「Crete島の病少女第二話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「Crete島の病少女第二話」(2010/03/28 (日) 20:44:47) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
605 :Crete島の病少女:2010/03/27(土) 22:14:15 ID:Fr8Hyiu/
私は走った。
鳴り響くサイレン。
燃え盛る建物。
逃走する人々。
それを誘導する兵士達。
色々な風景がよぎった。
それでも私は父さまのことしか頭になかった。
(無事でいて)
思うのはそれだけ。
しばらく走ると飛行場が見えてきた。
飛行場はひどい有様だった。
私の中に不安がよぎる。
父さまが死ぬ・・・。
(いやっ!)
気がつくと、私は走り出していた。
飛行場のゲートは壊されていて入ることが出来た。
色んな人達が走り回っていた。
私はその中から父さまを探そうと必死に目を凝らす。
(いた!)
いつもの柔和な顔つきをガラリと変え。
忙しそうに走っている。
着ている白衣は血と埃で薄汚れていた。
「父さま!」
「!? エリーザ――」
父さまは走ってきた私を抱きしめてくれた。
「エリー、なぜここに・・・」
「父さま、ぐす、戦闘機が戦闘機がぁ、」
「エリー、分かった、分かったから・・・」
私は泣くのを堪えられなかった。
(父さまが無事で本当に良かった・・・)
私は心から安堵していた。
606 :Crete島の病少女:2010/03/27(土) 22:15:26 ID:Fr8Hyiu/
「エリー・・・」
父さまが私を呼んだ
「ふあぁ」
顔をあげて父さまを見る。
「エリー、よく聞きなさい。ヒットラーの軍隊がここに攻めてくるんだ。
お前はここにいてはいけない、家に戻って地下室に隠れていなさい」
「それなら父さまも一緒に・・・」
「駄目だ、父さんは医者だ。怪我をしている人がいるのに離れることは
できないよ」
「でも、でも」
「エリー、大丈夫だよ。父さんは絶対にエリーを一人にはしない」
「父さま・・・」
父さまは微笑を浮かべると言った。
「絶対に家に帰るから」
「・・・うん・・・」
本当はとても心配だったけど、頷いた。
父さまの性格は良く知っていたから。
それに父さまは約束してくれた。
607 :Crete島の病少女:2010/03/27(土) 22:15:47 ID:Fr8Hyiu/
「よし、レッドフォード君!」
軍人さんが向こうから走って来た。おそらくレッドフォードという人だろう。
「なんでしょうか?ドクターハイネン」
「悪いんだが、娘を私の家まで送ってくれないか?ここに居させる訳にはいかない」
「丘の上にある邸宅ですね。わかりました。ジープを回してきましょう」
「すまないな」
「いえ」
そういうとレッドフォードさんは行ってしまった
それから5分ぐらいでジープが来た。
「さあ、ミス・ハイネンどうぞ」
「あ、はい・・・」
私は後部座席に乗りながら父さまを見る
(父さま・・・)
「レッドフォード君、頼んだぞ」
「まかせてください、イギリス紳士の名にかけてお嬢さんは無事お届けしてみせますよ」
「うむ、また後でな。それからエリー」
「はい?」
「すぐ帰るからな、それまでちゃんと隠れているんだよ」
「わかってます、父さま」
「それではな、エリー。愛してるよ」
「私もです、父さま・・・」
それを合図に、ジープは走り出した。
後ろを振り返る。
父さまはさっそく患者の元へ走り出していた。
ふいに、嫌な予感がした。
(もう、会えなくなるんじゃ・・・ううん、ダメ)
私はそんな考えを振り切ると、前を向いた。
608 :Crete島の病少女:2010/03/27(土) 22:16:55 ID:Fr8Hyiu/
送られている途中、レッドフォードさんから色んな身の上話を聞いた。
イギリス人で、故郷のバーミンガムには奥さんと娘さんがいること。
ある日、飛行場で事故に巻き込まれ、それから医者である父さまと親しくなったこと。
好物はアップルパイなど・・・etc
「大丈夫ですよ、ナチどもが上陸しようとしても我らが誇る
イギリス地中海艦隊が阻止しますからね」
そう語ったレッドフォードさんの目は輝いていた。
若干手が震えていたのはこの際、見なかったことにしておこう。
そんな話をしている内に私の家に着いた。
「どうぞ、ミス・ハイネン」
私はエスコートされて降りた
「いいですか、ドクターの言いつけをちゃんと守るんですよ」
私がお礼を言うと、彼はニコッと笑い、ジープで走り去っていった。
私は家のドアを開けて中に入った。
(言いつけは守らなきゃね)
私は地下室に続く階段を降り、厳重なドアを開けた。
地下室はかなり広く、食料庫やお風呂、トイレなどがある。
昔、父さまに何故このような設備があるのか尋ねたことがあった。
すると父さまは寂しそうな目をして言うのだ。
「お前をあの子の二の舞にはさせたくないんだよ・・・」
あの子とは誰?二の舞って?色々質問したけれど
微笑を浮かべるだけで何も答えてくれなかった。
私は扉を閉め、鍵をかけた。
少し離れた所にあるベットに潜り込むと、目を閉じた。
(無事で帰ってきてね・・・)
思うのはそれだけ。