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ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:18:56 ID:YqyhhjUx 第四話『シグナムと聖剣 上』 南の町、ニプルヘイムに向かうシグナムとイリス。 南方は基本的に山に囲まれた山岳地帯であり、 そのど真ん中に存在するニプルヘイムの町に着くには、最低でも六ヶ月は掛かる。 シグナムは、途中の村などで、手に入れたアイテムを売り、装備を補充しつつ南進した。 幸い、南方の敵は北方の敵と比べて強くはなかった。 それでも、北方の敵と比べたら、である。 次から次へと湧いて出てくるお化けスズメバチの大群。 異様に肥大化した腹部から覗く巨大な針。 掠れば即死、当たれば即死のとんでもない一物を持った化け物である。 シグナムは、何重にも灰の結界を張り巡らせて、 近寄ってくるお化けスズメバチを撃退した。 その時イリスは、不思議な踊りを踊っていた。しかしなにも起こらなかった。 抜群のチームワークで獲物を追い詰めるオーク。 三匹一組で襲い掛かり、奇襲、挟撃、不意打ち、圧倒的な力と知恵を備えたその攻撃は、 初心者勇者であれば瞬殺ものであった。 シグナムは、灰で作った矢で森に潜むオークを射殺し、 襲い掛かってくるオークを灰の剣で防ぎ、 死角となった左側から襲い掛かってきたオークを、仕掛けたトラップで殺し、 最後の一匹を激闘の末に袈裟斬りに斬り殺した。 その時イリスは、意味不明な歌を歌っていた。しかしなにも起こらなかった。 そんなこんなで、シグナム達は最初の難所であるアムリタ山を越えた。 「シグナム様って、本当にお強いのですね。私、びっくりしちゃいました」 宿に着いて、最初にイリスがそう話し掛けてきた。 「あぁ…、君は役に立たなくて、本当にびっくりしたよ」 シグナムは思わず本音を吐露した。それもストレートに曲解なしの発言であった。 「ひっ…、酷いです!そんなはっきり言わなくたって! それに私だって、やろうと思えばやれます!」 「じゃぁ、やってみせてよ」 そう言ってシグナムは、イリスになにかする様に促す。 「わっ…、分かりました…。……では…、いきます! ………布団が…、ふっとんだぁ~!」 「…………………………………………」 やっぱり駄目だ。シグナムはそう絶望した。 304 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:19:45 ID:YqyhhjUx 翌朝、イリスの冷たい冷気を吸い込んだシグナムは、 次の難所であるソーマ山踏破に向かった。 出てくる魔物は基本変わらない。 シグナムが戦い、イリスがなにかする。これも変わらない。 シグナムは持てる知恵と、機転と、武力で魔物を打ち払い、 イリスは持てる踊りと、歌と、ギャグで、場を掻き乱した。 ソーマ山を超えた先の宿で、イリスが放ったギャグは、 「……駄洒落を言う奴は、誰じゃぁ~!」 だった。 シグナムは死にたくなった。 最後の難所であるネクタル山踏破の時になって、 「シグナム様!私、新しい特技を身に付けました!」 イリスが胸を張って言い出したので、やってみろと言うと、 イリスは口笛を吹き出した。 なにをしているのだと思って見ていると、凄まじい地響きとともに、 大量の魔物が襲い掛かってきた。 お笑い芸人の口笛には、魔物を誘き寄せる効果があるらしい。 シグナムは必死に戦った。死にたくなかった。 最初の大陸で、仲間の口笛で殺されるなど、たまったものではなかった。 必死に戦うシグナムの横で、イリスは必死に踊ったり歌ったりしていた。 マスター…、契約解除、出来ませんか? シグナムは本気でそう思った。 305 :名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 22:19:53 ID:JQxCH0r6 支援 306 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:20:48 ID:YqyhhjUx 死ぬ思いで、シグナムはニプルヘイムの町にやって来た。 