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Chapter.5「THREAT」

HRが終わった後、ガンドルフィーニは授業のある教室に向かっていた。
途中、若き教師にして魔法使い見習いであるネギ・スプリングフィールドに呼び止められた。
なんでも用務員がガンドルフィーニの忘れ物を見つけたという。
カフェ・テラスで用務員が待っているらしい。
なぜカフェ・テラスなのか聞いたが、幼い彼は

「普段、用務員室にいないみたいなんです」

と、答え、それ以外わからないと言っていた。
昨日、何か忘れ物をしただろうか?
自宅や職員室で何か無くした形跡はなかった。
不審な呼び出しだった。

(まさか……)

ガンドルフィーニは人目につかない物陰に入ると、ジャケットの内側に身につけているホルスターから銃を取り出した。
銃はベレッタM92F。
マガジンを引き抜き、弾数を数えるとスライドを引き、弾丸を薬室に送り込み、安全装置を掛けた。

まさか、自分に接触してくるとは思ってもいなかった。
奴がこの日本に来ている事はしっていたし、5日前の新宿・歌舞伎町の事件も警察庁の公安課の友人が奴が犯人だと目星を付けていると言っていた。
しかし、警視庁も警察庁も積極的に捜査をしないと聞いた。
事件はヤクザ絡みであり、なおかつ国際的な秘密組織が関わっている可能性があるからだ。
その「国際的な秘密組織」は名称は不明だが、あらゆる国家機関・政権と関わりを持っているため、内外から圧力がかかっている。
その為、公安課の友人が一人だけで捜査しているという。
警察庁や警視庁から度々、捜査の中止命令を受けているらしい。
今回だけではない。
何度もこの日本で47号が引き起こした事件は多数ある。
だが、どれもが事故、もしくは捜査中止になっている。
すべては、日本の現政権と関わりを持つ「組織」の存在が原因だった。
友人は奴が引き起こした、もしくは関わりがあるとされる事件を調べ、まとめあげた。
それが「47号事件」。
「47号」は警察の事件分類番号ではなく、犯人の通称である。
「組織」と関わりのある犯人は、世界を股に掛けて犯罪を繰り広げている。
殺人事件とわかるだけで100件以上あり、ヨーロッパや東欧を中心に事件が起きている。
奴に名前はない。
裏の世界では、奴の事はこう呼ばれている。
『沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)、No.47(フォーティン・セブン)』と。
公安課の友人は5日前の事件の目撃者の証言から、犯人は47号だと、昨日の深夜、電話で告げていた。
彼はその時間もまだ家に帰らず、捜査を続けていたらしい。
目撃者は事件のショックでひどく動揺しており、証言に確証はなかった。
少なくとも、ニュースのネタを欲しがるマスコミ以外、警察関係者は重要な事だとは受け止めなかったらしい。
考えてもみれば当然だ。
スキンヘッドだけが特徴としか証言できていないのだ。
東京中のスキンヘッドの男を探すことになるし、第一、証言者の記憶にすぎないのだ。
スキンヘッドの男ではない、誰かが犯人の可能性もある。
事件のショックで記憶が混乱しているとも考えられる。
だが、公安の友人は47号に違い無いと息巻いていた。
ガンドルフィーニもそう思っていた。
この世に偶然は存在するが、偶然は何度も重なったりしない。
だが、彼の前には国家の圧力という大きな壁がある。
友人の一人として助けたいのだが……。

(まさか、奴が私に接触してくるとは……)

これは本当に思ってもいない事だった。
正直な話、友人が抱える事件は対岸の火事だと思っていた。
自身も有能な魔法使いであるガンドルフィーニと、公安の友人は、魔法絡みの事件で何度か世話になっている。
もちろん、友人は自分が魔法使いであることは知らないし、魔法絡みの事件もそうである事を教えていない。
あくまで警察機構の力を借りるだけだった。
また、その礼として、警察機関だけでは対応しきれない事件をそれとなく気付かれないように解決してきた。
二人には魔法という秘密の壁は存在しつつも、持ちつ持たれつの関係だった。
それが今回は飛び越えて、いきなりこっちに来た。
奴は手練の犯罪者だ。
カフェ・テラスでどんな風に待ち構えているかわからない。
しかも公共の場所を指定してきた。
大げさな行動は出来ないだろう。
だが、指定された場所に行かなければ、どうなるか?
ガンドルフィーニは小さな声で何か言葉を呟いた。
物理的な衝撃から身を守る「魔法障壁」。
いざという時は役に立つだろう。
意を決してガンドルフィーニはカフェ・テラスに向かった。

