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475 :Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/31(土) 11:51:49 ID:HLSJkxAS 7話「学園急降下(スクールデイズダイブ)・上昇」 国会討論というのを、最近は特に目にするようになった。 国民の政治への興味低迷のためか、ニュースなどで頻繁に取り上げられるようになったからだろう。 いい年下した大人たちが互いの揚げ足をとっては野次を飛ばしあう光景は、子供の教育上よろしくない。 もっと生産性の高い討論もあるだろうに、ニュースというのは見苦しい言い訳をするシーンだけを切り取って見せてくる。 ただ、今目の前で行われている質疑応答の様子を見ると、全部あんな感じなのでは、と思えてしまう。 遊佐はくるみにパイを食べさせた後、すかさず話の軌道を元に戻し、ぐだぐだと誤魔化し続ける佐藤を問い詰めるのを、既に10分近く続けている。 特殊なスキルでも持っているのか、遊佐の追及とツッコミは半端なものでなく、佐藤が四方八方へと投げる球を捕っては投げ返し、また捕っては投げ返すのを続けた。 しかも、全て顔面狙いなので佐藤の体力は余計に削られていく。 その間、どことなく居心地の悪い俺は椅子を立ち、入り口の近くの資料棚をあさることにした。 創立44年を迎えるこの高校の歴史は深く、生徒会の日誌だけで相当な量がある。どこか尊敬心を抱きながら手にとって見てみると、意に反して空白のページや落書きなどが多く見受けられる。 中には、一冊丸々が生徒の恋愛事情で埋められたものさえあった。尊敬の使いどころを間違った気になった俺は棚のほうを向いたまま、横のごみ箱へ静かにその日誌を捨てた。 2人の討論がどこか遠くのものに感じるのは、背後にいるくるみとの距離やたら近いからだろうか。 棚の戸はガラス張りなのだが、自分が邪魔で背後は確認できない。それでも、俺が席を立ったときにくるみも続いて立ったし、今もすぐ後ろから気配を感じているので間違いないだろう。 先ほどと同じ、敵意にも似たものだ。肌に感じる冷たさは、クーラーが原因ではあるまい。 鈍感だ、朴念仁だと言われたことはない。意識して他人に気を遣うようにしているため、お節介だ、お母さんだと言われたことならある。勘違いを多くして恥もかいてきた方だ。 だのに、俺がくるみに敵意を向けられている理由がわからない。何か酷いことをしてしまったなら、今すぐに謝る。いや、きっとその時に謝っているはずだ。 「なぁ、そんなとこで何してるか知らんが助けてくれよ、斎藤」 佐藤の呼びかけに、俺は身震いをした。続けて遊佐が何か言ってるが、脳まで届かない。 これはチャンスだ。先ほどから何度も振り向くタイミングを見計らってきたが、己の直感以外の情報がない以上、見出すのは難しかった。ここで振り返れば、本心とまではいかずとも、その一片ぐらいは除けるかもしれない。 意を決し、勢い良く振り返る。俺が目にしたものは━━ 476 :Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/31(土) 11:52:21 ID:HLSJkxAS ごく普通の、普段と何も変わらない生徒会の面々だった。 相変わらず遊佐と佐藤は言い合いをし、飛び交う会話のボールが見えているかのように目線で追う梅ちゃん、小さなメモ帳に覆い被さるようにして何かを書きつつも、 時折自分へ向けられる会話の矛先に相槌をうつりおちゃん、そんな様子を優しげに見守るくるみ。 何も、変じゃない。くるみがいつの間に席についたかは分からないが、背後に感じたものは勘違いだった。とすれば、さっきのも俺の思い違いである可能性が高い。 くるみが突然に俺の体や服を掴むのは今に始まったことではないし、俯きがちになるのも癖のようなものだ。 