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889 :そして転職へ:2009/07/22(水) 20:38:16 ID:Z5fxBRka 気がついたら不思議な世界にいた。切り立った崖の上、眼前に広がる 雄大なる大滝。空は澄み渡り、ただ膨大な水が恐ろしいまでの力を持って 轟音とともに下り消えていく、そんな世界。 「ここは…?」 あまりにも理不尽な展開に自分の頭を疑いたくなった僕は、頬を 抓ってみる。 「…痛くない。」 ならば、これは夢だ。…いや、まてよ。ひょっとしたらすでに僕は死んで いるのかもしれない。ここが死後の世界ということもありうる。 何で死んだのかって?心当たりがあるんだ! 幼い頃、すこし遠くの町に母さんに頼まれ届けものに行ったら迷子になって、 そこで野良犬に遭遇したんだ。そいつはものすごくさみしそうな眼をしてて、 すり寄ってくるなりペロペロ僕の顔をなめ始めた。僕もほら、幼かったし 気の毒に思って持っていたお弁当を差し出したんだ。とたんにそいつそれを がつがつ食べ始めてさ。最初は驚いたけど、しっぽをものすごく振りながら うれしそうに食べているそいつがとてもうれしかった。 よろしくないのはここから。食べ終わったそいつはうれしさのあまり僕に じゃれ付こうとして飛びかかってきたんだ。僕はすっかり襲われているのだ と勘違いしてしまって、母さんから頼まれていた届けものの包みでその犬の 頭をぶん殴った。 何度も 何度も 何度も。 目の前にぐったりした犬が横たわっていた。目は閉じられ、半開きの 口から苦しそうな声が漏れている。 「だっ…大丈夫?」 自分でやっといてなんなのだが、おそるおそる手を伸ばしたその時! 「キャン!」 突然犬がカッと目を開き、鋭い悲鳴を上げ始めた。四肢が痙攣し始め、息が 急速に荒くなる。信じられないことに、体が徐々に大きくなり始めた。体内で 骨格が作りかえられているのだろうか?メキメキと嫌な音もする。 そのような変化の中にも関わらず、犬はなんとよろよろと立ちあがってきたのだ。 それも二本足で。 890 :そして転職へ:2009/07/22(水) 20:39:29 ID:Z5fxBRka そこからはもうパニック。振り返らず脱兎の如く駈け出して、偶然見つけた 届け先の人の家に転がり込んだ。息を切らし、おびえた表情の僕にその家の人 (老魔道士だった)は何事かと尋ねてきたが、 「犬殺し未遂の自分にゾンビ化した犬が襲ってきた。」 とも言えなかったので、「歩きながら、郷土の吟遊詩人が得意としていた歌を 口ずさんでいたら、この王国で唯一、政府が公式に搾取と略奪の権利を認めた 超合法的最強盗賊団『ジャスラック』(表の顔は知的および文化的財産の管理人。 一応仕事はきちんとこなしている。)に身ぐるみはがされそうになって 逃げてきた。」とデタラメな説明をしたんだ。 「そうかい、まだ小さいのにそんなつらい思いを…。」 どうやら納得してくれたようだ。 その後、温かいココアを入れてもらい気分を落ち着けた僕は届けものを渡したが、 なんと肝心の届けものは犬を殴った時無残に壊れていた。 「ぎゃああああ!わしが貸していた秘宝『量産型ラーの鏡』があああああ!」 魔道士が絶叫する。 「しかもこれ、魔力切れてんじゃねーか!小僧テメェ、勝手に誰かの呪い 解除したんじゃねーだろうなァ!?これは王族とか特定の神官とか限られた 人間以外が使うと、永久に魔力切れを起こすシロモノなんだよォ!」 …あの、その能力の発動条件は? 「これで対象をぶん殴る。」 ああ、これで合点がいった。あの犬はきっとなにかに呪われていて、迂闊にも 僕がそれを解いてしまったんだ。そういえば、罪人に呪いをかけて姿形を変化 させて追放するという刑罰を聞いたことがある。地獄の一部、畜生道というもの を再現した東の国の話だったと思うけれど…。それよりも母さんは何でこんな いい加減かつ魔力切れがおきるような中途半端なものを借りてたんだ? 