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236 :プリプリプリンセス 三話 [sage] :2009/04/15(水) 12:09:20 ID:57mxx06l
「松戸ぉ、お前藤代と何気に仲良いな」
「そんなんじゃねぇから」
マジで!
下手な言い訳されるくらいなんだからこれはガチだ。
あの後結局何も音沙汰無く夏休みの宿題の話を毎時間ノートに書きながら、昼休みの今に至る。
友人共は未だに藤代との仲を疑っているらしい。
こちらもあちらもお隣さんとしてしか関係は(俺としては変わりたかったが)持てなかったくらいだ。
…そしてこちらはもう早く席替えになって欲しいくらいだし。
「九月になったらお前等も仲良くなれるかもしれないぞ、席替えで」
「松戸てめぇッ!」
瞬発力はあるんだ。
友人共からの拳から逃げるべく廊下を走った。
あー…外は暑いし、図書館にでもいくか。
図書館は勿論冷暖房完備で蔵書も多いのだが、人気はあまりない。
受験とは無縁のこちらにとっては、中間期末と統一テストで身の上は保証されるからな。
わざわざ夏休み前に来る奴らは本好きかがり勉か、俺みたいなイレギュラーか。
「ん?」
見覚えのある頭だ。
…ああ、委員長か。
一階の方はそのまますぐ二階で勉強出来るよう飲食スペースが解放されている。
委員長は常連なのだろう。
あれだけ成績が良いんだし。
237 :プリプリプリンセス 三話 [sage] :2009/04/15(水) 12:10:35 ID:57mxx06l
「そうでした…隣ですし…いえ、それでも…」
委員長は膝に昼食らしき菓子パンを乗せたままブツブツと呟いていた。
くそ、声が小さくて何言ってるかわからねえ。
「…ああ、どうすれば良いでしょうか…くんが、とられてしま…ます…」
委員長は丸まったままソファーに座り込んでいるから聞こえるものも聞こえない。
誰か開けっ放しにした窓から漏れてくるアブラゼミの奇声だってBGMになっているのだから余計だ。
朝は具合悪そうだったし、何となく心配になってきた。
とりあえず後ろから回り込んでゆっくりと近付いてみる。
大丈夫そうならそのまま通り過ぎようと思っていたんだが、小刻みに動く腕が気になったのがいけない。
「委員長っ、腕!」
「は…?」
赤い爪痕で何本引っ掻いたのかがわからないくらいに委員長の片腕が真っ赤に腫れていた。
凶器は綺麗に切りそろえられた委員長自身の爪だった。
「一体何でこんなになるまで…」
「あ、あの…手!」
てを、はなしてください。
消え入りそうな声は今度は十分聞こえて、すぐに離した。
委員長と言っても女の子なんだ、何となくこっちまで恥ずかしくなる。
238 :プリプリプリンセス 三話 [sage] :2009/04/15(水) 12:11:20 ID:57mxx06l
「一体どうして」
少しうろたえたが、やはり気になるものは気になる。
「…蚊です…家の周りが林なので…藪蚊がその…凄いので…つい」
委員長…ちゃんと薬塗っとけよ。
昨日まであれだけ俺に毒吐いてた委員長はやけにしおらしい。
やはり具合が悪いのだろう。
「委員長、具合悪そうだし保健室行ったらどうかな?」
その腕のこともあるし。
保健室という言葉を聞いて、何故か委員長は肩をビクリとさせた。
「…保健室は…嫌い、です…」
病院じゃあるまいし、それに授業を平然と休めるというのに委員長は拒否する。
本当に今日の委員長はこちらの調子が狂うくらいに、どこかおかしい。
本人が蚊だと言っているからそうなのだろうけど赤く腫れた腕は異常だった。
一体いつからかきむしったらこうなるのか…。
「とにかく、その腕は冷やしたりとかしておけよ」
「…あなたに言われる筋合いなんてありません」
「うおっ、かわいくねー奴!」
「け、結構です!」
言い合いで委員長も勢い良く立ち上がる。
「言ったな!?」
グシャッ。
「…グシャ?」
「あ」
俺の右足に柔らかい感触。
239 :プリプリプリンセス 三話 [sage] :2009/04/15(水) 12:12:43 ID:57mxx06l
ゆっくりと下に目を向けると、先ほどまで委員長の膝にあったパンが潰されてある。
つまり、だ。
立ち上がった委員長がパンを知らず知らずに落として、俺が踏んじまった訳で。
「あああっ!」
すまん委員長ッ!
大事な昼飯を男子の下履きで踏みつけてしまっては、袋越しでも食えないだろう。
クリームは潰れてはみ出てるしな。
「構いません…今度、変わりをおごって貰います」
「ま、任せとけ!」
こちらに非があったもんだから、ついつい勢い良く返してしまった。
普通に一対一で話す分には、本当に委員長は普通だった。
今までも、そして多分これからも委員長に対しては仲間の目もあるし深く付き合わないんだろう。
だからこそこんなやりとりが何となく気恥ずかしくなる。
「見ているだけで良かった筈なのに、どうしてもっともっと…と欲しくなってしまうのでしょうか」
え、それはパンの話だよな?
「…そんなにこのパン好きだったのか?」
「…そうですね、もっと好きになれそうです」
「それは…本当に悪かった」
良かった、委員長の皮肉は今日も冴えてる。
目に入った夏服から伸びる真っ赤な引っ掻き痕が異常だとか、全然そんなのも忘れるくらい委員長は委員長だった。
だからこそ、腕の本当の理由までわからなかったんだけれど。