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「×ヤンデレ ○ヤンドジ第二話」(2007/10/29 (月) 17:29:25) の最新版変更点
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71 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 1 [sage] :2007/10/29(月) 17:11:07 ID:C/e57nKc
「ふふふふふ……ふふっ、あはははははは! そうよ、これで誰も邪魔出来ないわ。隆志君は私のもの。ずっとずっと私のもの!
もう絶対離さない……邪魔者は一人もいないわ。これで私だけを見てくれるわよね。これで私のことを――痛っ!」
ああ、また指でも切ったか。
悲鳴と同時に読み途中の本を閉じ、ソファーから重い腰を上げる。
最近の姉ちゃんの癖は、高笑いと妄言と怪我を繰り返しながらの料理だった。
聞いてて胸が痛いからそろそろ飽きてくれ。ご近所からの苦情も来て然るべき頃だろうな。
俺は癖になりつつある溜め息をついてから、のろのろと台所へ向かった。
「あ……隆志君だぁ」
そりゃ俺だろうさ。何せ俺しかいないからな。
「見て。お姉ちゃん怪我しちゃったの」
「聞いてたから知ってる。ほら」
いい加減相手にするのも面倒なので絆創膏を投げてやる。
しかし、姉ちゃんは実に不服そうに俺を見つめていた。
「……舐めて消毒して?」
「は? 何バカなこと言って――」
「舐めてくれなきゃ絆創膏貼らない」
どんな脅しだよ。突っ込みたいが、姉ちゃんはぐいぐいと手を押し付けてくる。
連日繰り返される怪我によって絆創膏まみれになっているその手を仕方なく取り、嫌々ながら見た。
……なんだ、大したことないじゃないか。ただちょっと皮が切れたくらいだ。
「舐めて」
「姉ちゃんこれ全然大したことないから大丈b」
「舐めて」
「いやだからさ」
「舐めて」
「大したことn」
「舐 め て ?」
「……慎んで舐めさせて頂きます」
虚ろな目で睨まれ、背中がぞくぞくする。嫌々手を取り、恐る恐る舌を伸ばした。
ここ数日こんなやりとりが続いているせいで頭痛が収まらない。何が悲しくて姉にこんなことをしなくちゃいけないんだ。
72 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 2 [sage] :2007/10/29(月) 17:12:00 ID:C/e57nKc
溜め息の代わりに肩を落とし、傷口をなぞるように舌を滑らせる。
「ふぁっ」
弟相手にいかがわしい声を出すな。恥ずかしい。
鉄のような血の味を舌先に感じながら、ぐりぐりとそこに押し付ける。
「ひ……あ、やんっ」
ああこら太ももを擦り合わせるな、もじもじしてるんじゃない!
俺は指をそのまま口に含み、軽く吸い上げる。すると姉ちゃんは悩ましい声を出しながらぷるぷる震えて――って、待て!
何をしてるんだ俺は。今何をしようとした。ああ姉ちゃんよ俺を見るな。まだ血迷いたくは無いんだ。
慌てて姉ちゃんの指を解放する。不思議そうな目で此方を見ているが、今はそんな事にかまってなどいられない。
「……ほ、ほら! これで良いだろ」
手を引き剥がし、再び絆創膏を押し付ける。
まずい。非常にまずい。何がまずいって、今俺は姉を相手にとんでもないことをやらかしかけた。
俺は姉ちゃんに洗脳されつつあるのだろうか。いやまさか。俺は正常のはずだ。
バクバクと嫌な音を立てる心臓を落ち着かせる。冷や汗が流れ出ていた。
姉ちゃんは何処か恍惚とした笑みを浮かべながら、
「美味しかった? 私の血肉の味……」
直ぐ様うがいをしたのは言うまでもない。
ああ、ここが台所で本当に良かった。不機嫌そうな姉ちゃん? 知ったこっちゃないな。
73 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 3 [sage] :2007/10/29(月) 17:12:35 ID:C/e57nKc
「今日はカレーなんだな」
「うん。隆志君カレー好きでしょ? だから作ったの」
「へぇ」
大きな鍋で煮込まれているカレーを見る。この量だと2日は続くな。
「隆志君が喜んでくれるなら私……なんだって作ってあげるよ。なんでもしてあげる。それにね? 私――」
姉ちゃんが何か言ってる様な気がしたが無視することにした。蓋を開けてちらちら中身を覗く。早く完成しねーかな。
「隆志君!」
うるさいな、聞いてないよそんな恥ずかしい演説なんて。
適当にあしらいながら、何か飲もうと思って冷蔵庫を開ける。と、そこには大量の濃口醤油のボトルが――
冷蔵庫を開けた手を瞬時に翻し、適度に角度を付けて振り下ろす。目標地点だった姉の額に見事クリーンヒットした。
「アホかお前は!」
「痛いー! 今チョップしたわね? お姉ちゃんを叩いたわね? 確かに隆志君になら殴られても嬉しいけど」
「黙れ! 醤油は常温保存で良い、こんなに大量の醤油買うな使いきれないだろ、濃口醤油は塩分濃度が薄口より低い!
