「ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話」(2011/01/18 (火) 02:26:02) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

308 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:26:08 ID:uJs1YfE0 第六話『シグナム・ファーヴニルの喪失』 シグナムの手に入れた聖剣は、どちらかといえば魔剣みたいだった。 柄は黄金で、見たこともない文字が刻まれており、 鍔には銀のヤドリギが巻き付き、刀身は血の様に赤い。 そんな聖剣を前に、朝からシグナムは悩んでいた。剣の名前が分からないのである。 別にこのまま聖剣で押し通してもいいのだが、それではあまりにも味気なさ過ぎる。 ここはかっこいい名前を付けた方がこの剣も幸せであろう、とシグナムは考えたのだ。 「ふぁ…、朝からなにをしているんですか、シグナム様?」 そんなシグナムに、起きたばかりのイリスは、眠気を孕んだ眼を向けた。 「あぁ、実はこの剣に名前を付け様と思ったんだが、いいのが思い付かなくてな…」 一瞬、イリスの意見も聞いてみようかとシグナムは思ったが、すぐに止めた。 イリスの頭の悪さは折り紙付だ。とんでもなくアホそうな名前を言いそうである。 しかし、それを聞いたイリスは目を輝かせ、 「面白そうですね。私も剣の名前を考えますよ」 と、言って、シグナムの傍に勝手に座り、考え込み始めた。 しばらく唸っていたイリスだったが、なにか思い付いたらしく、シグナムの肩を叩き、 「シグナム様、いい名前が思い付きましたよ」 と、目を輝かせて言った。まったく期待出来ないシグナムだが、聞く体裁だけは整えた。 「エクスカリバーっていうのはどうですか?」 イリスの口から放たれたのは、思いの外まともなものだった。 「まともなことも言えるんだな…。だが、ありきたりすぎるから却下」 半ば感心しつつも、シグナムはその提案を取り下げた。 「むぅ…、じゃあ、ミスティルレヴィティンってのはどうですか?」 「なんだか、人も魔物も神も世界も、全部壊して自分も死にそうな名前だな…。…却下」 「あぅ…、じゃあ、シグラムでどうですか?」 「かっこ悪いし、なんか軽そうだから却下」 次から次へと提案を取り下げられ、イリスは涙目になってきた。 これらのことがしばらく続き、最後の最後にイリスは、 「うぅ…、じゃあ、シグナム様のご先祖様の名前から取って、シグルドでどうですか!?」 と、怒鳴り声とも泣き声ともいえない口調で、シグナムに言った。 最後の提案は、シグナムの心を打ったらしく、しばらく黙考した結果、 「おぉ、それが一番しっくり来るな。それで決定だ」 と、満足そうに言った。 聖剣の名前がやっと決まり、シグナムは嬉しそうだったが、 イリスは疲れてベッドに倒れ込み、そのまま眠ってしまった。 しかし、その眠りもそう長くは続かなかった。 「服を買いに行くぞ」 叩き起こして早々、シグナムはそう言った。 イリスが二度寝してから、まだ四時間しか経っていなかった。 309 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:27:05 ID:uJs1YfE0 「シグナム様、私、服だったらこれで十分ですよ」 イリスは着ている黄色の服の縁を摘んで見せた。 「駄目だ」 そんなイリスを尻目に、シグナムはイリスの目の前を早足に歩いている。 「大体な、そんなアホな服を着ているから戦闘中に奇行が止まらなくなるんだ。 病は気から、奇行は服装からっていう言葉もある。 つまり、普通の服を着れば、奇行は治まるし、見てくれもよくなるって訳だ。 べっ…別に、その服を見てると殺意が湧くとか、そんなことは思ってないからな!」 「シグナム様、それはツンデレじゃないですよ…」 イリスのつっこみを無視し、シグナムはさらに歩く速度を上げ、店に向かった。 この世界では、服を買う所は防具屋と決まっている。 魔物がいるのだから当然といえば当然だが、やはり、普通の服に混じって、 鎖帷子や鎧が混じっているのには違和感を覚えざるを得ない。 