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41 :ぽけもん 黒  激戦! 桔梗ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/01/12(月) 09:50:38 ID:hgEnhONI  しばらくポポの頭を撫でた後、もういい時間だったので一度ポケモンセンターに戻って昼食をとった。二人に尋ねたところ、二人とも体力はまだまだ余裕とのことだったので、フラッシュを部屋に置くと僕はジム戦に挑むことに決めた。  この城都地方には八つのポケモンジムという施設があり、その施設でジムリーダーと呼ばれる国から任命されたプロのトレーナーにバトルで勝って、 勝った証であるバッジを八つ集めないと石英高原へと続く唯一の道であるチャンヒオンロードには入れないようになっている。  当然、石英高原に行けなければチャンピオンリーグに参加は出来ないわけであって、となれば当然チャンピオンとなって殿堂入りすることもできないわけである。よって、トレーナーはまずこの城都地方の八つのジムを制覇しなければならないわけだ。  ポケモンセンターを出発した僕たちは、程なくしてこの街のジムに着いた。白塗りの大きな体育館みたいな形をしていた。体育館と歴然と違う点は、壁面に大きく赤い文字で「ポケモンジム」と書かれている点か。 分かりやすいな。僕たちがジムに入ろうとすると、ちょうど二人の人間がとぼとぼと出てきた。うち一人は腕に包帯を巻いて、首から吊るようにしている。大方、ジムリーダーに挑戦して返り討ちにあったのだろう。  さすがジム戦、といったところか。やはり一筋縄ではいかないだろう。気を引き締めないと。  ドアを開けた僕の目に映ったジムの内観は、外観とは異なり異質なものだった。  床は土で出来ていて、白線が大きな長方形を作るように引かれていた。さらに白線の内側の地面は、低部と高部を比べると僕の背丈の半分はあるだろうと思われるほどの大きな凹凸がなだらかにあり、平らな場所がほとんどない。  確か桔梗市のジムリーダーであるハヤトさんは鳥ポケモンをパートナーにしていたはずだ。それにあわせて、飛べる者に有利に働くようにジムを作ってあるのだろう。自分に有利な環境で戦うってことは戦術的には正しいことなんだろうけど、なんだか卑怯な気がする。 「お、君も挑戦者?」  入り口の向かい側、正面の壁のすぐ傍に片目を覆い隠すほどの長い前髪を持った男と、ポポに似た見た目のポケモンが二人いた。つまり相手もポポと同じ種族ということだろう。  ジムリーダーの使うポケモンはある程度規制されていて、序盤のジムではジムリーダーはそんなに高い経験を積んだポケモンは使えないようになっている。 しかしポケモンの年齢や経験自体は低くてもジムリーダーによって鍛え抜かれている上に、ジムリーダーの的確な指示と道具の使用があるから、決して侮れはしない。 「はい、そうです」  僕はその男の呼びかけに答えた。 「じゃあ、早速始めようか。ハタ、クウ、大丈夫だね?」  彼は脇に控える二人のポケモンに指示を出している。この様子からすると、彼がジムリーダーのハヤトさんみたいだ。 「大丈夫です」 「はい、行けます」  そう答えて二人の少女が進み出た。年齢の低いほうでもポポよりは年上に見える。なにより、二人ともうちのポポより大分賢そうな顔つきをしている。いや、賢そうな顔つきをしているから年上に見えるだけなのかな。 42 :ぽけもん 黒  激戦! 桔梗ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/01/12(月) 09:51:30 ID:hgEnhONI 「いいんですか? 先ほどバトルがあったみたいですけど」 「構わないさ。先ほどの彼、気絶してしまって、しばらくここで休ませていたんだよ。だから僕らは十分に体力を回復している。それに、最初から相手にもならなかったしね」  随分と自信があるようだ。そしてこの自信は実力による裏づけのないものではないだろう。 「僕はハヤト。見てのとおり、ここ桔梗市でジムリーダーをしている。知ってのとおり、鳥ポケモンをこよなく愛する、鳥ポケモン使いさ」  愛するって、この人は何で自分のフェチを告白しているんだろう。