ついでに変態発言かますな気持ち悪い!」
言いたい事を一気に言って冷蔵庫から黒いボトルを追い出していく。姉ちゃんは不服そうに頬を膨らませていた。
言っとくけどな、最近の醤油は飲み過ぎても死なないように改良されてるんだぞ。
「嘘! ええー、じゃあどうすれば……そうよ、塩水なら」
「飲まないからな」
「はうっ」
74 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 4 [sage] :2007/10/29(月) 17:14:55 ID:C/e57nKc
俺はやっとの思いで麦茶を取り出し、コップにそれを注ぐ。
俺を殺そうとしているのはこの際諦めよう。しかし何でまたそんなしょうもない方法で殺そうとするんだ。
嫌だぞ、死因が醤油や塩水の飲み過ぎなんて。米で圧死並みに嫌すぎる。
「だって、毒は手に入らないから」
「じゃあ刺すなり絞めるなりすればいいじゃねーか」
「そんなの隆志君が汚くなっちゃうよ。綺麗なままで手に入れたいの」
「醤油まみれもそう変わんねーだろ! ……もう止めれば? 殺すとか殺さないとか」
「やだ。隆志君を私だけの物にするためだもの」
ならもっとこう普通の手段で……と言いかけて止めた。
なんでまた俺を殺そうとする、かつ弟に異様な愛着を示す変態にそれを促すアドバイスをしなきゃいけないんだ。
姉ちゃんは相も変わらず熱っぽい目を俺に向けていた。とりあえず視線を逸らしておく事にする。
暫くは静かだった。静かすぎるくらいだった。ふと姉ちゃんに視線を向けた瞬間、俺はぎょっとした。
姉ちゃんはまた虚ろな目をして、かつ今回は包丁を握り締めていたのだ。
「ね……姉ちゃん?」
「そうだ。そういう手段もあったのよね」
「おい」
「あの泥棒猫を殺せば良いんだ」
物騒な事を言いながらも、姉ちゃんは笑顔だった。
ぐつぐつと煮込まれているカレー鍋の音。野菜を切り立てだからか、やや水に濡れて光る包丁。うん、見事に台無しだ。
「危なっかしい事言うなよ」
「……そんなにあの子が殺されるのは嫌?」
「あのなぁ」
ガリガリと頭を掻いた。
よく話を聞いてないだの何だのと言ってきやがるが、姉ちゃんの方がよっぽど話を聞いてないじゃないか。
75 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 5 [sage] :2007/10/29(月) 17:15:41 ID:C/e57nKc
「あの女って誰のことだよ」
「そうやって庇うんだ。騙されてるだけなのにどうしてそこまでするの?
大丈夫、隆志君はお姉ちゃんが守ってあげる。だから任せて? 邪魔する人は私が全部消して……」
「姉ちゃん!」
俺が叫ぼうとした瞬間、鬼のような目付きをした姉ちゃんの姿が目に入った。
こんな人は知らない。誰だよ。こんな怖い女は知らないぞ。
姉ちゃんは包丁を握り締め、
「殺すったら殺すわ。死んで当然でしょ? 私と隆志君の世界を邪魔したんだもの。あの野良猫が私は殺すの!
邪魔よ、邪魔なのよ。私の……私だけの隆志君をたぶらかした淫売大王なんて邪魔なの。
隆志君だけいればいいの。二人きりでいれればそれでいいの。他の誰かなんていらにゃいのおおおお!」
「最後の文法がおかしい。あと大王とか子供みたいな表現するな、響きが可愛くなってるだろ。
それと呂律が回ってないのに叫ぶなみっともない!」
姉ちゃんは表情こそ怒り狂っているが、台詞の突っ込み所が多すぎて恐怖を感じられない。相当テンパってるとみた。
……所詮姉ちゃんは姉ちゃんか。たまに発狂してもポンコツには変わりない。
この姉が持ってるってだけで刃物も何だか怖くなくなった。実はそれ、先が引っ込むようになってんじゃないのか。
姉ちゃんがカタカタと震え始めた。俯いているため顔色は伺えない。うん、危ないから包丁は置け。
76 :×ヤンデレ ○ヤンドジ 6 [sage] :2007/10/29(月) 17:17:32 ID:C/e57nKc
「隆志君、最近私に冷たいよ。やっぱりあの女が好きなの? 騙されてる、隆志君は騙されてるんだよ。
あんな薄汚い野良猫にも普通に接するくらい優しいところは大好きよ。優しさは隆志君のいいところだよね。
優しくするのは許してあげる。でも私、あいつなんかを好きになっていいなんて言ってないよ?
お姉ちゃんはもう嫌い? どうして? 私はこんなに好きなのに……」
珍しく噛まずに長台詞を言い切った姉を見据える。
視線の端に姉ちゃんが準備したと思われる薬物を認めると、俺は思わず数歩後退りした。
暗黒色に淀んで光を失った瞳は、真っ直ぐに俺を居抜く。
「……姉ちゃん」
俺は何を投げつけられても、刃物を振り回されても届かないであろうギリギリの距離に着いてから、一言だけ言ってやった。
「今のポーションに青色一号は入ってないぞ」
「嘘!?」
「ついでに青色一号は発ガン性物質であって即効性のある毒じゃない」
「で、でも寧ろダメージを受ける味だって誰かが……」
「今回のは前と比べて大分まともな味になってるぞ」
「ま、またそうやって私を騙すのね? 隆志君の意地悪! ……でも、そんな所も好き」
「はいはい」
妙に美麗な顔になってしまった大作RPGの主人公が印刷された缶を眺めながら、俺は本日何度目か解らない溜め息をついた。