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664 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:44:36 ID:mVrqxCHs 『ヤンタクロース・サンタガール』 「あの……できれば、この状況について説明していただきたいのですが」 滋郎(じろう)は、非常に困惑していた。 それは十二月二十五日の朝。独り淋しい生活を続ける滋郎が、いつも通り独り起床した時のことである。 「あの……朝食をおつくりしましたので……まずは、食べてください」 顔を赤くしながら応える少女。 もちろん、生まれて二十三年間の間、女性と付き合うことはおろか、手さえ握ったことの無い滋郎には、実に覚えの無い人間だった。 知り合いではないことに加え、なぜ、知らないうちに家に入り、エプロンをかけ、朝食を作っているのか。 皆目見当もつかない。 まあ、相手からは敵意は感じられないし、説明してくれるということなのだろうから、と、滋郎は椅子に座った。 テーブルの上に、少女は食器を置いていく。 「おお……」 思わず、滋郎は声を漏らした。 家の冷蔵庫の中の適当な賞味期限ギリギリの食材たちが元になったとは思えないほどの美味しそうな朝食ではないか! 「あの、いただいて、いいんですか?」 「はい。そのために作ったんです」 一応、訊いた。不法侵入者にこういうことを言うものかと思うが、少女はそう言った犯罪的な、泥棒的な何かと無縁の存在に思えた。 だって――どっからどう見てもサンタだし。 ずずっと、薄め(滋郎の好みの加減だ)の味噌汁を啜り、一息つき、言う。 「サンタさん、なのかな?」 「あ……」 少女はもともと赤くしていた顔を、さらに赤くした。来ているサンタ装束と同じような色に染まっている。 訊いちゃだめなことだったのだろうか。滋郎は一瞬だけ罪悪を感じたが、やめた。冷静になるべきだ。 「はい。そうですね、言い忘れていました。わたしは、サンタガールをしています。『サンタ=マリア』と申します」 「はぁ、それはご丁寧に。でも、なんたって僕の家に。それに、深夜にプレゼントを渡すとかならまだしも、もう朝ですけど」 「そ……それは」 内気そうな少女、マリアは、もごもごと口篭もり、言った。 「わたしが……プレゼント、なんです」 665 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:45:06 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ 時はさかのぼり、十年前のクリスマス・イヴ。 その時、マリアは十歳。滋郎は十三歳であった。 マリアは、当時現役サンタクロースだった祖父につれられ、トナカイそりで聖夜の空を疾走していた。 「うわぁ……。おじいちゃん、人間界には、こんなにいろいろな『光』があるんですね」 「ほっほっほ。マリアは人間の『光』が見えるのじゃなぁ。こりゃ、将来大物サンタになるのう」 「人間の『光』?」 「そうじゃ。わしらサンタは、プレゼントを渡すことで、彼らの『光』をすこしずつわけてもらって生きるんじゃよ」 「そうなんですか……。すっごく、綺麗な光ですね」 「マリア、綺麗な光と、汚い光は。その違いは、見えているかの?」 「綺麗と、汚い……? 確かに、個人差があります。子供が綺麗で、大人は汚いです」 「一概にそうともいえんがのう。確かに、大抵はそうじゃ」 「どうして、同じ人間でも、違うんですか?」 「それはのう、この『光』は、人の『願い』『執着』『夢』そのものだからじゃ。大人になるに連れ、人はそれらの呪縛にがんじがらめにされていってしまうのじゃ」 「悲しい、ことですね……」 「じゃが、例外ならある。『恋心』じゃ」 「恋……?」 「恋をしている人間の光は、そのどれもが美しいのじゃよ」 「……」 「わしも、ばあさんと出会ったときは、それはそれは……」 また始まった。と、祖父ののろけ話には耳を塞ぎ、マリアは空を駆けるそりから身を乗り出し、地上の光をみつめた。 たくさんの光がうごめいて、まるで蛍。しかし、ぱっと見ただけでは気付かなかったが、綺麗な光は、目立つが実際は少ない。 殆どは闇のようなどす黒い光だった。 「……あ、あれは」 マリアは、その中に妙なものを見つけて、思わず手を伸ばしてしまった。 「あ――」 ひゅう。 