僕の解呪のため?だとしたら意味のないことだ。こんな中途半端なアイテムで 僕の呪いを解くなんてできっこないし、そもそもあの母さんが『鏡で人を殴る』 といった条項を覚えているはずがない。自分の息子に呪いが掛けられていることは 知っていても、どういう呪いかは覚えていないぐらいだから。(ではなぜ僕が自分の 呪いの詳細を知っているか?それはまたの機会に…。) それよりもこの鏡を返すことを覚えていたのが奇跡だよ。 891 :そして転職へ:2009/07/22(水) 20:40:54 ID:Z5fxBRka 「怒ったゾオオオ…。あの光の勇者の伴侶というから金目当てで恩を売ろうと したのによ…。すべてパーじゃねえか!ぶっ殺してやる!」 魔道士があそいかかってきた!暖炉の火かき棒を振りかぶって僕に振り落とす! 紙一重でかわした僕。しかし、バランスを崩して前のめりに倒れてしまう。 「チェストオオオオ!」 方言から推測するに九州出身の魔道士が、これぞ薩摩剣士だと言わんばかりの 気迫で僕の頭を打ち砕こうとする。…ってかお前もはや魔道士じゃないだろ! 大体九州ってどこだ!などというツッコミも間に合わず、哀れ少年は 短いその命を… 「うげっ!」 突然魔道士の手から火かき棒が滑り落ちたんだ。そしてそのまま彼はゆっくり ダウン。白目をむいて崩れ落ちた。うずくまっていた僕が恐る恐る 顔をあげると、そこには何かいた。 「何か」と表現したのはそいつが顔から膝下まですっぽりと黒く汚らしい 『あ、これ?さっきホームレス狩りをして盗ってきました。テヘ。』と いってもおかしくないくらいのフードをまとい、のぞいている足は傷と 泥だらけ。一瞬見えた眼はあやしく光り、どうみてもまともじゃないから。 よくよく見てみれば、背丈はそう僕と大差ない。手には不思議な文様の 刺青が彫られ、またガラス製の灰皿が…あれ? 手にはガラス製の灰皿が握られている。…ま、まさか! 「気絶しただけだ。忍び寄って近づきコレで股ぐらをぶん殴ってやった。 男っていうのはこうされると一撃なんだろ?」 そういって灰皿を振る怪しいやつ。…あれ、言いまわしが男にしては妙だな? そう感じた僕。しかし当時の僕はちょっと気が動転していたというか トチ狂っていたというべきかといった状態だったんで…。 「まったく…お前には感謝もあるが、あの解呪の仕方はひどくつらかったぞ。 大体その解呪が不完全だ。体の一部がまだ呪いが解けていない。この男 から助けてやった礼として、きちんとした解呪を私に…ん?」 ガツン! 今でも反省している。こいつも悪いやつだと思った僕は、近くに置いてあった 花瓶を思いっきり叩きつけたんだ。…子供の純真って凶器だね。 崩れ落ちる怪しいやつを尻目に僕は二回目の逃走をした。途中の道端で 気絶させられた挙句着物をはぎ取られたホームレスを見かけたが無視した。 今思えばあれも多分…。 その後家に帰ってありのままを母さんに話すも、 「あれ、お使いに行ってたの?てっきり近くの教会のあの子(僕の幼馴染)と 遊んでいたんだとばかり…。」とのお言葉。 自分で頼んだんだろ!僕の幼いころの懺悔録はこんなオチで締めくくられるんだ。 892 :そして転職へ:2009/07/22(水) 20:41:48 ID:Z5fxBRka 長い回想だったけど、前述のとおり僕は魔道士とあやしげなフードに恨まれて いる。もしここが死後の世界だとしたら、たぶん寝込みを襲われた僕は気がつく 間もなくあの二人のどちらか(あるいは両方)に殺されてしまったのだろう。 いや、待てよ。ひょっとしたらあのフードは実は僕の花瓶の一撃で息絶えていて、 僕は殺人犯としてこの切り立った崖の上に追い詰められているのかもしれない。 前後の記憶がないのは、僕が自分の犯罪に絶対の自信を持っていたのに警察に あっさりと見破られ、「くそっ!どうして僕が犯人だとわかったんだ…!? 完璧なはずだったのに!計画通りだったのに!…フフ、アハハハハハハハハ!」 といった具合に今の今まで現実逃避していたためかもしれない。 