ニプルヘイムと言うだけ、霧に覆われて、なんとも不気味な町である。 「この町には、私の先祖のシグルドに聖剣を授けた湖があるらしい。 この霧は、その湖が原因なのだろうな」 と、シグナムは知識を披露した。 「そうなんですか。私は難しいことはサッパリです」 しかし、イリスに言っても、なんの意味もなかった。 とにかく、湖に向かい、聖剣を手に入れる。 シグナム達は、道を聞きながら、ニプルヘイムの湖に向かった。 湖は森の奥にある。 それを聞いたシグナムは、魔物の襲撃に備えたが、それはなかった。 進めば進むほど濃くなる霧に、足元を掬われそうになりながら、ついに湖に到着した。 「さて…、湖には着いたが…、どうすればいいんだ?」 ファーヴニル国風土記には、湖の精霊から聖剣を授かった、としか書かれておらず、 肝心の、どのようにして授かったのか、とは書かれていない。 辺りを見回したシグナムは、湖の近くに立てられた看板に気付いた。 『正直な心の持ち主にのみ、精霊は微笑む』 と書かれていた。 正直な心ってなんだ?精霊が微笑む?どういう意味だ、とシグナムは思った。 正直というのは、そのまんまの意味で、微笑むとは、現れるではないのか。 シグナムはそう考えた。ならば実践あるのみである。 「すぅ…、……っ………、俺の親父のモノはぁああああ~、 早漏で、短小で、おまけに梅毒もちの不良品だぁああああ~!」 身内だけしか分からない暴露ネタを、湖に向かってぶちまけた。 耳を澄ましてみる。なにも聞こえないし、なにも起こらない。 「はぁ~…、……っ………、俺の親父はぁああああ~、 20歳の時からカツラを被っている若年性のハゲだぁああああ~!」 再び身内ネタを暴露し、耳を澄ましてみる。だが、湖は静まり返っている。 シグナムは腹に空気を入れ、再び叫ぼうとする。それをイリスが止めた。 「止めてください、シグナム様!あなたのお父様の威厳はもうゼロです!」 「放せ!まだ俺の暴露ネタは終わっちゃいねぇんだよ!」 しばらくそんな感じの漫才を繰り広げ、シグナムはやっと落ち着いた。 二人は、大の字で草の上に寝転んだ。 「はぁ…、シグナム様って、結構酷い言葉を使うんですね」 「当ったり前だろ!いつもあんなしゃべり方してたんじゃ、こっちの身が持たないしな」 「でも、私と二人きりの時は、ちゃんと『私』って言ってましたよ」 「あぁ…、対外的に『俺』なんて人称を使ったら、 余計な敵を作るからな。取り合えず『私』で通しているだけだ。 一人の時や、信用できる奴にだったら、羽目を外して『俺』って使うんだがな」 「ということは、私はシグナム様に認められたということですか?」 「まぁ…、色々あるが、そういうことになるな…」 シグナムがそう言うと、イリスは随分と嬉しそうに笑った。 307 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:21:29 ID:YqyhhjUx 「結局、なんにも出てきませんでしたね」 あれからシグナムは、家庭内暴露ネタを大声で叫び続けた。 親父は水虫だ、親父は自分の足の爪に溜まる滓の臭いが好きだ、 あと自分の臍に溜まる滓の臭いも好きだ…。 この数分で現ファーヴニル王の威厳は地に墜ちた。 「まったく、これだけ言っても出てこないなんて…。…やはり、伝説は伝説か…」 そう思うと、なんだかイライラしてきた。ここに立ててある看板がそれを増大させる。 「なにが、『正直な心の持ち主にのみ、精霊は微笑む』だっ!恥じ掻かせやがって!」 そう言って、看板を引き抜いたシグナムは、湖に投げ込んだ。 小さな泡を立てながら、看板は湖に沈んでいく。 しかし突然、湖の中心から神々しい光りが放たれた。 そしてそこから、黄金の後光を背負った絶世の美女が現れた。…両手に看板を持って。 「しっ…、シグナム様!でっ…、出ましたよ!精霊ですよ、精霊!」 