マリアの小さな身体は、簡単に空に投げ出されてしまった。 「ばあさんとの情熱的な恋は、わしの『幻惑』能力抜きには語れんじゃろうな。お前にも遺伝していれば~」 祖父は、未だ嫁とのラブストーリーに陶酔していた。 666 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:45:37 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ ぼふん。 雪がクッションになり、マリアは殆どダメージを受けずにすんだ。 しかし、雪の塊に全身をつっこませてしまったため、せっかくの子供用サンタ服がびしょぬれだった。 「おじいちゃんにもらったのに……」 ぐずぐずと、涙を流すマリア。 「おい」 そこに、1人の少年が現れた。 「……?」 「びしょぬれじゃないか。雪遊びもほどほどにしろよ」 少年は、悪態をつきながらも、自らの上着を脱いでマリアに差し出した。 「寒いだろ。これ、やるよ」 「え……。でも」 「やるって」 強引に押し付け、少年はさっさと走り去った。 「おーい、マリアー!」 サンタクロースがそりで駆けつけたのは、それから少ししてからだった。 そこには、びしょぬれではあったが、この上なく幸せそうな顔をした孫の姿があったという。 ♪ ♪ ♪ 「で、その時の少年って言うのが、僕、と。そういうことですね」 滋郎は、正直困っていた。確かに、いい話だ。いい話ではあるが、さっぱり身に覚えが無い。 「人違いでは?」 「いいえ。サンタのデータベースでちゃんと確認しましたから……。滋郎さんが、あのときの男の子で、間違いありません」 そう言うと、マリアはプレゼント袋をごそごそと探り、子供用の上着を取り出した。 「これ、お返しします」 「え、いいですよ。あげたんだし。今更もらっても、僕は着られないし」 そりゃ、マリアにも使い道はないのだろうが。滋郎はココロの中でそう付け加えた。 「それで、君はこの上着をわざわざ返しにきてくれたんですか?」 「あ、の……その……」 「?」 「プレゼントは、わたし自身だと、さっきも言ったと思いますが……」 「うーん。すみませんが、いまいちピンとこないというか……」 「恩返しがしたいんです……。家事でも、なんでもします。ご迷惑はおかけしません。この家に置いてください」 マリアは、そう言って床にひれ伏した。 「ちょ……ちょっと! やめてください!」 「……?」 「何年も前の恩じゃないですか。それに、当然のことをしたまでですから、感謝してもらっただけでも嬉しいですよ」 「しかし……。それでは、わたしの気がすみません」 「うーん」 滋郎は、しばらく考えて、応えた。 「なら、来年のクリスマスまで、家で家政婦さんをしてもらう、というのは?」 「は、はい! ありがとうございます! 頑張ります!」 「お礼を言われるとは思わなかったけどね……」 一年という長い期間が、若い娘なのに苦にならないのだろうか。滋郎は、断られると思って提案したのだ。 まあ、言ってしまったものは仕方が無いと、滋郎はマリアを受け入れることに決めた。 667 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:46:07 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ それからの滋郎の生活は、刺激的で楽しいものとなった。 滋郎は御神グループ系列の、なかなか良い会社に努めており、将来はなかなか明るい部類だ。 そんな彼に唯一足りないのは、女性に好かれること(彼は『いい人』で止まるタイプだった)と、家事の能力。 マリアは、そのどちらも満たす存在だった。 マリアは献身的に滋郎に尽くし、精一杯の愛情を注いだし、滋郎はそんなマリアを大切に扱った。 二人は、間違いなく幸せだっただろう。 が、唯一、かみ合わない点があった。 滋郎は、マリアの愛に全く気付いていなかったのだ。彼は、あくまでマリアの目的が『恩返し』なのだと思い込み、彼女に手を出さなかった。 それでも、二人の間には何も問題は生じなかった。 そういうすれ違いがあろうが、マリアは滋郎のそばで暮らせることだけが幸せだったからだ。 しかし、約束のクリスマスは、待ってはくれなかった。 ♪ ♪ ♪ 「そろそろ、クリスマスですね」 食卓で、マリアはそう切り出した。 「そうだね。