今にくたびれた鼠色のコートを羽織った刑事が来て 「今すぐそこから離れなさい!」 「うるさい!(僕)もうおしまいなんだ!あいつが…あいつが悪かったのに! 殺すつもりなんてなかったのに!」 「…なあ、あんた。もしあんたが殺すつもりなんてなかったって言うなら、 あんた飛び降りれないはずだろ?そんな簡単に自分を殺しちまうような男が 殺すつもりはなかったなんて言えねえだろうよ。」 「黙れ!もうおしまいなんだ…もう取り返しがつかないんだよっ!」 「そんなことはねえよ。…目元に指当ててみな。あんた今…泣いてるぜ。 自分のためであれ、他人のためであれ、泣くことのできるやつに、 もう手遅れだなんてことはありえねえ。」 「け…刑事さん…。………もう逃げません。逮捕してください。」 「…この林をぬけて、しばらく歩くと交番がある。そこの巡査は俺が昔 仕込んでやったしっかりしたやつだ。あんたの話、親身に聞いてくれるだろうよ。」 「…刑事さん…?」 「あいにく手錠は持ち歩かねえ主義なんだ。それに、もう手錠掛かっちまってる みたいだしな。二つも三つもいらんだろ。」 「え…?」 「あんたの罪に、あんた自身がかけた『反省』って名の手錠がさ…。」 というやりとりが始まるかもしれない。 あーでもない、こーでもない。とりとめなく途方に暮れる僕に不意に すきとおった声が聞こえてきた。それも空高くから。 「わたしの話、聞いてください!」 893 :そして転職へ:2009/07/22(水) 20:43:02 ID:Z5fxBRka 切り立った崖の上、眼前に広がる雄大なる大滝。空は澄み渡り、ただ膨大な 水が恐ろしいまでの力を持って轟音とともに下り消えていくそんな中 僕はなぜか正坐させられて精霊の説教を聞かされていた。 「だいたい、ひとり勝手に回想と妄想の世界に入り浸っていたあなたを 現実…あ、ここ夢の世界だ。まあいいや、現実に引き戻すためにどれだけ この精霊である私が苦労と、挫折と、挑戦をしてきたと…。」 僕の知らないところでそんなことが…。いろんなひとが見えないところで 常に支え支えられを繰り返しているから、この世界が今日もあるんだね。 「なんだか誤魔化しませんでした?…まあいいや、それより…。」 急に声に威厳がこもる。 「私は精霊ルビス。魔王を討ち果たす使命を帯びたあなたにこれからいくつか 質問をします。」 前に話した通り、僕に魔王討伐の意思はない。…全部適当に「はい」で 答えてやろう。 「ではあなたの本当の名前を教えてください。」 「夢はよく見るほうですか?」 「近くの高い宿屋より、遠くの安い宿屋に泊りますか?」 「好奇心は強いほうですか?」 「女性って胸が大きいほうがいいですか?」 「…もういちど。女性は胸が大きいほうがいいですか?」 「いやいやいや、真面目に答えてくださいって。女性は胸が…。」 「ふざけないで!こっちも真剣なの!真面目に答えてよ!いい? もう一度正直に答えて?女性は胸が…。」 「…なんで…どうして正直になってくれないの?…あ、そっかぁ。 私精霊様だもんね。その前で『いいえ』なんて畏れ多くて言えないんだよね? じゃあ言うよ…女性は胸が大きいばかりじゃ駄目ですよね?」 「ちょっとおおおおお!なんで『いいえ』って答えるの?さっき イエスマンに徹する意向を表明していたじゃない!」 「ぐずん…いじめないでよ…嘘でもいいからさァ…もう一度だけ答えて。 女性は胸が大きいほうがいいですか?」 「…あはっ、あはははははは!嘘だよ、これは嘘!悪い夢だもん!だって そんなはずないもん!…え?もとから夢の世界だろって?…このヤロウ!」 不意に後ろに人の気配を感じた刹那、僕は突き飛ばされた。長時間の正座は 僕の足の自由を奪い、ぼくはあっけなく滝つぼに落ちて行った。 「それでは、最期の質問です。」 僕を突き落した人影が一瞬見えた。何かしゃべっているのを見たが、聞き取れない。 ただ、その人の胸を一瞬見た僕は自分の罪深さを悟った。 カラカッテゴメンナサイ。