そんな雑然とした中から、シグナムは強化服を取り出した。 特殊繊維を織り込んだそれは、服の中では最強の防御力と機能を兼ね備えた逸品だ。 早速イリスにそれを着せてみたが、試着室から出てきたイリスの一言は、 「チクチクして気持ち悪い」 と、いうものだった。 我慢しろというシグナムの言に、イリスは子供の様に駄々をこねて抵抗した。 結局、この抵抗に負けて、ワンピースで妥協することとなった。 ここから先は妥協の連続だった。 重いとの理由で皮のドレスはエプロンドレスとなり、 それと同様の理由で皮の盾はお盆、ダガーはお玉となり、 可愛くないとの理由でスチールブーツは皮のブーツとなった。 妥協に妥協を重ねた結果、そこにいたのはメイドだった。 ご丁寧にカチューシャを付け、どこで見付けたのかニーソックスを身に付けている。 イリスもその格好が気に入ったのか、その場でくるりと一回転して見せた。 「お前はどこかの金持ちの家に仕えるつもりか!」 シグナムは思わずつっこんでしまった。 310 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:27:41 ID:uJs1YfE0 宿に帰ったシグナムは、聖剣シグルドの刀身を再び見つめていた。 真っ赤な刀身に光が当たり、反射して出来た日溜りが、まるで血溜りの様に見えた。 剣には作った者の魂が宿るという。 聖剣シグルドの見た目は、禍々しい魔剣のそれであるが、 握ってみると、これといってなにか邪悪な気が流れ込む感じがしなかった。 だからといって、聖なる気が流れ込む感じもしなかった。 これはいったいどういうことであろう。 まさか偽者でも掴まされたのではないかと思ったが、すぐに考え直した。 あれほど痛い目に遭ってやっと手に入れた聖剣なのだ。 きっとなにか隠された力が宿っているに違いない。 そうと決まれば、とシグナムは立ち上がった。 「シグナム様、どこに行くんですか?」 急に立ち上がったシグナムに、イリスは声を掛けた。 「剣の性能を確かめに行くだけだ」 手短にシグナムは用件を伝えたが、イリスはなにを勘違いしたのか、 「辻斬でもするんですか?」 と、とんでもないことを言ってのけた。 シグナムは咄嗟に作った灰のハリセンで、思いっきりイリスの頭をぶっ叩いた。 スパーン…、といい音が響いた。 「いっ……たぁあああああい!なにするんですか!」 「お前が阿呆なこと言うからだろ!魔物と戦って性能を確かめるんだよ、この馬鹿!」 再教育のためにもう一発叩き込んでやろうかと思ったが、さすがにそれは止めた。 シグナムは灰のハリセンを消し、さっさと部屋から出て行こうとした。 「あっ、シグナム様、私も一緒に行きます」 右手にお盆、左手にお玉を装備し、やる気に満ちた表情をイリスは見せたが、 シグナムは露骨に嫌な顔をした。 正直、イリスと一緒に戦うのはうんざりだった。 イリスは、寒い、役に立たない、敵を呼ぶ、の三拍子揃ったマイナス三割打者である。 そんなのと魔物のテリトリーである町の外に出れば、今度こそ共倒れ確実である。 仲間を庇って死ぬ、という自己犠牲は美しいものだろうが、 訳の分からない踊りや歌を歌っている奴を庇って死ぬ、というのは幾らなんでも嫌過ぎる。 なので、シグナムが、 「お前はここで留守番してろ」 と、言うのは当然のことであった。 「えぇ~、せっかく新しいポーズを考えたのに…」 ポーズが一体なんの役に立つのか、とシグナムは聞きたくなったが、 阿呆らしいので口には出さなかった。 「とにかく、日暮れまでには帰ってくるから、それまでは大人しくしてろ。いいな」 シグナムはそうイリスに釘を刺すと、部屋から出て行ってしまった。 311 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:28:28 ID:uJs1YfE0 シグナムは、ニプルヘイムの南にあるアンブロシア山に来ていた。 出てくる魔物は、大体今までのと同じだった。 集団で襲い掛かっては来るが、今のシグナムの敵ではなかった。 しかし、シグナムは不満顔だった。 「やっぱり、この剣にはこれといった力は感じられないな…」 シグナムの振るっている聖剣シグルド。 