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139 :名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:07:56 ID:al9QCL9a  俺の彼女だった三原由真の背中に足を乗せ、そいつは言った―― 「良かったね、ケータおにいちゃん。これでまた2人だけで映画観たり出来るね」  後はもう、冷たくなっていくばかりの死体の上で笑う少女。  それは俺の実の妹だった。  2つ年の離れた妹――沙希は感情表現がどうも苦手なようで、いつも周りから少しだけ浮いていた。  そんな沙希がまともに話せるのは兄である俺――永島啓太だけだったようだ。  沙希は物心つく前からいつも俺にくっ付いて遊んでいた。  煩わしく思うことも度々あったが、それ以上に沙希が可愛くて可愛くて仕方がなかったのだ。  そしてそれは俺が高校に入ってからも変わらなかった、ただそこに1人の人間が加わった事以外は。 「ケータおにいちゃん?どうしたの?」  沙希は心配した風で俺の顔をのぞき込んでくる。 「どうしたもこうしたも……、お前こそどうすんだよ……」  沙希はパッと笑顔になると、 「あのね、それはもう決まってて!」 そう言い、中学の通学用バッグから子供っぽいメモ帳を取り出す。 そしてメモ帳のページを捲りながら嬉しそうな声で言う。 「んーと、やっぱりまずは映画観てー、久しぶりに動物園行ってー、ウサギ触ってー、プレーリードッグを見ますねー」 この笑顔も、弾んだ声音も、俺にしか向けられないものだ。 「そうじゃなくてさ、これだよ、この死体」 俺は俺の自室に転がった死体を指差しながら言った。 「どう処理するつもりだよ?」 彼女が死んだことは別に悲しくない。 それよりもこの肉が夏の暑さですぐに腐って臭いだすだろう、という事に頭が痛む。 なんと、俺の部屋には巨大冷凍庫はもちろんだがエアコンすら設置されていないのだ。 放っておけば、3日もせずに臭い出すのではないか? あー、考えれば考えるだけ頭が痛くなる。 「……それは考えてなかったよー……」 フッと沈んだ表情になる妹。 沈んで身体ごと頭を冷やしたいのは俺の方である。 「とりあえず……、風呂場で血抜きだけでもやっとくか?水分が少なけりゃ腐りにくくもなるだろうし」 「うむむむむー、そーだねー」 妹は、いかにも『私、考えてます!』といったポーズで悩む。 そんな妹を見ていると自然と頬がゆるんでしまう。  と―― 「キス……したいな」  いきなりぶっ飛んだ事を呟いてくれやがりました。  話が変わりすぎだろう。 「……うん、この女の前で見せつけてやりたいんだ、ケータおにいちゃんは私のなんだよって」 「見せつけるもなにも、もう死んでんだぜ?」 「関係ないよ、だって私ならたとえ死んでてもケータおにいちゃんと誰かがキスしてたら悔しいもん!絶対!」 珍しく大きな声を出す妹。  それに驚きつつも、 「わかったわかった、だけどさ、俺たち血のつながった兄妹なんだぞ?」 ――と、当たり前の確認をしてみる。 140 :名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:10:50 ID:al9QCL9a 「むしろお互い好きあっているのに何もしないほうが不健全だったんだよ」 真剣な顔で言う沙希。 「好きあっているって……、俺の気持ちの確認はまだだろ?」 俺は出来る限りあきれた顔をしようと努力をしたが、果たしてどんな顔になっているのやら。 「……ケータおにいちゃん、顔真っ赤だよ?」 そうですか、赤くなってましたか。 恥ずかしくなり下をむくと、床の上にうつ伏せで倒れている由真に睨まれたような気がした。 〈もう!また妹相手に赤くなって!バッカみたい!〉 よく通る良い声だったな……、ふとそんな事を思い出す。 「あ、今、この女のこと考えてたでしょ」 兄妹の絆か、はたまた俺が顔に出やすいのか、それを察知した沙希が由真の死体を蹴り上げる。 ぐにゃりと由真は仰向けになった。 その暗い眼がこちらに向く。 〈異常よ!異常!妹とキス!?有り得ないわよ!〉 あぁ、そうだな、でも、 「わかった、しよう。丁度由真もこっちを見ているしな」  それを聞くと沙希は泣き出しそうなほどの優しい笑顔になった。 〈……なに考えてるのよ、今はまだ私と付き合ってるのに……〉 死人と付き合えるほど特殊な性癖ではないんだよ、残念ながら。 〈呪ってやる、……みてなさい、幸せになんか絶対にさせないわ〉  月並みなセリフだな。 「どうしよう、き、緊張してきた」 笑顔のままそう言うと、唇にスティック型のリップクリームを塗りたくる妹。 こちらも由真に負けず劣らずのテンプレっぷりだ。 必死で唇をもごもごとさせる姿が非常に愛くるしい。 俺はそんな妹の両肩にそれぞれ左右の手を置くと、ゆっくりと顔を近づけていった。 ――続くような気がする。

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