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53 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/07/27(月) 20:15:32 ID:n+x0+Ug8  深夜の公園に、俺、愛吞達也は草の茂みに身を隠して、息を殺しながら一点をじっと見ていた。 その視線の先には外灯が、そして、その下には一人の少女がぽつんと立っている。 歳は身長からして中学生くらいか? 上は藍色のスポーツウェア、下は同じく藍色のスパッツで髪を三つ編みにしている。後ろを向いているために、顔は見えないが、膝裏まで伸びた漆黒の髪が、少女の存在感を強くしている。 ちなみに、俺は彼女が目当てで潜んでいるわけじゃない。 最近、ここらに出没する変質者をとっ捕まえるために隠れているのだ。 「にしても、あの子はなにをしているんだ?」 なにしろ、もうかれこれ二時間も突っ立ったままだ。いい加減怖くなってきた。  俺は茂みから出ると、相変わらずピクリとも動かない少女に近づいていった。 「おいおい、お嬢ちゃん。こんな時間に一人か?」 そう言いながら、少女の肩に手をかけた瞬間、俺は宙を舞っていた。そのあとは地球に引き寄せられ、地面に接着される。 「がッ!?」 体中の空気が口から飛び出していく。息継ぎする間もなく、俺の顔めがけて踵が降ってきた。 「~~っ!」 それを横に転がることで回避し、急いで立ち上がろうとした俺の頭上を、少女の蹴りがかすめる。 「……外しました」 バックステップで距離をとる俺を、少女はつまらなそうにみていた。 乱れた呼吸を整えながら、俺は内心へこんでいた。まだ出会って一分もたっていないこの少女、いや一方的な観察なら二時間ほどしていたが。 この少女ならさっきの蹴りを俺の頭に直撃させることなど雑作もなかった、と俺の直感が伝えてくる。 しかし、彼女の攻撃は外れた。何故? 攻撃を外したんだ、彼女が、自分の意思で。Why? 手加減したんだ、俺が、弱そうだから。 奇襲をかけられたとはいえ、女性に手加減される。やりすぎたと詫びるような彼女のその行動は、俺の男としてのプライドをズタズタにした。 しかし、いまはへこんでる場合じゃない。彼女の動きは明らかに洗練されていた。つまり、荒事に慣れているということ。 そんな彼女から殺気を向けられているこの状況から脱することが先決だ。 54 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/07/27(月) 20:16:46 ID:n+x0+Ug8 「話しかけただけで投げるなんて、ずいぶんシャイなんだな」 「隙を窺おうとしても無駄ですよ、変質者さん」 ばれてるし。……ん? 「まてまて、俺は変質者じゃない。人違いだ!」 どうやら彼女は勘違いしているらしい。変質者と間違われたのは不愉快だったが、なんとかこの事態を回避できそうだ。 「変質者はみんなそう言いますよ、それに」 彼女の口が笑みを形作る。 「仮にそうだとしても、貴方は戦える人でしょ。私は」 彼女の目が濁る。 「戦えるならそれでいいんです」 やばい。コイツやばい。頭より高いところで危険信号が鳴り響いてる。逃げる!? いや駄目だ、今背を向けたらやられる。かといってこのまま突っ込むのも危険だ。 「そんなことより、ちょっと周りを見てみろよ。夜の公園で二人っきりだぜ、こんなときはやっぱり……」 とりあえず話をそらして…… 「夜の公園に武道家二人、勝負ですね」 それねぇ! なんだよその発想。お前は解説好きな柔術家か!? なんてことを考えているうちに、彼女は間合いを詰め、右手でピースを作ると俺の目をめがけて思いきり突き出してきた。 俺はそれをバク転することで回避。両足が接地するや、彼女の下半身にタックル! はフェイントでその勢いで倒立、そのまま倒れこむ。 俺の膝裏に彼女の肩が当たる。俺は膝を曲げると、そこを支点に腹筋運動をして彼女の頭に覆い被さる。すると彼女の体勢が後ろに崩れた。 あとは地面とケツでサンドして終わりだった。当然、少し抑えつける程度の体重しか掛けていない。それ以上は間違いなく致死量だ。 「秘技アクセル・サンドウィッチ、てとこか。やっぱ俺って天才かも」 あの一瞬でここまで動けた自分をほめる。今度、巴のやつにもやってみよう。 「いきなり目を突くのは危ないからやめとけよ」 そう言って、おれは気絶している少女に上着をかけて、その場をクールに立ち去った。 55 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/07/27(月) 20:18:38 ID:n+x0+Ug8 「……うぅ?」 どうやら気絶していたらしい。起き上がると、なぜか彼の上着が私の脚に落ちる。どうしてこれがここにあるのだろう? 「加藤」 「はい」 彼女は闇の中から浮き出るように現れた。いたなら起こしてくれてもいいじゃないかと思うが、言っても無駄なので口には出さない。 「私、どれくらい寝ていましたか?」 「およそ十分といったところです。かなこ様」 加藤は時計も見ずに答える。おそらく数えていたのだろう、相変わらずのサドぶりだ。 「そう、ありがとう。もう帰ります」 かしこまりました、と言って加藤はまた闇に消えた。おそらく車のところに戻ったのだろう。 私はまた横になると彼のことを考えはじめた。最初は弱そうな印象しかなかった。投げたときはろくに受け身もとれていなかった。 私が戦おうと言ったときも逃げようとしていた。だからちょっとお仕置きしてやろうとした。 でも、その後の彼は別人だった。油断していたとはいえ、私が何もできなかった。プロの格闘家相手でも一方的に嬲れるこの私が。 「いったい彼は何者なんでしょうか」 あとで加藤に調べさせよう。そう考えながら、高揚する自分を抑えつけるように彼の上着に顔を埋めた。

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