それ以前に、一夫多妻制を公言してはばからないような人だな、この人は。そりゃあ、ジムリーダーだから多くの女性を養えるような財力は持っているんだろうけど……。  そういえば、ジムリーダーという人種は皆パートナーとするポケモンにかなりの偏りがあるんだっけ。そう考えると、なんだか変態集団みたいだ。 ……いやいや、僕は何を考えているんだ。目の前の人のせいで、一瞬パートナーイコール恋愛対象、みたいなおかしな錯覚を覚えてしまった。そ、それはおかしいぞ! そしたら僕だってそういうことになってしまうじゃないか!  ハヤトさんは僕の葛藤など知る由も無く、話を進める。 「それに、僕のパートナーで今回君達の相手をする、ハタとクウだ」 「ハタです」  そう言って、年下のほうの子が軽く会釈した。こっちがハタさんか。すると年上に見えるほうがクウさんだな。 「クウです。よろしく」 「僕はゴールドです。よろしくお願いします。こっちが僕のパートナーの香草さんと、ポポです」  僕が紹介するのにあわせて、二人も軽く会釈した。 「ほう、君も中々話の分かる人間みたいだね。いい趣味をしている。しかし、そっちの草ポケモンはないんじゃないかい? 草ポケモンなんて所詮は鳥ポケモンに踏みにじられる存在、それ以外に価値はないね」 「き、聞き捨てならないわね。何か言った? 鳥なんて劣等種族好きの変態」  ハヤトさんの変態的かつ挑発的な発言に香草さんが噛み付いた。  香草さん、それブーメランだよ。身内にもダメージだよ。劣等種族って、それじゃあポポの立場はどうなるのさ。 「劣等種族ってなんですか?」  そう思っていたらポポが僕に小声で尋ねてきた。よかった、無知は罪って言うけど、時には身を助けることもあるんだね。  ハヤトさんはやれやれ、といった様子で、香草さんの発言を意に介していないようだ。 「とにかく、誰が戦うか決めようよ」 「私がいく!」 「ポポがいくです!」  僕が言うと、二人同時に名乗りを上げた。はあ、予想通りとはいえ、困った。 「何よ、アンタみたいなバカじゃ相手にならないわよ!」 「香草サンのほうがバカです! あいしょうを考えてないです!」 「な、アンタだけにはバカって言われたくないわよ! このバカ!」 「バカじゃないです! バカは香草サンです!」 「そもそも、アンタ、サンまで含めて私の名前だと思ってるでしょ! 私の名前は香草チコなんだから!」 「で、でもゴールドは香草サンって呼ぶですよ?」 「さんは敬称だよ。ええっと、敬称っていうのは、丁寧な言い方っていうか……」 「分かったです。じゃあチコって呼ぶです」 「……アンタに呼び捨てにされるのもなんか癪ね」 「あー、二人ともやめようよ」 「ハハハハハ、随分と愉快な子供たちだね。まだ僕に挑むには色々と早いんじゃないかな?」  ハヤトさんが野次を飛ばしてきたが、いちいち構っていては話が進まないので無視する。 「じゃ、じゃあじゃんけんで決めよう! じゃんけんで! それで、勝ったほうが先に戦う、負けても勝っても一回交代。これなら文句ないでしょ?」 「あるわよ!」 「あるです!」  予想通りの二人の返答に、僕は額を抑えた。 43 :ぽけもん 黒  激戦! 桔梗ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/01/12(月) 09:52:12 ID:hgEnhONI 「二人とも、自分一人で十分だって言いたいのは分かるけど、相手はジムリーダーなんだよ? こんなことでもめてる場合じゃないよ」 「ふん、あんな変態、私の敵じゃないわ!」 「おお、頼もしいね。せめて彼女達のウォームアップになればいいけど」  ハヤトさんはこっちの発言が聞き捨てならないのか、単純に暇なのか、さっきからいちいち口を挟んでくる。  もうハヤトさんうっとうしいんでしばらく黙っててください。 「分かったから、はい、ジャンケン――」  と、ここまで言って気づいた。 「そもそも、ポポはジャンケンできないね」  翼だしね。手ないしね。 「ジャンケンってなんです?」  ポポは不思議そうに小首をかしげている。尋ねてくるのが遅いよ……。 「このバカ!」  香草さんはポポに向かって怒鳴る。このままだとまた口げんかになるのは目に見えていた。だから僕は再び喧嘩になる前に慌てて打開案を打ち出した。 