論文原稿要約

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●問題と目的 &bold(){研究の目的:} PRASによって測定された両親の親役割行動と高校生の学校適応感との関係を調べること (具体的には、どのような親の態度・行動が、子供の学校適用間に影響を与えるかを検討する。 また、その結果を、PRASの学校教育相談における活用可能性を探る材料とする。) &bold(){仮説:} (1)親子の情緒的な関係を表す「受容」と「適応援助」は適応感に好影響を与えるであろう。 (2)「自立促進」は親子の信頼関係を表すと考えられ、これも適応感に好影響をあたえるだろう。 (3)強すぎる「干渉」や強すぎる「分離不安」は、子供の適応感に負の影響を与える可能性がある。 あるいは、この2変数については、ほかの変数との関連で、負の影響を与えることがあるだろう。 &bold(){PRAS}とは、谷井・上地(1993)によって考案された、  ・「第二の分離一個体化期の親子関係を研究するための質問紙尺度」で、  ・「親が自分自身の親役割を自己評定する形式の、親役割診断尺度(Parental Roe Assessment Scale)」のこと。  ・「干渉・受容・分離不安・自立促進・適応援助・自信」の6つの下位尺度からなっている。 この論文では、これらの下位尺度と、子供の学校適応感の関係を調べるのが目的である。 なお、谷井・上地は、主に論文を引用っすることで、この実験の目的・仮説を導き出すための論拠を挙げている。 ・個人の適応の指標として、「適応感」をもちいることができる。 ・学生の適応感は、とくに学校生活における適応感で規定される ・福島(1989):「”適応とは、人と環境との「関係」を表す概念”であり、”両者が調和したよい関係にある状態を「適応」”といい、 ”不幸にして環境と個人の間に緊張や葛藤が生じている場合”が「不適応」あるいは「適応障害」と呼ばれる状態」 ・加藤・石川ら(1981):「適応感」とは、”個人が自己をよい適応の状態であると意識していることで、生活における安定感、充実感、生きがい感などを意味する” ・高木・加藤ら(1981):「小・中・高校生の場合、適応感は、”学校生活に対する満足や成績に対する満足によって規定されるところが大きい”」 ・内藤・浅川ら(1987):「学校適応感」、すなわち「学校生活場面における適応感」を扱った研究で、 「学校生活おいて重要な位置を占める、学習意欲、友人関係、進路意識、教師関係、規則への態度、特別活動への態度の6つの側面における適応感を扱」ったもの ・学校適応感には、親子関係が大きく関係してくる 谷井・上地は、独自に学校適応感に関係する変数として、「学校の物理的側面、学校の社会的・文化的側面、学校の教育指導的側面、学校における友人関係、性と本人の個人的側面、家庭環境要因」等を挙げている。その上で、同じ学校環境においても、適応感に個人差があるのは、「適応感を規定するものは客観的な環境というよりは、環境と自分との主観的な関係である」とし、よって、生徒個人の内面と、それを規定する家庭環境は、学校適応感に大きな影響を与えるとした。 ・適応だけでなく不適応に関しても、親子関係は重要である。 ・佐藤(1968)など:「親子関係は、しばしば、登校拒否の原因または背景的要因のひとつとして指摘されている」 ・親との情緒的な関係が、青年期の子供の自立・成長過程に必要である ・Mahler,Pine,&Bergman(1975):「乳幼児期の分離一個体化過程において、母親の譲歩的供給の必要性を指摘」 「この過程は、”障害を通して反響し、消して、終わることなく、常に活動している”」 ・Blos(1967):「親から精神的に離れ、自立し、個を確立していく過程という意味で、青年期を第2の個体化の時期であると主張」 ・Masterson(1972):青年期境界例の研究における母親の特徴として、子供が成長するにつれ、 「情緒的供給を引っ込め」てしまうことで「子供の自我の自然な発達が妨げられる」ことがある ・江口(1966):「依存性と自立性は対立概念ではなく、”依存性の発達変容の過程が自立性の発達過程である”」 また、谷井・上地は、先行研究から、 ・親子関係と不登校の関係についてなされた研究は、ほとんどが臨床的研究であり、実証的研究が不足している。 ・思春期・青年期の親子関係は、幼児期・児童期に劣らず重要であるにもかかわらず研究例が少ない という問題点を拾い上げている。 