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Chapter 4 「保安官事務所」

「その男は名乗ったのか?」

「ジョン・ライダーだよ!」

ジムは警官に階の下に連れていかれる途中に、警官とそういう会話をしていた。
わたくしは、取調室に連れていかれた。
壁の一部が鏡になっている。
おそらくマジックミラーに違いない。
そのマジックミラーの手前には、ビデオカメラが設置してあり、ランプが赤く光っている。
初老の警官……というより保安官だろう。
その保安官が、わたくしに座るよう促した。

「すわりなさい……」

わたくしは緊張を解かずに、その通りに従った。
取調べにどのくらいの時間がかかったのだろう。
一向に埒があかなかった。

「その男は名乗ったのかね?」

「えぇ、ジョン・ライダーですわ」

「その男をどこで乗せたのかね?」

「ここから東へ……どのくらいの距離かはわかりませんけれど、ガソリンスタンドですわ」

「なんていうガソリンスタンドだね?」

「そんな事、いちいち覚えてませんわ!目印になるようなものもありませんでしたわ!」

初老の保安官は、やれやれといった顔で調書を書いていた。

「その男を乗せたのを証言できる人間はいるのかね?」

「えぇ、ガソリンスタンドの店員が知ってるはずですわ」

「そうかね……」

わたくしの話を信用しているのかしていないのか。
どちらなのかわからないが、まともに相手にしていないといった様子だった。
だんだん、腹が立ってきた。

「わたくし達の事より、早くあの男を捕まえて下さいまし!あの男は危険ですわ!何度も言ってるように、あの家族を殺したのは、私でもなく、ジムでもなく、ジョン・ライダーですわ!早く捕まえなければ、また犠牲者が増えてしまいますわ!」

わたくしの訴えを、保安官はやれやれといった様子で聞いていた。
どうしてわかってくれないの……?
わたくしは、頭を抱えながら、保安官に聞いた。

「……ジムは、今どうしてますの?」

「地下の留置所にいるよ。『僕はやっていない』、『お嬢様と話をさせてくれ』、そう叫んでいたよ」

「……ジム……」

わたくしは責任を感じていた。
わたくしのせいで、ジムがこんな目に……。
そう責任に悩まされていると、若い保安官……ジムを連れて行ったあの保安官が初老の保安官に何かを告げるた。

「ちょっと席を外すよ。しばらくくつろいでてくれ……」

取調べ室でくつろげるわけがない。
気休めの言葉を受け止められる筈もなく、わたくしは憮然とした態度のまま、安っぽいパイプ椅子に座り続けた。

初老の保安官が出て行ってからどのくらいの時間が過ぎたのだろう。
まるで時間が止まっているかのような気がした。
マジックミラーの奥だけがひときわ存在感を出しているような気がした。
わたくしを監視しているのだろうか?

「ごめんあそばせ……。そこにいるのはわかってますわ。はやくわたくしを解放してくださいまし!そこにいるのでしょう!?」

返事がないのはわかっていた。
けれども、言わずにはいられなかった。
永遠とも、止まっているとも言える無のような時間。
わたくしは重い空気の支配する取調室に取り残されたのだ。

しばらくすると、ガチャ、というドアノブが回る音がして、取調室のドアが開いた。
不思議だった。
鍵は掛けてあるはずなのに……。
わたくしはおそるおそるドアを開いた。
……そこは、まるで無人の館だった。
人の気配がまるで無かった。
どういう事なのだろう……?
わたくしは急に不安になった……。
……嫌な予感がする。
廊下に出ると、一匹の警察犬が通り過ぎて奥へと駆けていった。
そして、奥で、何かを舐めていた。
何事かと、わたくしはゆっくりと足を進めた。
無線だけが、無の支配する空間で、音を鳴らしていた。