「じゃ、じゃあクジで決めよう! 赤い色がついていたほうが先に戦う、それ以外のルールはさっきと同じで」  というわけで、僕はティッシュを使い急遽即席のクジを作った。 「はい、じゃあ同時に引いて――」  と、ここまで言って気づいた。 「そもそも、ポポはクジを引けないね」  翼だしね。手ないしね。 「クジってなんです!」  今度は抗議するように翼をバサバサと震わせる。どの道遅いよ……。 「……もう黙ってなさい」  香草さんも、もう馬鹿にする気力もないらしい。 「しょうがない、香草さんがクジ引いて、あまったのがポポのってことにしよう」 「ホントに……しょうがないわね」  香草さんは手で半眼を覆いながら、クジに手を伸ばした。引かれたティッシュの先には、赤いインクがしみこんでいた。 「赤ね」 「赤だね」 「赤です」 「じゃあ香草さんが先行だね」  ようやく順番が決まった。  まさかバトルじゃなくてバトルの順番を決めるだけでこんなに疲れることになるなんて。  僕は安堵の息を吐きながら香草さんの肩に手を置いた。 「やった! さあ来なさいでかいほう! ギッタギタにしてやるわ」  香草さんはとても嬉しそうに白線の内側に入る。 「おいおい、鳥ポケモンに対して草ポケモンを出してくるとは。この僕も随分と舐められたものだね」  ハヤトさんは前髪を掻き揚げながら言った。 「うっさい! 早くしなさい!」 「君みたいな品のない子供相手に本気を出すのは大人げないってものだね。いっておいで、ハタ」  ハヤトさんの言葉を受けて、ハタさんも白線の内に進み出た。 「では、これより若葉町出身ゴールド対桔梗市ジムリーダーハヤト、試合を開始します。」  突然、そんな言葉がアナウンスされた。驚いてあたりを見回せば、ちょうど両者の中間あたりの端に、審判と思しき、赤と白の二つの手旗を持った男が立っていた。胸にはピンマイクと思しきものが付けられている。さすがジム、なんだか本格的だ。  彼は続けて、試合のルールを説明した。ルールと言っても、普通のバトルのものと特に変わらないものだった。 違うところといえば、白線の外に出てしまったら負けになってしまうことくらいだ。同意を求められたので、僕、ハヤトさん共に同意した。僕達の同意を受けて、審判は赤い旗と白い旗を高く掲げ、一気に振り下ろした。 「試合、開始!」  そのアナウンスがなされるやいなや、ハタさんはすぐに上空へ飛び上がった。 「香草さん、蔦で相手の足を掴んでそのまま地面に引き摺り下ろすんだ!」 「言われなくても!」 44 :ぽけもん 黒  激戦! 桔梗ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/01/12(月) 09:53:06 ID:hgEnhONI 「ハハハ、ハタはそんな蔓なんかにつかまるほど遅くは……」  ハヤトさんが言い終わらないうちに、ハタさんは蔦につかまりそのまま地面に強烈に叩きつけられていた。  地面に叩きつけられたハタさんは小さく痙攣するのみで、ハヤトさんの呼びかけにも、審判のカウントにもまったく反応しない。 「ふん、目障りな小鳥ごときが、この私に勝てるとでも思ったわけ? 生物として格が違うのよ、格が」  香草さんはハタさんを見下ろすと、そう吐き捨てた。 「は、ハタ戦闘不能!」  審判がテンカウントを終え、そう宣言すると、救護班と思しき人たちが慌ててハタさんを担架に載せてフィールドの脇に運び出した。 「やりすぎだよ香草さん! 引き摺り下ろすだけだって言ったじゃないか」  僕は思わず香草さんに怒鳴る。ハタさんの様子はただ事ではなかった。気絶くらいで済んでいればいいけど、もし命に関わるようなことがあったら一体僕はどうすればいいんだ。 「アンタはいちいちやり方が消極的過ぎんのよ! 敵に容赦なんていらないわ! それに、殺すほど強くはやってないわよ」  その自信は一体どこから来るのだろうか。でも、ポケモンは人間と違って丈夫だし、香草さんがそういうのなら大丈夫なのかな……。  僕は白線の外でハタさんに応急処置なのか治療なのかを施している救護班の人を見やる。救護班の人はスプレーのようなものをハタさんに浴びせている。 傷薬の類だろうか。スプレーを浴びせられること数十秒、どういう原理かは分からないけどハタさんは意識を取り戻した。