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661 名前:不安なマリア[sage] 投稿日:2009/08/30(日) 23:23:57 ID:VBLu33dI しかし、と彼女は考える。 彼は満たされているのだろうか。いや、そもそも彼は私との出会いで多くを失ったではないか。 彼にはやりたい仕事があったが、私はそれをあの戦場で奪った。それも私一人のために。 彼には多くの友人や、家族、親戚がいたが、それも私との結婚で失った。私一人のために。 彼には看護士としての将来があったが、それも私の看護と生活の両立のため失った。私一人のために。 それに加えて私のこの体。彼と私はセックスすることが出来ない。やはり私一人のために、だ。 おそらく子供もつくれない。「家庭」ということばが私に重くのしかかる。 私は動けず、外出には車椅子がいる。それにこの腕だ。夫婦らしく外で仲良く食事することも難しい。 「家庭」は記憶においても現実においてもマリアを苦しめた。 必死で大丈夫だと否定するもう一人の自分をよそに、マリアはますます不安に陥っていった。 そうしてとうとう、ある晩の夫との食卓で彼女は泣き出してしまった。 「うっ・・・ぐ・・・グス、・・・うぁぁ」 ジョナサンは最近、妻が陰欝で不安げな表情を見せることを心配していた。 マリアが複雑な家庭環境で育ち、壮絶な人生を歩んだことを知る彼は、彼女を安心させようとしてきた。 しかし、最近は、働き先の花屋が出荷時期で忙しく、なかなか構ってやれなかったのだ。 マリアが傷痍軍人とはいえ、財政が逼迫するなか、配偶者を有する者への手当てはそんなに多くない。 生活費を稼ぐためにも、帰る時間も遅くなり、マリアを一人にすることが多くなっていた。 彼女は車椅子生活のうえ、左腕を失っているため、一人では好きに動くことはかなり困難だ。 加えて携帯電話もお互い持たないため、仕事先の彼がどうしているのか分からないことも不安がった。 「最近、帰りが遅いじゃないか。どうしたんだ?やっぱりこんな女の待つ家はいらないのか?」 「私を捨てないでくれ。お願いだ。あなたの声で他の女の名前を聞きたくない。」 「私はあなたと愛し合うことができない。本当にすまない。でも、それでも側にいてほしい。」 「私を助けてくれ。ザンジバルのときみたいに。あの時と同じように私だけを見てくれ。」 マリアはジョナサンの浮気すら疑っていたのだった。そして浮気相手を排除すると言い出した。 ジョナサンは彼女を抱きしめ、長く伸びた金髪の頭にキスしながら言った。 「大丈夫だ。僕はここにいる。ここは僕らの家だ。ザンジバルでも君の故郷でもない。」 「それに君は知らないかもだが、僕は君を愛している。ザンジバルのときよりもずっとね。」 そうして、マリアが落ち着きを取り戻すと、ジョナサンは提案した。 「マリア、携帯電話を持とう。良いね。」 うん。と言ってやっと微笑んだマリアにジョナサンはキスした。二人は抱き合いながら眠った。 確かに携帯電話は必要だったのかもしれない。その時はそうだったのだ。

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