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49 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 1:2007/10/27(土) 17:43:46 ID:GtEXSXwN 「悪いのはそっちなんだよ? 私があれだけ忠告しておいたのに、あたし以外の人を視界に入れるから」 入れずにいるのがどれほど無理な注文なのか、正しい判断能力を失った今の姉ちゃんには解らないらしい。 俺も俺で彼女の発言の意味が全く解らなかった。一つ一つの語句の意味は通る。しかし文章としてはまるで読み取れない。 俺が悪い? 何故。ただ部活中、後輩に指導をしただけじゃないか。もちろん性的な意味は含まれていない。 俺は後ろ手に縛りあげられている腕を自由にしようと必死で動かしながら、姉ちゃんを睨んだ。 「なぁ、どうしたんだよ。姉ちゃん、何言ってんだよ!」 「どうかしたのはあたしじゃない! 隆志君の方だよ!」 いつもぼんやりしていて、ちょっと……いやかなりドジだったが、優しかった俺の姉ちゃん。 その姉ちゃんの顔が見たこともない色に染まっている。怒りと絶望とで、般若の様に歪んでいた。 しかし、 「……でも、これで隆志君はずっと私の側にいてくれるわ。  ゆっくり時間をかけていけばまた私だけを見てくれるようになるわよね。ちゃんと元通りの日々に戻れるわよね」 そう言って、姉ちゃんはにっこり晴れやかに、実に嬉しそうな笑顔を浮かべた。 その表情は自然な、日常的によく見掛ける笑顔だった。でも、それはより一層状況の異常さを際立たせる。 なんでこんな状態で笑えるんだ。なんでそんなに嬉しそうなんだ。 俺は身動ぎするけどちっとも動けない。 50 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 2:2007/10/27(土) 17:45:00 ID:GtEXSXwN 「いい加減にしろよ、早くこれ外せ」 「……その後、隆志君はどうするの?」 「は?」 一転して姉ちゃんの目が暗く淀み、ゆっくりと俯いた。小さく震えている様にも見える。 「外したら私の前からいなくなっちゃうんでしょ? あの女の所に行っちゃうんでしょ!?  そんなの嫌よ。絶対離さない、もう絶対に私の側からは逃がさない!」 俺の切なる願いにも姉ちゃんは動かず、寧ろ固く拒まれてしまった。 言ってる意味も訳も解らない。あの女って誰だよ。今解るのは、姉ちゃんが正気じゃないことだけだ。 姉ちゃんは悲しみと怒りの入り混じった目で俺を睨みつけながら、 「あんな女なんかより私の方がずっとずっと隆志君の事を知ってるし想ってりゅのよ。だって私は小さな頃から隆志君の側に居たんだもん。 隆志君のことなら何でも知ってるわ。すっ好きな食べ物嫌いな食べ物昨日の夜何をしていたか余すことなく全部。 ――すぅ、それに……」 ――この空気で噛むな。どもるな。ついでに息継ぎするくらいなら無理して長台詞を喋るな。 駄目だ、正気じゃなくても姉ちゃんは姉ちゃんってことか。ポンコツ過ぎる。 未だにこの人が姉であることが信じられない。自然に溜め息が出た。 51 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 3:2007/10/27(土) 17:45:53 ID:GtEXSXwN 「あのさ、姉ちゃんは何を言いたいんだ? 全然解んねえんだけど」 「隆志君とずっと一緒にいたい」 「は」 姉ちゃんの頬は赤く染まっていた。眉を寄せて俺をじっと見ている。正直どうリアクションしていいものか解らない。 俺の硬直ぶりを見つめているうちに、姉ちゃんはまた思い詰めた様子を見せ始めた。 潤んだ瞳は濁りだす。羞恥の震えは怒りに変わる。 「やっぱり、やっぱりそうなんだ。 あの女が気になるんだ。あの女の事を考えてるんでしょ? だからお姉ちゃんの話を聞いてくれないのね?」 