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146 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/04/11(土) 22:07:03 ID:VngcjGT5  香草さんのフラッシュのお陰で、僕達は短時間で洞窟を抜けることが出来た。  僕と香草さんが手をつなぐと、ポポも手を繋ぎたいとごね(正確には翼だが)、結局ポポともつなぐことになった。  結果不意打ちに対応できず、僕は体当たりを計三回も喰らうことになってしまった。  香草さんはポポに文句を言ったが、香草さんが文句を言えば言うほどポポは僕に引っ付くので、すぐに諦めたようだ。  数時間ぶりの日光が目に厳しい。  僕は目を細めて天を仰いだ。痛む体に突き刺さるような眩しさだ。 「香草さん、洞窟抜けたよ」  香草さんにそう告げる。  名残惜しいが、もう手を離さなくてはならない。 「そう」  彼女はそう返事して、フラッシュを使うのをやめた。  そのまま歩き出す。僕の手を掴んだまま。 「あ、あの、香草さん?」  僕が呼びかけると、香草さんは立ち止まって振り向いた。 「何?」  僕の視線は香草さんの顔とつないだ手を往復する。  香草さんはそれから察したのか、勢いよく僕の手を振りほどいた。 「あ。べ、別に……この馬鹿!」  また馬鹿呼ばわりされてしまった。 「何も見えないkら仕方なく繋いでいただけなんだからね!」  香草さんは顔を真っ赤にして僕に怒鳴る。  そうだよね。仕方なくなんだよね。  僕の浮かれていた心がどんよりと沈む。 「ご、ごめんね」  僕は香草さんに謝ったが、香草さんはふいと前に向き直り、そのまますたすたと歩き出してしまった。 「ポポはゴールドの手を放さないですよー」  ポポはにこやかに僕の手を強く握る。  地上に出たんだからポポには飛んで哨戒してもらいたいんだけどな……  結局、再びポポは飛び上がり(やんわりと告げたのに、また激しく狼狽して、慌てて飛んでいった。僕はそんなことで嫌いになったりはしないと言っても効く耳持たずだ)、香草さんはずんずん進む。 「大きな井戸だね」  僕達はすぐに大きな井戸の前に着いた。  口は人が数人同時に入れそうな広さがあり、ご丁寧に階段までついていた。  これが『ヤドンの井戸』か。  この井戸にはヤドンが大量に生息しているらしい。  そもそも檜皮村はそれ自体が大きなヤドンの集落のようになっているということだ。  でも特に用も無いので素通りする。  村に入った僕達は、すぐにおかしなことに気づいた。 「この村、やけに警官が多いんだね」  過疎の進んだ小さな村であるはずの檜皮村なのに、異様なくらいの警官の数だ。  目に付くだけでもいちにいさん……十一人もいた。  あくまで今見えている範囲だけで言えば、明らかに村民の数より警官の数のほうが多い。 「あのー、何かあったんですか?」  何事かと思って、僕はその警官の一人に声をかけた。 「ん、ああ。ロケット団がこの村に拠点を作っているという情報があってね。一昨日が一斉摘発の日だったんだよ。まだ残党が潜伏している可能性があるから我々が警備しているというわけさ。君達も気をつけなさい」  なるほど、道理で警察が多いわけだ。  ロケット団。その言葉に一人の男が頭をよぎる。  シルバー。  吉野町で会ったときも吉野町のすぐ手前でロケット団を退治したばかりだった。  彼はロケット団幹部の息子だ。  今はロケット団の要職に納まって、ロケット団と行動を共にしている可能性も十分にある。  もしかしたら、アイツを見つけられるかもしれない。  僕は胸の内に熱を感じた。 147 :ぽけもん 黒  激闘! 檜皮ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/04/11(土) 22:07:44 ID:VngcjGT5 「ゴールド?」  香草さんに声をかけられて、現実に引き戻される。  僕は何かあるとすぐ考え事に耽ってしまう癖があるからな。  気をつけないと。  それよりも、今第一に考えることは、どうしたら香草さんと契約解除するのを防げるかだ。  重ね重ね言うが、僕は本当は香草さんと契約解除なんてしたくはない。