そう、いつも通りだ。 「・・・なにニヤけてんのよ」気持ち悪い、と遊佐は言い捨てる。 今は変に安心してしまった。 「言葉を選ばないと友達無くすぞ」 「友達は選ぶわよ」 「やったな斎藤、俺たちは選ばれた人材らしい」佐藤が横から入ってくる。 「あら、あんた達いつから友達に昇格したの?」 「予想外の答え!?」 「俺はなんとなく予想してた」 「あたしのこと友達じゃないいて言うの!?」 「いやいや、どんなボケよ、それ」 くるみが笑い、りおちゃんも笑う。ついでに、梅ちゃんも笑った。俺は平和だなぁ、と誰にも聞こえないよう、口に出して確認した。 平和は続かないものである、という世界の常識を、この時だけは忘れていた。 477 :Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/31(土) 11:53:09 ID:HLSJkxAS 「いい加減に話しなさいよ」 幾度かの問答を経て、遊佐に限界が訪れた。よくもった方だな、とは間違っても口にできない。 「いや、だからな、その・・・」 佐藤はといえば相変わらず曖昧で、席に戻って本を読む俺や、メモを書き続けるりおちゃんの方をチラチラと見ている。俺はいいとして、りおちゃんにまで助けを求めるなんて、堕ちたな佐藤。 とはいえ、流石に潮時だろう。「遊佐、とりあえずその辺で、な」 立ち上がり憤慨する遊佐の肩を、俺も立ち上がって叩く。その手を振り払うように肩を回すと、遊佐は俺と向き合った。やばい。 「あんたは気になんないの?あんだけ騒いでたくせにいざ訊いてみたらもったいぶるし・・・あたしはもう限界っ」 やけに紅潮した遊佐の矛先は、案の定俺へと向かってきた。 「いや、とりあえず落ち着けって、顔真っ赤だぞ」 「うるっさいっ」 流石にこの状態の遊佐は俺でも手におえないので、方法を変えるしかない。 「佐藤、吐け」 「裏切んのはえ~」 「仕方ないだろ、撲殺も絞殺も消滅も、俺は全部嫌なんだよ」 「でも・・・なぁ」横目でりおちゃんを見る。 俺に裏切られて遂にりおちゃんに全面的に頼るつもりか。堕ちれるだけ堕ちたな。 肝心のりおちゃんは、やはりメモ帳と対決している。最近は頻繁に書いているのを見るのだが、中身を知っている者は1人としていない。 「佐藤、助け舟を期待するな」船が来ても、今の遊佐なら粉砕しかねない。 「いや、違って、その・・・」 「そうだ、梅本君は何か知らない?」 ふいに、遊佐が攻め方を変えた。ただの思いつきか、気配り上手な遊佐なりのうめちゃんへの気遣いだったのか。 これが功を奏した。いや、結果的には悪いほうへ転がるのだが。 「うら、浦和先輩が行方ふめいんぐぉっ」半ば机の上にダイブする形で佐藤が口を塞ぐが、手遅れだった。 「浦和先輩が」 「行方不明?」 「だから・・・はぁ」 座りなおす佐藤から、思わずりおちゃんへと視線を移す。りおちゃんはペンを置き、クリクリとした目を見開いてこちらを見ている。 バレー部主将、浦和好紀(うらわ こうき)先輩とりおちゃんの交際は今年も継続されていた。 俺が感じ取った2人の問題を乗り越えたのか、はたまた俺の勘違いだったのか、とにかく、マネージャー業を続けていることから順調なのは火を見るより明らかだった。 昨日、つまり日曜日にも練習があったので、浦和先輩のことは目にした。相変わらずのキレの良いスパイクを披露した先輩は、誇らしげにりおちゃんへとピースサインをしていた。 午前のみの練習だったので昼頃に終わり、俺と佐藤は駅前のラーメン屋へ向かったのだが、途中で浦和先輩が合流した。 なんでも、りおちゃんは今日一日用事があるらしく、しょぼくれていたところに偶然俺たちがいたらしい。昼食後も公園でキャッチボールなどをして先輩が、眠くなったから帰るわ、と言うまで一緒だった。 とすると、りおちゃんは昨日の昼から会っていない状態で、いきなりこの話を聞かされたことになる。