「まっ…、まさか本当に出てくるとは…。 …って言うか、なんで看板なんて持ってんだ?」 後光を背負った神々しさとは裏腹に、 両手に持っているなんの変哲もない看板が、なんともいえないシュールさを醸し出す。 「お前が落としたものは…」 急に精霊が腹に響く様な声でしゃべりだした。 そこでシグナムは気付いた。 あの看板に書いてあったことは、 精霊の質問に正しく答えれば、望みのものをくれるというものだったのではないか。 だとしたら、ここは正直に答えなければならない。 シグナムは身構えた。 「アムリタ山の木で出来た看板か?それとも、ネクタル山の木で出来た看板か?」 「はいっ…………えっ……?」 「さぁ、選べ!」 308 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:22:20 ID:YqyhhjUx 選べ、と言われても、シグナムはそんなことなど分かるはずもなかった。 確かにここまで来るのに、アムリタ山とネクタル山は越えた。 だが、そこに自生する木にまで気など回るはずもなかった。 それ以前に、シグナムは植物学者ではない。 木目だとか、色だとか、その手のものはまったく理解できない。 と言うか、看板なんかに注意を向けるはずもない。 そんなものを当てろと言うのは、この精霊、鬼畜である。 「シグナム様。この際、適当に答えましょう」 隣で考えなしのイリスが囁く。 「うるさい!適当に答えて間違えたら元も子もないだろうが!」 シグナムはイリスを黙らせ、考えることに専念した。 「………………………………」 駄目。ぜんぜん分からない。 この際だから、イリスの言う通り、でたらめに答えてみようかと思ったが、 よくよく考えたら、この問題は無理がありすぎる。 この町は、周辺を山で囲まれた盆地である。 アムリタ山やネクタル山以外にも、木の生えた山はいくらでもある。 第一、同じ木が一つの山全部に生えている訳がない。それでは絞り込みようがない。 二つの山に限定した所で、それが解決する訳でもない。 シグナムは精霊が言っていたことを思い出してみた。 『お前が落としたものは、アムリタ山の木で出来た看板か? それとも、ネクタル山の木で出来た看板か?さぁ、選べ!』 ニ、三回それを暗唱する。 そこでシグナムは、あることに気付いた。 精霊は、アムリタ山とネクタル山とは言ったが、 一言もどちらかを選べとは言っていない。 つまり、アムリタ山もネクタル山も例えであり、どちらも答えではない。 今までのことを入れて考えると、答えは一つしかない。 しかし、こんな真面目な所で、こんなことを言ってもいいのだろうか。 不安で仕方がなかったが、シグナムは口を開いた。 「答えはない。これが答えだ」 シグナムの答えに、イリスはぽかんとしていた。 精霊はしばらくシグナムの顔をじっと見ていた。 すると、ふっと口元に笑みを浮かべた。 「あぁ~あ、まさか答える奴がいたなんてなぁ~。 大抵の奴はでたらめに答えるか、馬鹿正直に調べに行ったりする奴しかいなかったのに…」 まるで人を馬鹿にしているかの様にも見える。 「さてと…、とりあえずあんた達にはこの二つの看板と、さっき落とした看板をあげるわ」 三つの看板をシグナムに投げ渡した精霊は、やることはやった、と湖に沈んでいった。 309 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:23:11 ID:YqyhhjUx 「ちょ…、ちょっと待てぇえええ!」 シグナムが精霊に向けて顔を赤くして叫んでいる。思わず素になっていた。 精霊は、顔半分が湖に沈んだ所で止まった。 「俺は看板を貰うためにこんな所に来たんじゃない! ていうか、なんだよこれ!本当にただの看板じゃないか! こんなんがなんの役に立つっていうんだ!」 シグナムの叫び声を聞いた精霊が、面倒臭そうにこっちを見ている。 「うるさいなぁ…。じゃあ、いったいなにが目的で来たっていうのよ」 「俺はこの湖にある聖剣を授かりに来たんだ!」 