『○○保安官事務所へ、定期報告がないという連絡を受けた。至急、応答されたし。○○保安官事務所へ……』

その繰り返しだった。
わたくしは恐る恐る犬に近づいていった。
……わたくしは旋律した。
思わず後ずさりして、机の上に倒れこんでしまった。
……あの初老の……わたくしを取調べしていたあの保安官が……顔を血まみれにして倒れている。
顔はぐちゃぐちゃになっており、どんな死に方をしたのか、わたくしにはわからなかった。
その血まみれの顔を、警察犬は、甲斐甲斐しく舐めているのか、それとも血を味わっているのか、わからないが何度も舐めていた。
わたくしは過呼吸に陥った。
今日は一体何度死体を見たのだろう。
わたくしはこみ上げそうな物を口で必死に押さえた。
早くむごい光景から目を逸らしたかった。
だが、そうしたら、再びむごい光景が目に飛び込んでしまった。
ジムを留置所に連れて行った若い保安官が、喉をかき切られて死んでいた。
保安官事務所は、血の池で溢れていた……。

(神さま……なぜですの?なぜこのような事に……)

何度目の涙かはわからないが、わたくしは口を押さえながら、涙を流した。
何度も漏れる嗚咽。
ここは地獄だ。

『誰かーっ!ここから出してくれーっ!お嬢様と話をさせてくれーっ!』

扉の奥から、ジムの声が響いて聞こえた。
ジム……!
わたくしは、ようやく気を落ち着けると、嗚咽を漏らしながら、鍵を探した。
留置所の鍵だ。
鍵棚から、留置所らしき名前のラベルが付いた鍵を探す。
……だが、無い。
留置所の鍵だけが、鍵棚からひとつ、ぽっかりと無くなっていた。

(……そんな……!)

わたくしは、死んでしまった保安官が持ってるのではないかと、推測した。
おそるおそる、死んだ初老の保安官の傍にやってきた。
血の池に膝をつき、舐め続けている警察犬をやさしくどかすと、ズボンのポケットに手をいれまさぐった。
……ない。
わたくしは無残な状態になっている初老の保安官の頭部を見ないようにしながら、後ずさりした。
と、その手に、拳銃を握り締めていた。
……明らかに、誰かに襲われたのだ。
だから、拳銃を抜いていたのだろう。
しかし、その前に殺されてしまった……。
わたくしの動悸は強くなっていった。
保安官の拳銃を、わたくしは恐る恐る手に取った。
力の抜けきった手は、あっさりとわたくしに拳銃を渡した。
銀色のリボルバーは持ち手がべったりと血に塗れていた。
わたくしは次に、喉をかき切られて死んでいる保安官の元に近づいていった。
初老の保安官よりむごたらしい死に方はしていないが、それでも恐ろしい事には違いない。
視線を傷口に向けないように、必死にズボンをまさぐった。

(……!……あった!)

ようやく留置所の鍵を手に入れると、わたくしは留置所へいく扉を開けた。
中は真っ暗で、光がなければ何も見えない。
わたくしは中に入る前に、懐中電灯を探した。
懐中電灯は棚に置いてあり、すぐに見つけることが出来た。
ライトを点け、ゆっくりと留置所へ扉を開け、地下へ伸びる階段を下りた。

「ジム!大丈夫ですの!?」

しかし、わたくしの問いかけに、ジムの返事はなかった。
わたくしは不安になった。
ジムに身に何かが起こったのではないか?と。

「ジム!返事をしてくださいまし!」

返事はない。
わたくしはライトを照らしながら奥へと降りていった。
ライトを照らしても、奥までは光が届かず、どうなっているのかはわからない。

「ジム!返事をしてくださいまし!ジム!」

わたくしは不安で何度も叫んだ。
留置所の階につくと、ようやく鉄格子の中のジムを見つける事ができた。

「ジム!!」

わたくしは泣きそうになりながら、鉄格子に寄り添った。

「お嬢様!」

ジムもようやく安心した顔をしてくれた。

「今すぐここを開けますわ!ライトを持って、わたくしの手元を照らしてくださいまし」

「は、はい!」

古い鋼鉄の鍵を、鍵穴に入れようとするが、手元がわずかなライトの光しかないので、難儀した。
何度目かの挑戦で、ようやく鍵穴に差し込むと、鍵がまわり、施錠が外れる音がした。
鉄格子の扉が開いた。

「ジム!」

「お嬢様!」

わたくしはジムに飛びつき、抱きしめた。
ジムもそれを受け入れるように、わたくしをだきしめてくれた。
自然と涙が溢れ出た。

「ジム……ジム……上で、保安官が……」

「お嬢様……」

わたくしはなんとか説明しようとした。
けれども、恐怖と、ジムの元へたどり着いた安心感から、わたくしは声は言葉にならなかった。

ガチャン!