すごく強いし、それに……可愛いし。  数日前はすっかり落ち込んでしまって、旅を止めることばかり考えていたが、今はもう少し前向きに考えることが出来ている。  それでも、シルバーにあってしまえばすべては終わりになってしまうのだけれど……  しかし、実際はもう檜皮村についてしまっている。  つまり契約解除まで残すは役所へ行き、手続き済ませるだけとなっている。もう目の前にあるようなものだ。  どうすればいいんだろうか。 「何?」  僕は香草さんに返事をする。 「あ、あのね、あ、あの……け、契約解除のことだけど……そ、その……ななか……な、何でもないわ」  一体何なのだろうか。  何か契約解除について僕に言いたいことがあるのは間違いないと思うけど。  洞窟でのことを考える限り、香草さんは僕にそこまで悪感情を持っていないとも考えられる。  だから説得が不可能だとは思いたくないんだけどなあ。  香草さんのほうからその話題を切り出してくれた今こそ絶好のチャンスだったのかもしれないけど、何も言葉を用意していなかったから何もいえなかった。  余計なことを言って神経を逆撫でしてしまったら元も子もない。  ……うーん、こんなこと人に言ったら、彼女にはっきり拒絶を示されるのが怖くて逃げているだけの言い訳と言われそうだ。  でも僕のこの性格は今に始まったことじゃないしなあ……  説得の文言を考えながら村を一周したが、僕は奇妙に思った。  この村、役所が見当たらない。  一周したし、役所がそんな村のはずれにあるはずも無いから、見逃してない限り役所は存在しないことになる。  これは一体。  それと、村を一周している間、香草さんがやけにそわそわしていることも気になった。  僕と契約解除できることが嬉しいのかとも思ったけど、どうも喜んでいる感じには見えなかった。  むしろ焦っているような。  もしかしてこの村に何かトラウマでもあったりするのだろうか。  檜皮村は鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた村で――というか森を切り開いて作られた村で、その性質上虫ポケモンの宝庫となっている。  だから香草さんが過去に旅行経験でもあって、この村に来たことがあれば、なんらかの嫌な過去を持っている可能性もある。  直接聞いてみようかとも思ったけど、仮にトラウマがあったのだとしたら傷を抉るような行為になってしまう。  そう考えると聞くことが出来なかった。  香草さんにそわそわしている原因を尋ねることはできないけど、村人に役所の場所を尋ねることはできる。  僕は畑で仕事をしている、初老の男性に尋ねてみた。 「すみません、この村の役所の場所をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」 「あー? 役所ならほれ、そこだ」  意外なことに、役所はすぐそこにあるらしい。  男が指差す先を見ると、そこには木造で平屋の建物があった。  役所というより公民館と言ったほうがふさわしいような見た目だ。  それに、どこにも役所であることを示す表記が無い。 「けど、今言ったって何も出来ねえよ」 「そ、それってどういうことですか?」 「あー、この村、見てのとおり過疎が進んでてなあ、役所無くなっちまったんだ。今じゃそこの公民館に週に一度街から職員さんが来て、そこを臨時の役所として使うことになってんだ」 「週に一回って、それは何時なんですか?」 「あー、ちょうど昨日だよ。残念だったね、お若いの」  香草さんが背後で息を飲むのが聞こえた。  男は残念だと僕を慰めたが、僕にとっては残念どころか大喜びだ。  心の中でガッツポーズを作った。  ありがとうございましたと礼を言って男と分かれた後、僕達はまた歩き出す。 「そういうわけだから香草さん、契約解除はしばらくできないね」  僕は香草さんに笑顔で言う。 「そういうことなら、し、仕方ないわね」  香草さんはいやいやながら了承してくれたようだ。  まあ、了承せざるを得ないしね。 「それってまだチコと一緒にいるってことですか!?」  ポポが僕に尋ねてきた。不快感をあらわにしている。  うーん、だからポポにとってはこれが正しいリアクションなんだろうけど、僕にしてみれば複雑だなあ。 148 :ぽけもん 黒  激闘! 