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135 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:08:04 ID:WfUne3eB 午前0時。今僕はリビングのソファで身を丸めている。なぜかワンピースを着て。 今日の陽菜はどこかおかしかった。いつもならこんな仕打ちは絶対しないのに。 プリクラ云々の辺りから突然雰囲気が変わったんだっけ?いや、よく思い起こせば僕の大好き発言から空気がおかしくなっていった気がしたな。 それの何が陽菜の機嫌を損ねたのかは分からないが、怒っているのは一目瞭然だ。それもかなり。 どうすればいいか考えていたところで、あることに気がついた。 もしかして照れてしまったんじゃ? 自分から誘ってしまったことに対して羞恥心が沸き起こり、いざその場面を迎えると恥ずかしさから拒否をしてしまった。怒っているのではなく、照れからそう見えてしまっ たのでは? そうだ!そうに決まっている!・・・フフ・・・ツンデレ陽菜もやっぱりかわいいな・・・ そう考えると、再び性欲が高まってきた。 きっと陽菜だって僕から来てくれるのを待っているんだ!ここで行かないと逆に失礼だよな! 僕はリビングを出て、静かに階段を昇っていく。 だが陽菜の部屋の前まで来ると、気持ちは大きく揺らいでしまった。 もし陽菜が望んでいなかったら・・・僕はただの性犯罪者だよな・・・でも・・・うあぁぁぁ!! そんな自問自答を繰り返すこと10分、ついにドアを開けてしまった。・・・ごめんなさい。 部屋に一歩足を踏み入れると、そこには思春期を迎えた高校生には刺激の強すぎる光景が広がっていた。 僕はその主な要因に音を殺しながら近づく。 「・・・スー・・・スー・・・」 陽菜は穏やかな顔で眠っていた。そんな彼女を僕は襲うとしたのか? ・・・僕は死に値するな・・・ そう思ったが実際死ぬとなると恐いので、結局自分の顔面を殴っただけにした。 「・・・んっ・・・け・・・いた・・・」 っ!!今寝言で僕の名前を呼んだ!?く、くそっ、寝言で名前を呼ばれるだけでこれほどのダメージを受けるとは・・・!! 今さっき自分を愚弄したばっかりなのに、欲望に負けそうになる。 そうやって陽菜の寝顔をしみじみ眺めていると、思い知らされる事があった。 やっぱり僕は陽菜のことが大好きなんだ。 陽菜の寝顔を見ているだけで何もかもがどうでもよく思える。ここに来た目的さえも。 しばらくそのままでいるとベッドの上に写真立てが置いてあることに気がついた。 その中には小さい男の子と女の子が仲よさそうに手をつないでる写真が入っている。 それは正真正銘、10歳の頃の僕と陽菜。なぜこの頃の写真がこうして飾ってあるのかは分からないが、陽菜にとってはこのときが一番幸せだったのかもしれない。 もう一度陽菜の寝顔を見る。そういえば近頃考えてしまう事があるっけ。 陽菜はいつも楽しそうに過ごしているが、心の中ではどう思っているんだろう? 岡田や姉ちゃん、恭子ちゃんはもし悩みがあればすぐに聴いてあげる事が出来るし、解決だってできるかもしれない。 だが陽菜に関しては、もし何かに悩んでいたとしても理解することはできない。 くそっ!!なぜサトリの能力は大好きな人の悩みを聴いてあげる事が出来ないんだ!! 多分顔には出さないが陽菜にだって悩みはある。それを聴いてあげたい。誰よりも分かってあげたい。 けど僕には何もできなくて――― 「・・・ごめんな・・・俺、役に立たなくて・・・陽菜の悩みを聴いてあげられなくて・・・」 そう言って僕は俯いた。そうでもしないとあまりの悔しさで涙が出そうになるから。 幼馴染なのに、サトリなのに、陽菜は僕を救ってくれたのに・・・ 「・・・俺、鈍感だからさ・・・もし悩みがあるなら直接口で言ってよ・・・」 もし陽菜が僕を頼ってくれるなら、悩みを打ち明けてくれたなら、 「俺、何でもするよ。