君はいつもサンタの衣装だから、見慣れてしまってどうにも気付かなかったよ」 滋郎は、ははっと笑う。その笑顔を見て、マリアも幸せを感じていた。 「そっか……。もう、クリスマスか。君とも、そろそろお別れなんだ。淋しくなるね……」 だから、滋郎がぽそっとそう漏らしたことにも、気付かなかった。 668 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:46:38 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ そして、クリスマス・イヴ。滋郎はこんな日にもしっかり出勤し、仕事を終えて家に帰ってきた。いつもより遅かった。 「お帰りなさい、滋郎さん。今日は、クリスマス・イヴだからちょっとだけ豪華なお食事を用意しました」 「うん、いい匂いだね」 マリアと滋郎は食卓につく。すると、深刻そうな顔をして、滋郎はこう切り出した。 「明日で、お別れなんだね。淋しくなるな」 「え……」 予想だにしていなかった――ココロの中から、自然に消してしまっていたことが、マリアに突きつけられた。 「ありがとう。こんな僕のお世話をしてくれて。本当に、感謝してるよ」 「……で、でも、わたしがいないと、滋郎さん、困って……。やっぱり、これからも、ずっと……」 「君は若い女の子だ。自分の時間を大切にしなきゃ。……大丈夫、僕もこれから何とかやってくから」 「でも……」 「今日ね、会社の女の子に、告白されたんだ」 「……!」 「その女の子は、本当にいい子だよ。僕も、彼女となら暮らしていけるんじゃないかって思ってる」 「でも……でも……」 「僕は、君みたいに綺麗で優しくて、頭も良くて、何でもできるような、そんなすごい女の子を、僕なんかにとらわれたままにはしておけないんだ。だから、分かって欲しい」 「……」 「今まで、ありがとう。僕なんかを心配してくれて。僕は、なんとかやっていくよ。もう、君に心配かけないように。……本当に、ありがとう」 マリアは、もう何も言い返せなかった。 滋郎は優しい。だから、マリアも好きになった。 だが、だからこそ、マリアを無意識に傷つけていた。 ただの家政婦にとっては。ただ、世話を焼いてくれている優しい人にとっては。その言葉は、滋郎の自立や感謝を表す、誠実な言葉だったろう。 だが、マリアにとっては死刑宣告以外の何ものでもない。 「……少し、時間をください」 マリアは、うつむいたまま部屋をでた。 669 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:47:08 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ 「本当に、これでよかったのかな」 滋郎は、マリアの悲しげな顔をみて少し後悔した。 しかし、これでいいのだとも思っている。勇気を出して告白してくれたあの子に応えるためにも。 そして何より、優しいマリアが、彼女自身の幸せをつかめるようになるためにも。 「そのためには、僕は邪魔だから」 ふぅ。溜め息をひとつ。 無理矢理追い出す形になったのは、やはり申し訳が無かった。 もう少し、何か別の方法をとることはできなかったのだろうか。 「……。帰ってきたら、もうすこし。もうすこし、話をしよう」 マリアに幸せになって欲しいのは、本心だ。マリアを、ついにできた恋人のために追い出す口実などでは、決して無い。 しかし、さっきの宣告は、そういう風に伝わったかもしれない。即ち、「女が家にいると彼女が勘違いするから、もう出て行けよ」と。 「だとしたら、ひどい奴だな、僕は」 だから、帰ってきたら。もっと誠実な言葉でマリアを説得するつもりだった。 だが、待っていることすらマリアを傷つけるのではないのか。 誰かが言っていた。「こういうときは、追いかけるべきだ」と。 滋郎は立ち上がった。 670 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:47:39 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ ふらふらと、マリアは当ても無く街を彷徨った。 彼女のサンタ服も、この繁華街ではもう珍しくない。似たような格好の、あらゆる店の店員が自らの店のクリスマスセールを宣言していた。 疲れきった街。 この街に、もう光など見えない。