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605 :Crete島の病少女:2010/03/27(土) 22:14:15 ID:Fr8Hyiu/ 私は走った。 鳴り響くサイレン。 燃え盛る建物。 逃走する人々。 それを誘導する兵士達。 色々な風景がよぎった。 それでも私は父さまのことしか頭になかった。 (無事でいて) 思うのはそれだけ。 しばらく走ると飛行場が見えてきた。 飛行場はひどい有様だった。 私の中に不安がよぎる。 父さまが死ぬ・・・。 (いやっ!) 気がつくと、私は走り出していた。 飛行場のゲートは壊されていて入ることが出来た。 色んな人達が走り回っていた。 私はその中から父さまを探そうと必死に目を凝らす。 (いた!) いつもの柔和な顔つきをガラリと変え。 忙しそうに走っている。 着ている白衣は血と埃で薄汚れていた。 「父さま!」 「!? エリーザ――」 父さまは走ってきた私を抱きしめてくれた。 「エリー、なぜここに・・・」 「父さま、ぐす、戦闘機が戦闘機がぁ、」 「エリー、分かった、分かったから・・・」 私は泣くのを堪えられなかった。 (父さまが無事で本当に良かった・・・) 私は心から安堵していた。 606 :Crete島の病少女:2010/03/27(土) 22:15:26 ID:Fr8Hyiu/ 「エリー・・・」 父さまが私を呼んだ 「ふあぁ」 顔をあげて父さまを見る。 「エリー、よく聞きなさい。ヒットラーの軍隊がここに攻めてくるんだ。  お前はここにいてはいけない、家に戻って地下室に隠れていなさい」 「それなら父さまも一緒に・・・」 「駄目だ、父さんは医者だ。怪我をしている人がいるのに離れることは  できないよ」 「でも、でも」   「エリー、大丈夫だよ。父さんは絶対にエリーを一人にはしない」 「父さま・・・」 父さまは微笑を浮かべると言った。 「絶対に家に帰るから」 「・・・うん・・・」 本当はとても心配だったけど、頷いた。 父さまの性格は良く知っていたから。 それに父さまは約束してくれた。 607 :Crete島の病少女:2010/03/27(土) 22:15:47 ID:Fr8Hyiu/ 「よし、レッドフォード君!」   軍人さんが向こうから走って来た。おそらくレッドフォードという人だろう。 「なんでしょうか?ドクターハイネン」 「悪いんだが、娘を私の家まで送ってくれないか?ここに居させる訳にはいかない」 「丘の上にある邸宅ですね。わかりました。ジープを回してきましょう」 「すまないな」 「いえ」 そういうとレッドフォードさんは行ってしまった それから5分ぐらいでジープが来た。 「さあ、ミス・ハイネンどうぞ」 「あ、はい・・・」 私は後部座席に乗りながら父さまを見る (父さま・・・) 「レッドフォード君、頼んだぞ」 「まかせてください、イギリス紳士の名にかけてお嬢さんは無事お届けしてみせますよ」 「うむ、また後でな。それからエリー」 「はい?」 「すぐ帰るからな、それまでちゃんと隠れているんだよ」 「わかってます、父さま」 「それではな、エリー。愛してるよ」 「私もです、父さま・・・」 それを合図に、ジープは走り出した。 後ろを振り返る。 父さまはさっそく患者の元へ走り出していた。 ふいに、嫌な予感がした。 (もう、会えなくなるんじゃ・・・ううん、ダメ) 私はそんな考えを振り切ると、前を向いた。 608 :Crete島の病少女:2010/03/27(土) 22:16:55 ID:Fr8Hyiu/ 送られている途中、レッドフォードさんから色んな身の上話を聞いた。 イギリス人で、故郷のバーミンガムには奥さんと娘さんがいること。 ある日、飛行場で事故に巻き込まれ、それから医者である父さまと親しくなったこと。 好物はアップルパイなど・・・etc 「大丈夫ですよ、ナチどもが上陸しようとしても我らが誇る  イギリス地中海艦隊が阻止しますからね」 そう語ったレッドフォードさんの目は輝いていた。 若干手が震えていたのはこの際、見なかったことにしておこう。 そんな話をしている内に私の家に着いた。 「どうぞ、ミス・ハイネン」 私はエスコートされて降りた 「いいですか、ドクターの言いつけをちゃんと守るんですよ」 私がお礼を言うと、彼はニコッと笑い、ジープで走り去っていった。 私は家のドアを開けて中に入った。 (言いつけは守らなきゃね) 私は地下室に続く階段を降り、厳重なドアを開けた。 地下室はかなり広く、食料庫やお風呂、トイレなどがある。 昔、父さまに何故このような設備があるのか尋ねたことがあった。 すると父さまは寂しそうな目をして言うのだ。 「お前をあの子の二の舞にはさせたくないんだよ・・・」 あの子とは誰?二の舞って?色々質問したけれど 微笑を浮かべるだけで何も答えてくれなかった。 私は扉を閉め、鍵をかけた。 少し離れた所にあるベットに潜り込むと、目を閉じた。 (無事で帰ってきてね・・・) 思うのはそれだけ。

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