という音が、突然、背後で鳴り響いた。
と、同時に、何かプラスチックのケースが床に落ちるような音も聞こえた。
ジムがわたくしを抱きしめる力を強めた。
痛い程抱きしめるその腕は、わたくしをジムの後ろへとまわしていた。

「お嬢様……僕から離れないで下さい……」

「ジム……?」

ジムはわたくしを後ろに隠すと、ライトを前方へ照らした。
その瞬間、わたくしは何度も味わったあの戦慄を感じた。
黒に近い紺色のトレンチコートがうつると、ジムはだんだんライトを上にあげていった。
そしてうつったのは……ショットガンを持つ、ジョン・ライダーだった。

「……泣けるな。感動の再会ってやつだ……」

わたくしの嫌な予感は的中してしまった。
ジョン・ライダーがこの保安官事務所の保安官を全員殺してしまったのだ。

「何が目的なんだ……?なんで僕達を付け回す!?」

「目的……?わからないのか……?」

ジョン・ライダーの嫌らしい笑みが不気味に闇を背にうつっていた。
わたくしは怒りに駆られた。

「ジム、どいてくださいまし!」

「お嬢様!?」

わたくしはジムをどかすと、持っていたリボルバーの銃口をジョン・ライダーに向けた。

「〜〜♪」

ジョン・ライダーは余裕な態度で、口笛を吹いた。
そして、

「どうする気だ……?」

そう、挑発的な言葉を吐いた。

「あなたを撃ちますわ……!」

「そうかい……?」

その瞬間、目にも止まらない早さで、ジョン・ライダーはショットガンの銃口をわたくしに向けた。

「勝負といくか……?俺とお前……どっちが生きるか……死ぬか……」

わたくしは震えが止まらなかった。
銃口はガタガタと揺れ、定まらない。

「そのリボルバーはダブルアクションだ。引き金を引くだけで弾は出るが……力の弱いお嬢ちゃんには無理だ。狙いが外れる」

「……おだまりなさい……」

「そんな時は、撃鉄を降ろしたほうが、引き金は軽くて済む。……やってみろ……」

「……おだまりなさい!!!」

わたくしはリボルバーの撃鉄を降ろした。
その様子を見て、ジョン・ライダーは笑った。

「ハハハ……。それでいい!……さぁ、撃てよ」

わたくしは必死で震える手を押さえ、銃口をジョン・ライダーに定めようとした。

「ココだ……。さぁ、撃てよ……」

ジョン・ライダーが左手の人差し指で自分の額を指した。
わたくしは無意識に従うように、ジョン・ライダーの額に銃口を向けた。

「お嬢様……」

声をかけるジム。
しかし、その後の言葉がない。
ジム自身、なんて言葉をかけていいのかわからないのだろう。
ジムがわたくしをとめたら……おそらく、ジョン・ライダーはジムをショットガンで先に撃ち殺してしまうはずだ。
それをわかっているのか、止めるに止められないのだろう。
これは……わたくしとジョン・ライダーの勝負になってしまったのだ。