僕はほっと胸を撫で下ろす。 「ほら。言ったとおりでしょ。さあ! 早く来なさい次の鳥!」  香草さんは語気荒くハヤトさんに呼びかける。なんと好戦的なのだろうか。 「約束が違うです!」  もう香草さんは誰にも止められない。僕にはそう思われたが、そう思ったのは僕だけだったのかもしれない。自分に代わらず再び対戦しようとしている香草さんにポポが食って掛かった。 「知らないわよそんなの!」  見事な否定だ。めちゃくちゃなことを言っているというのに、ここまでくるといっそ清々しくすらある。でもあっさりその清々しさに従うわけにはいかない。 「香草さん、ルールは守らないと」 「……分かったわよ」  香草さんは僕の予想に反してあっさりと引き下がった。絶対にまた一騒動起こすかと思ったのに。 「クウ、早く相手を倒してあの女をフィールドに引きずり出してやれ。敵討ちだ」  ハヤトさんは心中穏やかではないらしい。口調はまだ冷静だけど、雰囲気からは怒りの感情が透けて見える。自分の自慢のパートナーがあっさりと一撃昏倒させられたことにプライドが傷つけられたのか、それとも自分の愛するものが酷く痛めつけられたことに対して怒ったのか。 「はい、マスター」  クウさんは凛とした表情で、フィールドに足を踏み入れた。  両者がフィールドに出揃うと、再び審判によって戦闘開始が宣言された。  今回は間違いなく空中戦になるだろう。それなら先に後ろをとったほうが有利になる。 45 :ぽけもん 黒  激戦! 桔梗ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/01/12(月) 09:53:50 ID:hgEnhONI  僕の予想通り、二人ともバトル開始直後に宙に浮いた。 「ポポ、電光石火で相手の後ろに回りこめ!」 「クウ、電光石火で回避」  ハヤトさんが僕の仕掛けるのを待っていたのか分からないけど、僕たちが初手を取ることができた。ポポは素早くクウさんの背中側に回り込む。しかし相手も高速で回避した。だが、電光石火のキレはクウさんよりポポのほうが上に思える。 「ポポ、追いつけるぞ! 追いついたらそのまま背中に飛び掛るんだ!」  僕はこのまま一気に押し切れると踏んで、ポポにそう指示を出した。  僕はこの時点ではまだ気づいていなかった。ハヤトさんの戦略にまんまと乗せられていたことに。  クウさんは素早く、上下左右、縦横無尽に、自然界に比べれば圧倒的に狭いジムの内部を器用に飛び回る。最高速度はポポのほうが上なのだが、急な方向転換の所為で中々追いつけない。  しかし僕は彼女の動きを見ているうちに、急な方向転換をとる前にはある程度減速することに気づいた。これでクウさんの行動を少しだけど先読みできる。僕はそれを踏まえてポポに指示を出す。 僕の指示のお陰か、クウさんに攻撃がかすり始めた。後一歩。後一歩で相手に大きなダメージを与え、地面に落とすことができる。  何度目か、再び壁が迫ったときだった。このまま進んでいけば確実に壁に激突する。しかもクウさんの飛んでいる角度からして、彼女は急な方向転換をせざるを得ないと思われた。 これはチャンスだ、と思った。クウさんが減速したところに突っ込んでいけばいいだけだ。実際、ポポにはそれができるだけの速さがあった。 「ポポ、速度を上げるんだ!」  だから僕はこんな指示を出した。  いよいよ壁が迫ったとき。クウさんは今までと違い、まったく減速することなしにV字に曲がって壁を回避した。僕は勝ちを確信して、完全に油断していた。  嵌められた。そう気づいたときには、もはやポポはすぐに止まれるような速度ではなかった。しかもポポはクウさんと違い、急カーブの類の技術を持っていない。  ぶつかる!  僕は怖くて目をつぶった。しかし、衝突音は聞こえてこない。僕は恐る恐る目を開けると、ポポは壁の手前でかろうじて止まっていた。僕はホッと胸を撫で下ろす。 「ポポ、場外! 勝者クウ!」  が、レフェリーの声によって僕はすぐに現実へと引き戻された。なんとか壁にはぶつからなかったものの、白線からは明らかにはみ出していたのだ。 「ゴールド、ごめんなさいです……」  ポポは明らかに肩を落として、ふらふらと戻ってきた。目の端には涙の粒が浮かんでいる。 