戦っていればなにかが起こるのではないかと思ったが、実際はなにも起こらなかった。 属性攻撃が出来るとか、衝撃波が出るとか、空間を切り裂けるなど、 そんなことを期待していただけに、シグナムの失望は深かった。 唯一救いがあるとすれば、刃毀れせず、折れず、切れ味が凄まじいということだが、 それだったら、武器屋に売っている剣で十分に間に合う。 「所詮、伝説は伝説…か…」 ふとそう呟き、シグナムは近くの木の下に腰を下ろした。 六ヶ月も掛けてここに来た意味はなかったと思うと、シグナムはやるせなくなった。 さらに幾度か死に掛けたことを換算すると、最早やるせない所の話ではなかった。 「魔王討伐…止めようかな…」 思わずそんな弱音も飛び出したが、シグナムは自分の頬を強く引っ叩いた。 自分らしくもない。以前のなんにもない時に比べれば、 今は十分すぎるくらい恵まれているではないか。 この様なことでへこたれている場合ではない。 シグナムはネガティブ思考を振り払い、再び立ち上がった。 「差し当たって、新技の研究でもするか」 シグナムは聖剣シグルドを握り締めると、新たに現れた魔物に向かって走り出した。 とりあえず、何個か新技を間に挟みつつ、堅実に敵を倒していった。 その中に、前に使用した灰で自分の姿を消すという技を使ってみたが、 魔物はまったく怯むことなくシグナムのいる場所に攻撃を仕掛けてきた。 どうやら、魔物は目だけではなく、鼻や耳などで気配を察知することが出来るみたいだ。 この技は対人間用だな、とシグナムは見極めた。 戦闘は、あっという間に終わった。 シグナムは地面に剣を突き刺すと、杖の様に凭れ掛かった。 「あぁああああ~、シグナム様ぁ~」 休憩中のシグナムに、今最も聞きたくない声が聞こえた。 走ってやって来たのは、見間違えるはずもない。イリスだった。 「馬鹿…、部屋で留守番してろと、あれほ…」 シグナムがイリスの方に振り向いた瞬間、 殺したはずだった魔物が、シグナムに襲い掛かってきた。 殺気を感じたシグナムは、すぐさま回避行動を取ったが間に合わず、 シグナムの右腕は、魔物によって食い千切られてしまった。
308 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:26:08 ID:uJs1YfE0 第六話『シグナム・ファーヴニルの喪失』 シグナムの手に入れた聖剣は、どちらかといえば魔剣みたいだった。 柄は黄金で、見たこともない文字が刻まれており、 鍔には銀のヤドリギが巻き付き、刀身は血の様に赤い。 そんな聖剣を前に、朝からシグナムは悩んでいた。剣の名前が分からないのである。 別にこのまま聖剣で押し通してもいいのだが、それではあまりにも味気なさ過ぎる。 ここはかっこいい名前を付けた方がこの剣も幸せであろう、とシグナムは考えたのだ。 「ふぁ……、朝からなにをしているんですか、シグナム様?」 そんなシグナムに、起きたばかりのイリスは、眠気を孕んだ眼を向けた。 「あぁ、実はこの剣に名前を付け様と思ったんだが、いいのが思い付かなくてな……」 一瞬、イリスの意見も聞いてみようかとシグナムは思ったが、すぐに止めた。 イリスの頭の悪さは折り紙付だ。とんでもなくアホそうな名前を言いそうである。 しかし、それを聞いたイリスは目を輝かせ、 「面白そうですね。私も剣の名前を考えますよ」 と、言って、シグナムの傍に勝手に座り、考え込み始めた。 しばらく唸っていたイリスだったが、なにか思い付いたらしく、シグナムの肩を叩き、 「シグナム様、いい名前が思い付きましたよ」 と、目を輝かせて言った。まったく期待出来ないシグナムだが、聞く体裁だけは整えた。 「エクスカリバーっていうのはどうですか?」 イリスの口から放たれたのは、思いの外まともなものだった。 「まともなことも言えるんだな……。だが、ありきたりすぎるから却下」 半ば感心しつつも、シグナムはその提案を取り下げた。 「むぅ……、じゃあ、ミスティルレヴィティンってのはどうですか?」 「なんだか、人も魔物も神も世界も、全部壊して自分も死にそうな名前だな……却下」 「あぅ……、じゃあ、シグラムでどうですか?」 