檜皮ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/04/11(土) 22:08:12 ID:VngcjGT5 「そういうことだよ。それとポポ、そんなに嫌がること無いじゃないか。契約を解除していない以上、香草さんも大切な仲間なんだからさ」 「チコが乱暴するのが悪いんです」 「香草さん、もう少しポポに優しく……」 「全部その鳥が悪いのよ」 「香草さん! だからそんな言い方しないでって言ったじゃないか!」  まったくの平行線だ。悲しいけど、二人とも仲良くなんてのは無理なのかな。 「何よアンタはポポばかり! そんなにポポが大事なの!?」  しかも香草さんの逆鱗に触れてしまったようだ。 「言っただろ? 香草さんも仲間なのと同じようにポポも仲間なんだよ!」  僕がそういうと、香草さんは途端に無表情になって黙り込んだ。  分かってくれたのかな。  僕達はまたポケモンセンターに向けて歩き出したが、空気は重い。  というか最近空気が軽かった覚えが無い。石英高原を目指す旅とは、皆このように胃の痛いものなのだろうか。  香草さんは先ほどのようにそわそわはしていないけど、今度はイライラしているように見える。  本当に香草さんは分からない。  ポケモンセンターの部屋のベッドの上で、しみじみとそう思う。  まだ日は暮れてはいないが、万全の体調で挑むためという建前でジムに挑戦するのは明日にした。何せ皆それほど消耗してはいない。確かに万全ではないかもしれないが、本来ならわざわざ日を延ばすほどではない。  役所の人が来るまで後六日だ。  となると普通に進めば明らかに役所の人がこの村に来るより僕達が次の街である古賀根街につくほうが早い。だからそんなに急ぐ理由がないのだ。  幸いなことに香草さんも異論無い様だったし。  ポポはニコニコしながら僕の隣に寝そべっていて、香草さんはイライラした面持ちで向かいのベッドに横になっている。  やっぱり、契約解除できないことがそんなに不満なのか。  そりゃ、ここまでくればもう僕とはおさらばできる思っていたのに、それが外れたらイライラもするよね。  やっぱり、僕は香草さんに嫌われているんだなあ。  はあ、と溜息一つ。  そしたらポポが慌てた様子で、 「何か悪いことしたですか!?」  と尋ねてきたから困った。  ただの深呼吸だと誤魔化したけど、彼女の異様とも思える強迫観念には困ったものだ。もっと自分に自信を持ってもいいのに。  僕みたいな凡才と違って、彼女は才能に恵まれているのだから。尤も、その自覚はないのかもしれないけど。  そうして僕は悶々と香草さんを説得する台詞を考えながら時間をすごし、そして翌日を迎えた。  道路にでたが、まだ警官の数は多い。  そういえば寝ていたから曖昧なんだけど、夜中に外が騒がしかったような気もするから、またひと悶着あったのかもしれない。  お疲れ様ですと警官に挨拶をし、僕達はジムへ向かった。  檜皮村のジムは村に合わせたのか、虫タイプを使うジムだ。  香草さんは虫が弱点だけど、逆にポポは虫に弱点だから大して問題は無い。  むしろ前の桔梗町のジムよりも楽かもしれない。  僕はそんな楽観的思考をしながらジムへ入った。  ジムの中には鬱蒼と人の背丈を越す草が生い茂っており、向こう側の様子が何も見えない。入り口のすぐわきに階段があったので上ることにした。  階段の上には通路があり、このジムの全景がよく見渡せた。  白線の中は一面の草むらである。  なるほど、木を隠すなら森の中、虫を隠すなら草むらの中、というわけだ。  桔梗町に続き、また自分に対して有利に働くようなジム作りがなされているわけだ。  ジムとはすべてこういうものなのだろうか。  戦う場所を選べないのは挑戦者の辛いところであり、戦う場所を選べるのはジムリーダーのアドバンテージというわけだ。  戦う前から戦闘というものは始まっているのかもしれない。 「よくきたね、挑戦者?」  ジムの壁をぐるっと周回する様に伸びている通路。その通路のちょうど僕達の向かい側に彼女はいた。  入り口では草の所為で見下ろす位置の彼女も、見上げる位置の僕も、お互いの姿が見えなかったようだ。  その少女は声の通り、活発そうな少女だった。  