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【OP1】
ぱちり
ぱちり
(駒の音
「何を成されているのですか?」
「ああ、ちょっとチェスを教えてるんだ」
「ちぇすー」
「ちぇすおもしろいのー」
「チェス…ですか?」
「3次元にした変種だけどな」
「はあ?」
「俺の世界のゲームだよ」
「げーむ……勝敗を決めるためのルールや環境または他人との相互作用を元にした行なわれる活動ですね」
「ああ。それに、普通は楽しみのために、がつくな」
「勝敗を競うことを楽しまれるのですか?」
「地球発祥人類は、生存競争に適応していく結果、勝敗を競うことを楽しむようになってんだよ」
「なるほど」
「まあそういうわけでやってみたんだが、コマの動きが単純すぎるってクレームがついてな」
「簡単なのー」「ぱぱとってもよわいのー」「戦いにならないのー」
「つーわけで元来2次元的に動くルールを3次元にしてみたんだが……結果は見ての通り」
環境AIがルールを表示してくれる
「なるほど、ルール自体は単純ですが……勝ってるのはどちらも最初の数戦だけじゃないですか」
「しょうがないだろ。人類最高峰のチェスプレーヤーならともかく俺は素人だぞ」
「宇宙最高の戦闘用知性のチビちゃんどもに勝てる道理ないわ」
「うちゅうさいこうなのー」「なのー」「ちてきなのー」
「正直、何でおれが教育係に採用されたのか理解に苦しむね」
「何度も説明はしたはずですが」
「実感が湧かないってことだよ。俺が多元宇宙で最高の戦闘能力を持つ?ありえんってば」
「お前さんところの警備ロボット1体にデコピンで倒されたぞこの間の訓練」
「おかしいですねえ……生命に関わる状況ではないからでしょうか?」
「いやいやいやいや。初めて君と会った時のこと思いだせよ。俺、実験材料にされてて死ぬ寸前だったぞ」
「君に救出されてなかったら実際死んでたわ」
「私と出会ったこと。それ自体があなたの力なのかもしれません」
「どういうロジックで俺が最強だって結論出したのか教えてくれ。出来るだけ平易に」
「うーん。この言語ではちょっと難しいですね……」
「どういう特性があるかは説明できますが」
「いかなる状況に追い詰められても貴方は決して死にません」
「いかに絶望的な状況になっても、貴方はその困難を打破する手段を得ます」
「説明になってないような……」
「せつめいになってないのー」「ないのー」「なってないー」
「その手段こそ、その子たちです」
「へ?」
「その子たちは、貴方に進呈します」
「おいおい」
「元々その子たちは、貴方のために建造されたのです。どうぞご自由にお使いください」
「ご自由にって……ものじゃないんだし…いや兵器だけどさ。それに俺に何をさせる気だ」
「貴方がなしたい事を成してください。あなたが自己の保全のために戦う限り、それはこの多元宇宙全体の保全につながるはずです」
「いや、そこまでスケールのでかい事する気ないんだが……そりゃ自分の身は守るけどさ」
「あなたが生きていくためにはこの宇宙は必要なはずです。違いますか?」
「違わないが…」
「つまりこの宇宙を滅ぼす者があれば、貴方は戦うことになります」
「この宇宙って…俺は元の宇宙に戻りたいんだけど」
「構いません。我々が直面しているのは多元宇宙規模の危機です」
「……ひっでー」
「最終的には、この子たち技術実証機は、この3人を含む14体前後が建造される予定です。その後量産試作型を運用した後、実戦用の個体を製造します」
「まさかと思うがそれ、全部俺が面倒みんの?」
「当然です。ああそれと。これを」
長い棒のようなものを取り出す
「なにそれ?」
「貴方の新しい腕です」
「ああ、それを届けに来てくれたのか…前置き長かったなあ」
棒に巻かれた布をするする
「上の服を脱いでください」
「ほいほい」
「接合しますね」
「ほへ?」
次の瞬間にはくっついている腕
「……過程もクソもないなあ。時間が吹っ飛んだようにしか思えん」
「それが我々の特徴ですから。どうですか?」