「格好悪いし、なんか軽そうだから却下」 次から次へと提案を取り下げられ、イリスは涙目になってきた。 これらのことがしばらく続き、最後の最後にイリスは、 「うぅ……、じゃあ、シグナム様のご先祖様の名前から取って、シグルドでどうですか!?」 と、怒鳴り声とも泣き声ともいえない口調で、シグナムに言った。 最後の提案は、シグナムの心を打ったらしく、しばらく黙考した結果、 「それが一番しっくり来るな。それで決定だ」 と、満足そうに言った。 聖剣の名前がやっと決まり、シグナムは嬉しそうだったが、 イリスは疲れてベッドに倒れ込み、そのまま眠ってしまった。 しかし、その眠りもそう長くは続かなかった。 「服を買いに行くぞ」 叩き起こして早々、シグナムはそう言った。 イリスが二度寝してから、まだ四時間しか経っていなかった。 309 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:27:05 ID:uJs1YfE0 「シグナム様、私、服だったらこれで十分ですよ」 イリスは着ている黄色の服の縁を摘んで見せた。 「駄目だ」 そんなイリスを尻目に、シグナムはイリスの目の前を早足に歩いている。 「大体な、そんなアホな服を着ているから戦闘中に奇行が止まらなくなるんだ。 病は気から、奇行は服装からっていう言葉もある。 つまり、普通の服を着れば、奇行は治まるし、見てくれもよくなるって訳だ。 べっ……別に、その服を見てると殺意が湧くとか、そんな事は思ってないからな!」 「シグナム様、それはツンデレじゃないですよ……」 イリスのつっこみを無視し、シグナムはさらに歩く速度を上げ、店に向かった。 この世界では、服を買う所は防具屋と決まっている。 魔物がいるのだから当然といえば当然だが、やはり、普通の服に混じって、 鎖帷子や鎧が混じっているのには違和感を覚えざるを得ない。 そんな雑然とした中から、シグナムは強化服を取り出した。 特殊繊維を織り込んだそれは、服の中では最強の防御力と機能を兼ね備えた逸品だ。 早速イリスにそれを着せてみたが、試着室から出てきたイリスの一言は、 「チクチクして気持ち悪い」 と、いうものだった。 我慢しろというシグナムの言に、イリスは子供の様に駄々をこねて抵抗した。 結局、この抵抗に負けて、ワンピースで妥協する事となった。 ここから先は妥協の連続だった。 重いとの理由で皮のドレスはエプロンドレスとなり、 それと同様の理由で皮の盾はお盆、ダガーはお玉となり、 可愛くないとの理由でスチールブーツは皮のブーツとなった。 妥協に妥協を重ねた結果、そこにいたのはメイドだった。 ご丁寧にカチューシャを付け、どこで見付けたのかニーソックスを身に付けている。 イリスもその格好が気に入ったのか、その場でくるりと一回転して見せた。 「お前はどこかの金持ちの家に仕えるつもりか!」 シグナムは思わずつっこんでしまった。 310 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:27:41 ID:uJs1YfE0 宿に帰ったシグナムは、聖剣シグルドの刀身を再び見つめていた。 真っ赤な刀身に光が当たり、反射して出来た日溜りが、まるで血溜りの様に見えた。 剣には作った者の魂が宿るという。 聖剣シグルドの見た目は、禍々しい魔剣のそれであるが、 握ってみると、これといってなにか邪悪な気が流れ込む感じがしなかった。 だからといって、聖なる気が流れ込む感じもしなかった。 これはいったいどういう事であろう。 まさか偽者でも掴まされたのではないかと思ったが、すぐに考え直した。 あれほど痛い目に遭ってやっと手に入れた聖剣なのだ。 きっとなにか隠された力が宿っているに違いない。 そうと決まれば、とシグナムは立ち上がった。 「シグナム様、どこに行くんですか?」 急に立ち上がったシグナムに、イリスは声を掛けた。 「剣の性能を確かめに行くだけだ」 手短にシグナムは用件を伝えたが、イリスはなにを勘違いしたのか、 「辻斬でもするんですか?」 と、とんでもない事を言った。 シグナムは咄嗟に作った灰のハリセンで、思いっ切りイリスの頭をぶっ叩いた。 スパーン……、といい音が響いた。 「いっ……たぁあああああい!