結局、ずるずると夕方まで一緒にいた俺でさえ衝撃的なのに、りおちゃんのそれは計り知れない。 「・・・詳しく言ってみて」 「おい、遊佐」 「分かってる。けど、もし本当なら放って置けないでしょ」 遊佐の顔は真剣そのもので、俺の止める気も腕と共に払われてしまった。 遊佐が佐藤に向き直ると、2、3回頭部を掻いてから、佐藤は諦めたように話し始めた。 「昨日の夜から家に帰っていないらしくて、携帯も家に置きっぱなしだそうだ」 「警察は?」 「まだ動いていないらしい」 「何よそれ。こうなったら、あたし達で、」 「いい加減にしてください」 机を叩く音と同時に、りおちゃんの声が響く。 「放って置けないとか、自分たちでとか・・・ごっこ遊びじゃないんですよ!?」 初めて見るりおちゃんの怒りの感情に、俺は言葉を失った。 「いや、その、あたしは・・・」 「もういいです」 遊佐の言葉をぴしゃりと断ち、そのまま生徒会室を後にしてしまった。 扉の閉まる残響の響く中、全員が黙りこくった。いつもの自信に満ち溢れた表情から一変、弱りきった顔の遊佐が小さく、どうしよう、と呟きながら俺を見てきた。 「心配すんな、あとでフォロー入れとく」そう言ったが、正直なところ、自信はない。 478 :Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/31(土) 11:53:45 ID:HLSJkxAS 放課後、りおちゃんが早退したと聞いた俺は、中学校の頃にバレーを始めて以来、一度たりとも休まなかった部活を休んだ。 遊佐のため、りおちゃんに謝りに行くのではない。そりゃあ、男として女性からの好感度は上げたいが、今はそれどころではないのだ。 校門まで行くと、門の前の花壇に座るくるみを見つけ、驚いた。 くるみは部活に入らなかった。元来より運動が苦手だった上、右眼の障害があっては体育会系の部活は難しい。文化部やマネージャーも薦めてみたが、首を縦に振ることはなかった。 それでも、くるみは一緒に帰ると言い張り、部活が終わる7時や8時まで生徒会室に篭っている。その際は俺が鍵を貸し、予め用務員の見回りの時間を調べ、隠れる準備もしている。 いっそバレー部のマネージャーになれば良かったのだが。 くるみは俺を見ると、スカートの後ろを叩きながら立ち上がった。 「先に帰れ、ってメールしなかったっけ?」 「うん、来たよ」 「用事があるとも書いたよな?」 「うん、書いてあった」 「じゃあ、なんで?」 「お兄ちゃんと一緒に帰りたかったの」風にそよぐ花のように首を傾け、にこりと笑った。 こうして改めてみると、やはり可愛い。地毛だという証明が出来たため、髪の色は変えていない。強いて言うならりおちゃんと同じく少し伸び、相変わらず遊ばせているということか。 上下紺色というただ地味なだけの制服も、くるみが着ると淑やかに見えてくるから不思議だ。最も、最近は気温も上がり始めたので、ブレザーではなくノースリーブの黒いベストを着ている。 右眼には見慣れてきたアイパッチがあるが、そのお陰でより左眼が綺麗に見える。これなら入学早々、全学年から分け隔てなくラブレターを貰ったのも頷ける。 首もとのチョーカーが目に付く。 「気に入ってるみたいだな、それ」 「うんっ、大好きだよ」 ワイシャツの中へ指先を入れ、取り出したチョーカーの飾り部分を見せてくる。大小異なった指輪大のリングが二つ、小さいほうが大きいほうの内側に入り、上から見るとクロスしているデザインとなっている。 去年と引き続いて忙しい両親は、くるみの入学祝と称して金だけを置いていった。好きなものを買えばいい、と言ってやったら、くるみは俺に選んで欲しいと頼んできた。 残念ながら俺にそんなセンスはなく、結局はくるみ先導で決めたのがこのチョーカーだった。 