ココマデペッタンダトハオモッテナカッタンデス。 僕の意識は、そこでまた消えた。 894 :そして転職へ:2009/07/22(水) 20:44:32 ID:Z5fxBRka 目の前に三人の人影が見える。たぶん全員女の子だろう。声やシルエットで そう判断したが、薄暗くてよくわからない。周りを見渡すと、ギロチンが 置かれている。不気味に光る銀色の刃だけがこの薄暗い世界ではっきりと 見えている。よく見るとギロチンは一機だけじゃない。二機だ。 耳元で誰かの声がした。男ともつかぬ女ともつかぬ暗く不気味な声。 「選べ。誰か一人をおまえは助けられる。」 何のことかさっぱりわからない。僕は震える声で尋ねてみる。 「一人…って、あとの人は?」 ガシャアアアアアン! ギロチンの刃が二機とも落とされた。誰も触っていないのに、作動したそれは これまた誰も操作していないのに刃が元の位置にもどりだす。 …殺す、か。 「お前が追い詰めた。」 またあの声だ。しかし今度は言っている意味がのみ込めない。 「お前が彼女たちをこうした。おまえの態度がここまで追い詰めている。 その身の呪いのせいではない。もはやお前ひとり死んでも悲劇は消えない。 お前が彼女たちを追い詰め、殺すんだ!」 何をふざけたことを!…と言いかけたその時。 「私ですよね?」 三人のひとりが話しかけてきた。…あれ、聞きなれた声なんだけど誰なんだ? 「私はいつもそばにいました。ずっといました。こんな形で終わりなんて 嘘ですよね?もっと一緒ですよね?ずっと一緒ですよね?私からは逃げられない って気づいてますよね?」 背筋が凍る。息が苦しくなる。穏やかな口調なのに、喉元にナイフを突き立てられて いるような感じだ。誰なんだ?本当に。 「助けて。」 二人目の人影が声をかけてきた。知らない声だ。今のところは。 「孤独に耐えきれなかったアタシに、光をくれた。そばにいるだけで支えだった。 いまさらあの暗闇に押し戻すの?さんざん光をくれて、それを奪うの? ずるい!ずるいよ!もっとそばにいてよ…もっと光をください!光を!」 「信じてる。」今度は三人目だ。聞きなれない声、でも昔どこかで確かに聞いた声。 「あの時、私はお前に助けられた。だからお前にすべてを差し出すことを誓った。 私は信じている。ただ、それだけ。」 頭がズキリと痛む。確かに昔聞いた声。だが、どこで? 895 :そして転職へ:2009/07/22(水) 20:45:49 ID:Z5fxBRka 「選べ。誰をこの世界から救い出す?」 耳元で声が聞いてくる。頭の痛みがひどくなる。 「選べ。」 うるさい 「選べ。」 やめろ 「選べ。」 自分のすぐ後ろで声が聞こえた。振り返りながら僕は叫んだ。 「黙れ!僕はみんな助けてみせる!」 だが、誰もいない。その時 ドスッ! 背中が熱くなる。焼けるような痛みが走る。背中に手をやると、何かが 刺さっている。この手触り…ナイフ? そのまま倒れこむ僕。ナイフが飛んできた方向をみると、三人のシルエット。 ナイフは一本、相手は三人。ならば誰が投げた?僕のせいとはどういうこと? あの三人は、誰? 意識がだんだん遠のいてくる。 刺されたのがおなかだったら、決め台詞は考えていたんだけどな…。 場違いなことを考えつつ、やがて僕は何もわからなくなった。 ボクヲコロシタノハ、ダレ? サンニントモスクウツモリダッタ。ナノニ、ナゼコロシタノ? 「起きなさい、勇者。起きなさい。」 母さんが起こしに来た時、ぼくはベッドから転がり落ちていた。 …ずいぶんと変な夢だったな。 過去の罪の回想や、精霊。そしてナイフ。刺された感じをまだ覚えている。 しっかりしないと。今日が旅立ちの日なのだから。ぼくは運命を変える。そうだろ? 身支度を整え、しばらく主のいなくなる部屋の扉を閉めた。 あれがただの夢ならよかったのに…。                                続く

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