「ほら……俺が憎いだろう……?あの家族を殺し、保安官も殺した……。おまけにお前らは、殺人の濡れ衣まで着させられた……。この俺が憎い筈だ……。違うか?」

「憎いですわ……。殺したくて仕方がありませんわ……!」

「ハハハハ……!なら撃てよ……!ほら……チャンスだぞ……?」

わたくしは、溢れる涙を抑える事が出来ずに、ジョン・ライダーに銃を向けていた。
引き金に指を掛けている。
いつでも、撃つことができる……。

「さぁ、撃てよ!」

「うるさい!!!!」

ジョン・ライダーの構えるショットガンの銃口が、わたくしの顔を捉えていた。

「なら、こっちからいくぞ……?カウントの後に……俺は撃つ。3つ数える間に、お前は俺を殺せるチャンスを与えてやる。死にたくなかったら、さっさと撃て……!」

「…………」

「3………」

「…………」

「2………」

「…………」

「1………っ!」

その瞬間、わたくしの中の『何か』が切れた。

「あああああああああああ!!!!」

ガチッ!

金属を打つ、虚しい音が留置所内に響いた。

「ハハハハ……!どうだ?初体験……。人を殺す快感は……?気持ちいいだろう……?」

わたくしは、放心状態のまま、その場に座り込んでしまった。
……わたくしは……引き金を確かに引いてしまった……。
弾はリボルバーから出ず、ジョン・ライダーは余裕で生きている。

「弾はここだ……!」

そう言うと、ジョン・ライダーはコートのポケットから弾丸を取り出して、それを床にばら撒いてこぼした。
わたくしの持っていたリボルバーは弾が全て抜かれていたのだ。
ジョン・ライダーはわたくしに近づくと、わたくしの同じ目線まで、しゃがみこんだ。
ジムはショットガンを向けられ、身動きが取れない。
わたくしは放心状態のまま、ジョン・ライダーに問うた。

「一体……何が目的ですの……?あなたは……何がしたいんですの……?」

ジョン・ライダーは意外にも、わたくしの右頬を左手でやさしく撫でると、こう言った。

「……お前は頭のいいガキだ。……自分で考えろ……」

そう言うと立ち上がり、一階へあがる階段を上り、わたくしたちに背を向けて立ち去った。

「お嬢様…っ!」

ようやくジムがわたくしを後ろから抱きしめた。

「お嬢様……!」

わたくしは放心状態から立ち直る事が出来ずに、うわ言のようにつぶやいた。

「ジム……わたくし、人を殺してしまいましたわ……。未遂とはいえ……銃の引き金を引いて……人を……」

「お嬢様……!」

すると、サイレンのけたたましい音が聞こえた。
ジムはわたくしを抱き起こすと、地面に散らばった弾丸を拾い集め、わたくしを抱きかかえながら階段を上った。
窓からは、パトカーが何台も、保安官事務所の前に止まって、警官が降りてきていた。
ジムはわたくしを連れ、裏口から保安官事務所を出た。
沢山の警官が入れ違いに保安官事務所へ突入していくのが見えた。
わたくし達は、裏口から丘の上へ上っていった。
その時になって、ようやくわたくしは気を持ち直すと、一人で歩けるようになった。

「お嬢様……銃を」

「え……?」

「銃を僕に……危険です」

「差し上げますわ、こんなもの……」

わたくしは押し付けるように、リボルバーをジムに渡した。
苛立っていた。
その時のわたくしは身勝手にも、ジムを責めていた。

「あの時……帰っていれば……」

「僕のせいですか……?」

「してませんわ!」

「してますよ!」

「……なぜ、あんな男を乗せたんですの?」

「あ、あの男が乗せて欲しいって言ったから……!あの店員だって!」

「あんな危険な男ですのよ!?」

「仕方がないでしょう!僕だって、わかってれば乗せませんでしたよ!……お嬢様だって、賛成したじゃないですか……」

険悪な空気が漂っていた。
その空気を作ってしまったのはわたくしだ。

「えぇ……賛成しましたわ」

わたくしはジムから視線を背け、前に進んだ。
……すると……、

ガシャンッ!

