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250 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/03/06(土) 15:42:48 ID:UASNWh4i 第12話『束縛される者』 長い協議の果てに俺たちは結論に辿り着いた。これから始まる快適な監禁生活の大事な大事な掟をここで発表しよう。   『猫さんの契約書』 1・猫さんはとても寂しがり屋です。 2・猫さんは習性で愛しい人を束縛しますが、これは愛情表現の一つです。 3・猫さんはあなたと手を握っているととても安心できます。 4・猫さん以外の女性の人と接触や会話を禁じます。 5・猫さんは嫉妬深い性格なので、選択肢を間違えるとハグハグの刑にします。 6・猫さんとできるだけ衣食住を共に傍で居てあげてください。 7・猫さんはあなたのことが好き好きなので、鼻血が出たとしても嫌いにならないでください。 8・この監禁施設の外に出る時は猫さんと一緒に出かけましょう。 9・それらの掟を破った場合は、猫さんは泣きます。 10・最後に忘れないでください。猫さんがずっとあなたを愛していたことを。 「というわけで、この書類にサインしてくださいね」 「契約書の他に?」 「そうですよ」  彩さんから差し出されたのは封筒。しかし、ただの封筒ではない。 B5サイズの茶色の封筒で、表面が2箇所だけ穴が空いていた。 「その穴の空いた部分に、周防さんの本名と印鑑を記入してください。 一字一句丁寧にお願いしますよ。後で名前とか間違えたら、物凄く怒ります」 「わかったよ」  監禁されている身分では怪しげな封筒に自分の名前と印鑑を記入することに拒否感を感じるが、 彩さんの奇妙な迫力には勝てるつもりはない。余計な反抗をするぐらいなら、 無駄な体力を消費することよりも温存していた方がこの後の展開には有利に働くはずである。 「書いたよ」 「どれどれ」  と、封筒の穴の空いた部分に書かれた名前を麻薬取締官のごとく、彩さんは綿密に確認していた。 10回ぐらい見直してから、彩さんは天使のような微笑みを浮かべた。 「うにゃーー!! これで忍さんと私の素晴らしき監禁生活が始まりますね」 「始まりたくない。始まりたくない」 「もう、そんな事を言う人は、私がキスしちゃいますよ」 「や、やめてくれ」 「うっ、そんなに嫌がることないじゃないですか」 「嫌がっているじゃないんだよ。恥ずかしいの」 「恥ずかしいって」 「学園時代から全く異性と関わり無かった人生だぜ。恋人がいたどころか、 女の子と手を握ったこともないんだ。そんな純朴な俺を監禁は刺激が強すぎる。120禁ものだよ」 「奇遇ですね。私も男の人と触れ合った記憶はありませんよ。ずっと、一人でしたから」 「一人って……」 251 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/03/06(土) 15:44:59 ID:UASNWh4i  俺を監禁して幸せ一杯の表情を浮かべていた彩さんが急遽にその明るさが消えた。 まるで何かのトラウマを打ち明けるかのような真剣な眼差しで俺を見つめてから、口元が動いた。 「私、孤児なんです」 「孤児?」 「私が生まれた頃に両親が交通事故で死んでしまったんです。 両親は駆け落ち同然に飛び出したので、引き取ってくれる親戚もなく、私は孤児院に預けられました。 それからは、両親の愛情を知らず、家族と呼べる物に触れることができなくて。寂しい日々を送っていました」  突如、彩さんは自分の過去の事を語りだした。それは他人に打ち明けるにはとても重い過去であり、 そんな話を俺にわざわざ話すということはそれなりに信頼しきっていることだろう。 俺は黙って、彼女の話に耳を傾けた。 「孤児だったから、誰も私と友達になってくれる人もいなかったし、 逆に親がいないことが珍しいのでしょうか。それを理由に嫌がらせをされたこともたくさんあります。 孤児院から追い出されてからは、ずっと一人で生きていました」 「一人が寂しかったから、俺を監禁したのか?」 「ううん!! 違います」  彩さんは思い切り首を左右に振って、否定の意志を示した。 「私は人を信用することができなくなったんです。温もりさえ求めなければ、何かに期待しなければ裏切られることはない。 だから、愛情を求めずに、ずっと一人で生きていこうと決めていたのに……」  このアパートに彩さんが引っ越してきた時の事を思い出した。 最初に挨拶した時も社交辞令を軽くこなしていたが、表情はどこか固くて、他人を明らかに拒否していた彼女。 