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103 :桜の幹 :2009/07/29(水) 14:10:56 ID:bVJIjWSn 「幹也、好きよ」 うわ言のようにさくらは何度もその言葉を繰り返した。 何度も何度も僕の性器と繋がって、さくらはその言葉を繰り返していた。 まるで刷り込むみたいに、何度も。 僕はさくらをただ仰いで見ているだけ。 何も考えてはいなかった。 さっき僕は勘違いに気付いた。 さくらは自分の性欲なんかのためでは無く、ただ純粋に僕を好きだった。 それがきっとさくらを苦しめていたんだ。 無理も無い。 だって、僕はさくらを縛るためだけにさくらと関係を結んでいただけだから。 いつだって壊せる関係の希薄さに、さくらは悩んでいた筈なんだ。 僕は、僕を求めるだけのさくらに何も言う資格なんて無い。 逆らう道理も、逆らえる権利も無い。 今はただ、さくらのやりたいようにさせてあげよう。 「幹也に友達なんか出来やしないよ」 さくらは僕の顔の輪郭に沿って、舌を這わせてきた。 「幹也に友達なんて出来るわけないよ、出来ても辛いだけだよ」 ジュブ。 耳の辺りで粘着質な音。それから耳の軟骨に不快な感覚。 さくらの柔らかい舌が、軟骨の凹凸にそって舐めていた。 「一緒にいるときは決まって気を使って、いつかは別れる。そんなの辛いでしょ?」 さくらは耳から下を離し、今度は額を僕の額に合わせてきた。 「私は違うよ、私だけは違うの」 それから軽く唇に何かが触れた。 「ずっと、傍にいてあげる」 「幹也が望む事全部、私は出来るの。友達にも、親友にでも、恋人でも、家族にだって…幹也が望むなら何にだって私はなれる」 さくらの擽ったそうな笑い声が聞こえる。 「勿論、セックスだって幹也がしたいことしてもいいんだよ?SMでもスカトロでも、いつだって私は幹也の思いのまま」 やっと深い闇に眼が慣れてきた頃、さくらは続けてこう言った 「幹也が望むなら、人だって…殺せる」 104 :桜の幹 :2009/07/29(水) 14:13:29 ID:bVJIjWSn ◇◇◇ 「幹也、好き。愛してる」 さくらは何個目かのコンドームの包みを破り、それを僕の性器に被せる。 もう、何度目なんだろう?ジンジンと痛くなってきた。 それでも、さくらは一向に辞める気配は無い。 「みきやぁ、えへへ」 締りが無くなった顔で、さくらは僕に口づけする。 三回、軽い口付けを終えた後、今度は僕の口腔内に舌が入ってきた。 粘着質な音だけが、耳に届く。 部屋は暗い。 僕の視覚はただ影を捉えているだけ。触覚は舌と、舌が絡み合う事だけしか感じていない。 やっとキスが終わると、さくらはまた僕の性器を自らに挿入した。 ギシリと、ベッドが鳴く。 「私の中、もう幹也の形にしかならないよぅ」 揺れる視界。 普段聞き慣れない、さくらの変わった口調。 「みき、っや」 荒れた息、何度も僕を呼ぶ声、揺れるベッド。 こんな気持ちでさくらと性交するのは初めてだ。 「っぁ」 小さな悲鳴。 それと同時に性器が締め付けられた。 きっとさくらが今イったのだろう。 さくらがもたれ掛かって来て、少し身体を震わせた。 「みきやぁ、キモチいいでしょう?私だからできるんだよ?スゴイでしょう?」 さくらはそう言ってまた忙しなく腰を動かし始めた。 「熊原君もこんな事できた?無理だよね、ただの友達もどきじゃ出来ないよね?」 息遣いすら、纏わり付く。 「うっ、みきっや!」 さくらが何かに耐えるように悶えると、また中がキツくなった。 駄目だ、僕も近い。 さくらがまた動き始めた。僕は何度目かの射精をすると、満足そうなさくらの声を聞いて酷い眠気に身を任せる事にした。 何度目かのまばたきの後、僕は眠りへ落ちてしまった。 105 :桜の幹 :2009/07/29(水) 14:15:42 ID:bVJIjWSn ◇◇◇ シャワーを終えて、私は幹也の部屋に向かった。 安らかに、幹也は眠っている。 幹也は情事のあとは決まって寝てしまう。 私はその時の表情が好きだ。 全てを私に委ねているようなそんな寝顔。 なんて気持ち良さそうなんだろう。 「菅野…さくら……かぁ」 思わずにやけてしまう。 たまに、自分が幹也に抱いているこの感情は一体何なのか気になる事がある。 好意よりも広くて、愛よりも深い。 私は幹也を好きな、愛している自分ではなく、私に愛されている幹也が好きなのだ。 コレは少し奇妙だ。この表現ではただの自己満足ではないか。 ただの独占欲。でも独占しようとしても、独占したと思っても、決して幹也に飽きる事はなかった。 私は溺れていく、幹也に。 愛はその朱をさらに深めて、ドス黒くなっていく。 だから、私は幹也に関わる他人を許せないのか。 小さい頃から、少なくとも記憶の一番初めから思い出してみても、私はその頃から幹也を愛していた。おそらく私は自己愛のベクトルを家族ではなく、はたまた他人などではなく、幹也だけに向けていたのだ。 私は、あの頃から菅野幹也が石田さくらの事が好きなこと信じて疑わなかった。 だからは私は当然のように必死に幹也の要望に答え、さらに認められようと、さらに幹也の深くを知ろうとしてきた。 ただの精神を病んだ馬鹿じゃないか。 そう自嘲気味に言ってみても、目の前の幹也の寝顔を見ていると、「幹也がいるなら、それも悪くないか」と思い直してしまう。 なんとも、救いがたい…な。 少し自嘲気味に笑ってから、私は幹也の少しはだけたタオルケットを掛けなおして、部屋を出た。 幹也の携帯を受け取りに熊原の家へ行くためだ。 106 :桜の幹 :2009/07/29(水) 14:17:12 ID:bVJIjWSn ◇◇◇ 熊原武士の家は前日から目星を付けていたので、特に迷う事無く辿り着いた。 青い屋根に、亜麻色の家。それから郵便受け取りに書かれた熊原の文字。 間違いない、アイツの家だ。 インターホンを押す。 「はーい」 女の声…、熊原小町か。 「菅野幹也の友人の石田さくらです。先日、幹也がココに携帯を忘れていったそうなので幹也の代わりにに受け取りに来ました」 インターホンから「ちょっと待ってて」と言われてから少し経って、玄関からさっきの声の主が出てきた。 「はい、これ」 間違いない、幹也の携帯だ。 「すみません、お手数をかけて」 「いやいや、いいんだよ」 「それでは、確かに受け取ったので」 「あっ、ちょい待ち!」 「はい?」 熊原が私を呼び止める。早く帰りたいのに。 「幹也君にまた遊ぼうって言っといてよ、あたしも武士もずっと暇だからさ。あっ、よかったら彼女さんも一緒にどう?」 思わず拳を作ってしまう。 握っていた携帯がプラスチック製の悲鳴をあげる。 「分かりました、伝えておきます」 私は努めて穏やかに微笑んでそう返して、帰路に着いた。

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