「良家のメイドさん 前編」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

良家のメイドさん 前編」(2009/04/26 (日) 21:52:46) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

330 :良家のメイドさん 前編(1/3) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/23(木) 07:35:10 ID:np2bNnLo   「おはようございます、坊ちゃま」  私の1日は、いつもこの挨拶から始まります。 「ああ、おはよう――」  私の挨拶に対し、いつも坊ちゃまは、笑顔で返してくださいます。  申し遅れました。私(わたくし)は、この家に仕える、しがないメイドです。  名前? そのようなものは、別にどうでもいいではないですか。  私はただのメイド、それで構わないのです。  そう、思わないと――辛くて辛くて、この身が張り裂けそうなのです。      先日、坊ちゃまがある女性を、屋敷に連れ帰って来ました。  彼が誰か客人を招くことは、とても珍しいことです。  ですので、私も少々気になり、お2人のおられる部屋に、紅茶をお運びしました。  そこで見た光景は、特にどうということも無い、至って普通の会話でした。    てっきり、坊ちゃまの新しい彼女かと、思ったのですけどね。  それだったら、始末をする必要が、ありましたから。      はい、わざわざ私の心中を吐露する必要などないかと思いますが、私は坊ちゃまが好きです。  いえ、好きではないですね。そんな甘いものではないです。愛しているのです。    彼の笑顔が好き。彼の泣き顔が好き。彼の怒る顔が好き。彼の哀しむ顔が好き。  彼の声が好き。彼の髪が好き。彼の顔立ちが好き。彼の瞳が好き。  彼の信条が好き。彼の趣味が好き。彼の、彼の、彼の――  おっと、申し訳ございません。つい取り乱してしまいました。  ともかく、私は坊ちゃまを、心から愛しているのです。    もちろん、坊ちゃまにはこの私の胸の内は、お伝えしておりません。  そのようなこと、一介のメイド風情である私には、許されるはずがないのです。  ですから、坊ちゃまをずっと見ているだけで、私は幸せなのです。       そう言い聞かせてきた私の世界にも、当然のように終焉が訪れます。  そうです、そのような事態を招いたのは、他ならぬ坊ちゃまでした。  ある日、坊ちゃまは私の前に来て、嬉しそうにこう仰いました。   「あのさ……、今度ボク、あの女性と結婚する、つもりなんだ……」   331 :良家のメイドさん 前編(2/3) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/23(木) 07:39:27 ID:np2bNnLo  私はメイド。良家に仕えるだけの、ただの一介のメイドです。  わかっていました。私の恋は報われることなどないと。  私は坊ちゃまの幸せを、指を咥えて眺めていることしか、できないと。       私の生い立ちは、それほど幸せなものではありませんでした。  物心ついた時、父親は既にいませんでした。  母に聞いたところ、最初から母子家庭であったようです。  父親は、名前はわかっているのですが、生粋の遊び人だったそうです。  まあ、そんな駄男が家庭に居なかっただけ、よかったのかも知れません。  母は当時、ある名家に使える、給仕(現在はメイド)の1人でした。  朝は早くから働いて、夜遅く帰って来るほど、忙しい身だったそうです。  そんな生活だったので、私は幾分、放任主義で育てられました。  母はお屋敷に住み込みで働いていたので、住居には困りませんでした。  母が私の面倒を見られない時には、職場の方に子守りをしていただきました。  だから、それほど極端に寂しいと思ったことは、1度もありませんでした。    そんな折、私はこの家の大奥様に、坊ちゃまを紹介されました。  ちょうど年の頃も近く、遊び相手にはいいのでは、という判断だったそうです。 「こんにちは、ワタクシはここのキュージのムスメ、メイです。  これから、よろしくおねがいしますね、坊ちゃま?」 「うん、はじめましてメイちゃん。ボクは土方(ただまさ)だよ。  これからも、ボクと仲良くしてね♪」    思えば、あの時の笑顔に、私は一撃で恋に落ちたのです。    それからは、本当に坊ちゃまによくしていただきました。  坊ちゃまは私より1歳年上でしたが、ともに同じ学校に通わせていただきました。  学校では先輩後輩の関係、屋敷では主従の関係。  常に共にいることができ、まるで恋人のようだと、錯覚さえしてしまいました。    本当に、自分勝手な考えでした。本当に、心地よい夢の中でした。   332 :良家のメイドさん 前編(3/3) ◆6AvI.Mne7c [sage] :2009/04/23(木) 07:44:00 ID:np2bNnLo    ここまでで、私の思い出語りはおしまいです。  舞台は現在、真夜中の坊ちゃまの寝室前に移ります。      坊ちゃまの結婚式は、名家のプライド故か、かなり盛大に行われました。  当主である大奥様のご友人、お仕事仲間、親類一同。  新婦である坊ちゃまの親友一同、職場の同僚一同。  そして、相手方――新婦様のご家族及びご親戚一同。  色々思惑が渦巻いているようでしたが、とにかく派手でした。    坊ちゃまは――とても幸せそうな笑顔を見せていました。  周りの坊ちゃまの取り巻きたちも、とても楽しそうに、冷やかされていました。  しかし――私は少々、気になってしまったのです。  坊ちゃまの結婚相手――若奥様の顔が、ちっとも嬉しそうではないのです。    いいえ、それは大層美しい、笑顔ではあるのです。  しかし、それが作り物臭い――とでもいうのでしょうか。  とにかく、私はそこに、違和感を感じてしまいました。      そのため、私はこの時間、この場所に居るのです。  もしかしたら、坊ちゃまは幸せになれないのではないのか?  あの若奥様の作り物めいた笑顔は、坊ちゃまを害するものではないのか?    そのような疑念がどうしても晴れず、僭越ながら、毎夜ここに訪れていました。  そして今宵は、ちょうど寝室の扉の鍵が、開いたままでした。  だから、私は真実を知るため、お部屋の中を覗き見ることにしました。    そこにある光景は、私の予想しているものとは、全く違っていました。  たしかに坊ちゃまも、若奥様も、ベッドの上で一糸纏わぬ姿をしていました。  しかし、坊ちゃまは仰向けで、虚ろな瞳のまま、微動だにしていません。  そして、坊ちゃまの奥様は、何故か坊ちゃまに、懐中時計を向けています。  しかも、坊ちゃまの裸体(やはりステキです)に、一切触れていないのです。  夜毎聞こえていた奥様の嬌声は、坊ちゃまの枕元にある、録音機からの音声です。    どう見ても、愛のある性行為の光景などでは、ないのです――  若奥様は坊ちゃまに、何の感情も抱いておらず、それどころか――     「きっ――貴様ああぁぁぁぁっ!?  坊ちゃまに、何をしているんだあああぁぁぁぁ!?」   ――私は、恥も外聞も全てかなぐり捨てて、若奥様――この女に飛び掛かりました。  

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: