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血塗られしソードマスター 第壱話:御影 ◆UDPETPayJA [sage] :2009/01/17(土) 19:45:48 ID:ADEi3wlQ 佐久本 朱里(しゅり)は、一言でいうと風変わりな男だ。 中性的…やや女性的な顔立ち。加えて、肩にかかるくらいの長さで、生まれつき色素が薄いのか、やや茶がかった色をしている髪の毛。 そのせいで幼少の頃から頻繁に女子と勘違いされ、高校一年になった今でもそれは変わらずにいる。 文化祭の出し物として、朱里の属する1年3組ではメイド喫茶を開いたが、そこで男子生徒のなかでただ一人女装させられてメイドとして働かされたことは有名だ。 何しろ、3組の売上高はその年では2位以下に倍以上の差をつけたのだから。 朱里は世間で言う、いわゆるモテるタイプだが、女子に告白された回数と男子に告白された回数はさほど変わらないという事実が、朱里がそこいらの女子生徒よりも美女…も とい、美人であるという裏づけとなっている。 両親は朱里が4歳のときに交通事故で他界。祖父に引き取られ、今の今まで育てられてきた。当時、朱里を引き取ろうという親族はいくらでもいたのだが、 財産目当ての者は一人としておらず、生前朱里の両親に世話になったというあるという人ばかりだった。 しかし祖父が名乗りを挙げれば、あっさりとそれに従った。否、それがベストだと皆思ったのだ。 祖父の教育の賜物か、はたまた両親に似たのか、朱里は人当たりのよい性格を持っており、誰とでも分け隔てなく接することができた。 それは昨今の社会情勢からしたら希少価値、天然記念物クラスといえよう。 朱里がモテるのは単に容姿だけではなく、そういった要素が手伝っている部分もあるのだろう。  そんな朱里がソレの存在を知ったのは、東京に今年初めての雪が降り積もった二月半ばのこと。――祖父、佐久本 武雄の葬儀が執り行われた日であった。  葬列は式場いっぱいにまで及び、その中にはテレビニュースなどでよく見かける、財界の顔ぶれもわずかながら含まれていた。  式自体はとてもシンプルなものだった。武雄は晩年より「儂は昔から念仏というものが退屈で仕方なかった」と愚痴をこぼすかのごとく言っていたので、 念仏はまるごと省略されることとなったのだ。にも関わらず、焼香を済ませ、遺影に一礼をして席に戻るという行程だけで二時間は費やされた。  朱里は武雄の人徳を、今更ながら実感したのだった。  夜、宴会室を借りきって行われた、いわゆる"故人を偲ぶ会"。生前の武雄を懐かしむ人もいれば、涙を見せる者も… まさに、十人十色を体現したかのような空間となっていた。  だが、朱里は浮かない表情をしていた。彼の頭に今あるのはひとつの思念だけ。それは、武雄のことではなく…ある一本の刀のことだった。。 その刀は、代々佐久本家に伝えられてきた逸品だ。鍛え上げられてからすでに三百年は経っているらしいが刃こぼれどころか錆びひとつなく、 鞘から抜けばぬるりとした鈍い光沢…見事な職人業だ。  鍔のすぐそばにはこう刻まれている。それはこの刀に付けられた名前なのだろう。 <松代 鳩蔵作 / 御影> 114 :血塗られしソードマスター 第壱話:御影 ◆UDPETPayJA [sage] :2009/01/17(土) 19:46:43 ID:ADEi3wlQ  祖父の遺言は、"偲ぶ会"の直前になって顧問弁護士より親族に伝えられた。残された遺産は法にのっとり分配。当然、孫である朱里は多く受けとることになるが、 反対するものはいなかった。これも朱里の両親、そして武雄の育て方がよかったからだろう。朱里は、十分すぎるほどに信頼されていたのだ。  財産分与については何の滞りもなく完了した。だが、最後に弁護士が伝えた一文には、一同はわずかにどよめいた。 「"御影"を朱里に継がせること。ただし、これに関しては代理人ではなく必ず本人が所有せよ、とのことです」  朱里は誰に対してというわけでもなく、漠然とこう呟いた。 「みかげ、って何?」  御影は、祖父の居間に飾られていた。実は朱里も何度か目にしたことはあるのだ。しかし、ソレ=御影だとは思わず、今の今まで全く気にも止めなかった。 