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『まおーさまと僕』



 空が三分に敵が七分とはこういう光景を言うのだろうか。
 ビルの屋上にて、深夜にも関わらず光輝に満たされた空を見上げながら、少年は考えた。
 まだ十代半ばだろうか。利発そうな、線の細い顔立ちだ。
 今まで絶望的だった事は多々ある。便器に顔を押しつけられたり、喉に傘を刺されて入院したり、体育倉庫でマットに巻かれて3日間放置されたり。
 けど、今日のこれはいくらなんでも酷過ぎやしないだろうか。
 神様は僕が嫌いななのかもしれない。いやまあそもそも、その神様が敵なんだけど。
 が、今回はいつものいじめっ子の時とは違う点が一つ。
 味方がいるのだ。
「まおーさま!」
 いじめられっ子からデビルサマナーレベル1へとクラスチェンジするきっかけとなった大悪魔、まおーさまが傍らにいた。
 ちっちゃい。
 きつねのようなツリ目、髪の毛は透き通ったピンク、同色の殿上眉、前髪ぱっつんにセーラー服の美少女だ。
 ちっちゃい。
 大事なことだから2度言いました。
 彼女こそがまおーさま。推定年齢137億歳。宇宙開闢とほぼ同時に誕生したとされる大魔族だ。
「ふふふ……久しぶりの戦場じゃのう。もっともあの頃とは環境は異なるが」
 少年はまおーさまの本気がどれくらい強いのかは知らない。だが途方もなく強いのだけは間違いない。いじめられっ子の勘である。
 少なくともあの輝ける軍団が、軍団全部まとめてさえまおーさまより格下なのは確かだ。
 それでも不安になって、少年は聞いた。
「どうするんですかまおーさま!?」
「ふっ……任せておくがよい。」

 めきょめきょめきょ

 そんな音がする。
 まおーさまの姿が歪んでいく。まるでモザイクがかかったかのようにピントがぼやけ、荒くなったかと思うと、空に向かって膨れ上がり始めた。
 まるで竜巻をその根元から見上げているみたいだ、と少年は思う。
 黒い竜巻はそのまま、今度は荒くなった姿が急速に細かくなっていく。

 かつて世界を構成する力が四つに分化する以前に、神魔は生まれた。
 そこでは重力も電磁気力も、強い力も弱い力の区別もなく、物質もまだ生まれていなかった。
 宇宙が冷え、エネルギー密度が下がるにつれてそれらの力は分かれ、物理法則も定まっていった。
 超高密度エネルギー生命体である神魔は、自らに働く物理法則を自在に設定することができる。
 更には、それを外部の空間に及ぼすことすらも。
 真空を低準位状態へと相転移させることで無理やりエネルギーを絞り出しながら、瞬きする程の間にまおーさまはその戦闘形態を露わにした。

 まおーさまの本体は《魂》と呼ばれる無限小の超高密度エネルギー凝集体である。
 それはビッグバン当初に匹敵する高エネルギー状態を維持し、大きさがないために伝達時間なしで思考する、究極の生命形態なのだ。
 そして彼ら神魔は《魂》を保護するため、体と言う鎧を纏う。
 ―――非バリオン物質で構成された《霊体》と、我々人類と同じバリオン物質からなる《肉体》―――
 身を守るのは岩盤のごとき漆黒の鱗。万物を切り裂く鉤爪を備えた凶悪な腕。あらゆるものを見通す1000の目。敵を噛み砕き、喰らうための牙。宙を泳ぐための長い尾。
 その姿はまさしく―――
「キモいよまおーさま!」
 一言で言い表すとこうなる。
 なんか露骨に悲しそうな巨大まおーさま。
 慌てて少年は取り繕う。
「で、でもそのキモさが僕は好きかなっ!?」
 あんまフォローになってなかった。
 が、これで気を取り直したまおーさまは雄たけびを上げた。
『ヒャッハー! 天使は消毒だー!!』
「まおーさま、それだとやられ役だよっ!』
『ナヌ!? それでは華麗に勝利したら視聴者の皆様がたに申し訳が立たぬ!』
「そ、そういう問題なの!?」
『ウム。というわけで消毒は撤回するのじゃ。』
 そもそも今のまおーさまはテレビ越しに見るだけでもSAN値直葬になりかねない巨体と恐ろしさを兼ね備えた超巨大怪獣である。体長は光の巨人の300倍くらいありそうだ。名前通りきちんと魔王に見える。
『では、人働きするかのう。……どぉりゃぁぁぁぁっ! 魔王ビームっ!!』
 そのネーミングはどーなんだ!?と突っ込みどころ満載な技名を叫びながらまおーさまが口から放ったビームは、空を埋め尽くす天使の軍勢の3割を薙ぎ払う。一番小さい個体でも数十メートル、大きいのならキロメートル近くあったのにも関わらず。
 まおーさま、本当に強かった……!
 感動すら覚えつつ、少年は心強い味方を見上げた。
『おっと。来るぞよ。じゃが安心しておれ』
 少年は指示通り安心した。そうすることは簡単であった。まおーさまを心底信じていたからである。
 反撃が来た。残った軍団が、次々と手にした剣や槍、弓などを構え、光弾や矢を放ってきた。
 まおーさまは、むしろ自分からそれらの攻撃に当たりにいった。両手を広げた彼女の全身に、無数の攻撃が突き刺さる。
 突き刺さったように見えたのだが。
 それらはベクトルを反転させると、発射した当人たちへ跳ね返った。
 無論まおーさまにダメージなど存在しない。
「凄い……凄い強いやっ!まおーさま!!」
 もはや圧倒的実力差を見せつけたまおーさま。
 超新星爆発やクエーサーすら凌駕するエネルギー状態による質量・慣性制御で攻撃自体を反射したのだ。
 もはや軍団は半壊状態であった。
『愚か者どもが……不甲斐ない』
 声が響いた。
 重厚な声だ。荘厳な声だ。恐ろしい声だ。
 少年は見た。
 ひときわ大きく、そして強く輝く天使が、己を睥睨していることを。
 まおーさまに匹敵する巨大さだ。
『ふんっ。久しぶりじゃのう。ようやく出てきおったか。手下の陰に隠れてぶるぶる震えるのをやっとやめたか?』
『何を馬鹿な事を。貴様こそ、長年の封印で頭がボケたのではあるまいな』
「ま、まおーさま。あいつは……」
『“天使”どもの軍団長の一柱じゃ。好きに呼ぶがよい。本来の名前はわらわと同じく人間には発音できぬ』
「長……ミカエル」
 そもそも天使や神、悪魔と言う呼称自体が人間のあてはめたものに過ぎない。
 彼らは単に宇宙で最初に発生した強大な知的生命体と言うだけであり、神にも等しい力を持っているのと実際に神であるのとはまた別の問題だ。