肩の手前でザクザクと切りそろえられた紫の髪と、緑の丈夫そうな服が特徴的である。 149 :ぽけもん 黒  激闘! 檜皮ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/04/11(土) 22:08:54 ID:VngcjGT5 「ええと、君がジムリーダーかな?」  状況的には彼女がジムリーダーなのだろうけど、それにしてはかなり幼い。僕よりも絶対に年下だ。だから僕は失礼になるかもしれないと思いつつも尋ねた。 「そうだよ。ぼくが檜皮ジムジムリーダーのツクシさ! ご存知の通り、虫ポケモン使いだよ」  彼女がそう言うと、草むらの中から二人のポケモンが飛び出した。  ゴツゴツした装甲に全身を覆われた緑色のポケモンと、こちらもゴツゴツした甲冑に全身を包んでいる緑色のポケモン。  トランセルとストライクだろう。  トランセルはまだ硬そうというだけだが、ストライクのほうは両手に構えられた二本の大刀がいかにも凶悪そうな威圧感を放っている。  それに、二人ともあれだけ重そうな装備をしているのに、一っ飛びで簡単に二階ほどの高さのある通路まで上ってきた。重装甲だからといって鈍重と言うことにはならないということか。  しかし僕のパートナー達はそれを見ても平然としている。  あの装甲から想像される防御力の高さに素早さ、さらにストライクのほうは高い攻撃力が想像できる。  それなのに、何のリアクションもなしとは、この子たち知覚に何か問題があるんじゃないかな。 「キリとナギだよ」  ツクシさんの紹介を受けて、二人とも順にお辞儀する。  トランセルのナギさんはお辞儀のときそのまま前のめりに倒れてしまった。  装甲の稼動域狭そうだもんなあ。  しかも一人では起き上がれないらしく、手足をバタバタと動かしている。  可愛いなあ。  思わず和んでしまう。  お陰で僕の右腕が折れそうだ。 「……って痛い痛い痛い! ど、どうしたのさ香草さん!」  香草さんに僕の右腕を曲がらない方向に引っ張られていた。  一体どうしたというのか。  せっかくナギさんを見て穏やかな気持ちになれたというのに、そんな気分は一瞬にして吹き飛んでしまった。 「長いのよ。早くしなさいよ」  香草さんはどうやらお怒りのようだ。  ツクシさんと話を始めてからまだ一分程度のはずだ。決して長くは無いと思うんだけどなあ。  そもそも、暇つぶしで腕を折られたらたまったものではない。  そういえば最近あまりご飯を食べてないみたいだから、栄養バランスか崩れてイライラしやすくなっているんだろうか。  光合成に頼りすぎちゃダメだよね。今度からちゃんと言わないと。 「ええっと、僕は若葉町から来たゴールド。よろしくね」 「なんだその子供をあやすような口調は!」 「え、そんなつもりはなかったんだけどな。ごめんね」  ツクシさんは向こう側でピョンピョンと跳ねている。これはこれで可愛いなあ。  そして香草さんは今度は僕の指を折りたいようだ。 「か、香草さん! 人間の指は普通そんな方向には曲がらないたたたた!」  僕は香草さんの手を必死に振りほどこうとする。  しかし段々力が強くなっていっているような……  僕がこの村のポケモンセンターの医療設備がどのくらい充実しているかに望みを託し始めた頃、香草さんの手が強い力で払われた。  ポポが翼で香草さんの手を叩いてくれたのだ。 「チコ、それ以上は許さないです」  ポポが香草さんを睨みつける。 「へえ。どう許さないのか教えてほしいわね、鳥頭」  香草さんもポポを睨み返す。  あれぇ、どうしてこんな険悪ムードに。 「や、やめてよ二人とも。ポポ、僕は大丈夫だからさ。香草さんも落ち着いて」 「ははは、君たち、挑戦者かと思ったらコントでもやりにきたの?」  ツクシさんにも馬鹿にされてしまった。 150 :ぽけもん 黒  激闘! 檜皮ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/04/11(土) 22:09:25 ID:VngcjGT5  確かにご尤もだけど、言われっぱなしも癪なので皮肉を返してやる。 「君こそ、こんな小さな女の子がジムリーダーなんて驚きだよ」 「ぼ、ぼくは男だ! それに年は関係ないだろう!」  明かされる衝撃の事実。  髪型。可愛い顔。そして子供ということを加味しても明らかな女の子の雰囲気。