だからこそ、御影が何であるかが分からなかったのだ。  その疑問に答えたのは祖父の弟であり、代理人として朱里の継ぐ財産を預かり成人するまで管理する財産管理人を選任された、仁司(ひとし)だった。  仁司の語るところによると、御影とは300年以上昔、江戸時代末期に松代 鳩蔵という職人によって鍛えられた太刀だそうだ。 しかし鳩蔵は御影を鍛え終わると、完成したばかりのソレを使い、実の娘を殺害するという凶行―むしろ、狂行というべきか―を犯し、自らもそのまま腹を斬り、果てた。  それ以来御影は色んな…主に侍と呼ばれる人たちの手に渡ることとなるが、所有者となった者たちは皆、変死している。 変死というのは、乱心し御影を辺り構わず振り回し、血の海を作ってなお飽きたらず、自害して果ててしまうという悲惨な死に方を指している。 御影は俗に言う、"呪いの太刀"というものなのだ。 だが唯一例外があった。それこそが武雄の…そして朱里の先祖にあたる、矢坂 晋太朗という侍だ。 彼はこのいわくつきの刀を手にしたが、 終生誰一人として殺すことはなかった。故に、御影はその男の一族に代々受け継がれることとなった。  実際、晋太郎の血を引く者のなかで、御影に"飲まれた"ものは今日まで一人も現れなかった。この話をそのまま受け止めるなら、 次の御影の継承者には確かに朱里こそが相応しいが…彼はまだ成人すらしていない。 皆が皆、太刀の呪いなんてものの存在を鵜呑みにしているわけではないが、単純に、刀なんてものを与えていいのだろうか、という思慮がこの空間を占めていた。  だが一同は朱里を見やり、そして安堵すを覚える。この子なら大丈夫だ。呪いが実在したとしても、ちゃんと己を御せるだろう。 そういった、確信めいた期待を朱里に抱いていた。 115 :血塗られしソードマスター 第壱話:御影 ◆UDPETPayJA [sage] :2009/01/17(土) 19:47:45 ID:ADEi3wlQ そして今に至る。朱里はテーブルに盛られた料理のなかから、好物である鶏料理を皿にとり、もぐもぐと食べていた。 これも武雄が生前から言っていたのだが、「儂は葬式でしけた面をされるのはごめんだ。せめて、料理くらいは豪華にしよう。満腹は人を笑顔にするものだ」と。 故人の意思を尊重したのか、宴席に出された料理は懐石弁当なんて無粋なものではなく、本格的なバイキング形式のものだった。 武雄のこういった性格も、親子三代に遺伝しているのだろうか。武雄は長い生涯のなかで、明確な敵対関係を作ったことはなかった。 その息子…朱里の父親、佐久本 健司(けんじ) も然り。朱里は、冒頭で説明したとおりだ。  定められた全ての日程が終わり、家路につく朱里。頭の中には未だに"御影"のことが巡っていた。 ――どうすればいいんだろう…とりあえず、僕の部屋に飾っておけばいいかなあ。朱里はそんなことを考えていた。祖父に比べると割と能天気な性格のようだ。 がちゃり、と玄関のドアの鍵を回し開ける。日付が変わって午前一時、家のなかは真っ暗だ。外同様に冷えた空気が充満しており、廊下は氷のように冷え切っている。 素足で踏み入ると、とたんに足が冷たくなる。  慣れた手付きで電気をつける。十年以上ここで暮らしているのだ。目を瞑ってもこれくらいたやすい。そのまま朱里は祖父の居間の襖を開いた。 武雄が入院して以来、この部屋へは久しく入らなかったが…御影の存在が気になったのだ。なんだかんだ言っても朱里も年頃の青少年、好奇心は人並みにある。 ただ、珍しいことにそれが性的関心に向けられたことは一度もないのだが。 そして、ソレはすぐに見つかった。掛け軸の下に飾ってある、黒い鞘に納められた太刀。朱里はそれを手にとり、抜いてみた。 ずしり、と手に伝わる重さ。きっとそれは御影自身の重さに加えて、今までに御影によって流されてきた血の重さも含まれているのだろう。 見つめていると、吸い込まれそうなほどの艶。朱里はとたんに身震いし、すぐに鞘に納めようとした。だが―― 「――痛っ…」  わずかに指先を切ってしまった。この程度なら絆創膏で大丈夫なのだが、朱里は、必要以上に狼狽してしまった。 朱里は決して臆病なわけではない。