なにするんですか!」 「お前が阿呆な事を言うからだろ!魔物と戦って性能を確かめるんだよ、この馬鹿!」 再教育のためにもう一発叩き込んでやろうかと思ったが、さすがにそれは止めた。 シグナムは灰のハリセンを消し、さっさと部屋から出て行こうとした。 「あっ、シグナム様、私も一緒に行きます」 右手にお盆、左手にお玉を装備し、やる気に満ちた表情をイリスは見せたが、 シグナムは露骨に嫌な顔をした。 正直、イリスと一緒に戦うのはうんざりだった。 イリスは、寒い、役に立たない、敵を呼ぶ、の三拍子揃ったマイナス三割打者である。 そんなのと魔物のテリトリーである町の外に出れば、今度こそ共倒れ確実である。 仲間を庇って死ぬ、という自己犠牲は美しいものだろうが、 訳の分からない踊りや歌を歌っている奴を庇って死ぬ、というのは幾らなんでも嫌過ぎる。 なので、シグナムが、 「お前はここで留守番してろ」 と、言うのは当然の事であった。 「えぇ~、せっかく新しいポーズを考えたのに……」 ポーズが一体なんの役に立つのか、とシグナムは聞きたくなったが、 阿呆らしいので口には出さなかった。 「とにかく、日暮れまでには帰ってくるから、それまでは大人しくしてろ。いいな」 シグナムはそうイリスに釘を刺し、部屋から出て行った。 311 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第六話 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:28:28 ID:uJs1YfE0 シグナムは、ニプルヘイムの南にあるアンブロシア山に来ていた。 出てくる魔物は、大体今までのと同じだった。 集団で襲い掛かっては来るが、今のシグナムの敵ではなかった。 しかし、シグナムは不満顔だった。 「やっぱり、この剣にはこれといった力は感じられないな……」 シグナムの振るっている聖剣シグルド。 戦っていればなにかが起こるのではないかと思ったが、実際はなにも起こらなかった。 属性攻撃が出来るとか、衝撃波が出るとか、空間を切り裂けるなど、 そんな事を期待していただけに、シグナムの失望は深かった。 唯一救いがあるとすれば、刃毀れせず、折れず、切れ味が凄まじいという事だが、 それだったら、武器屋に売っている剣で十分に間に合う。 「所詮、伝説は伝説……か……」 ふとそう呟き、シグナムは近くの木の下に腰を下ろした。 六ヶ月も掛けてここに来た意味はなかったと思うと、シグナムはやるせなくなった。 さらに幾度か死に掛けた事を換算すると、最早やるせない所の話ではなかった。 「魔王討伐……止めようかな……」 思わずそんな弱音も飛び出したが、シグナムは自分の頬を強く引っ叩いた。 自分らしくもない。以前のなにもない時に比べれば、 今は十分すぎるくらい恵まれているではないか。 この様な事でへこたれている場合ではない。 シグナムはネガティブ思考を振り払い、再び立ち上がった。 「差し当たって、新技の研究でもするか」 シグナムは聖剣シグルドを握り締めると、新たに現れた魔物に向かって走り出した。 とりあえず、何個か新技を間に挟みつつ、堅実に敵を倒していった。 その中に、前に使用した灰で自分の姿を消すという技を使ってみたが、 魔物はまったく怯むことなくシグナムのいる場所に攻撃を仕掛けてきた。 どうやら、魔物は目だけではなく、鼻や耳などで気配を察知する事が出来るらしい。 この技は対人間用だな、とシグナムは見極めた。 戦闘は、あっという間に終わった。 シグナムは地面に剣を突き刺すと、杖の様に凭れ掛かった。 「あぁああああ~、シグナム様ぁ~」 休憩中のシグナムに、今最も聞きたくない声が聞こえた。 走ってやって来たのは、見間違えるはずもない。イリスだった。 「馬鹿……、部屋で留守番してろと、あれほど……」 シグナムがイリスの方に振り向いた瞬間、 殺したはずだった魔物が、シグナムに襲い掛かってきた。 殺気を感じたシグナムは、すぐさま回避行動を取ったが間に合わず、 シグナムの右腕は、魔物によって食い千切られてしまった。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: