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815 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00:28:42 ID:MAkDUla2 バスに乗った俺たちは前にある整理券を取り、後ろの方へ乗った。田舎では後払いが基本だ。バス停の距離によって料金が変わる。 バスの中には結構人がいた。汗まみれの部活帰りの学生、友達同士仲のいい女子高生、スーツを着たサラリーマン、おばちゃん。 皆いろんな理由があってバスに乗っているんだろうが、その中でも俺らのような目的で乗っているのはいないだろう。 前に表示されている電光の掲示板で料金を確認している時、隣に座ったエリーから話しかけてきた。珍しい。 「申し訳ありません。」 「どうしたの?」 「私はお金を持っていません。」 なんだそんな事か。大して気にも止めずに反射的に答えた。 「俺が払ってやるから。」 「ありがとうございます。」 そういや混んでるな。速くついてほしいんだけど。 それからは一切会話はなく、ただバスがたまに停まり入ってくる客を迎えたり送ったりしている。俺は窓際で外を睨んでいるエリーに確認を取った。 「次だよね。」 「はい。」 俺が声をかけた瞬間バッと振り向き答えた。迫力にひるんだがその後はうんうんと頷きごまかした。何歳下の子にビビってんだよ……。 816 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00:32:07 ID:MAkDUla2 窓際のエリーは横にある次停まりますのボタンを押してくれた。 俺達以外にも降りる人がいるかもしれないし、モタモタしていると迷惑がかかる。再びエリーの手を取った。エリーもぎゅっと、小さくて折れてしまいそうな真っ白な手で、握り返した。 そして椅子から立ち上がり、前の料金を入れる箱に俺とエリーの分のお金を投入した。 降りる時にバスの階段でエリーがこけると良くない。まあそれも笑えそうで見てみたい気はするけど……いやいや とにかく先に降り、エリーの両手を弱く握ったままお姫様のように迎えた。 当然ながら表情は変わらん。無愛想を極め尽くして精神崩壊起こしたみたいな顔をしている。 片手だけ離し、現場の一つである自販機が壊されたという場所へ歩き出す。 すっかり夕焼けが町を照らしている。学生の集団が歩道ででっかい声で会話している。 817 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00:33:47 ID:MAkDUla2 大きい自動車整備工場についた。事件が起きたのはここだ。道路に職員たちが使えるように自販機があったのだろう。工場の手前にも不動産屋があったり、道路を真っ直ぐ行けば公園もあるようだ。公園の小学生はバイバーイと言ってマウンテンバイクを漕ぎだした。 ここに自販機はそれこそ生命線だろうな。 子供に聞くのは効果的だろうが、今の時代変態と間違われてもおかしくはない。せめて後日、明るい時に声をかけよう。親しみ安いお兄さんを演出するため、野球ごっこに参加して、だ。 さりげなくエリーに相談するように投げ掛けた。 「にしても、自販機ってどこにあるんだよ。」 するとどこからともなく突然エリーが話しかけてきた。 「自販機が見当たらないという事は回収する必要があるほど破壊されたという事でしょう。赤に塗装されたプラスチックの破片、地面に雲の巣や虫の死骸があるということはここに設置されていたと考えられます。」 なるほどな。そりゃ手強そうだ。とりあえず……エリーはどこから声をかけてくれたんだ、留守番電話ボイスで。 「え、エリーどこ?!」 「ここです。」 ヒョコッと背後から出てきた。俺は驚き思わず声を上げ、後ろを振り向いた。 「………一応見てみてください。」 今度は彼女から俺の手を握り、早歩きで前へ進んだが………エリーはやっ!!こけそうになった。 さっき俺がいた場所は工場の大きな入り口付近、そしてエリーに連れられたここは大きな駐車場だ。