谷井・上地は、この点に本実験の意義があるものと考えたようだ。 ---- ●方法 ・調査対象:大阪府立A高校2.3年生の一部とその両親。       有効回答数男子84名(2年生22名3年生62名平均17.4歳)、女子87名(2年生24名3年生63名 平均17.4歳) ・実施時期:1992年11月 ・親役割診断尺度:親が自己評定する形式の尺度。干渉、受容、分離不安、自発促進、適応援助、自信の6つの下位尺度からなり、「はい」「いいえ」「どちらでもない」の3件法。 ・学校環境適応感尺度:内藤ら(1987)の高校生用学校適応感尺度を用いた。「学習意欲」「友人関係」「進路意識」「教師関係」「規則への態度」「特別活動への態度」の6つの下位尺度からなり、各下位尺度毎に6つの項目、合計36の項目から構成。本来この尺度は5件法として構成されたものだが、本研究では「はい」「いいえ」「どちらでもない」の3件法にて行うこととした。 ・手続き:     両親用としてPRAS2部、生徒用として適応感尺度1部をセットにして1つの封筒に入れ、学級担任を通じて両親及びせいと自信が家庭にて回答するよう生徒に依頼し酢実後生徒を通じて同じ封筒を使用して回収。このような方法をとったため、匿名ではあるが生徒および両親の3者の対応関係についてはわかるような調査になった。 ●結果考察 1、得点化の方法  親役割診断尺度、適応感尺度はともに「はい」を2点「?」を1点「いいえ」を0点とし得点した。(一部逆転項目は「いいえ」を2点、「はい」を2点とした) さらに、下位尺度毎に、項目得点の単純合計として、下位尺度得点を算出し、適応感尺度については、6つの下位尺度得点の合計点として適応感得点を算出した。統計処理はSAS統計パッケージを使用した。 2、子どもの適応感とPRAS下位尺度との相関分析 (1)結果 男女生徒をこみにしたデーターおよび男女別のデーターを用いて、適応感得点とPRAS下位尺度得点とのピアソンの積率相関係数を算出した。 全データーを用いた分析で、適応感と有意な相関を示したのは、父親の受容・父親の適応援助・母親の受容・母親の自立促進・母親の適応援助であった。また、性別で見た場合、男子の適応感との相関については、父親の受容・父親の適応援助・母親の受容・母親の自立促進が有意であった。女子の適応感との相関については、母親の適応援助のみが有意であった。これらの結果を総合すると、以下のようにまとめることができる。 (a)受容については、女子と父親の組み合わせの相関がやや低い傾向が見られるが、ほぼ全ての組み合わせに共通して子どもの適応感と関係がある。  (b)適応援助については、男子は父親の適応援助と、女子は母親の適応援助との相関がやや高い傾向、つまり同性の親子間の相関が高い傾向がある。 (c)母親の自立促進は適応感と有意な相関を持つが、父親の自立促進は有意ではない。 (d)総合的に見た場合、女子よりも男子の適応感と親役割の相関が高い傾向が見られる。 (2)因果関係の考察 それぞれの下位尺度毎に相関の意味について吟味する。 受容は親子のコミュニケーションや親の子ども理解に関する下位尺度であり、この得点が高い程、親子のコミュニケーションが密であり、親が子どもを理解する傾向が大きいことをあらわす。親子関係が安定すれば、学校での適応感も高くなるであろう。つまり、親子間の情緒的安定が学校における情緒安定につながると考えられる。しかし、例えば子どもの性格や対人関係に関する能力が、受容及び適応感の双方に対して影響力を持つことによる擬似相関である可能性は否定しきれない。しかし、このような性格や対人関係能力そのものがこれまでの親子関係に規定されているということは大いに考えられることであり、その意味を含めて親から子への因果関係を考えることは妥当ではないだろうか。  適応援助は子どもが新しい経験や状況にであった時援助する傾向であり、この得点が高い程、親として子どもの困難な状況に対する関心と配慮が大きいことを示す。したがって適応援助が高い親程、子どもの学校適応感が高いという因果の方向も理解しやすい。しかし、この下位尺度についても、例えば親の適応援助を好ましく受け入れる性格傾向が適応援助を高め、同じ性格傾向が学校環境に対する適応感を高めるという可能性もありうる。 ただし、適応援助をコミュニケーションについての能力を表す1つの指標と考えることができるとすれば、適応援助が生涯に渡って繰り返される分離-個体化過程における親の支持的かかわり方を示すのではないだろうか。