とても信じることが出来ない。 「お……男? そんな……嘘だ」 「嘘じゃねーよバカ!」  怒られてしまった。怒鳴り声すら可愛らしい。 「でもどこからどうみても可愛い女の子にしか見えないよ」 「お前、男が可愛いと言われて喜ぶと思ってるのか!」  ご尤もだ。尤も、僕は彼女が男だということを信じるつもりは無いが。  自称=事実とは限らない。  きっと彼女は女の子なのに虫好きだとからかわれるから自分のことを男だと称すようになったに違いない。僕はそう信じ続ける。  そして背後からの殺気がやばい。  香草さん的に考えて、余計な話をしすぎてしまったようだ。 「ねえねえゴールド、ポポは可愛いですか?」  急にポポに飛びつかれた。 「うん、ポポも可愛いよ」  僕は頭を撫でながら答えてやる。  そして背後からの殺気がもうとんでもないレベルに達しているような。 「そ、それで、彼女達が僕のパートナーのポポと香草さん。よろしく」  これ以上のんびりしていたら僕の身が大変なことになりそうなので、若干唐突かと思いつつ自己紹介を進める。  香草さんは苛立ちを隠そうともせず、無愛想な顔でじっと前方を睨んでいる。  ポポはキチンとお辞儀をしたが、なぜか前のめりに倒れた。  しかも倒れたままジタバダと手足を動かしている。  数秒の後、顔だけ起こして僕を見上げてきた。  これは一体何なのだろうか。  もしかしたら先ほどのナギさんの動作を自己紹介のときの正当な作法と思い込んでしまったのかもしれない。後でちゃんと教えておかないと。  僕が何も言えずにポポを見ていると、ポポは突然立ち上がり、恥ずかしそうに頬を染めながら服の埃を払っていた。  僕の様子からおかしいことが分かってくれたのかな。  そんなことを考えていると、突然アナウンスが入った。  草むらで見えないけど、ちゃんと審判もスタンバイしていたようだ。  さて、問題は…… 「私が行くわ」 「ポポが戦うです!」  この二人をどう宥めるか、だ。正直言って頭が痛い。 「香草さん、香草さんには悪いんだけどさ、今回はポポに戦ってもらおうかと思っているんだ」 「どうしてよ!」 「どうしてって……ナギさんの装甲を見て、あの装甲に単純な打撃でダメージを与えるのは難しいだろうし、キリさんの鎌で香草さんの蔦は無力化されちゃうと思うんだ」 「ゴールドの言うとおりです!」 「そんなわけ無いでしょ! あんなの、簡単に捻じ切れるわよ!」 「捻じ切っちゃダメだよ!」  捻じ切ることを前提に話を進めていたとは。  どうして香草さんはこうバイオレンスなのだろうか。 「じゃあすり潰す?」 「一体何をどうするつもりなのさ!」  このフィールドでどうすれば対戦相手をすり潰すという発想が出てくるのか、僕にはさっぱり分からない。 「しょうがないわねえ。ポポ、ちょっと私の目を見なさい」  ポポは怪訝そうに香草さんの目を覗き込む。何だろう?  僕も不思議に思って香草さんをじっと見る。 「フラッシュ!」 「ぎゃあああああああ!! 目が、目がぁ!!」  突然香草さんの目から迸った閃光により、僕は目を焼かれ地面をのた打ち回る。 「何でアンタがダメージ受けてんのよ……。そして何でアンタは平気なのよ」  香草さんは僕を呆れたような目で見て、その後ポポに訝しげな視線を向けた。 151 :ぽけもん 黒  激闘! 檜皮ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/04/11(土) 22:09:58 ID:VngcjGT5 「ポポにはそんなの効かないですよ」  確かに、正面から喰らったはずなのにポポはピンピンしている。  そうか! かなり明るくないと物が見えないということは、逆に言えば明るさに対する耐性が高いということか!  なるほど、これは思わぬ発見だ。多分今後役に立つことはなさそうだけども。 「君達、本当に何しに来たの?」  ツクシさんは何かバカを見るような目でこちらを見ている。ツクシさんが呆れるのも無理はないんだけどさ。 「二人とも、どの道また入れ替え戦だからね! 勝っても負けても交代なんだよ!」 「じゃあポポは先がいいです」 「私は後がいいわ」  僕の予想に反してすんなり決まった。二人にもようやく協調性というものが芽生えてきたのかな? 