「謝るのは僕のほうだよ……あんな見え見えの策略にまんまと乗せられて……。周りが見えていなかった。ポポは良くやったよ。お疲れ様」  そう労いの言葉をかけたものの、ポポは相変わらず落ち込んだままだった。  今回の敗北の責任は明らかに僕にある。慰めとかそんなのじゃなくて、本当にポポが落ち込む必要は無いのに。  溜息を吐きそうになるのを寸でのところで堪えた。今溜息をついたりなんてしてしまったら、ポポが負けたことでポポに落胆しているのだと誤解されかねない。 「ハハハ、バトルは単純な強さばかりでやるものでないことが分かってもらえたかな。特に、そちらの凶暴なお嬢ちゃんには」  勝ったハヤトさん上機嫌だ。  その挑発を受けて、香草さんは目を細めてハヤトさんを睨みつける。 「殺……」 「殺しちゃダメだよ香草さん!」  物騒な単語を吐きながら、ゆらりと体を相手のほうに向けた香草さんをすぐさま宥める。  彼女なら、本当にやりかねない。 「だってあいつら卑怯じゃない!」  香草さんは僕の制止を振り切ろうと僕に食って掛かる。 「ハハハ、卑怯でもなんでもない、ただの戦略さ。まあ君みたいな野蛮な子には分からないかもしれないけどな」  またこの人は余計なことを……。 「殺……」  もうすぐさま飛び掛らんばかりの香草さんの進路を塞ぐようにして香草さんを抑える。 「だからダメだって香草さん! アレは僕が迂闊だったのもいけなかったんだ」  ハヤトさんの言うとおりだ。バトルは単純な強さばかりでやるものではない。もしそうなら、トレーナーなんて何の価値もない。 46 :ぽけもん 黒  激戦! 桔梗ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/01/12(月) 09:55:13 ID:hgEnhONI  相手の種族、性格、相手トレーナーの傾向、そして自分のパートナーの種族、性格、自身の傾向、そして持っている道具、地形、天候、他諸々。  それらを考慮し、最善と思われる作戦を考え、パートナーに分かりやすく指示を与え、パートナーが自分一人で戦うよりも有利に戦えるようにする。  それこそトレーナーの役割だ。僕は、ポポや香草さんの強さに甘えていたのかもしれない。なにせ二人ともとても強いから、僕が特に何も考えず、何も指示を与えなくても彼女達は結果を出せてしまった。 そのことが僕自身の怠慢を生んだのかもしれない。しかし、同じ失敗は二度は繰り返さない。 クウさんの能力、ハヤトさんの考え、香草さんの能力と性格、それらを考慮し――それをすべて考えられていたというのは僕の思い上がりかもしれないけど――、僕は作戦を考えた。 「だから今度は……」  僕は作戦を伝えようと香草さんに顔を寄せる。一瞬、香草さんが驚いた顔をしたかと思うと、次の瞬間には僕の腹部に香草さんのボディーブローが突き刺さっていた。  こうかは ばつぐんだ! 「ご、ゴールド!?」  体中からいろんな体液を噴き出しながら地面に倒れた僕に、目線を合わせるように彼女も屈みこむ。  体重の乗ったいいパンチだった。格闘技のことは良く知らないから、本当のところどうなのかは分からないけど。  僕の属性は間違いなくノーマルだな。一撃で瀕死になりそうだ。 「ち……違うんだよ。ちょっと……耳打ちをしようかと思って……」  僕は自分の目に浮かんだ涙を拭いながら、誤解を解こうと説明する。  香草さんは僕にあまりいい感情を持っていないのを忘れていた。でも、さすがにこんな力で思いっきり殴られるのは想定外だったな。 「大丈夫!? で、でも、急にあんなことしたアンタがいけないんだからね!」  彼女はツンと僕から視線逸らす。  そうだよね、好きでもない相手にいきなりにじり寄られれば、そりゃあボディーブローだって出ちゃうよね。しょうがないよ、うん。 「うん……そのとおりだよ。昼ご飯が喉の辺りまで上がってきたけど、もう大丈夫だよ……。それでさ、ちゃんと耳打ちするから、香草さんには絶対に指一本触れたりしないから、だからちょっと耳を貸してください」  僕はそう言いながら起き上がると、荒い呼吸を整える。 「だ、だからそういうつもりじゃなくて……」  香草さんの弁明は嬉しいけど、今はそんなフォローを長々と聞くつもりはなかった。  香草さんの耳に口を近づけると、僕は今回の作戦を説明する。  