新しい状況、それはともすれば不安な自体であるが、親の支持的なかかわり方に支えられた子どもは、そうでない場合に比べて、心理的に安定感を得やすいであろう。そして、この安定感は、調査時点での学校適応感につながっているだろう。 また、適応援助は親の他人や外的環境との共存志向を表している。そう考えると、他人との共存志向が強く、社会的適応に関するスキルに富んだ親は、子どもにこの主のスキルを提示する機会が多く、それゆえに子どもも適応に関するスキルを身につける可能性が高い、という関係が考えられるのではないだろうか。さらに、同性の親子間の相関が高い点から、同性の親との同一視の作用が考えられる。  女子の適応感と親役割との相関が、男子よりも低い点に関しては、依存性の発達における男女の違いとして考えられるのではないだろうか。高橋(1968a、1968b)は、依存性の発達に関して、依存の対象が同性の友人さらに異性の友人への情緒的関係の移行し、発展していくことが考えられる。そのことは、女子青年の精神的なよりどころとして、相対的に親子関係が閉める割合が減少することを意味する。また、高橋は女子にとって、父親は依存の対象となりにくく、高校高学年期は、特にその傾向が強いことを述べている。それに対し、谷井ら(1993)は中学中学年以降の親子関係の衝突期に男子はこの時期を通じて親との距離をとり続けながら、自立への模索をするが、高校高学年期になると、親との情緒的関係を回復する傾向がある。 自立促進は、親の子どもの自立に対する認知や自立への期待に関する下位尺度である。母親の自立促進と男子の適応感との組み合わせにおいて、特に相関が高いこと、すなわち自立促進の働きに親の性による違いがあるのは、この期待が子どもに表現あるいは伝達される仕方が父母で異なるという可能性が考えられる。因果関係については、母親に成長を認められていることが、男子にとって情緒的安定を増すことにつながり、それが学校適応感を高めているという因果の方向がまず考えられる。また、逆に学校における安定した生活状態が、母親にとって、男子生徒の自立成長の認識を高めているという方向の因果も考えられる。 では、なぜ父親の自立促進は有意な相関を持たないのだろうか。谷井(1993)は、親役割と学校適応感の関係を明らかにする目的で、パスダイヤグラムを作成した。それによると、父親の子どもへの自立への期待感は、情緒的に支配された関係の中で伝達される場合には、子どもの適応感にプラスに作用し、支持的関係のない状況で伝達される場合には、拒否的・放任的態度として子どもに受け取られる結果、適応感にマイナスの作用を持つ、という仮説を見出している。 分離不安については、父母ともに共通して、親のある程度の分離不安は、子どもとの情緒的関係を青年期になっても維持する上で、前提となる親の基本的構えなのだろうとしている。つまり、分離不安はこの時期の母娘の間に通常見られる情緒的に安定した関係の中で伝達される場合には間接効果により、適応感にマイナスの作用をしないが、情緒的に不安定な関係のなかでは、マイナスの影響を与えるという仮説を導き出している。 なお、自身については子どもの適応感と大きな相関を持たなかった。自身は親のこれまでの子育てに対する自信や反省の指標であり、子どもよりむしろ、親側の要因に規定される面が大きいと考えられるので、妥当な結果だと思われる。 ●まとめと課題
●問題と目的 &bold(){研究の目的:} PRASによって測定された両親の親役割行動と高校生の学校適応感との関係を調べること (具体的には、どのような親の態度・行動が、子供の学校適用間に影響を与えるかを検討する。 また、その結果を、PRASの学校教育相談における活用可能性を探る材料とする。) &bold(){仮説:} (1)親子の情緒的な関係を表す「受容」と「適応援助」は適応感に好影響を与えるであろう。 (2)「自立促進」は親子の信頼関係を表すと考えられ、これも適応感に好影響をあたえるだろう。 (3)強すぎる「干渉」や強すぎる「分離不安」は、子供の適応感に負の影響を与える可能性がある。 あるいは、この2変数については、ほかの変数との関連で、負の影響を与えることがあるだろう。 &bold(){PRAS}とは、谷井・上地(1993)によって考案された、  ・「第二の分離一個体化期の親子関係を研究するための質問紙尺度」で、  ・「親が自分自身の親役割を自己評定する形式の、親役割診断尺度(Parental Roe Assessment Scale)」のこと。  ・「干渉・受容・分離不安・自立促進・適応援助・自信」の6つの下位尺度からなっている。 この論文では、これらの下位尺度と、子供の学校適応感の関係を調べるのが目的である。 なお、谷井・上地は、主に論文を引用っすることで、この実験の目的・仮説を導き出すための論拠を挙げている。 ・個人の適応の指標として、「適応感」をもちいることができる。 ・学生の適応感は、とくに学校生活における適応感で規定される ・福島(1989):「”適応とは、人と環境との「関係」を表す概念”であり、”両者が調和したよい関係にある状態を「適応」”といい、 ”不幸にして環境と個人の間に緊張や葛藤が生じている場合”が「不適応」あるいは「適応障害」と呼ばれる状態」 ・加藤・石川ら(1981):「適応感」とは、”個人が自己をよい適応の状態であると意識していることで、生活における安定感、充実感、生きがい感などを意味する” ・高木・加藤ら(1981):「小・中・高校生の場合、適応感は、”学校生活に対する満足や成績に対する満足によって規定されるところが大きい”」 ・内藤・浅川ら(1987):「学校適応感」、すなわち「学校生活場面における適応感」を扱った研究で、 「学校生活おいて重要な位置を占める、学習意欲、友人関係、進路意識、教師関係、規則への態度、特別活動への態度の6つの側面における適応感を扱」ったもの ・学校適応感には、親子関係が大きく関係してくる 谷井・上地は、独自に学校適応感に関係する変数として、「学校の物理的側面、学校の社会的・文化的側面、学校の教育指導的側面、学校における友人関係、性と本人の個人的側面、家庭環境要因」等を挙げている。その上で、同じ学校環境においても、適応感に個人差があるのは、「適応感を規定するものは客観的な環境というよりは、環境と自分との主観的な関係である」とし、よって、生徒個人の内面と、それを規定する家庭環境は、学校適応感に大きな影響を与えるとした。 ・適応だけでなく不適応に関しても、親子関係は重要である。 ・佐藤(1968)など:「親子関係は、しばしば、登校拒否の原因または背景的要因のひとつとして指摘されている」 ・親との情緒的な関係が、青年期の子供の自立・成長過程に必要である ・Mahler,Pine,&Bergman(1975):「乳幼児期の分離一個体化過程において、母親の譲歩的供給の必要性を指摘」 「この過程は、”障害を通して反響し、消して、終わることなく、常に活動している”」 ・Blos(1967):「親から精神的に離れ、自立し、個を確立していく過程という意味で、青年期を第2の個体化の時期であると主張」 ・Masterson(1972):青年期境界例の研究における母親の特徴として、子供が成長するにつれ、 「情緒的供給を引っ込め」てしまうことで「子供の自我の自然な発達が妨げられる」ことがある ・江口(1966):「依存性と自立性は対立概念ではなく、”依存性の発達変容の過程が自立性の発達過程である”」 また、谷井・上地は、先行研究から、 ・親子関係と不登校の関係についてなされた研究は、ほとんどが臨床的研究であり、実証的研究が不足している。 ・思春期・青年期の親子関係は、幼児期・児童期に劣らず重要であるにもかかわらず研究例が少ない という問題点を拾い上げている。 谷井・上地は、この点に本実験の意義があるものと考えたようだ。 ---- ●方法 ・調査対象:大阪府立A高校2.3年生の一部とその両親。       有効回答数男子84名(2年生22名3年生62名平均17.4歳)、女子87名(2年生24名3年生63名 平均17.4歳) ・実施時期:1992年11月 ・親役割診断尺度:親が自己評定する形式の尺度。干渉、受容、分離不安、自発促進、適応援助、自信の6つの下位尺度からなり、「はい」「いいえ」「どちらでもない」の3件法。 ・学校環境適応感尺度:内藤ら(1987)の高校生用学校適応感尺度を用いた。「学習意欲」「友人関係」「進路意識」「教師関係」「規則への態度」「特別活動への態度」の6つの下位尺度からなり、各下位尺度毎に6つの項目、合計36の項目から構成。本来この尺度は5件法として構成されたものだが、本研究では「はい」「いいえ」「どちらでもない」の3件法にて行うこととした。 ・手続き:     両親用としてPRAS2部、生徒用として適応感尺度1部をセットにして1つの封筒に入れ、学級担任を通じて両親及びせいと自信が家庭にて回答するよう生徒に依頼し酢実後生徒を通じて同じ封筒を使用して回収。