「チョーカーって、首輪みたいなやつかと思ってたな、俺」 「首元にぴったりしてるのを全般的に、チョーカーって言うんだよ」 へぇ、と相槌を打ちながら、再びくるみを観察する。 俯きがちになる所は若干暗く感じてしまうかもしれないが、それが儚さを増長して魅力となっている感もある。抱き締めれば折れてしまいそうな細さや白い肌は、護ってあげたい、と思わせる力を充分に備えている。 ただ。 「お兄ちゃん・・・そんなにじっと見られると恥ずかしいんだけど・・・」 「くるみって、着物が似合いそうだよな」平坦、と表現できてしまう身体を、控えめに表現してみた。 「えっ、ホントに?」 本来なら殴られて当然の台詞に、くるみは明かりが点いたような表情で喜ぶ。この天然というかあどけないというか、これもくるみの魅力なのだろう。 479 :Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 [sage] :2009/01/31(土) 11:54:23 ID:HLSJkxAS 「捜すんでしょ?」 駅へと歩き出してから、突然くるみが言った。「え?」 「部活の先輩、えっと、うら・・・」 「浦和先輩?」 「そう、その人。お兄ちゃん、捜すつもりなんでしょ?」 驚いた。突拍子もない話題にではなく、心を読まれたことにだ。 一応言っておくが、自分の手で犯人を捕まえようだとか、ましてや遊び半分なんてこともない。俺はただ、佐藤の話を聞いて確認したいことがあっただけだ。深く首を突っ込むつもりはない。 「・・・なんで分かった?」 「分かるよ、お兄ちゃんのことだもの」俺の前で振り返り、一段と笑顔を強める。 「身長173cm、体重65kg、足のサイズは27.5、9月2日生まれのおとめ座のO型、名前の由来は父親の憲典から一文字を拝借、特技はペン回し、趣味はバレー・読書・野球、バレーのポジションはセッター、 好きな球団は広島東洋カープ、垂直跳びの記録は校内で1番、握力は右40、左35、好きな色は青、食べ物は餃子とシチューと魚介類が好きで、嫌いなのは梅干、得意科目は国語、苦手は数学、 ピロウズやバックホーンなどの割とマイナーなバンドが好きで、犬が大好き、座右の銘は行雲流水、好きな言葉は平平凡凡」 1つ1つ指を折りながら一気に言うと、1度深呼吸をした。 「そして、私にすごく優しいお兄ちゃん」 どう?、と確認してくるくるみに、しばらく返事が出来なかった。大半は広く知られているものとはいえ、ここまでスラスラと言える人は他にはいないだろう。多分、俺も無理だ。 俺が表情を崩さないで固まっていると、くるみは小首を傾げた。 「信じてない?じゃあ、外じゃ言えない事も言おうか?」 「いや、ここ外だし」外でも中でも勘弁していたきたい。 「むぅ・・・ホントだよ?ホントにお兄ちゃんのことなら全部知ってるんだよ?」 「あぁ、分かった、信じるよ」 これは俺もくるみのことをもっと知るのが礼儀だろうか。 身長はひゃくよんじゅう・・・ご?いや、よんだったような。体重は、知らないな。あとは・・・ 「まずは、家だよね」 「あぁ、そうか。えっと、実家は岡山駅の、」 「・・・お兄ちゃん、話きいてる?」 「そりゃあ」言いかかけて、我に返った。「いや、なんでもない。そうだな、まず家だよな・・・誰の?」 「はぁ。うら・・・わ、先輩?を捜すなら、まずは家に行くべきだと思うんだよ」 「あぁ、なるほど」 それは俺も考えていたことだ。 「手掛かりがないから、スタート地点に行くのが1番良いと思うの」 「そうだな、そうしよう」 「じゃあ早速、しゅっぱーつ」 何時の間にか同行する流れになっていたが、俺は何も言わなかった。嬉しそうなくるみを見ていたかったからで、決して“外では言えないこと”にビビったわけではない、断じて。 夏直前、6月の終わり頃のことだった。

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