シグナムが持っている看板で精霊を指しながら言った。 「聖剣……。……あぁ…、そういえば前住者がそんなことを言っていたわね。 あんた等、そんなものが欲しいの?」 「あぁ…、俺の先祖のシグルドがこの湖で聖剣を授かったと本で読んだ。 魔王を倒すためには、その聖剣が必要なんだ。だから頼む!聖剣をこの俺に!」 「えぇ~、シグナム様って、王族の方だったんですか!」 「お前は空気を読め!」 横から口を出してきたイリスを、シグナムは黙らせた。 精霊はジト目で、シグナムを見つめていた。その目はどこまでもつまらなそうである。 「嫌だ」 そしてその目付きが、そのまま声としてその場に響いた。 「なっ…、なんで!?」 「どうして見ず知らずのあんた等に私が施しを与えなければいけないの?」 「だっ…、だが、俺の先祖には聖剣を授けてくれたじゃないか!」 「それは前住者が勝手にやったこと。私には関係のないことよ」 精霊はさっさと帰りたいのかそわそわし始めた。 このまま帰られたらなんのためにここに来たのか分からない。 シグナムは必死に精霊を引き止めた。 「聖剣がないと魔王を倒すことが出来ないんだ。 後任のあんただってそれくらいは分かるだろ!」 「うるさいわね!こんな世界、さっさと滅んでしまえばいいのよ!」 シグナムは呆れてしまった。これが精霊の言うことだろうか。 精霊の言葉に腹が立ったが、シグナムはそれを抑えて再び説得しようとした。 すると、今まで黙っていたイリスがシグナムの前に進み出た。 「シグナム様、今度は私が彼女と話してもいいですか?」 彼女の言葉を聞いて、お前になにが出来る、とシグナムは言おうとしたが、 ふとシグナムは考えた。このまま話し合っていても埒が明かない。 そうするより、女性同士で忌憚なく話し合った方が解決の糸口が見付かるかもしれない。 そう思うと、ここはイリスに任せるのが妥当か、と判断し、 シグナムは精霊との交渉をイリスに一任した。 任せる、と言った以上、自分が口を出す訳にはいかない、とシグナムは思い、 自身は近くの木陰に腰を下ろした。疲れていたので、シグナムはすぐに眠ってしまった。
ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:18:56 ID:YqyhhjUx 第四話『シグナムと聖剣 上』 南の町、ニプルヘイムに向かうシグナムとイリス。 南方は基本的に山に囲まれた山岳地帯であり、 そのど真ん中に存在するニプルヘイムの町に着くには、最低でも六ヶ月は掛かる。 シグナムは、途中の村などで、手に入れたアイテムを売り、装備を補充しつつ南進した。 幸い、南方の敵は北方の敵と比べて強くはなかった。 それでも、北方の敵と比べたら、である。 次から次へと湧いて出てくるお化けスズメバチの大群。 異様に肥大化した腹部から覗く巨大な針。 掠れば即死、当たれば即死のとんでもない一物を持った化け物である。 シグナムは、何重にも灰の結界を張り巡らせて、 近寄ってくるお化けスズメバチを撃退した。 その時イリスは、不思議な踊りを踊っていた。しかしなにも起こらなかった。 抜群のチームワークで獲物を追い詰めるオーク。 三匹一組で襲い掛かり、奇襲、挟撃、不意打ち、圧倒的な力と知恵を備えたその攻撃は、 初心者勇者であれば瞬殺ものであった。 シグナムは、灰で作った矢で森に潜むオークを射殺し、 襲い掛かってくるオークを灰の剣で防ぎ、 死角となった左側から襲い掛かってきたオークを、仕掛けたトラップで殺し、 最後の一匹を激闘の末に袈裟斬りに斬り殺した。 その時イリスは、意味不明な歌を歌っていた。しかしなにも起こらなかった。 そんなこんなで、シグナム達は最初の難所であるアムリタ山を越えた。 「シグナム様って、本当にお強いのですね。私、びっくりしちゃいました」 宿に着いて、最初にイリスがそう話し掛けてきた。 「あぁ……、君は役に立たなくて、本当にびっくりしたよ」 シグナムは思わず本音を吐露した。それもストレートに曲解なしの発言であった。 「ひっ……酷いです!