何処をどう見てそう判断したんだ。今の俺は一字一句間違えてなるものかと必死で貴方の話を聞いていますよ。 何せ状況を掴む手段は姉ちゃんの言葉しかない。まぁ、聞いていた上で全く掴めていないのだが。 「だから、姉ちゃん!」 叫ぶ俺をスルーして、姉ちゃんはふっと踵を返す。 「……もう、駄目なんだぁ。ふふ、ふふふ……あはっ、あはははははは」 壊れたように笑って部屋を出ていく姉ちゃんの背中を見つめながら、俺はギリギリ唇を噛んだ。 何がしたいんだアイツ。会話が全く噛み合わないことに苛立ちを感じる。 ああもし今体が動かせたなら、その背中に何かかにか投げつけてやったのに! 52 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 4:2007/10/27(土) 17:47:12 ID:GtEXSXwN ともあれ俺は周りの様子を確認することから始めることにした。 見覚えの無い部屋だが、辺りにあるファンシーな家具やら教科書類から推測するにここは姉ちゃんの部屋で間違いない。 にしても、物が散乱しすぎていてかなり見苦しい。女の子の部屋がこれではがっかりだ。 半ば拉致に近い形で、かつ俺が弟だとは言え、人を招くんだったらもっと整頓しておくべきじゃないのか? 「いい子にしてた?」 扉からひょこりと顔を覗かせて、にっこり笑う姉ちゃんが居る。 悪戯っぽい声と表情にまた溜め息が出た。 「こんなに部屋を残念な状況にしている姉に比べれば、俺は相当な人格者だと思うよ姉ちゃん」 「またそういう事言うんだから。ま、そんなとこも可愛くて好きなんだけど……」 そういう事はもっと正常な状況下において発言すべきなのであって、今この瞬間には全くそぐわない。 男に可愛いと言うな。弟にそんな熱っぽい目を向けるんじゃありません。 当の姉ちゃんは全く知ったこっちゃない風で、両手を後ろに回したまま嬉々として俺に寄ってきた。 さっきまでの絶望に満ちた表情は何処へ行った? 「思ったんだ。このままじゃどうやっても隆志君は私から離れちゃうよね」 そりゃそうだ。 姉ちゃんはまず部屋を片付けたらどうかな。 「--隆志君が好きなの。大好き。誰にも渡したくない。私以外の他の誰かを好きになって欲しくない。私だけを見て欲しい」 だからそういう事はもっと-- そこまで考えた時だった。俺はふと顔を上げる。 見開かれていた姉ちゃんの目は魂が抜けた様に光を宿しておらず、瞳孔だけが大きく開いていた。 虚ろな目の焦点は俺以外の何者にも向かっていない。口許にだけは笑みが称えられていた。 そこに来て初めて俺は背筋に走る恐怖を感じた。 53 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 5:2007/10/27(土) 17:48:39 ID:GtEXSXwN 「……姉ちゃん?」 「隆志君の世界が私だけになれば何かが変わると思ったんだけど、そうでもないみたいだし」 「姉ちゃん」 「それなら」 そう言えば、さっき姉ちゃんは何処に行ってたんだろう。 後ろに回してある手には、何が握られている? 今日みた笑顔は本当に笑っていたか? 何もかもを諦めた、悟りきった笑顔だったんじゃないのか? 「こうするしか、もう方法は無いよね?」 姉ちゃんの手が、ゆっくりと俺に迫ってくる。 その手に握られていたのは-- 「は?」 「やだなぁ隆志君、知らないの?」 姉ちゃんはやたら自信満々にこう言った。 「醤油は飲み過ぎたら死んじゃうのよ」 醤油のボトルを片手ににっこり笑う姉ちゃん。 やっぱ駄目だコイツ。 その後、俺に口移しで飲ませようとして盛大に吐き出した事だけを付け足しておく。 「姉ちゃん姉ちゃん、片付けんの手伝おうか?」 「……私から離れないって約束出来る?」 「そのネタはもういいから」 「ネタじゃないもん」 「はいはい」 「もう、隆志君!」

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