だって・・・」 僕にとって陽菜が一番大事な人だから。 頭の中で言い終えた後、ふと顔を上げると・・・陽菜と目があった。 136 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:09:10 ID:WfUne3eB 自室に戻った私は反省した。 今日は楽しい日になるはずだったのに、よりにもよって私が台無しにしてしまった。 でも許せなかった。慶太が。 なんで私はこんなにも慶太が大好きなのに、慶太は私の事をもっと愛してくれないのだろう?私は慶太以外の男なんて少しも意識したことないのに、慶太は結衣ちゃんや恭子 ちゃん達と仲良くしようとするのだろう? 完全に私のエゴ。普通の人は好意を寄せてくれる人を邪険には扱わない。もちろん慶太も。 分かっている。それは分かっているが・・・それでも譲れないものがある。 冷たく接しろとは言わない。慶太にだって私以外の人間関係も必要だ。 ただ、彼女たちとは距離をもっと置いてほしい。 最近の彼女たちの好きは、世間一般のそれと大きくかけ離れているように思える。 祥姉は慶太の事を一生面倒をみると言っていた。 恭子ちゃんは慶太の家に泊まるたびにベッドに忍び込んでいる。 結衣ちゃんは私に対して殺意に近い感情を抱いている。 このまま放置すればこれらの感情は収まるのか?否、収まるどころか加速するに違いない。 理由は三人の好きな人が慶太だから。 慶太の良さは単に心が読めるだけではない。もちろんそれも理由の一つに入るが、一番はその包容力だ。 恭子ちゃんは当てはまらないかもしれないが、祥姉や結衣ちゃんは何度も醜い面を慶太に見せている。普通あれだけ見せられると自然に距離をおくものだが、慶太は違う。醜 い面を魅せても決して離れていかない。 アイツは心から人を憎んだり、嫌ったりしたことがないのだ。 それに良く悩んだりもするが・・・決めるときは決める男だ。 おそらくあの三人も慶太の本当の良さを本能的に察知している。だから絶対にあきらめたりなんかしない。 じゃあどうすればいいの? 一番の解決法は私が慶太と本物のカップルになること。 でも付き合ってから私が先天性のサトリだと気付かれたら?慶太はそれでも離れていかない・・・と本当に言い切れる? もしそうなったら今の状態でも生きていけないと思う。それが恋人という幸せな状態の時に起きたら・・・考えただけで身の毛がよだつ。 でもそれ以外に三人を慶太から遠ざけるすべを思いつかない。 ふとベッドの上に置かれていた写真立てが目に入る。 私にとって一番の思い出。一番幸せだった時間。 あの頃に戻れないのかな?私が慶太の心を、慶太が私の心をそれぞれ独占していた頃に。 やっぱり転校したのがいけなかったのかな?そのせいで慶太の心が私から離れていったのかな? 慶太は私のことが好き。でもそれだけじゃ足りない。 いっそ私なしでは生きていけないようになってほしい。今の私のように・・・ 悶々とした思いを抱えながら眠りに就いた。 「・・・俺、鈍感だからさ・・・もし悩みがあるなら直接口で言ってよ・・・」 突然、私の耳に慶太の切実な声が聞こえてきた。何?夢? (もし陽菜が俺を頼ってくれるなら、悩みを打ち明けてくれたなら) 「俺、何でもするよ」 いや夢じゃない。頭に直接響いてくるこの感覚は夢なんかじゃない、現実だ。 私はそっと目を開ける。目の前にはなぜか俯いている慶太がいた。 「だって・・・」 (俺にとって陽菜が一番大事な人だから) 驚いた。目が覚めて早々、慶太に告白されてしまった。 そのまま慶太を眺めていると、頭をあげた慶太と目があった。 137 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:09:43 ID:WfUne3eB 「う、うわぁあああああああああぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」 寝ているとばかり思っていた僕は純粋に驚いてしまった。