そんなはっきり言わなくたって! それに私だって、やろうと思えばやれます!」 「じゃぁ、やってみせてよ」 そう言ってシグナムは、イリスになにかする様に促す。 「わっ……分かりました……。……では、いきます! ……布団が、ふっとんだぁ~!」 「…………………………………………」 やっぱり駄目だ。シグナムはそう絶望した。 304 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:19:45 ID:YqyhhjUx 翌朝、イリスの冷たい冷気を吸い込んだシグナムは、 次の難所であるソーマ山踏破に向かった。 出てくる魔物は基本変わらない。 シグナムが戦い、イリスがなにかする。これも変わらない。 シグナムは持てる知恵と、機転と、武力で魔物を打ち払い、 イリスは持てる踊りと、歌と、ギャグで、場を掻き乱した。 ソーマ山を超えた先の宿で、イリスが放ったギャグは、 「……駄洒落を言う奴は、誰じゃぁ~!」 だった。 シグナムは死にたくなった。 最後の難所であるネクタル山踏破の時になって、 「シグナム様!私、新しい特技を身に付けました!」 イリスが胸を張って言い出したので、やってみろと言うと、 イリスは口笛を吹き出した。 なにをしているのだと思って見ていると、凄まじい地響きとともに、 大量の魔物が襲い掛かってきた。 お笑い芸人の口笛には、魔物を誘き寄せる効果があるらしい。 シグナムは必死に戦った。死にたくなかった。 最初の大陸で、仲間の口笛で殺されるなど、たまったものではなかった。 必死に戦うシグナムの横で、イリスは必死に踊ったり歌ったりしていた。 マスター、契約解除、出来ませんか? シグナムは本気でそう思った。 306 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:20:48 ID:YqyhhjUx 死ぬ思いで、シグナムはニプルヘイムの町にやって来た。 ニプルヘイムと言うだけ、霧に覆われて、なんとも不気味な町である。 「この町には、私の先祖のシグルドに聖剣を授けた湖があるらしい。 この霧は、その湖が原因なのだろうな」 と、シグナムは知識を披露した。 「そうなんですか。私は難しい事はサッパリです」 しかし、イリスに言っても、なんの意味もなかった。 とにかく、湖に向かい、聖剣を手に入れる。 シグナム達は道を聞きながら、ニプルヘイムの湖に向かった。 湖は森の奥にある。 それを聞いたシグナムは、魔物の襲撃に備えたが、それはなかった。 進めば進むほど濃くなる霧に、足元を掬われそうになりながら、ついに湖に到着した。 「さて……、湖には着いたが、どうすればいいんだ?」 ファーヴニル国風土記には、湖の精霊から聖剣を授かった、としか書かれておらず、 肝心の、どのようにして授かったのか、とは書かれていない。 辺りを見回したシグナムは、湖の近くに立てられた看板に気付いた。 『正直な心の持ち主にのみ、精霊は微笑む』 と書かれていた。 正直な心ってなんだ?精霊が微笑む?どういう意味だ、とシグナムは思った。 正直というのは、そのまんまの意味で、微笑むとは、現れるではないのか。 シグナムはそう考えた。ならば実践あるのみである。 「すぅ……、……っ……、俺の親父のモノはぁああああ~、 早漏で、短小で、おまけに梅毒もちの不良品だぁああああ~!」 身内だけしか分からない暴露ネタを、湖に向かってぶちまけた。 耳を澄ましてみる。なにも聞こえないし、なにも起こらない。 「はぁ~……、……っ……、俺の親父はぁああああ~、 20歳の時からカツラを被っている若年性のハゲだぁああああ~!」 再び身内ネタを暴露し、耳を澄ましてみる。だが、湖は静まり返っている。 シグナムは腹に空気を入れ、再び叫ぼうとする。それをイリスが止めた。 「止めてください、シグナム様!あなたのお父様の威厳はもうゼロです!」 「放せ!まだ俺の暴露ネタは終わっちゃいねぇんだよ!」 しばらくそんな感じの漫才を繰り広げ、シグナムはやっと落ち着いた。 二人は、大の字で草の上に寝転んだ。 