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448 :隣のオンライン:2010/03/18(木) 18:53:13 ID:o8GgqZcx
「……またか」
退屈な授業を卒業のためにこなし、やっと終わって意気揚々と帰ってきたのがさっきのこと。
恒例の楽しみのためパソコンを立ち上げ、灰色の無機質なアイコンをダブルクリック、
更新された内容を流し読みして、溜息が洩れた。
「何だか最近荒れっぱなしだなぁ」
溜息の原因は、眼前の掲示板(正しくはその内部のスレッド)の「荒れ」である。
普段はそっち系のSS(ショートストーリー)などが投下される場所なのだが、
たまに些細な食い違いなどから、口汚い言い争いに発展してしまうことがある。
俺がここを見始めたころは、荒れることなど滅多になかったのだが。
荒れた内容も見るに堪えないけれど、何よりも投下が無くなる・しづらくなるのが痛い。
投下があれば流れも正常化することが多いが、荒れている場に投下する人がどれだけいるか。
掲示板のウインドウを閉じ、再び溜息をついたところで、背後から窓を叩く音が聞こえた。
振り返れば、見慣れた顔が笑いながらこちらへ手をひらひらと振っている。
……用のないパソコンの前でじっとしているのも何だし、暇な幼馴染の相手でもしてやるか。
からりと窓を開けると、待ってましたと言わんばかりにこちらへと乗り込んでくる。
お隣とこの家は妙に近く、この窓に至っては間が五十センチほどもない。
「彼氏持ちが男の部屋に入って良いのか?」
「甲斐性なしのキミの部屋だから大丈夫だと思うよー?」
甲斐性なしといわれるのはいただけない。
……まぁ、こいつを異性として意識していないのは確かだが。
目の前のこいつは嵐山玲、先ほども述べたように一つ下の幼馴染である。
ただ幼馴染といっても、子供のころ泥にまみれて遊んだ仲、つまるところ弟分に近い。
成長して女らしくなった今でも、タンクトップに短パンで駆けずり回るイメージが付きまとう。
美人といえる顔も、膨らんだ胸も、引き締まったウエストも、適度に丸みを帯びた尻も、
一つとして劣情を掻き立てるようなことはないのだから、健全な青少年としてはゆゆしきことである。
449 :隣のオンライン 2/4:2010/03/18(木) 18:54:34 ID:o8GgqZcx
「平均点21のテストとか神田の奴外道すぎる。少しは物理担当見習えってんだ」
「岩山センセ? あの人は面白いよねー」
肩まで伸ばした漆黒の髪が、玲の身振り手振りに合わせて揺れている。
たわいのない教師の話題で盛り上がる。色気のかけらもないのが俺達らしい。
こんな関係でなければ、こいつが彼氏を作った時に、もっとぎこちないことになっていただろう。
玲が報告に来た時に、一緒にいた友人が「お前ら付き合ってたんじゃないのか」と首をかしげていた。
少しでもそういう感情があれば、あの場で「おめでとう」などとは言えていない。
そう言ったとき、心に小さな痛みが走ったのと、玲の表情が曇っていたのは気のせいだろう。
そんなことを考えつつくだらない話をしているうちに、ふと、最近こんな時間が多いことに思い至る。
……ここ最近の荒れ方のせいで、パソコンの前に座っていることが減ったからか。
以前であれば、今頃は投下された物語を読んだり、ちょっとしたものを書いたりしていた時間帯だ。
しかし、俺はともかくとして、こいつは彼氏と過ごす時間を増やさなくて良いのだろうか。
「じゃ、そろそろ戻るよ。暇があったらまた来るね」
「……なぁ、彼氏ともっと一緒にいたほうが良いんじゃないか?」
言った途端に、部屋の温度ががくんと下がった気がした。
身を乗り出す途中で振り返った彼女の顔には、底冷えのするような笑みが張り付いている。
「なぁに? ボクが来ると迷惑?」
「い、いや、そういうわけじゃないけどさ」
笑ってるのに怒ってる。美人が怒ると怖い。何でいきなり気圧されなきゃならないんだろうか。
なんか悪いこと言ったか? それ以前に、弟分に気圧される兄貴分って何さ。
「ふぅん……じゃ、またね」
「あ……ああ、また」
枠をひらりと飛び越えて、玲は自分の部屋に戻った。
ちなみにあいつは運動神経も良く、頭も回る。文武両道で才色兼備ってうらやましい。
450 :隣のオンライン 3/5:2010/03/18(木) 18:56:45 ID:o8GgqZcx
ここ最近、荒れる頻度が更に高くなっている気がする。
それに比例するように、玲の訪問回数も増えている。それで良いのか彼氏持ち。
「毎回毎回同じようなくだらねぇやりとりしやがって……って、ん?」
何の気なくつぶやいたセリフの、何かが引っかかった。
毎回毎回同じような……中身が似ている、という意味はもちろんなのだが。
気になって、過去のログを確かめる。前回と今回、前々回と前回、同じような点はどこだ?