その彼女はいつから、俺に無垢な笑顔を見せるようになったのはいつ頃だったのか。 「私が引っ越しセンターに騙されて、荷物とか外に置きっぱなしにされた時。 忍さんが助けてくれて、荷物を私を部屋まで運んでくれたよね。 その優しさがとても嬉しかった。誰かに優しくしてもらったのがこれが初めてだったんです。 だから、あなたのことを好きになったんだよ。 この監禁部屋で忍さんを監禁するぐらいに愛しているんです」  頬を朱に染めて、感情的になっているのか彩さんは大粒の涙を流していた。 細かく小刻みに彼女の体が震えていた。自分にとって二度と思い出したくはない過去を話して、 それを他人に拒絶されるのを恐れている。 いや、そうやって拒絶され続けたからこそ、他人を信用することができなくなってしまっていたのだろうか。 少なくても、温もりを俺に求めているのがわかっていた。 252 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/03/06(土) 15:45:53 ID:UASNWh4i  しかし。  何か違うのだ。これは愛情ではなくて、依存しているようにしか思えない。 都合のいい相手がいれば、周防忍以外の男を監禁して温もりを求める。 それは果たして、『愛』なのだろうか? そのような疑問が頭に浮かんだ。  ふと、昔のことを思い出す。  それは両親のことだ。  多額の借金を抱えたせいで、返済することもできずに自殺という選択肢を選んだ両親。 その両親は俺に心配させまいとその事実をひたすら隠した。 俺が学園を卒業するまで、一人の力で厳しい世間を生き抜くことができるまで。 それは多分、『愛』なのであろう。 ヤンデレ症候群に感染した病んでしまった女性のゆがんだ『愛』よりも、正真正銘の『愛』なのだ。  ゆえに否定しなければならないのだ。  彩さんが始めようとする監禁生活を。  嘘の愛などいらないから。 253 :お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/03/06(土) 15:47:54 ID:UASNWh4i  だが。 「忍さん。うにゃ。うにゃ」  せっかく、他人に告白できないような自分の気持ちを吐露したというのに、 何の反応も示さなかった俺に不安を覚えたのか、彩さんは俺に抱きついてた。 自分の胸を押し付けて、俺の顔を挟むような形になる。 思わず、窒息死するぐらいに苦しさを感じたが、柔らかな感触と確かな弾力の前では、 あっさりと自分の否定の意志とか吹き飛ばした。 「そ、その、忍さんもいきなり監禁されてしまって戸惑っているのかもしれませんね」  普通はこの世の悲劇に耐え切れずに、自身の儚い命を散らすとこなんだけど。 「いいえ。ヤンデレになった女の子に監禁された男の子の98%が、自分を監禁した女の子を好きになるようですよ」  そいつらこそがヤンデレなのでは? 「人は愛されることによって、価値観も認識も変わるものなのです」  そうなのか……と、彩さんの胸に挟まれた状態で口を満足に動かすことはできない。 しかも、抱きしめられているので離れることもできん。 「だから、忍さん。今日から監禁されてますけど、私たちはあつあつの新婚夫婦さんごっこをしましょう」 「はい?」  慌てて、見上げようと顔を動かすと彩さんの胸元に深く入り込み、彼女は小さく喘ぎ声が出した。 「そ、の、賭けです。この3ヶ月間、私と忍さんは新婚夫婦を演じるんです。 この監禁されている部屋と敷地外というか、場所と時間を問わずに新婚夫婦のようにイチャイチャするんです」 「バカップルを超えし存在、新婚夫婦でイチャイチャとは。なんて神をも恐れぬ所業だ」 「それで、3ヶ月後に忍さんが私のことを好きになったら、私の勝ち。 忍さんが私のことを嫌いになったら、私の負け。もし、負けたら、忍さんを監禁から解放します。 どうですか? この賭けを受けますか?」 「ギャンブルは苦手なんだけどねぇ」 「新妻の私を好き放題にしてもいいんですよ。 私たちはもう夫婦なんですから♪」 「ってか、もう奥さん気取りかよ!!」 「うふふっ。今日も愛情がたっぷりと込めた料理をご馳走するので。 楽しみにしてください。ア・ナ・タ……。ちゅう」 「その賭けに乗ったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」  もちろん、彩さんのキスより、3ヶ月間料理を作ってもらえることに俺の心を動かされたことは言うまでもない。

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