という音と共に、頭上から何かが降ってきた。
巨大な鉄の塊が降ってきたのだ。
わたくしはおもわずしりもちをついてしまった。
鉄の塊は赤い塗装をしていた。
……よく見れば、あのジョン・ライダーの乗っていた赤いSUVだった。
あと数センチ前に出ていたら巻き込まれ、潰されていた。

「お嬢様っ!」

ジムが傍に駆け寄ると、わたくしを抱き起こし、降ってきた頭上方向へ、銃を向けた。
ジョン・ライダーらしき人影はなかった。

「……畜生っ!」

わたくしたちは、何かに逃げるように岩肌の露出した丘を歩いた。

わたくし達が丘へ逃げている間、保安官事務所は現場検証が行われていた。
若い白髪の男が、現場の凄惨さに苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「エスターリッジ警部補、資料です。」

若い警官が、エスターリッジと呼んだ白髪の男に資料を手渡していた。
その資料は、わたくし達が保安官事務所で取らされた写真と調書があった。

「男のほうは21歳……。女のほうは……まだ14歳か。ムリだ……。この二人には殺れない。ホシは他にいる」

エスターリッジ警部補は、銃器棚を見た。
棚から二つ銃がなくなっている。

「犯人は銃を持っている……危険だぞ。周囲に検問を張れ!手の空いてる者は周囲を巡回しろ!」

そういうと、一人の若い警官を呼んだ。

「おい、状況が知りたい。男の方は留置所にいたんだな?」

「はい」

エスターリッジ警部補は歩いて、取調べ室のマジックミラーの内側に進んだ。

「女のほうは、ここで取り調べを受けていた。そうだな?」

「えぇ」

それを聞くと、マジックミラーを指さした。

「……それじゃあ、コレは誰が描いたんだ?」

エスターリッジ警部補が指したところには、絵が描いてあった。
血で描かれた、恐らく指で描いたのだろう、女の絵だった。

「ヘリを飛ばしてホシを探せ……。奴はまだこの周辺にいるぞ」

わたくし達は一軒のトレーラーハウスにたどり着いた。

「開けて!開けてくださいまし!」

ドアを叩いて必死に懇願した。
けれども、ドアが開くどころか、人の気配すらない。

「クソッ!無人か!!」

ジムが悪態を着く。
わたくしはジムの悪態にはかまわず周囲を見回した。
……すると、遠方に……紺色のトレンチコートの男、ジョン・ライダーが見えた。
手に、今度はショットガンではなく、ライフル銃を持って……こっちに近づいていた。

「ジムっ!」

「え?……!!」

ジムもジョン・ライダーの姿を確認したのか、慌ててわたくしの手をとって走り出した。
走る先に、金網があり、その向こう側には古い黒のスポーツカーがあった。

「あの車に……!」

ジムはそう言って、金網を登り始めた。
だが……、どこからともなく、猛犬が走って近づいてきた。

「ジム!離れて!」

「う、うわあっ!?」

黒い猛犬……恐らくドーベルマンだろう、金網に近づくわたくし達を吠え立てた。
金網がなければ、おそらく、襲われ、噛み殺されただろう。
ジムは金網から慌てて降りると、わたくしの手を取り、トレーラーハウスの横の古びた納屋に入り込んだ。
埃と、蜘蛛の巣が張り巡らされている古い納屋の扉を閉め、わたくし達は息を潜めた。

「逃げ道はありませんの……?」

「無い……ありません……」

わたくしは壁になっているトタンの穴から、外の様子を伺った。

「やつは!?」

「……見えませんわ……」

ジムはリボルバーを取り出すと、弾を詰め、装填すると、外へ向け銃を構えた。

「ヤツが入ってきたら……撃ちます!」

わたくしは何も言えなかった。
おそらく、それが正しい選択なのだと、本能的に悟ったからだと思う。
わたくしは穴を覗きこみ、周囲を見回した。
ジョン・ライダーの姿はない……。
すると、しばらくして一台のパトカーが近づいてくるのが見えた。
中から警官が出てきた。
……ダイナーでわたくし達を捕まえたあの警官の一人だった。

