球麻痺と思われたものが仮性球麻痺に移行することがあるので注意深い観察が必要である。




2)球麻痺

延髄から出ている脳神経の障害による運動麻痺。
臨床的には顔面神経や三叉神経の筋も同時に侵されていることが多い。
中心症状:嚥下障害、構音障害
嚥下筋の萎縮が著明となる。
球麻痺を生じる疾患:ALS(筋萎縮性側索硬化症)、ギランバレー症候群、GM(重症筋無力症)、ジフテリア、延髄空洞症、MS(多発性硬化症)、多発性筋炎など
 ワレンベルク症候群が有名であるが、延髄の脳血管障害では生命の危険性が高かったり重症例が多いので、リハビリテーションの現場で実際に遭遇する患者の数はそれほど多いものではない。

  • 仮性球麻痺との違い
「完全な球麻痺」では嚥下障害が全く見られない。

不全麻痺では、嚥下の各要素の障害が左右に種々の程度で起こる。
舌、軟口蓋、咽頭の筋肉が弛緩性の麻痺となり、嚥下するためには流動物を重力で流し込む以外に方法がなく誤嚥は必発である。

球麻痺   → 流動物が飲みやすい
仮性球麻痺 → 固形物が飲みやすい
※これは教科書的なもので、ケースバイケースで例外があり、決めつけることは出来ない。
 重症な球麻痺で嚥下反射がない場合は全く嚥下が出来ない。ごくわずかに回復してきた時期には少量の流動物だけが咽頭通過できる。その後はゼリー状のものがいちばん誤嚥が少なく飲み込みやすくなる。また、仮性球麻痺でも廃用性に筋力低下が著明なときは、ごく小量の流動物だけが嚥下可能なことがある。
 代表的なワレンベルク症候群は延髄外側症候群とも呼ばれ、後下小脳動脈や橈骨動脈の閉鎖によって起こる。発症時は急激なめまいと嘔気、嘔吐を訴え、嚥下障害、発声障害、小脳症状、同側顔面および反対側の四肢体幹の温痛覚消失(触覚が保たれるので感覚解離と呼ばれる)などの症状がみられる。球麻痺による嚥下障害は難治性であるが、若い人ではむせながらも咳反射がしっかりしているために適切な食物選択と体位の工夫で経口摂取が可能にる患者が多い。全身状態が安定し知的に大きな問題がなければ、バルーン法やメンデルゾーン手技、声門越え嚥下、頸部突出法など種々のリハビリテーション訓練が効果を上げる。さらに、手術も大変有効である。
 臨床的に球麻痺を呈してもMRIで延髄に病変を同定できない場合があるが、そのときの嚥下障害は比較的軽度である。また、他の所見に比し輪状咽頭筋の機能が特に悪いタイプの球麻痺も見られ、輪状咽頭筋機能不全と呼ばれる状態を示すこともある。輪状咽頭筋は上食道括約筋として働くが、輪状咽頭筋機能不全は上食道括約筋部の開大不全を起こす。上食道括約筋は輪状咽頭筋および上部食道、甲状咽頭筋の下部で構成される。