このような方法をとったため、匿名ではあるが生徒および両親の3者の対応関係についてはわかるような調査になった。 ●結果考察 1、得点化の方法  親役割診断尺度、適応感尺度はともに「はい」を2点「?」を1点「いいえ」を0点とし得点した。(一部逆転項目は「いいえ」を2点、「はい」を2点とした) さらに、下位尺度毎に、項目得点の単純合計として、下位尺度得点を算出し、適応感尺度については、6つの下位尺度得点の合計点として適応感得点を算出した。統計処理はSAS統計パッケージを使用した。 2、子どもの適応感とPRAS下位尺度との相関分析 (1)結果 男女生徒をこみにしたデーターおよび男女別のデーターを用いて、適応感得点とPRAS下位尺度得点とのピアソンの積率相関係数を算出した。 全データーを用いた分析で、適応感と有意な相関を示したのは、父親の受容・父親の適応援助・母親の受容・母親の自立促進・母親の適応援助であった。また、性別で見た場合、男子の適応感との相関については、父親の受容・父親の適応援助・母親の受容・母親の自立促進が有意であった。女子の適応感との相関については、母親の適応援助のみが有意であった。これらの結果を総合すると、以下のようにまとめることができる。 (a)受容については、女子と父親の組み合わせの相関がやや低い傾向が見られるが、ほぼ全ての組み合わせに共通して子どもの適応感と関係がある。  (b)適応援助については、男子は父親の適応援助と、女子は母親の適応援助との相関がやや高い傾向、つまり同性の親子間の相関が高い傾向がある。 (c)母親の自立促進は適応感と有意な相関を持つが、父親の自立促進は有意ではない。 (d)総合的に見た場合、女子よりも男子の適応感と親役割の相関が高い傾向が見られる。 (2)因果関係の考察 それぞれの下位尺度毎に相関の意味について吟味する。 受容は親子のコミュニケーションや親の子ども理解に関する下位尺度であり、この得点が高い程、親子のコミュニケーションが密であり、親が子どもを理解する傾向が大きいことをあらわす。親子関係が安定すれば、学校での適応感も高くなるであろう。つまり、親子間の情緒的安定が学校における情緒安定につながると考えられる。しかし、例えば子どもの性格や対人関係に関する能力が、受容及び適応感の双方に対して影響力を持つことによる擬似相関である可能性は否定しきれない。しかし、このような性格や対人関係能力そのものがこれまでの親子関係に規定されているということは大いに考えられることであり、その意味を含めて親から子への因果関係を考えることは妥当ではないだろうか。  適応援助は子どもが新しい経験や状況にであった時援助する傾向であり、この得点が高い程、親として子どもの困難な状況に対する関心と配慮が大きいことを示す。したがって適応援助が高い親程、子どもの学校適応感が高いという因果の方向も理解しやすい。しかし、この下位尺度についても、例えば親の適応援助を好ましく受け入れる性格傾向が適応援助を高め、同じ性格傾向が学校環境に対する適応感を高めるという可能性もありうる。 ただし、適応援助をコミュニケーションについての能力を表す1つの指標と考えることができるとすれば、適応援助が生涯に渡って繰り返される分離-個体化過程における親の支持的かかわり方を示すのではないだろうか。新しい状況、それはともすれば不安な自体であるが、親の支持的なかかわり方に支えられた子どもは、そうでない場合に比べて、心理的に安定感を得やすいであろう。そして、この安定感は、調査時点での学校適応感につながっているだろう。 また、適応援助は親の他人や外的環境との共存志向を表している。そう考えると、他人との共存志向が強く、社会的適応に関するスキルに富んだ親は、子どもにこの主のスキルを提示する機会が多く、それゆえに子どもも適応に関するスキルを身につける可能性が高い、という関係が考えられるのではないだろうか。さらに、同性の親子間の相関が高い点から、同性の親との同一視の作用が考えられる。  女子の適応感と親役割との相関が、男子よりも低い点に関しては、依存性の発達における男女の違いとして考えられるのではないだろうか。高橋(1968a、1968b)は、依存性の発達に関して、依存の対象が同性の友人さらに異性の友人への情緒的関係の移行し、発展していくことが考えられる。そのことは、女子青年の精神的なよりどころとして、相対的に親子関係が閉める割合が減少することを意味する。