昔はもっと輝いていたのに。 いや――。 (わたしが、もう……サンタの力を失ってる) マリアは、なんとなくそう思った。去年、人間界に居候を始めてから、マリアは明らかに弱くなった。 (人間になっている……わたしは) 思えば、人間に対する恋心というのは、普通サンタは持たないそうだ。 人間とサンタは違う。人間とチンパンジーが恋をしないように、似てはいても結局は交わらない。 おそらく、滋郎もその理由で、マリアのアプローチに気付かなかったのだろう。 だが、マリアの心は、違った。マリアは確かに滋郎に恋をしている。 そして、人間ゆえのあらゆる苦悩が芽生えているのだった。 執着、願い、夢、欲望。その全てが、人間らしい活力だった。同時に、人間を縛る鎖だった。 (滋郎さん……) この十一年間、マリアはずっと滋郎を見てきた。 サンタの能力である透明化と、透視を利用して、空から、あるいは窓から、あるいはどこか遠くから、あるいは、すぐ隣から。 ずっと、ずっと。どこにいても、何をしていても、気がつけば滋郎のことを目で追っていた。 滋郎を観察しつづけるにつれて、その恋心は深くなっていった。 根っからの善人の滋郎は、誰よりも輝いているように見えた。少なくとも、マリアにとっては、これ以上ない、輝ける存在だった。 ずっとずっと。見つめつづけた。 起きるときも、食べるときも、風呂に入っても、笑っても、悲しんでも、転んでも、なにをしているときでも、いつも隣にいた。 触れることができなくても、満足だった。 マリアにとって、なにより嬉しいのは滋郎の自慰行為をいくらでも観察できることだった。 マリアは滋郎の自慰を観察しながら、自らも快楽をむさぼった。 時には、あの時もらった上着の匂いをかぎながら――あるいは、股に擦りつけながら。その手触りを、滋郎自身の代わりにして。 ずっと見つめるうちに、同じく滋郎を見つめる存在に気付くこともあった。 滋郎は優しい男だ。確かに、好意を持つ女も多いだろう。それはマリアにはよく分かっていた。 しかし、理解はできても納得はできない。 マリアは、滋郎に必要以上に近づく女を排除しつづけた。故に、滋郎はいつだって独り身だった。 時に、陰湿に、時に、強引に。マリアは、社会的に敵を抹殺しつづけ、滋郎の貞操を守った。 また、自分の貞操を守ることにも必死だった。 国家資格が必要で、高給取りのサンタガールは、サンタの世界では非常によくもてる。 祖父が見合いの話をだしてくることも少なくなかったし、親は何度も下らない男達を紹介してきた。マリアはそれらを実に巧みに退けた。 全ては、滋郎を観察しつづけるため。 そしていつか、結ばれるためだった。 「それなのに……。それなのに……」 マリアが滋郎を『見つめる』ことができなくなったのは、退職して滋郎のもとに転がり込んでからだ。 マリアの暴走する欲望が実に人間的なレベルに到達したその時、マリアは力を失い、透視もなにもできない、ただの人間となったのだった。 しかし、マリアは滋郎とともにいられるだけで満足だった。それ以上望まなかった。それが大きな油断だったのだ。 目を離した一年で、滋郎は女に目をつけられ、ついには告白されてしまった。 今まで女性に縁がないが故に、押しには弱いだろう滋郎。 「助けないと……」 ぶつぶつと呟きながら、マリアは夜の町を歩いてゆく。 「待っててください、滋郎さん……。今、目を覚まさせて上げます……」 671 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:48:10 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ (やっちゃった……! ついに、憧れの滋郎君に告白したぞ……!) 裕子は、はっきり言って浮かれていた。ついに、人生をかけた告白が成功したのだ。 彼女の失恋率は100%。全ての恋が、告白の時点で破れている。 容姿のせいではない。彼女の異様な不器用さのせいだ。 彼女は人付き合いが余り上手ではなく、口下手だ。それに、身持ちも硬い。 それらがたたって、二十七歳となった今までずっと処女だった。 (これでやっと処女卒業できる! その相手は、しかもあのいかにも童貞な滋郎君……! この年になって処女童貞のカップルって、むしろ国宝級よね……。あたしたし、絶対幸せになれる。そう、これはサンタさんがくれたプレゼントなのよ!) ああ、サンタクロースよ。