「…おお、感覚ある。動く動く!!」
「それはよかった」
「でも何で黒いのこれ?形が全く一緒だからなんか異和感あるなあ」
「形状は成功したのですが、色彩については難しかったので……その子たちと同じ構造ですから」
「え。じゃあこの腕、物理的実体ないの?」
「はい。ですが日常の運用には問題ないはずです。」
「そらあったら困るけどさ」
「高度な思考能力があり、また、今後建造される予定のシリーズのデータが全て内包されています」
「えー…なんでそこまで」
「いざとなれば迷わず使ってください」
「……つまり、使う必要があるんだな?」
「ごめんなさい。私の手で貴方を故郷に返すことは出来ないかもしれません」
「……何が起こるんだ」
「私は死ぬかもしれません。殺されると言う形で」
「そうなれば貴方を守れません。ですが、その腕と、その子たち、そしてまだ生まれていない子供たちが貴方を守るでしょう」
「私の代わりに」
「……面白くないな」
「ええ、全く。ですから、お願いに来ました。生き延びてください。そして、この多様性に満ちた美しい、多元宇宙を守ってください」
「だから…あなたたちも、パパをしっかり助けなさい。私からの最後のお願い」
「ままー」「しんじゃやだー」「やだー」
「大丈夫。ただでは死にませんから」
「……幸運を祈る。神でも仏でも悪魔でも、とにかく君を助けてくれそうな存在全てに」
「うふふふ。…それでは私はここで。これ以上ここにいれば、貴方がたを察知されてしまうかもしれませんから」
それが、彼女を見た最後の記憶だ。
さほど遠くない未来。そこには戦いの運命が待っている。





【OP2】
ここで神の視点というものを想像してみよう。
神は天にいるものだとすると、そこは遥か上空だろう。
暇な神様の一人や二人くらい探せばいるかもしれない。
高度は仮に衛星軌道上くらい。理由は特にない。
この高さから肉眼で、地上を見下ろしてみよう。
青々と広がる草原、森、湖。
人間なんて米粒ほどにも見えない。
―――そんな中、明らかな遺物がデカデカと存在を主張している。
1つは建物。
とてつもなく大きい。真上から見下ろしてみると正方形の形だ。
もう一つは人形。ずいぶんずんぐりとしているが、ごっつい肩、小さな頭。前に伸ばした手。
多分人型だろう。あり得ないほどデカいが。
そして最後に―――蛇。にょろにょろとしてぬめっとしたあれである。
今もにょろにょろとその真っ黒な胴体をくねらせながら、巨人と対峙している。
身長だけなら多分、巨人より大きいだろう。
細長いし。
さて。一通り観察を終えたところで、いい加減神の視点をやめ、地上の当事者たちと同じ視点に降りてみるとしよう―――

そこは戦場であった。
白き巨人と黒き竜が対峙する。
どちらも途方もなく大きい。
巨人は身長10kmはあるか
ずんぐりむっくりした体格に、肩には人間を一人、載せている。
対して空中を自在に泳ぐ巨龍は、全長が13kmもあった。
漆黒の鱗を持つ異形の龍。首元には、現地の言語で「テュ=フォーン」と刻まれていた。





「死ぬー!!死んでしまうわー!?」
絶叫
テュ=フォーンの肩にがっしりとしがみ付いて離れない。
離れれば死ぬ。多分
そこは高度15kmの地獄のような環境だ。
風が冷たくて気持ちいいどころの騒ぎではない。
とか言ってると光条が一閃。
「も、もうちょっと揺れないように戦えないか!?」
状況だけを見ればピンチどころか押していた。
今彼が乗っているテュ=フォーンをはじめとする《嵐の姉妹》は、物理法則に従った、否、物理法則を利用したありとあらゆる攻撃に対する完全な耐性を備える。
量子以下の微細な揺らぎの集積体が物質という形に汲みだしたエネルギー、それこそが彼女たちの肉体であり、水を刀で切れないのと同様、いやそれ以上に物理攻撃が通用する余地はない。
本体は量子以下の大きさなのだ。量子以上の大きさしか扱えない物質世界の物理法則では、例え空間兵器だろうが通用することはない。
が、だからと言ってそこにしがみついている人間が不死身になるわけではないのも言うまでもない。