また、高橋は女子にとって、父親は依存の対象となりにくく、高校高学年期は、特にその傾向が強いことを述べている。それに対し、谷井ら(1993)は中学中学年以降の親子関係の衝突期に男子はこの時期を通じて親との距離をとり続けながら、自立への模索をするが、高校高学年期になると、親との情緒的関係を回復する傾向がある。 自立促進は、親の子どもの自立に対する認知や自立への期待に関する下位尺度である。母親の自立促進と男子の適応感との組み合わせにおいて、特に相関が高いこと、すなわち自立促進の働きに親の性による違いがあるのは、この期待が子どもに表現あるいは伝達される仕方が父母で異なるという可能性が考えられる。因果関係については、母親に成長を認められていることが、男子にとって情緒的安定を増すことにつながり、それが学校適応感を高めているという因果の方向がまず考えられる。また、逆に学校における安定した生活状態が、母親にとって、男子生徒の自立成長の認識を高めているという方向の因果も考えられる。 では、なぜ父親の自立促進は有意な相関を持たないのだろうか。谷井(1993)は、親役割と学校適応感の関係を明らかにする目的で、パスダイヤグラムを作成した。それによると、父親の子どもへの自立への期待感は、情緒的に支配された関係の中で伝達される場合には、子どもの適応感にプラスに作用し、支持的関係のない状況で伝達される場合には、拒否的・放任的態度として子どもに受け取られる結果、適応感にマイナスの作用を持つ、という仮説を見出している。 分離不安については、父母ともに共通して、親のある程度の分離不安は、子どもとの情緒的関係を青年期になっても維持する上で、前提となる親の基本的構えなのだろうとしている。つまり、分離不安はこの時期の母娘の間に通常見られる情緒的に安定した関係の中で伝達される場合には間接効果により、適応感にマイナスの作用をしないが、情緒的に不安定な関係のなかでは、マイナスの影響を与えるという仮説を導き出している。 なお、自身については子どもの適応感と大きな相関を持たなかった。自身は親のこれまでの子育てに対する自信や反省の指標であり、子どもよりむしろ、親側の要因に規定される面が大きいと考えられるので、妥当な結果だと思われる。 ●まとめと課題 ※仮説(1)について 「受容」及び「適応援助」が適応感に好影響を持つという仮説が支持された。特に「適応援助」については、同性の親に対する同一視の作用が関与している可能性が示唆された。 ※仮説(2)について  「自立促進」は適応感に好影響を与える場合もあるが、親子の情緒的関係を欠いた状況のもとで伝達された場合には、負の影響をもたらす可能性についても示唆された。 ※仮説(3)について  「干渉」は、やや負の影響を与える場合もあるが、高校生の年齢ではそれほど大きな影響力を持たないという結果を得た。「分離不安」については、「自立促進」と同様、親子の情緒的関係を欠いた状況で伝達された場合は、負の影響を持つ可能性が示唆された。 ※今後の課題について ①「受容」と「適応援助」 本研究では、PRASの下位尺度と子どもの学校適応感との相関の意味を論じる中で、親から子の方向への因果の可能性について言及している。しかし、実際に両者の因果関係を立証するためには以下のような研究を積み重ねる必要がある。 ・PRASの下位尺度と、子どもの評定による親の態度・行動(例えばEICAなどで測定されたもの)との関係 ・子どもの人格変数との関係 また、これらの関係の検討の上で、以下の点を検討する必要がある。 ・親役割行動が子どもの親認知、子どもの人格変数などの媒介変数やまたはそれ以外の経路を通して、如何に、学校適応感に影響を与えているか ・学校適応感に影響を与えると考えられる他の変数(多くは学校に関する変数である)と親役割行動との関係 ②「自立促進」と「分離不安」 探索的な方法で得たパスモデルを用いて、適応感に対して及ぼす作用に対する新たな仮説を提示したが、今後は交差妥当性に基づく検討を経る必要がある。 ③PRASの活用  今回は、ごく普通に学校生活を営んでいる比較的健康な高校生の適応感とPRASの関係を論じたが、今後は、登校拒否、非行等の行動レベルでの不適応とに関係をも含めて分析をすすめ、PRASの学校教育相談における活用可能性をさぐっていきたいと考える。

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