「はぁ……、シグナム様って、結構汚い言葉を使うんですね」 「当ったり前だろ!いつもあんなしゃべり方してたんじゃ、こっちの身が持たないしな」 「でも、私と二人きりの時は、ちゃんと『私』って言ってましたよ」 「あぁ……、対外的に『俺』なんて人称を使ったら、 余計な敵を作るからな。取り合えず『私』で通しているだけだ。 一人の時や、信用できる奴にだったら、羽目を外して『俺』って使うんだがな」 「という事は、私はシグナム様に認められたという訳ですか?」 「まぁ……、色々あるが、そういう事になるな……」 シグナムがそう言うと、イリスは随分と嬉しそうに笑った。 307 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:21:29 ID:YqyhhjUx 「結局、なんにも出てきませんでしたね」 あれからシグナムは、家庭内暴露ネタを大声で叫び続けた。 親父は水虫だ、親父は自分の足の爪に溜まる滓の臭いが好きだ、 あと自分の臍に溜まる滓の臭いも好きだ、等。 この数分で現ファーヴニル王の威厳は地に墜ちた。 「まったく、これだけ言っても出てこないとは……。……やはり、伝説は伝説か……」 そう思うと、なんだかイライラしてきた。ここに立ててある看板がそれを増大させる。 「なにが、『正直な心の持ち主にのみ、精霊は微笑む』だっ!恥じ掻かせやがって!」 そう言って、看板を引き抜いたシグナムは、湖に投げ込んだ。 小さな泡を立てながら、看板は湖に沈んでいった。 しかし突然、湖の中心から神々しい光りが放たれた。 そしてそこから、黄金の後光を背負った絶世の美女が現れた。両手に看板を持って。 「しっ……シグナム様!でっ……出ましたよ!精霊ですよ、精霊!」 「まっ……まさか本当に出てくるとは……。 ……って言うか、なんで看板なんて持ってんだ?」 後光を背負った神々しさとは裏腹に、 両手に持っているなんの変哲もない看板が、なんともいえないシュールさを醸し出す。 「お前が落としたものは……」 急に精霊が腹に響く様な声でしゃべりだした。 そこでシグナムは気付いた。 あの看板に書いてあった事は、 精霊の質問に正しく答えれば、望みのものをくれるというものだったのではないか。 だとしたら、ここは正直に答えなければならない。 シグナムは身構えた。 「アムリタ山の木で出来た看板か?それとも、ネクタル山の木で出来た看板か?」 「はいっ……えっ……?」 「さぁ、選べ!」 308 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:22:20 ID:YqyhhjUx 選べ、と言われても、シグナムはそんな事など分かるはずもなかった。 確かにここまで来るのに、アムリタ山とネクタル山は越えた。 だが、そこに自生する木にまで気など回るはずもなかった。 それ以前に、シグナムは植物学者ではない。 木目だとか、色だとか、その手のものはまったく理解できない。 と言うか、看板なんかに注意を向けるはずもない。 そんなものを当てろと言うのは、この精霊、鬼畜である。 「シグナム様。この際、適当に答えましょう」 隣で考えなしのイリスが囁く。 「うるさい!適当に答えて間違えたら元も子もないだろうが!」 シグナムはイリスを黙らせ、考えることに専念した。 「………………………………」 駄目。ぜんぜん分からない。 この際だから、イリスの言う通り、でたらめに答えてみようかと思ったが、 よくよく考えたら、この問題は無理がありすぎる。 この町は、周辺を山で囲まれた盆地である。 アムリタ山やネクタル山以外にも、木の生えた山はいくらでもある。 第一、同じ木が一つの山全部に生えている訳がない。それでは絞り込みようがない。 二つの山に限定した所で、それが解決する訳でもない。 シグナムは精霊が言っていた事を思い出してみた。 『お前が落としたものは、アムリタ山の木で出来た看板か? それとも、ネクタル山の木で出来た看板か?さぁ、選べ!』 ニ、三回それを暗唱する。 