「雑魚と戦ってもしょうがないし」 「どうせチコは負けるです。そしたら両方ともポポが倒せるです」  前言撤回。君達の魂胆はよーく分かった。  どうして二人はこれほどライバル意識を燃やしているのかな。  ポポとナギさんがフィールドに飛び降りたことで審判によるルール説明が始まる。  二度目なので特に効くべき点も無い。  試合開始の宣誓と共に、バトルが始まった。 「ナギ、硬くなれ!」  ツクシさんは早速ナギさんに指示を出した。  まずは防御を固めるか。元から硬そうだし、防御に徹しられたらかなり厄介だ。 「ポポ、電光石火でぶつかれ! 相手に防御を固めさせるな!」  僕の指示通り、ポポはあっという間に距離をつめ、ナギさんを弾き飛ばした。  しかしこれではたいしたダメージは見込めない。それは分かっている。 「ポポ、そのまま風起こしだ!」  体性を崩したナギさんに烈風が襲い掛かる。  ナギさんはなすすべなくじりじりと交代していく。 「ナギ、耐えろ!」 「ポポ、体当たりで一気に押し出すんだ!」  僕はもともとダメージを与えることによる勝利を狙ってはいなかった。  あれだけ防御がしっかりしているとなると正攻法で倒すにはかなりの体力の浪費となるだろう。  そもそもツクシさんの戦略はおそらくそれだ。  専守防衛に徹し、こちらが疲労や焦りで隙が生じたらそこを叩いて潰す。  ならば相手が守りを固める前に速攻で片をつけてやればいい。  風で移動を封じ、適度に追い詰めたらそのまま体当たりで押し出す作戦だ。  ポポにはそれが出来るだけの能力がある。  そして僕の思惑通りにナギさんは場外にはじき出された。  ナギさんの場外でポポの勝ちである。  よし、これで余裕が出来た。 「ポポ、よくやった!」  はしゃいで戻ってくるポポを抱きとめ、労いの言葉をかけてやる。  香草さんの目が痛いのでそれもそこそこに、二戦目の準備を始めた。  ツクシさんはかなり悔しそうだ。  トランセルはもともと戦闘向きのポケモンではない。  それをあえて手持ちに入れているということは、なんらかの理由か、自分のトレーナーとしての自負があるのだろう。  しかし、ナギさんはホントに癒し系だなあ。  ツクシさんの前でしょんぼりしているナギさんを見ているだけで、なんだか微笑みがこぼれる。 「ナギ、よくやった。しっかり休んでくれ。……キリ、頼んだぞ」 「イエス、マスター」  ツクシさんの命で、フィールドにキリさんが降り立った。  鳥ポケモンほどではないが飛行能力を備えている上に、ナギさんにも劣らない重装甲。極めつけは二本の大きな刀だ。速度、防御、攻撃を兼ね備えた、まさに驚異的なポケモンといえる。  香草さんはすでにフィールドに待機していた。  僕は指示が出しやすいようにポポと少し距離をとる。  そして、試合開始が宣言された。 「香草さん、蔦で周りの草を薙ぎ払って!」  開始と同時に僕はそう指示を出した。  ナギさんの装甲の色から考えて、草むらにまぎれられて高速で攻撃されたらおそらく手も足も出ない。一方的に削られるだけだ。  ならばまずすべきことは隠れ場所を無くすこと。僕はそう考えた。 「遅い!」  しかし、その声と共にキリさんが上空から切りかかってきた。  これは蔦で受け……いや、まずい! 152 :ぽけもん 黒  激闘! 檜皮ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/04/11(土) 22:10:46 ID:VngcjGT5 「リフレクター!」  僕は慌てて叫んだ。  上段からの加重のかかった二本の刀はおそらく蔦では受けることが出来ない。  回避にしても蔦が長く出ている今ではどうしても蔦が引きずられて回避が遅れる。  一手目から失策だったかもしれない。  間に合え……!  金属をこすり合わせるような、鈍い音がフィールドに響いた。 「ぐぅ!」  香草さんの短い悲鳴が聞こえた。  見れば、刀は束ねられた蔦にかろうじて受け止められていた。  しかし蔦越しとはいえ、刀は香草さんの左肩に打ち据えられていた。  リフレクターはちゃんと発動していた。それなのに、なんて威力だろうか。  相性の問題もあるだろうが、ここまでパワーのあるポケモンとの戦闘は初めてだ。  もしかしたら、力は香草さんにも引けをとらないかもしれない。 