本症候群は眼瞼痙攣と口・下顎・頚の付随意運動を呈する症候群である。
眼輪筋、皺鼻筋、鼻根筋の収縮で特有のしかめ面顔貌を呈し、瞬目増加も認められる。この他に、眼脂、羞明、流涙などを伴うことがある。
口すぼめ、口角の後退、舌突出、顔面下部、顎、頚の不随意運動が認められる。これらの運動の多くは眼瞼痙攣と連動しているが特徴である。就寝時には症状は消失する。
一方のみの症状を呈する場合でも不全型とみなす場合もある。また、本症候群を本態性眼瞼攣縮と同義とみなし、眼瞼痙攣が一時的で、その付随症状として顔面筋や顎・頚部の筋の異常運動を呈するとの見解もある。
最近では続発性あるいは症候性(大脳疾患や重症筋無力症,顔面神経麻痺後の合併症など)に同様な症状を認められることもあり、これらを含めて本症候群と呼称されている。
特発性の場合、男性よりも女性に多く(1:2)、30-70歳代の幅広い年齢層で発症する。これに対して、薬剤性によるものではそれよりも若年層に認められるが、薬剤の使用期間については一定ではない。
本症は大脳基底核および脳幹の機能異常が関与していると考えられている。中枢からの下行線維の中断による脳幹や顔面神経核の興奮性の増強、大脳基底核からの刺激伝達障害による脳幹インターニューロンの過活動性などの発症機序が提唱されている。
治療に関しては、薬剤性の場合は起因薬剤の減量・中止が必要である。
眼瞼痙攣に対しては、ボツリヌスA毒素を局所注射する。薬物治療(トリヘキシフェニディル、ベンゾトロピン、ジアゼパム、クロナゼパム、バクロフェン、カルバマゼピン、レボドパ、ブロモクリプチン、アマンタジンなど)やボツリヌスに抵抗する場合には、眼輪筋切除も考慮される。


 眼科から見たメイジュ(Meige)症候群 (管理頁)

眼瞼痙攣に顔面、特に口の周りや、下顎などの奇妙な水を吸うような不随意運動を合併する特徴的な表情を示す疾患です。やや広く疾患概念を広げ、両側の眼瞼痙攣をメイジュ症候群と呼ぶ先生も居られるようです。






● 病因は眼瞼痙攣と同様に大脳基底核を含む錐体外路系の神経回路の異常に起因するジストニアと考えられますが、脳に明確な異常は認められていません。近年は、浸透率の低い常染色体優性遺伝性疾患である可能性が指摘されています。

● 40~70歳代の中高齢者で発症率が高く、罹患率は男性:女性の比で約1:2と女性に多いとされ、実際に患者さんを拝見しても女性に多く見受けます。

● 症状が似ているがメイジュを含む眼瞼痙攣(それらは頭頸部ジストニアに含まれます)ではない疾患には片側顔面痙攣、眼瞼ミオキミア、開眼失行、眼瞼下垂などがあります。いずれも正しい診断から正しい治療が始まります。

● 内服療法:薬剤量がだんだん増えてきますので、私はなるべく内服薬は控えて治療しています。
  • 抗コリン剤…塩酸トリフェキシフェニジル(アーテン)など
  • 抗てんかん剤…クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)などは最初の治療薬の候補にしやすいと思います。

  • 精神的な不安など心的要因により症状の悪化が見られることがある場合には抗不安剤…ジアゼパム(セルシン)などの使用も考慮します。

  • 特定の薬でだれにでも症状緩和効果が得られるものはありません。効果がなければ、ほかの薬を試すことが必要ですし、私はむしろ次のボトックスを中心に治療を進めてゆきます。

● ボツリヌス療法
ボツリヌス菌という細菌が作り出すボツリヌス毒素の作用を利用した大変良い治療法です。この説明は詳しい当ブログ内他項に譲りましょう。⇒リンク。口の周りにも目の周りの半量を足すと大概は良い結果が得られます。

  • 一般的には、3~6か月後に状態の再発を患者さんが自覚し、再投与を希望すれば繰り返し投与します。軽い症例では1-2割の患者さんでは再投与が不要な場合もあるようです。繰り返し治療が必要だという可能性よりも、投与後にこの症状から開放される十分な期間が得られることにご注目ください。

  • ボトックスが効いた状態で眼瞼部の皮膚が進展して垂れている(眼瞼皮膚弛緩症)時には、眼瞼の余剰な皮膚を切除します。また合併する開瞼失行で開瞼困難な場合にはクラッチ眼鏡を当医院でも調整します。(ばねの力で持ち上げるのではなく、自分の上眼瞼挙筋の筋力で開くようなセンソリートリック(知覚刺激)を与えるように作るのに少しコツがあります。⇒リンク)

。● 外科的治療法…眼輪筋切除術
  • 神経切除法は、不必要な刺激が眼筋に伝達するの遮断するため、顔面神経枝を切除する方法です。顔面神経は複雑で、適切な神経枝を切除するのが難しく、現在私は用いては居ません。
  • 眼輪筋筋切除術は、眼を閉じる働きがある眼輪筋を、その表面の弛緩した皮膚とともに切除する方法です。重症例では、親しくしていただいている医科歯科大学の形成外科の先生に紹介状を出してお願いし、観血的な手術をしてもらっています。また、炭酸ガスレザーでの出血のない方法での手術を兵庫医大の三村教授が行っています。

この疾患は特徴のある症状を呈しますが、現在は眼瞼痙攣のひとつの亜型と考えてよいでしょう。近い将来に遺伝子診断のできる疾患の列に加わる可能性は低くは無いと考えられます。

さてちなみにMeige先生がどんな経歴の人かを調べてみますと、Parisのサルペトリエ病院に居た世界で一番有名な神経内科医師のシャルコーの弟子でチックなどの研究をしています。MeigeがMeige症候群の記載をしたのは1910年頃で1940年に亡くなっていますが、その肖像は見つけられませんでした。Review neurologiqueの編集もしていますので学会では大成した人の様です。
私もパリに留学したとき毎週月曜日の午前にこのピチエ・サルペトリエ病院で神経眼科の外来(ペルトリーゼ教授の脳外科の一部で女医のシェゾン先生が担当していました。)と神経内科の病棟回診を見せてもらいました。(回診は大学の先輩の相馬芳明先生にくっついて歩いていました。)(後にダイアナさんが事故でなくなったのもこの病院です)当時はほとんど見ることのなかったクロイツフェルドヤコブ病の患者さんを初めて見せられ、その説明をしてもらったことを思い出します。

(この疾患は Meige症候群 Brueghel's syndrome、Meige Syndrome、Meige's syndrome、ブリューゲル症候群、メージュ症候群、メージ症候群、Brueghel症候群、Meige症候群 などとも記載されます。2009.7.28追加)
最終更新:2009年08月22日 20:04