「ここから出て、あの人に保護してもらいましょう……」

「よして下さい!またつかまるだけです!」

「でも、あの男に殺されるよりマシですわ!せめて、話だけでも……」

ジムは悩んでいるようだった。
わたくしの考えている事は、ジムも同じようだった。

「……僕が話してきます……。銃を持っていて下さい……」

ジムが銃を差し出す。
わたくしはそれをおそるおそる受け取った。

「ここから、見張ってて下さい……」

ジムはゆっくりと納屋から出ると、辺りを見回しながらパトカーへと近づいていった。
……すると、どこからか警官が現れ、ジムに飛び掛り、地面へ押し倒した。

「!?僕は何もしてない!!」

「もう逃がさないぞ……!」

そう言うとジムに手錠を掛け、無線を取った。

「こちらSO-258。男の方の容疑者を確保した。……女の方はまだだ」

ガチリ!

という音で警官は音の鳴った方へゆっくりと振り向いた。

「お、お嬢様……!」

わたくしは、撃鉄を降ろし、銃を警官の方へと向けていた。

「ジムをお放しなさい」

警官は固まったままだった。

『すぐ応援がそっちへ行く』

無線がそう告げていた。

「早くジムをお放しなさい!早く!」

警官は慌てて、ジムの手錠を外した。

「手を挙げて……。言う通りになさい……!」

「落ち着け……冷静になれ……」

「冷静ですわ……!早く手をお挙げなさい!」

警官は手を挙げた。
だが、すぐに右手がゆっくりと下ろされ、携帯している拳銃に伸びるのが見えた。

「手を降ろさないで!」

そう一喝すると、警官はすぐに手を戻した。

「お嬢様……そんな真似はおやめください!」

「ジム……銃をお取りなさい」

ジムは動揺しながらも、手を挙げている警官の銃を抜き、奪い取った。

「すみません……」

「逃げますわよ……ジム。あなたは車にお乗りなさい!」

わたくしは警官に一喝した。
手段を選ぶ余裕などなかった。
はやく逃げなくては……あの男から……!
ジムはわたくしの傍に立って、同じように警官に銃を向けていた。

「お嬢様……無茶ですよ!」

「例え無茶でも……逃げるのです!後ろをお向きなさい!」

そう言われると、警官はしぶしぶ後ろを向いた。

「ジム、あなたは早く車に乗って……」

ジムはわたくしの言葉に従って車に乗ると、エンジンを始動させた。

「あなたも……車にお乗りなさい!」

「銃を寄こしなさい……。それは子供のおもちゃじゃないんだ」

「わかってますわ……」

銃を寄こすように促すと、警官は手を伸ばした。
わたくしはそれを拒否するように、警官の顔に銃を突きつける。

「今すぐ、ここから逃げないといけませんの……。早く車にお乗りなさい!」

わたくしがそう叫ぶと、パンッ!という破裂音が響いた。
と、同時に、警官の頭部に穴が開き、パトカーに血が飛び散った。

「っ!!!!」

そんな……わたくしは撃っていないのに!?
わたくしは慌てて回りを見回した。
すると、金網の向こうの廃車になった古いバスの中から……あのジョン・ライダーがライフル銃を向けていた。
ライフル銃の銃口から煙が立ち込めていて、ジョン・ライダーはあの嫌らしい笑みでニヤリと笑うと、ライフル銃を仕舞い込んだ。

「お嬢様!なぜ!?」

「わたくしではありませんわ!」

すると、奥から別の警官が現れた。

「動くな!!」

そう言うと、わたくしに向かって発砲してきた!

「きゃああ!」

弾は幸い当たらなかったものの、いつ当たってもおかしくない。

「お嬢様!早く乗って下さい!逃げるんです!」

わたくしは転びそうになりながらも、急いでパトカーの助手席に乗り込んだ。
警官はなおも発砲し、パトカーに当たった。
ジムは急いでパトカーを発進させ、荒野を降りてハイウェイに向かった。
パトカーの無線が鳴り響いた。

『こちらSO-265!警官が撃たれた!警官が撃たれた!女が撃った!パトカーで逃走した!』

わたくし達はパトカーで必死に逃げた。
警察から……そして、あの男から。