香草さんに近付くと、彼女の頭の葉っぱから漂ってくる甘い香りがことさらに強調されて感じる。 それに、ただ耳打ちしているだけなのに、香草さんは「ひゃ!」とか、「はうっ!」とか、悩ましい声をあげてくる。耳が弱いのかな。でも、こう、僕の精神衛生上あまりよろしくないから、できれば抑えてもらえると嬉しいんだけどな……。 「焼き付け刃の作戦が俺に通用するかな?」 「やってみなくちゃ、分かりませんよ」  不敵に微笑んでくるハヤトさんに対して、僕も笑みを返してやった。  香草さんとクウさんはフィールド上で互いに睨みあっている。 「挑戦者ゴールド、チコ対ジムリーターハヤト、クウ……バトル開始!」  今度も、審判のバトル開始の宣言と共にクウさんは空中へと飛び上がった。 「香草さん、蔦で捕まえて!」  僕の命令に答えて、香草さんは無数の蔦をクウさんに向けて伸ばす。が、クウさんの速度はポポよりは遅いとはいえハタさんより上、しかもハタさんのときのように油断してないときた。 クウさんは先ほどのポポとのバトルでの疲労もあるはずなのに、まったくそれを感じさせない。先ほどのように何もせずに捕まえることは難しそうだ。とはいえ、ここまでは予想通りだ。 「香草さん、眠り粉!」  僕が指示を出すと、香草さんの頭の葉っぱと袖口から、無色の粒子が噴出した。  細かい粒子に太陽の光が乱反射して、香草さんの周りがキラキラと輝く。  それは、とても戦闘中とは思えないような幻想的な光景だった。 「フフ、自分の周りを眠り粉で覆ってしまえば攻撃されないと考えたのかい? 甘いね! クウ、風起こしで彼女の周りの眠り粉を吹き飛ばせ!」 47 :ぽけもん 黒  激戦! 桔梗ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/01/12(月) 09:56:26 ID:hgEnhONI  クウさんは空中で激しく羽を羽ばたかせることによって香草さんの周りに立ち込めていた眠り粉を吹き飛ばした。しかし、これこそ僕の狙いだった。風を起こすために羽ばたいている間は、彼女の移動は制限される。 「香草さん!」 「分かってるわよ!」  香草さんは強風の中で瞬時に数本の蔦を束ね、クウさんに向けて勢いよく伸ばす。 「風起こしで身動きがとり難くなっている内に蔦で捕らえる作戦か。甘いね! そんな柔な蔦ごとき、この風で容易に切り裂ける!」 「この私を、その辺の柔なのと一緒にしないでよねぇ!」  確かに、一本じゃこの風に耐えるのは難しいだろう。でも、何本も束ねた蔦ならば、多少の風じゃ容易には切り裂けないはずだ!  僕の予想通り、蔦は見事にクウさんを捕らえた。 「何!」 「おおおおおおおおおおおおおおお!!」  ハヤトさんは慌てるが、もうすでに勝負はついていた。香草さんは雄叫びと共に、クウさんをブンブンと振り回し、勢いをつけて壁に向かって投げつけた。壁にしたたかに叩きつけられたクウさんは、そのままずるずると地面へと落下した。 「ク、クウ場外! 勝者チコ! よって挑戦者ゴールドの勝利!」  審判によって、僕の勝利が高らかに宣言された。 「今度はちゃんと加減したわよ?」  またやりすぎだよ、と諌めようとする僕を制するように彼女は言う。  加減したといっても、相手は今度も気絶してるみたいだけどね……。  戦いを終えた僕とハヤトさんは、フィールドの中央で向かい合った。 「クソッ、俺の負けだ。草ポケモンだからといって、甘く見ていたようだ……。だが、彼女達の実力はまだまだこんなものじゃない。それを誤解しないで欲しい。 それと、これがこのジムのバッジ、ウイングバッジだ。それにこれも持っていくといい。これは技マシン31、泥かけだ。君のパートナーに覚えさせるといい」 「ありがとうごさいます」  僕はハヤトさんからバッジを小包を受け取った。 「ウイングバッジ、ゲットだぜ!」  僕はバッチを高く掲げると、天井に向かって大きな声でそう言ってみた。 「どうしたの突然」  香草さんに怪訝そうに見られた。僕は慌てて弁明する。 「い、いや、なんだかこう言わなきゃいけない気がしてさ」 「ふーん。変なの」  そう言って、香草さんは上機嫌にクスクスと笑った。

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