今が深夜だという事も忘れて。 「い、一体いつから・・・」 起きていたの!?と言おうとして、それよりももっと大事なことに気がついた。 僕は無断で陽菜の部屋に侵入している。それも顔をこんなに近づけて。 完全に陽菜は僕が襲いに来たと思うだろう。いや、間違ってはいないんだけど・・・ 「ち、違うんだ陽菜!ぼ、僕は何もしていないよ!」 最悪だ。自業自得だが絶対に嫌われる。大好きな人から強姦魔と思われたに違いない。 「・・・クスッ、僕?慶太って自分の事、僕って言ってたっけ?」 だが陽菜は僕がここにいる事には一切触れず、僕と言ったことに対してだけを訊ねてきた。 「あ、・・・いや、言ってません・・・俺って言ってました・・・」 なんでこんな会話をしているんだろう?陽菜は僕がここにいる事をなんとも思わないのか? 陽菜はこの話はおしまいとばかりに僕から視線をそらし、ベッドの上にあった写真を手に取った。 「・・・ねえ慶太・・・この写真覚えている?」 なぜかは分からないが今の陽菜は怒っていないように思えた。それどころか嬉しそうに見える。 「・・・10歳のころの写真だな。確か僕の引きこもりが治ってすぐのときだっけ・・・」 この写真を撮るとき陽菜に記念だと言われた覚えがある。 「そう、あの頃に撮った記念写真・・・何の記念だか分かる?」 まるで子供になぞなぞをだしている母親みたいだ。 「・・・僕の引きこもりが治った記念?」 「ブブー!それも少しはあるかもしれないけど、私の考えていたこととは違いますー!」 じゃあ何だろう?僕からしてみれば初めて好きな人ができた記念なんだけどな・・・ 「・・・ごめん、ギブ。答えは何?」 「秘密~!」 ここまで引っ張っておいて秘密!?逆にものすごく気になるんですけど! 「・・・やっと慶太が元気になってくれた~!そんなに落ち込むくらいならなんで私の部屋に来たのよ~」 突然陽菜はそう言って笑いだした。 ・・・やっぱり陽菜は僕が部屋に入ってきたことに疑問を抱いていたんだ。でも、それよりも、僕が落ち込んでいたことの方が陽菜にとっては重要だったんだ。 「ごめん、陽菜!実は陽菜のベッドに忍び込もうと考えてこの部屋に入りました!煮るなり焼くなり好きにして下さいっっ!!」 僕は地面に土下座をして洗いざらい告白した。 陽菜は自分よりも僕の事を一番に考えてくれたのに、僕は陽菜よりも自分の事を一番に考えてしまった。 そのことを思うと自分が陽菜と一緒にいてはいけない気がする。 「もう顔も見たくないと思ってるなら・・・消えます。今すぐ消えますから」 「・・・ワンピースを着て?」 「え?」 「そんな格好でこんな時間にうろついたら警察に捕まっちゃうよ?」 警察に捕まるか・・・そうだよな、僕は未遂とはいえ犯罪を犯そうとしたんだもんな。 「陽菜が望むなら俺は―――」 「・・・もし、本当に私の元から姿を消したら・・・怒るから」 驚いて頭をあげると、そこには静かに怒っている陽菜の顔があった。 「怒って絶対慶太を見つける。そしてもう私の元からいなくならないように手足を切断してやる」 陽菜の言った冗談が僕の心に深く刺さる。 「でも・・・俺は陽菜の事を傷つけてしまって・・・」 「私は傷ついてなんかないよ。だって・・・」 陽菜が大きく息を吸った。 「私、慶太のこと好きだから」 138 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:10:32 ID:WfUne3eB 「う、うわぁあああああああああぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」 慶太が私が起きていたことに驚いて大声を出した。 「い、一体いつから・・・」 その言葉を最後に慶太が焦り始めた。