むしろ、どんな困難にも立ち向かう、祖父譲りの強い精神の持ち主だ。 その朱里がこれなのだから、常人なら足が震えて立てなくなるだろう。 朱里は、御影をもとの場所に置き、自室へと向かった。普段の朱里ならそんなことはないのだが、今は家に独りきりという、この状況が怖かった。 だから、部屋に入ってすぐお気に入りのアーティストのCDをかけ、特に何を見るというわけでもないのにテレビをつけた。 たとえ電気がもたらす擬似的なものでも、人の声がするというのはそれなりに心強いものだ。  朱里はそのままベッドに伏し、恐怖心が薄くなるにつれて、逆に増してくる睡魔に身を任せ、夢の世界に墜ちた。 116 :血塗られしソードマスター 第壱話:御影 ◆UDPETPayJA [sage] :2009/01/17(土) 19:48:45 ID:ADEi3wlQ  ―――朝、朱里は目覚まし時計が鳴るより早く目を醒ました。昨晩からつけっぱなしだったテレビは、ちょうど星座占いを映し出していた。 それによれば、今日のワースト1位は乙女座。奇しくも、朱里の生まれ月だった。挽回のラッキーアイテムは、紫のニーソックス……朱里は朝っぱらから複雑な気分になった 。 とりあえず朱里は、学校の制服に着替えることにした。クローゼットからエンジ色のブレザーとチェック柄のズボンを取りだし、代わりに喪服を収納する。 ……一瞬、星座占いの解説を思い出した朱里。今日はその通りに紫色のニーソックスを履くことに決めた。 なぜそんなものを持っているかというと、文化祭にて女装メイドに扮したときに用いたからに他ならない。  着替えを終え、パンでも食べようと台所に向かった。時計の針は6時57分を指している。学校に行くときははいつも7時半に出発しているのだ。 少し時間がなかったため、今日は買い弁にしようと考えていると、台所の方から香ばしい薫りが漂ってきた。 ――なんだろう…ここには今は僕しかいないはず。誰かいるのか? 朱里は歩を早め、台所にいる侵入者の姿を捉えた。 その侵入者…いや、少女は腰まで長く伸びた銀色の髪をもち、すらりと引き締まったスタイルをしていた。背は朱里と同じくらい、170センチ前後といったところか。 きりっとした切れ長の瞳をはじめとする、端正な…まるで人形のような顔立ち。まさに、美少女という呼び名がふさわしかった。 「おはよう、朱里」美少女は口を開いた。「朝ごはん、今できたところなんだ。温かいうちに食べてほしいな」 「…君は、いったい誰?」 当たり前の質問だ。朱里の記憶の中には、この少女の存在は含まれていなかったのだから。しかも、飛びきりの美少女だ。 そんな少女がいきなり朝ごはんを作ってくれているなんて、まったく意味が分からないだろう。  だが…次に少女の口から発せられた名前は、聞き覚えのあるものだった。 「ボクは美景だよ。美しい景色って書いて"みかげ"って読むんだ」 「……みか…げ…!? まさか、そんな!?」 「そう、君が思ってるとおり。ボクの父は松代 鳩蔵。銘刀・御影を作ったそのひとだよ」 「じゃあ君は…御影なのか!? 本当、に…っ」 朱里の唇に、突然温かく、柔らかいものが触れた。…それは美景の唇だった。舌を無理やりねじ込み、朱里の口内を食いつくさんばかりに舐め回す。 朱里はわけがわからず、ただなすがままにされる。  ちゅ…といやらしい音を立てて唇が離される。唇と唇に、唾液の橋がかかっている。朱里は、自分の心臓の鼓動が激しくなっているのを感じた。 「つれない顔しないでくれ。ボクはもう、キミだけのものなんだよ。自分で言うのもなんだけど、こんな美少女を独占できるんだよ?  それとも、オンナノコには興味ないのかな?」 「そ…ういうわけじゃないよ。…わけがわからないだけ」 「そう…じゃあ、期待して待ってるよ。とりあえず、学校に行かなきゃ、だね。ほら早く食べて? 今朝は朱里の好きな鶏肉にしたんだよ」 美景から離れた朱里は、おぼつかない足取りで椅子に座り、コップに注がれた牛乳を流し込み、料理に箸をつけた。 夢か現か、今の朱里にはわからないことだらけだ。だが、そんな中でもひとつ発見があった。  美景は、料理が上手だ。 (続)

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