そこでシグナムは、ある事に気付いた。 精霊は、アムリタ山とネクタル山とは言ったが、 一言もどちらかを選べとは言っていない。 つまり、アムリタ山もネクタル山も例えであり、どちらも答えではない。 今までの事を入れて考えると、答えは一つしかない。 しかし、こんな真面目な所で、こんな事を言ってもいいのだろうか。 不安で仕方がなかったが、シグナムは口を開いた。 「答えはない。これが答えだ」 シグナムの答えに、イリスはぽかんとしていた。 精霊はしばらくシグナムの顔をじっと見ていた。 すると、ふっと口元に笑みを浮かべた。 「あぁ~あ、まさか答える奴がいたなんてなぁ~。 大抵の奴はでたらめに答えるか、馬鹿正直に調べに行ったりする奴しかいなかったのに……」 まるで人を馬鹿にしているかの様にも見える。 「さてと……、とりあえずあんた達にはこの二つの看板と、さっき落とした看板をあげるわ」 三つの看板をシグナムに投げ渡した精霊は、やることはやった、と湖に沈んでいった。 309 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第四話 ◆AW8HpW0FVA :2009/08/06(木) 22:23:11 ID:YqyhhjUx 「ちょ……ちょっと待てぇえええ!」 シグナムが精霊に向けて顔を赤くして叫んでいる。思わず素になっていた。 精霊は、顔半分が湖に沈んだ所で止まった。 「俺は看板を貰うためにこんな所に来たんじゃない! ていうか、なんだよこれ!本当にただの看板じゃないか! こんなんがなんの役に立つっていうんだ!」 シグナムの叫び声を聞いた精霊が、面倒臭そうにこっちを見ている。 「うるさいなぁ……。じゃあ、いったいなにが目的で来たっていうのよ」 「俺はこの湖にある聖剣を授かりに来たんだ!」 シグナムが持っている看板で精霊を指しながら言った。 「聖剣……。……あぁ、そういえば前住者がそんな事を言っていたわね。 あんた等、そんなものが欲しいの?」 「あぁ……、俺の先祖のシグルドがこの湖で聖剣を授かったと本で読んだ。 魔王を倒すためには、その聖剣が必要なんだ。だから頼む!聖剣をこの俺に!」 「えぇ~、シグナム様って、王族の方だったんですか!」 「お前は空気を読め!」 横から口を出してきたイリスを、シグナムは黙らせた。 精霊はジト目で、シグナムを見つめていた。その目はどこまでもつまらなそうである。 「嫌だ」 そしてその目付きが、そのまま声としてその場に響いた。 「なっ……なんで!?」 「どうして見ず知らずのあんた等に私が施しを与えなければいけないの?」 「だっ……だが、俺の先祖には聖剣を授けてくれたじゃないか!」 「それは前住者が勝手にやった事。私には関係のない事よ」 精霊はさっさと帰りたいのかそわそわし始めた。 このまま帰られたらなんのためにここに来たのか分からない。 シグナムは必死に精霊を引き止めた。 「聖剣がないと魔王を倒す事が出来ないんだ。 後任のあんただってそれくらいは分かるだろ!」 「うるさいわね!こんな世界、さっさと滅んでしまえばいいのよ!」 シグナムは呆れてしまった。これが精霊の言うことだろうか。 精霊の言葉に腹が立ったが、シグナムはそれを抑えて再び説得しようとした。 すると、今まで黙っていたイリスがシグナムの前に進み出た。 「シグナム様、今度は私が彼女と話してもいいですか?」 イリスの言葉に、お前になにが出来る、と言おうとしたが、 ふとシグナムは考えた。 このまま話し合っていても埒が明かない。 そうするより、女性同士で忌憚なく話し合った方が解決の糸口が見付かるかもしれない。 そう思うと、ここはイリスに任せるのが妥当か、と判断し、 シグナムは精霊との交渉をイリスに一任した。 任せる、と言った以上、自分が口を出す訳にはいかない、とシグナムは思い、 自身は近くの木陰に腰を下ろした。疲れていたので、シグナムはすぐに眠ってしまった。

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