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283 :保守 [sage] :2007/11/15(木) 19:53:51 ID:q9jWAy+q 「ついに明日が決戦の日ね」 赤い髪の女がそう言った。 俺と共に旅を続けてきた勇者だ。 俺はああ、と頷き決意を新たにする。 ここまでの旅は長かった。 女の勇者など前代未聞だったので、周りの者の理解はなかなか得られなかった。 2人旅なのも困難に拍車をかけた。 高潔な聖騎士、聡明な賢者、偉大な神官、求道者の格闘家、狡猾な盗賊。 多くの者が同行を提案してくれたが、勇者は全て丁重に断った。 曰く、少数精鋭で行きたい、と。 だから、魔術師である俺と勇者だけの旅となった。 時おり、「2人きりの旅なのに…」などとブツブツ言っていて、世界を救う旅に出る自覚があるのかと不安になったが、今日の様子を見ればそれも杞憂だった。 あと、料理についてもいささか不満があった。 交代で料理をしていたが、勇者はたまに、猫を料理するのだ。 最初に出されたのは確か…パン屋の娘に割引してもらって、パンを買った時だったか…あれは旨かった。 「泥棒猫に罰を与えたのよ…」 俺の抗議に対しそう言って微笑んだが、どうせ食料をちょろまかそうとしたとかそんな程度だろう。 たかが猫ごときに大人気ない。 それでも旨ければまだ良かったが、まずくて俺の口には合わなかった。 それでも、何度も猫を出すのを止めなかった。 まあ、旅も明日で終わるはずだ。 俺たちは魔王を滅ぼす。 調べたところでは、魔王は「滅びの呪文」を使い世界を滅ぼそうとしているらしい。 俺たちはその呪文が完成する前に魔王を止めなければならない。 そして、戦いが終わったら勇者にプロポーズしよう。 もし、OKが貰えれば2人でどこかに暮らしたい。 ダメだったら…その時考えよう。 「おやすみ…」 俺たちは決戦に備え休んだ。 翌日。 魔王城には魔物がひしめいていた。 だが、いくつもの死線をくぐり抜けた俺たちはそれらを突破し、最後の番人を倒した。 「…この先に魔王がいるのね」 「ああ」 俺たちは扉を開けた。 そこには青い髪の女が1人でこちらに背を向けて立っていた。 ゆっくりと振り返る。 哀しそうな顔の女は静かに問いかけてきた。 「あなたたちは、何者ですか?」 「私たちはあなたを滅ぼしにきたのよ、魔王!」 勇者が勇ましく言った。 俺は勇者の言葉を聞きながら、魔王の背後に目を奪われた。 水晶のなかに男がいる。 「この男もお前が殺したのか?」 「違う!この人は私の愛する人よ…」 284 :保守 [sage] :2007/11/15(木) 19:54:40 ID:q9jWAy+q 俺の問いかけに一瞬激する魔王。 ならば、なぜ水晶に? 俺の疑問に答えるように魔王が続ける。 「この人と私は愛し合いました…ですが、この人は病に倒れたのです…私には彼の時を止めて病の進行を止めることしかできませんでした…」 まだ、この男は生きているのか? 魔王は語り続ける。 「私はこの人を助ける方法を探しました…そして、見つけました。命が失われる時の魂の慟哭、それを集めれば彼を助けられるのです…」 つまり、他の人間を犠牲にして、1人の男を助けようと言うのか。 この女は哀しみで狂ってしまったのか。 確かに魔王の恋人は哀れなのかもしれない。 だが、魔王の行おうとしていることを認めるわけにはいかない。 俺たちはこの哀れな女を止めなければならない。 「だからと言って、世界を滅ぼすことは許されないだろう…?」 俺の問いかけに対して魔王は答える。 「全て滅ぼす必要はないのです。そのようなことをしなくても、彼は助けられる…そして、私は彼と幸せになるのです…」 うっとりした表情で、だから世界を滅ぼす必要はないと魔王は言った。 そして、いくつかの国の名をあげる。 魔王に言わせればそれ「だけ」で彼を救えるのだそうだ。 この女を生かしておいてはいけない。 自分しか見えていない。 この女の恋人が助かった後、多くの犠牲と引き換えに助かったことを知っても喜ぶと思っているのだろうか? 結局、魔王は自分のために、多くの命を犠牲にしようとしている。 「あなたたちも…邪魔をするのですか…?」 魔王の問いかけに対する俺の答えは決まっていた。 そう、それはこの旅を始めた時から決して変わらないものだ。 「ああ、俺たちは…」 俺の言葉はそこで途切れる。 「素晴らしいわ!」 勇者が瞳を輝かせてそんなことを叫んだからだ。 俺はあっけにとられる。 何を言っているんだ、勇者? 「愛する人のために、世界と戦うなんて…私たちも協力するわ!」 ちょ…待っ… 「そうですか…ありがとうございます…あなたたちの協力があれば呪文が早く完成します」 魔王が微笑む。 いや、俺たちはそれを止めに… だが、俺を無視して勇者と魔王が呪文を詠唱する。 「「保守」」 その日、多くの国が滅びを迎えた。 この日より、後の世に語りつがれる「魔王大戦」が幕を開けた。 赤き魔王と青き魔王、歴史書にはこの2人の名が残る。 END 285 :保守 [sage] :2007/11/15(木) 19:55:34 ID:q9jWAy+q 「ねぇ、ママー、このお話って本当?」 赤い髪の少年が本を閉じ、母親に問いかける。 「ただの、お話よ」 少年と同じ赤い髪の女性は微笑んで答える。 「ママとお隣のマオちゃんのママの髪って赤と青で、お話と同じだね」 「そうね。でも、坊やとマオちゃんも赤い髪と青い髪よね」 「うん、そうだね!」 少年は元気良く答える。 「マオちゃんのこと、好き?」 「うん、大好き!」 母親の問いかけに少年は元気よく答える。 「そう…」 「でもね、みんなと遊ぼって言ってもね、2人じゃなきゃ嫌って怒るの…」 微笑む母親に少年は悲しそうに付け加える。 みんなと一緒の方が楽しいのに…と少年は言う。 「マオちゃんも坊やのことが大好きなのよ…」 そう言って母親は少年を抱きしめる。 「そっか…」 笑顔を浮かべ眠りに就く少年。 お隣の少女の苦労を思い母親は苦笑する。 彼女自身、愛しい人を捕まえるのに苦労した。 お隣のマオちゃんも頑張ってほしい…何しろ、親友の娘なのだから… 泥棒猫を退治する方法を教えてあげようかしら? そんなことを思いながら、彼女はかつて親友と唱えた呪文を口ずさむ。 「保守…」 ホントにオシマイ

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