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放射線事故により全身に1Gyを超す放射線被ばくを受けると、急性放射線症候群(ARS:Acute Radiation Syndrome)が発症します。急性放射線症候群の病期は、被ばく後の時間的経緯によって前駆期、潜伏期、発症期、回復期に分けられます。

前駆期は、嘔気、嘔吐、発熱、下痢、頭痛、初期紅斑、皮膚、粘膜の毛細血管拡張、唾液腺の腫脹等の前駆症状が一過性に発現する被ばく後48時間をいいます。消化管の蠕動運動ペースメーカーの亢進や消化管ホルモン分泌亢進、神経血管反応亢進等とともに、放射線感受性が高い組織の細胞死に伴う病態に基づく症状が観察されます。被ばく線量が高いほど前駆症状は早く発現し、程度も重篤です。これらの前駆症状の種類、発現時期、発現頻度等は、被ばく線量に依存するので“臨床医の最善の線量計”といわれます。

潜伏期は、組織の細胞欠落症状が発現するまでの比較的無症状の期間をいい、全身被ばく後、約1~2週間後に発症します。被ばく線量が高いほど潜伏期は短くなります。

発症期は、潜伏期以降から回復期までの期間で、全身被ばく後1~2ヵ月の時期をいい、線量に応じて種々の症候群が発症します。主な症状は出血傾向、感染症による発熱、下痢、下血および皮膚の紅斑、湿疹、糜爛、潰瘍等です。

回復期は、骨髄障害の治療が成功し、消化管障害や皮膚障害を乗り切った時点です。 急性骨髄症候群は、骨髄の造血幹細胞が細胞死により減少するために引き起こされる病態で、免疫不全症および白血球減少症による易感染性、血小板減少症による出血傾向が現れます。その発症時期については、後述する被ばく線量に応じた好中球数や血小板数の減少カーブから推定することができます。

6Gy以上の全身被ばくでは、粘膜面からの細菌移行(bacterial translocation)が増加することが実験的に示されています。被ばく直後にできる粘膜の上皮細胞間の隙間(tight junctionの開裂)が細菌移行の通路となります。消化管障害発症の直接の機序は、放射線による粘膜上皮細胞の再生障害です。小腸粘膜の絨毛は一層の上皮により覆われており、その小腸粘膜上皮は3~4日のターンオーバーで新しい細胞と入れ替わります。粘膜の上皮細胞に分化する幹細胞は腸腺窩の基底部にあり、クリプト(陰窩)細胞と呼ばれ、20~30個のクリプト細胞が周辺の2~3個の絨毛の再生を担っています(第2章放射線の人体影響参照)。10~15Gyの被ばくがあると、このクリプト細胞の分化は停止し、消化管の絨毛は退縮して、バリア機能が低下します。腸管蠕動障害、吸収障害、下痢に加えて細菌移行に伴う感染症や敗血症の発症も考えられています。粘膜の剥奪がさらに進行すると、制御不能の消化管出血を生じます。このような病態を急性放射線消化管症候群といいます。一般に、10Gyを超す被ばくでは、予防策を講じないと数日以内に発症します。

10Gyを超す被ばくでは、骨髄症候群や消化管症候群を制御でき、その時点まで延命できていれば、2~3週間後に放射線皮膚障害が問題となります。紅斑、脱毛、落屑、水泡形成、潰瘍、壊死等の皮膚の変化が、線量に依存し様々な潜伏期を経て発現します。

7~8Gyを超す被ばくでは、2~7ヵ月後に高率で放射線肺臓炎が合併します。また、腎硬化症等の組織の線維化に加えて、毛細血管閉塞等による組織再生障害が問題となります。

30Gyを超す全身被ばくでは、被ばく後2~5日に神経血管症候群のために死亡します。ショック、体温調節不良、虚脱、てんかん、意識障害等の多彩な症状を呈するといわれてます。



口腔から食道下端までの粘膜は扁平上皮からなり、放射線感受性は大体同じで中等度である。それ以下の胃、小腸、大腸までの粘膜は円柱上皮で構成されている。小腸には絨毛があり、この部位の深部にはクリプト細胞があり、消化管の中で最も放射線感受性が高い。