つまりは今、そういう状態にある、ということだ。
言いかえれば今守られている当人だけが極めて危険な状況にいると言うことでもある。
大ピンチ。
死ぬかもしれん。
今のところ、姉妹の肉体は敵の攻撃を完全に喰いとめているが、貫通する可能性は多分にある。
先ほど水に例えたが、水が攻撃を貫通されても平気なように、姉妹も体を貫通されて平気なだけで攻撃自体を完全に弾き返すわけではない。
『もうちょっと頑張ってパパ!!』
あんまり可愛らしくない、50の頭が同時に叫ぶ。
とりあえず凄くコワいです。
一つあたり100の目玉とぎっしり牙の生えそろったごっついお口を持ち、漆黒の鱗に覆われた異形の顔はどう見ても怪獣。
『あっ』
つい敵手への注意が逸れた瞬間
父と慕う男を庇っていた30本ほどの腕の隙間を抜け、レーザーが肩に命中。
父の肉体が、左腕一本を残して消滅する。
『嘘、そんな……ってあれ?』
恐ろしい光景を目の当たりにした直後。
腕の断面から黒い触手が無数に生え、真空からエネルギーを汲みだし、物質化し……
たちまちのうちにそこに現れたのは、一糸まとわぬ父の健康的な肉体。ただしお腹にちょっとお肉がついているのはご愛敬。
『……パパぁ。びっくりさせないでよ!』
「あー……」
腕を見、自分の身体を見、頭ぽりぽり
「このための腕か……」
『もう大丈夫ということでいいね!」
「いやまあそう……ってうぎゃー!?」
心配無用と分かったからには心配などしない割りきりのよい娘であった。この姿で娘と言っても通じるかどうか不安だが
50対、合計100本の腕の過半数が、眼前の白い巨人へと向けられる。
瞬時に伸長。
機械仕掛けの巨人の肩に乗る仮面の人影は、即座に可能性組み換えを実行。
即座にテュ=フォーンに対する直接のそれが失敗したことを認識。
並行宇宙との微細な障壁を無数にこじ開け、無限大の質量を凝集した防壁を構築した。
多元宇宙そのものに匹敵するこの防壁もしかし、対神兵器として生み出されたテュ=フォーンには無力。
腕は防壁を紙のように突き破り、あっさりと巨人を貫通。
仮面は即座に巨人より離脱。そのまま虚空へと姿を消した。
「…逃げられたか……」ぐったり
『パパ、お疲れ様!』
「…戦い終わったばっかりなのに元気だねえ……ところで他の二人はどこ行った』
どっすん
実際に起こった轟音はそんなものではなかったが、イメージとしてはそんな感じで真横に落ちてきたのは一匹の巨狼
全長8km。《嵐の姉妹》技術実証機二号機、ハティ
反対側から閃光が迸る。
空間に突如として出現したのは、内側に青白い光を溜めこんだ巨大な環だ。
直径11km。同三号機、ウロボロス。
「……無事だったか」
今ここに揃った3体の魔神こそが、彼に与えられた唯一の武力だ。
研究データは既に彼の左腕にしか存在しない。
対抗しうる兵器が開発されるまで、まだ時はあるだろう。
対して、彼は研究データを元に後継機を生み出すことができる。
将来の展望はあるのだ。か細いものではあるが。
「……酷いことになっちまったなあ」
見下ろした先は、この世界に来てからの大半の時を過ごした研究所があった。
絶望の時、救われた時、三つ子と引き合わされた時、そして彼女と出逢った時。
重要なイベントの全てがあそこで起こっていた気がする。
だが、もうここにはいられない。
旅立ちの時だ。
「……行こう」
『パパ、これから一体どうするの?』
『………』
『皆なくなっちゃった……』
「故郷に行こう。いつか、俺の故郷に。』
『パパの故郷?』
「ああ、いいところだぞ。この宇宙ほど科学は進んでないがな」
『そっか、帰っちゃうんだ……じゃあ、何としてもパパは故郷に返してあげる』
「何他人事みたいに言ってるんだ。お前らも来るんだよ」
『え……』
「いやなら強制はしないが…どうする?」
『『『行く!!』』』
「決まりだ。…最終的には並行世界間を移動できるゲートを確保せんとなあ……長い旅になりそうだ」
『うん……」
「さあて、ずらかるぞ」
空を見上げ、言う。
「旅立ちだ」
ただし全裸だ。