「香草さん、眠り粉だ!」  僕の指示を受けて、香草さんからキラキラと光る粉が散布される。  キリさんは咄嗟に飛びのいて距離をとった。  最初からあたると思っていなかったので、距離をとらせることが出来ただけでも十分だ。  香草さんは左肩を抑え、苦痛に顔をゆがめている。  あの様子だと、もうこの戦闘中はまともに左腕を使えないかもしれない。  何てことだ。  これはもしかして本当にポポの予想が当たってしまうかもしれない。  ……僕がそんな弱気でどうするんだ。  後ろ向きな考えは今は必要ない。今すべきことは最善を尽くすことだ。 「香草さん、葉っぱカッター!」  キリさんの強襲によっていくらも草をなぎ倒せなかった。だから遠距離から攻撃できつつ、同時に草も刈れるこの技を選択する。 「キリ、剣の舞」  キリさんは大刀を上手く生かしながら舞を始めた。  それは優雅さと雄雄しさを兼ね備えている、美しいものだった。  しかも同時に自身に襲い掛かる葉っぱも打ち落としている。  剣の舞はそもそも自身を鼓舞することにより攻撃力を上げる技であって攻撃技ではない。  しかしそれで葉っぱカッターを受けられるとは、ますますまずい。  このままではどんどんキリさんの攻撃力が上がっていくことだろう。  やはりこの戦いも、早期決戦が理想のようだ。 「香草さん、蔓で相手の動きを封じるんだ!」 「させないよ! キリ、連続斬りで相手の蔓を切りまくれ!」  伸びていく無数の蔓を、キリさんは次々と切り落としていく。  そもそも片手しか使えないため、蔦の数が足りていない。それに加えあの速度だ。近付くこともできない。  いや、それどころかキリさんはジリジリと近付いている。  このままじゃいずれあの凶刃が香草さんにも降りかかってしまう。  なんとかしないと。何か手は無いか。  必死に考えても、何も名案が思いつかない。  策はいくつか思いつくが、それを相手に伝えず香草さんだけに伝える術が考え付かない。  前回のジム戦の快勝で、ジム戦を甘く見ていたかもしれない。  戦う直前でないと戦う相手はわからないとはいえ、ジムによって戦うポケモンの傾向は分かっている。だからそれにあわせて、事前にいくつか策を作って話し合っておくべきだった。  そうしているうちにもキリさんはドンドン近付いてくる。  もうダメか。  白旗を揚げようかと思ったそのとき、突然キリさんの体が浮き上がった。  両足をしっかりと蔦にとられている。  よく見ると、香草さんの左腕から伸びた蔦が、草むらを迂回してキリさんのところまで繋がっているのが見えた。  左腕は使えないんじゃなかったのか?  香草さんはそのままキリさんを壁に向けて叩き付けた。  キリさんは空中で慌てて両足を縛っている蔦を切ったが、ついた勢いはそう簡単には止まらない。  キリさんはそのまま場外となってしまった。  香草さんの場外勝ちだ。 153 :ぽけもん 黒  激闘! 檜皮ジム! ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/04/11(土) 22:11:24 ID:VngcjGT5  審判によって試合終了が宣言されると、僕は急いで香草さんに駆け寄った。 「香草さん、腕は大丈夫なの?」 「演技よ。私だって相性の悪い相手に無策で挑んだりしないわよ」  意外な答えだ。香草さんは普段はどんな属性だろうと関係ないといっているが、実際はしっかり考えているんだなあ。  思わず感心してしまった。 「どう、あの鳥には出来ない戦い方でしょう?」  香草さんは僕を挑発するような目で見てくる。わざわざ感心したのに、損した気分だ。 「ボク達の負けのようだね。お前、ふざけた奴かと思ったら、中々仲間に恵まれているんだな。規定どおり、インセクトバッジを渡そう。それと、こっちは連続斬りの技マシン。相性の悪い相手を倒したからって、まだまだ先は長いんだからね。甘く見ないことだね」  ツクシさんは悔しそうな顔をしていたが、口調から判断すると、僕達を認めてくれたようだ。  よしよしと頭を撫でたくなるのを堪えながらバッジを受け取る。  こうして、僕は二つ目のバッジであるインセクトバッジを手にした。

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