「時間、か……?」
そうだ。荒れるトリガーになっているレスの時間帯がいつも同じなのだ。
しかも日数を洗い出してみると、特定のパターンで繰り返されているようだということが分かる。
最近は頻度が増えているようだが、時間帯はいつも同じ、ちょうど俺が見る時間の30分前位だ。
「どういうことだ?」
スレに対する手の込んだ嫌がらせ? それともまさか、俺個人へのものか?
流石に後者は考えづらいから、多分前者なのだろうが……。
いや、意外と簡単に確かめられるかもしれないな。
方法は簡単だ。荒れる元凶の居るであろううちに、作品を投下する。
基本的に、作品に対しては肯定的なレスをするというのがスレの空気としてある。
スレに対する嫌がらせであれば、これだけ手の込んだことをやる相手だ。
住民全体を敵に回すようなレスは返さない、つまり俺の投下に反応しないことが予想できる。
俺に対する嫌がらせなら、俺個人さえ追い出せればいいのだから、こっぴどくやっつけるだろう。
フォローできないぐらい徹底的に、複数のIDを使ってでも叩きのめすはずだ。
どう考えても後者はあり得ないと思うが、前者であっても元凶は沈黙し、
スレの流れも良くなる(だろうと思いたい)、一石二鳥だ。善は急げ、サクッと書いてしまおう。
451 :隣のオンライン 4/5:2010/03/18(木) 18:57:47 ID:o8GgqZcx
翌日、授業中に構想をまとめ、いつもより少し早く帰って考えたものを形にする。
体験記風の短いものだから、打ち込むのに時間はかからなかった。
内容は、学校の下校途中に同級生にヤられるというもの。そこそこの出来だと自負している。
「……うし、後は釣りあげるだけだ」
いつも通り荒れているスレッドを見つつ、投稿ウインドウを開く。
メモ帳に書きためていたものを数十行ほどコピペし、投稿ボタンを押した。
突然の投下にレスが止まったのを良いことに、コピペと投稿を淡々と繰り返す。
最後に投下終了の旨を書いて……後は反応を見るだけだ。さて、どうなるのやら。
396 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:31 ID:Mac0T0Sn
え
こっちが「えっ」て言いたいわ。レスの途中でshift+Enterでも押したんだろうか。
首をかしげつつ再び更新ボタンを押し、画面を見た瞬間――目を疑った。
397 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:33 ID:8anDe0cN
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
398 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:36 ID:QluTTaAI
だれ
399 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:39 ID:KaNK1nsR
○○、××、それとも△△?
400 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:42 ID:Nok0GIR1
ひとがみtないうちにあああああああああああああああああああああああああああああ
「なん……だ、これ?」
それぞれが異様なレスなのは確かなのだが、何よりも複数のIDであることに恐怖を覚える。
しかも、どのIDも青だったり赤だったり……つまるところ複数回レスしているのだ。
「複数の回線から、1人がこれだけのレスをしている……ってことか?」
それも、○○やら××やらは俺のクラスメイトの女子である。
先の予想がどうやら後者で正解であった、という事実に背筋が寒くなった。
452 :隣のオンライン 5/5:2010/03/18(木) 18:59:07 ID:o8GgqZcx
「どういうことだよ……」
「どういうことなんだろうねー」
不意に耳元に息を吹きかけられて、ただでさえ寒かった背筋が凍ってしまった。
おかしい。俺は窓を開け放した覚えなどない。ただでさえまだ寒い季節なのだ。
「毎日毎日ボクと話しもせずに、パソコンの前に座ってるような不健康な生活してるからさー。
改善してあげようと、キミと一緒に下校するのを我慢して、早く帰宅して頑張ってたのにさー」
そういえば最近は、こいつと一緒に下校することが少なくなっていた。
てっきり彼氏と一緒に居るものだと思っていたが……。
「その間にさー、キミをぱっくりやられちゃったんじゃ本末転倒だよねぇ」
後ろからするりと腕を回され、背中に胸が押しつけられる。
感触でエレクトしてないかって? ハハハそんな余裕ないっすよ。
「他の人と付き合うって言えばさー、なんかアプローチしてくれるんじゃないかと思ったけど。
それもまったくないしさー、ほんともーねー、報われないよねー?」
「何を……言ってるんだ?」
「先輩に協力してもらったり、友達の携帯借りたりしたんだー。ボク頑張ったでしょ?」
ほめてほめてーとでも言わんばかりにすり寄ってくる。
やめてください。虎かなんかにすり寄られてるような気分になります。
「でもさー、もっと簡単な方法があったんだよ」
絡みついた腕に力が込められる。どこにこれだけの力があるのだろう。
「放し飼いにするから泥棒猫にがぶりってやられちゃうんだよね。
だから屋内で飼うことにするの。それにそうすれば、いつでもボクを見てくれるでしょ?」
「ちょっと待て、お前は何か勘違いして――」
「泥棒猫のことなんか忘れられるように、たくさんたくさん愛してあげるね」
それじゃ、おやすみなさい。そんな声を聞きつつ、俺の視界は暗転していった。
――おしまい――