ひげのおっさんでいいから処女奪ってくださいなんて願ってすみませんでした。あれは思春期の過ちですから! 空に向かって、裕子は手を合わせた。 「あなた、滋郎さんの同僚のかたですよね」 妄想に浸っている間に、急に後ろから声を掛けられ、裕子はとっさに奇行をやめ、とりつくろう。 「え、ええ。そうよ。それが何か?」 「少し、お話があります」 ――大切なお話ですから、人気のないところに行きましょう。誰かに聞かれては大変です。 人気のないところに行く。男に誘われるならまだ警戒するが、相手は女。それも、若くて美しい女。裕子は警戒心を全く持たなかった。 672 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:48:40 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ 「いい格好ですね」 「あ……あんた、なんでこんなこと!」 縄で縛られた裕子を、美しい女――マリアが、生ゴミでも見るような目付きで見下ろしていた。 「何故? 決まっているじゃないですか。あなたが滋郎さんを誘惑した、淫売だからですよ」 「い、淫売ですって!? そんな侮辱……げふっ!」 マリアの蹴りが、裕子のみぞおちに直撃した。 「淫売は淫売らしく、下のお口で会話したらどうなんですか?」 マリアは、裕子のスカートをめくり上げると、さっと下着を取り去ってしまう。 「や、やめっ……むぐっ!」 そのまま裕子の口に、丸めた下着を押し込んだ。ざらざらした、布の舌触りにうめく。 その上に猿轡をはめ、マリアは立ち上がって、言う。 「さて。ここは非常に人気のない場所ですね。大変ですよ、こんな所に女性一人でいては……ねぇ、皆さん?」 『皆さん』? 裕子が不審に思って視線をそらす。 すると、どこからか男達があつまり、裕子を取り囲みはじめていた。 「ん―!! んー!!」 裕子は精一杯わめくが、言葉にはならない。 「皆さん、この女性は二十七歳にもなって処女だからコンプレックスを持っていた、不幸な人です。どうか、皆さんの聖なるつるぎで、その不幸を貫き壊してあげてください」 「んー!! んー!!!」 もう、ここまでくれば裕子にもこの先の展開が予想できていた。 しかし、予想はついても回避できない未来がある。これはそういう類いのことだ。 (ああ、神様……!) 裕子は涙を流しながら、ついに諦めた。 「駐在さん、こっちです! 今、女性が襲われています!」 と――その時、天の助けが現れたのだ。 男達は、ちぃ、と言い残し、どこかしらに消え去った。 が、いくら待っても警察はこない。おそらく、今現れた男の仕掛けたハッタリだったのだろう。 「大丈夫ですか、裕子さん」 そう言って、猿靴差をはずす男。どう見ても、その男は裕子の知った顔だった。 というか、彼は……。 「滋郎君……!」 「はい、危なかったですね」 「滋郎君……怖かったよぉ!!」 ひしと抱きつく。 「でも、滋郎君。なんでここに?」 「探している人がいて……。見失ったんですけどね。サンタの服をきた、綺麗な女の子です」 「サンタ服の……綺麗な子……?」 「はい。見ていませんか?」 「その子は……あたしを襲って……」 「襲った……? そんなまさか」 「いえ、あの子、普通じゃなかったわよ! きっと、滋郎君に恨みがあるんだわ! だから恋人になったあたしを狙ったのよ!」 怒りに打ち震えながら、裕子はまくし立てた。 「滋郎君、気をつけなきゃだめよ……。なんなら、今夜はあたしと一緒にすごさない?」 「それは……」 「こうやって、平気なふりしてるけど、あたしも正直不安なのよ。その……リンカン、されそうになったし」 「それは……確かに、ほうってはおけませんね。いいですよ、裕子さん。僕の部屋に泊まっても」 673 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:49:11 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ (マリアさんなんだろうか。やっぱり……) 滋郎は、考えていた。 裕子の話をきくと、たぶん裕子を襲ったのはマリアなのだろうと推測できる。 しかし、あの優しい女の子がそんなことを……? (僕が……。僕があんな、ひどいことを言うから……) 非常に、後悔していた。