社員のものと思われる車が数台停まっている。 たしかに、エリーが言っていたような形跡のある場所がそこにある。後ろのセメントの壁に隣接されていたのだろう、そこだけ汚れで真っ黒だ。 「ふーっ。とりあえず見てみるか。」 「お願いします。」 あんまり得意な分野ではないがやるしかない。 俺は隣接されていたであろう壁に掌が汚れることを覚悟の上でべたっと付けた。 いつものように『この情報』を読みとれ、読みとれ、読みとれ……………と手に体の全神経をやる。頭が痛くなり、きーんと頭に響く耳鳴りがする。 ………すると物凄い衝撃が掌から腕を伝い頭に伝わった。瞬間、この場所に残された残留思念が映像のようになって見えた。俺の目の前にはコンクリートの壁しかないが、見えているものは俺がほしい情報が映像化されたものだ。 映像は砂嵐が走っていて、見にくいが、なんとかわかる。 818 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00:36:00 ID:MAkDUla2 「あ、あかがかかったセミロングの、女が、じはんきを何度かなぐって………つばをはいた……たばこを吸っているようだ………………。」 「お疲れ様です。」 「あッ………はぁーっはぁーっ……」 俺が見た女は、顔はよく見えないがとてつもなく怒っているようだった。エリー程ではないが目を見開いていて明らかに余裕のない顔だ。 そして華奢な腕からは考えられないような怪力で、何度も何度も何かを壊すプレッシャーのように同じポイントを殴っていた。 俺はフルマラソンの後のように、上半身を支えるため両手を膝に起き、俯いている。 喉が乾いた…………。こんなとき、自販機があったら………。壊したあいつは本当に鬼だ、と工場の社員さんたちに心底同情した。 さて、これからどうする。聞き込みといってもこの時間じゃあな。それにいつも以上に疲れた。ずいぶん運動してない奴にフルマラソンしたあと腹筋してと頼まれているようなものだ。ものだっ! 携帯を見ると、もうそろそろ6時だ。 819 :最高!キネシス事務所☆ ◆mGG62PYCNk [sage] :2009/07/19(日) 00:38:22 ID:MAkDUla2 「よし、手がかりは掴めた。残留思念の映像は曖昧だったが犯人の容姿は一目見ればこいつだ、と判断できる。今日はもう帰るぞ、俺立ってるのもやっとだから。」 「お疲れ様でした。あなたが帰っても私は聞き込みや張り込みをします。」 …………そういうわけにはいかない。 こんな目玉した女の子を一人じーっと電柱の裏とかに隠れさすのはよくない。警察につき出されるに決まっている。説得しよう。 「………頼む、君を一人にさせるわけにはいかないんだ。」 真剣に、目を合わせて言った。まあ嘘ではない。 「………。」 よし、もう一押しだ。 「そうだ、今度は俺が休みの日にじっくり調べよう。 俺は犯人の似顔絵を描いとく。君は俺が学校行ってる間、もし外出する時があったらそれに似た奴を探すんだ。」 「………わかりました。」 「いい子だ!」 無愛想ではあるが、今日こうしてじっくり話をしてみると何かが見えてきた気がした。………あ、そうだ! 「じゃあ今日は喫茶店行くか。アイスでも食べよう。」 「お気をつけて。」 「君も来んだよ。」 「お金を持っていません。」 「俺がおごってやるよ。」 「ですが………。」 「あああぁ!!俺はアイスが食べたいの!!でも男一人でアイス食べてるとこなんて見られたくないの!!わかったらこい!!」 俺は不満を訴えるためにじだんだしてやった。 「………わかりました。ごちそうになります。」 「よし!」 俺は両手でガッツポーズを取っていた。 「この辺りは俺が昔よくお世話になった『にゃんこ喫茶』という店がある。あそこのパフェは最強なんだ。」 「そうですか。」 俺たちは現場をあとにした。 そういや歩き出すとき、自然に彼女の手を握っていた。もちろん彼女も握り返してくれたが、しばらく気がつかなかった。

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