カフェ・テラスは人数もまばらだった。
カフェのスタッフの女性が数人。
後はやはり授業の時間の為に、生徒や教師の姿はなかった。
周りを警戒してカフェの一角に腰を下ろした。
壁を背にした位置に座り、死角に人影が入らないように気を配る。
すると、ガンドルフィーニを目にしたカフェの女性スタッフが駆け寄ってきた。

「ガンドルフィーニ先生。用務員の方から忘れ物を預かってます」

「えっ!?」

女性スタッフは手にしている茶封筒をガンドルフィーニに差し出した。

「あ、ありがとう」

ガンドルフィーニがそういうと、女性スタッフは笑顔でカウンターに戻っていった。
渡されたのは、内側に緩衝剤が入った茶封筒だった。
封を開けずとも、長方形の物体が中に入っているのがわかった。
中の物を取り出すと、それはデジタルカメラだった。
怪訝に思ったガンドルフィーニはカメラの電源を入れた。
内部のメモリに入った写真を閲覧する。
最初はなんでもない、普通の写真だった。
だが、最後の方に写っていた写真に驚愕した。
それは、女子生徒の寝顔の写真だった。
合計3枚。
女子寮の部屋に忍び込まなければ撮影は不可能な写真だった。
そして、その写真に写っている女子生徒に見覚えがあった。
早乙女ハルナ、綾瀬夕映、宮崎のどか。
ネギ・スプリングフィールが受け持つ女子中等部3年A組の生徒だった。

(なんて事だ……)

この写真があるということは、彼女達にいつ危害が加えられるかわからないという言葉無きメッセージだった。
写真の撮影時間を見ると早朝の時間帯であり、しかも3枚は1分の間に撮られている。
自作自演は考えずづらい。
そして、メモリの最後の写真は、一枚のメモを撮影したものだった。
文章の文字を読み取れるように、写真を何枚かに分けて撮影されている。
メモは英語でこのように書かれていた。

『私はお前の名前を知っている。
だが、私は私の名前がわからない。
お前は私を知っている。
だから、私はお前に尋ねよう。

私は誰だ?

(ここから二枚目の写真になっている)

私がお前に渡したカメラには、お前の学校の生徒の写真が写っている。
お前はそれを見たはずだ。
それなら、その意味を理解しているはずだ。
お前は私に協力するだろう。
そうしなければ、刃が彼女達を貫くだろう。
また他の生徒も例外ではない。
いや、生徒だけではない。
この学校すべての教員も例外ではない。

(ここから三枚目の写真になっている)

すべてはお前の行動にかかっている。
お前のするべき事はひとつ。
私に真実を伝える事だ。
だが、私に接触することは、私が認めるまで許さない。
お前はお前が考えるやり方で、私に接触せずに真実を伝えろ。
私が何者なのかを。
お前の仲の良い友人にでも聞くが良い。
私はお前を見ている。

今も良くお前の顔が見えている。』

最後のメッセージを読み、思わずガンドルフィーニは辺りを見回した。

(……奴が、近くにいる?私を監視している?今も!?)

だが、それらしい(最も、誰が『奴』かはわからないが)人物はいない。
ショックを与えるブラフかとも思ったが、すぐにそんな考えは消した。
友人から聞いた『奴』はそんなブラフはしない。
本当に監視するだろう。
どこからともなく、おぼろげに。
人の気配を察知する魔法もあるが、だからといって特定の人間を察知することは出来ない。
第一、いったい誰が『奴』なのかわからない。
『奴』という個体・個性を認識するまで、『奴』であると判別できない。
まさしく幽霊(ゴースト)だった。
ガンドルフィーニは頭を抱えた。
ネギ・スプリングフィールドの受け持つクラスの生徒を人質にされた。
いや、彼女達だけではない。
この学校全員が人質なのだ。
『奴』の意にそぐわない行動をすれば、学校の誰かが死ぬことになる。
このカフェ・テラスを出たら、一切の言動に注意せねばなるまい。
自分の迂闊な行動が、人質の身に危険が及ぶ可能性があるからだ。

(……くそ、彼に聞いた通りだった)

いっその事、奴が現れてくれればよかった。
そうすれば、手段を選ばず、拘束することができた。
だが、姿を現さず、そして一切の行動を束縛されてしまっては、奴を特定することは難しい。
奴……47号が『沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)』と言われる所以がわかった気がした。