マリアが裕子を襲ったのは、自分に責任があるのではないのかと感じていた。 (もう、このまま帰ってこないのかな……) そんなの、いやだな。滋郎は、マリアに謝りたいと強く願っていた。 「滋郎君……あたし、こわいわ。一緒に寝ましょう」 「で、でも……」 「今日から、あたしたち恋人同士よ。普通のことよ」 有無を言わせず、裕子は滋郎のベッドに潜り込む。 「滋郎君、抱きしめて……。絶対、放さないで」 「裕子さん……」 裕子は、自らの服に手をかけ、取り去っていった。 滋郎の前に、その裸体が晒される。 (裕子さん、思ったより、すごい……) 裕子の身体は、普段服の上から見たよりも見事で、美しかった。 「滋郎君……あたしたち、幸せに……!」 「裕子さん……!」 674 :ヤンタクロース・サンタガール ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/12/26(金) 00:49:45 ID:mVrqxCHs ♪ ♪ ♪ 「四回も、中に出しちゃったのね。滋郎君、見かけによらず好きねぇ」 「裕子さんこそ、初めてなのに感じすぎです。こえ、すごかったですよ」 ――近所にも聞こえてるかも。 「……ねえ、滋郎君、あたしの身体、どうだった?」 「しょ、正直、おぼれちゃいそう、でした。この世のものとは思えないというか……」 「そうですか。うれしいです」 「え――?」 奇妙なことが起こった。 裕子が、急に口調を変えたかと思えば。その顔が――マリアのものに変わっていたのだ。 「マリア……さん……?」 「はい。そうです。滋郎さんが今まで獣みたいに犯し尽くした女が、わたしです」 「……ど、どうして……? いつから、入れ替わって……?」 「裕子さんを家に連れ込んだ後、ころあいを見計らって、です。滋郎さんと自然に近づける状況があれば、それでよかったですから。それと、裕子さんなら無事ですから、安心してください。死んじゃったら、滋郎さんの日常に支障をきたしますから」 「どうして……」 「まだ、わからないんですか……?」 マリアは、再び――偽の裕子だったときにしたように――滋郎に跨った。 「滋郎さんを、ずっとずっと……見てきたんですよ。愛していたんですよ」 腰を動かし始める。 「ああっ……滋郎さん……滋郎さんなら、わたしが妊娠したら、責任とってくれるって、確信してるんです……あんっ……!」 「うっ……き、きみはっ……」 「ゆ、裕子さんの存在を知って……あ……最初は……殺したくなるほど……あぁ……憎みました……。でも、利用価値に、気付いて……感謝しました」 マリアは興奮状態のまま、膣の収縮で滋郎のモノを締め付ける。 ねちっこく、絡みつくように。 ――もう、はなさない。 「これは、人間になって、恋をしたわたしへの……プレゼント、なんです」 思い出したのは、祖父の言葉だった。「恋をする人の光は美しい。そして、美しい光をもつものは、きっと誰よりもすてきなプレゼントを授かるだろう。 すなわち、それは彼女のパーソナルギフト(サンタとしての特殊能力)である『幻惑』で滋郎を錯覚させ、性交に及ぶ機械を与えたこと。これは、今までどおり女たちを排除していては無理な戦法だった。あくまで、恋人の裕子なしには成立しないのである。 そして、もうひとつのプレゼント。 「今日、すっごく危険日なんですよ。こんな日にいっぱい中に出されて……わたし、赤ちゃんできちゃうかもしれません」 マリアは、神に感謝した。 彼女は人間化が進んでいたというのに、サンタの能力たる『ギフト』を使うことができた。これは、殆ど奇跡のようなものだ。 彼女の作戦にはこの幻惑能力が必要不可欠だった。彼女が失った透視や透明化を差し置いてでも復活すべき能力が、これだったのだ。 そして、彼女は賭けに勝った。 裕子の存在、能力の存続、そして、危険日。 これらの要素が揃ったこと。これは、もはや神か、あるいは天国の祖父がくれた、プレゼントだとしか思えなかった。 ――そういえば、『幻惑』能力は祖父から隔世遺伝したんだっけ。 (まあ、そんなのはどうでもいいんです) 今は、とにかく、滋郎との性夜を楽しまなければ。 「あ……滋郎さんの、熱い……!! 赤ちゃんできちゃいます……!」 これからは、今までの。十一年間のツケを、たっぷり身体で払わせてやろう。 マリアは、今、幸せだった。 おわり

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