どうやら私の部屋に無断で入ってきたことで罪悪感を感じたらしい。 「ち、違うんだ陽菜!ぼ、僕は何もしていないよ!」 目が覚めてから慶太が目の前にいたことと、突然の告白によってぼーっとしていた私はようやく我に返った。 慶太が本気で怯えている。私に嫌われることを。 それなら私はゆっくりと慶太の恐怖心を取り除いてあげるだけ。 「・・・クスッ、僕?慶太って自分の事僕って言ってたっけ?」 「あ、・・・いや、言ってません・・・俺って言ってました・・・」 まずは関係のない話をして、慶太がこの部屋に入ってきたことを気にしていないと暗に伝える。 「・・・ねえ慶太・・・この写真覚えている?」 そして次は思い出話。思い出を語り合う事で自然と気持ちが落ち着いていくはずだ。 「10歳のころの写真だな。確か僕の引きこもりが治ってすぐのときだっけ・・・」 懐かしそうな目を向ける慶太に対して少し意地悪な質問をする。 「そう、あの頃に撮った記念写真・・・何の記念だか分かる?」 鈍感な慶太の事だ、分かるわけがない。いや、この場合敏感な人でも分からないか。 「・・・僕の引きこもりが治った記念?」 「ブブー!それも少しはあるかもしれないけど、私の考えていたこととは違いますー!」 (僕からしてみれば初めて好きな人ができた記念なんだけどな・・・) 50点かな。正解は私と慶太が両想いになった記念。 「・・・ごめん、ギブ。答えは何?」 「秘密~!」 (ここまで引っ張っておいて秘密!?逆にものすごく気になるんですけど!) 慶太がいつもらしさを取り戻した。 やっぱり私達の相性は完璧だ。こうやってすぐにお互いを元気づける事が出来るんだから。さっきの慶太の告白だって、私の今日感じた嫌な気分を全部消し飛ばしてくれたか らね。 「・・・やっと慶太が元気になってくれた~!そんなに落ち込むくらいならなんで私の部屋に来たのよ~」 「ごめん、陽菜!実は陽菜のベッドに忍び込もうと考えてこの部屋に入りました!煮るなり焼くなり好きにして下さいっっ!!」 今日は何という日だろう。私の些細な冗談メールからここまで幸せな気分を味わえるなんて。 だが私の気持ちとは裏腹に慶太が衝撃的な発言をした。 「もう顔も見たくないと思ってるなら・・・消えます。今すぐ消えますから」 ・・・は~・・・いいかげんにしてよね。慶太が消える?冗談じゃない。 「そんな格好でこんな時間にうろついたら警察に捕まっちゃうよ?」 「陽菜が望むなら僕は―――」 この一言で私の中の何かが切れた。 「・・・もし、本当に私の元から姿を消したら・・・怒るから」 慶太に対してここまでの怒りを感じたのは初めてだ。 「怒って絶対慶太を見つける。そしてもう私の元からいなくならないように手足を切断してやる」 冗談なんかじゃない。もし慶太が私の前から姿を消したら確実にそうする。だって今でもそうしたいくらいなんだから・・・ 「でも・・・俺は陽菜の事を傷つけてしまって・・・」 「私は傷ついてなんかないよ。だって・・・」 私は怒りで思考回路が鈍っていたのだろう。 「私、慶太のこと好きだから」 絶対に言わないはずだった言葉を口にしてしまったのだから。 139 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:11:27 ID:WfUne3eB 「私、慶太のこと好きだから」 陽菜はそう告げた。はっきりとそう告げた。 ・・・え? 「・・・幼馴染として。慶太と友達になれて私は本当に幸せだよ」 幼馴染として・・・友達になれて・・・。そうだよな、陽菜が僕の事を異性として好きになるはずなんかないか。 それでも、今はショックより嬉しい気持ちの方が大きかった。 「本当に?俺と幼馴染になれて本当に良かったと思っている?」 「まぁロリコンでシスコンで変態さんだけど・・・」 うっ!なんでそんなにしつこいんですか!? 「本当に良かったって思ってるよ」 そう言って陽菜が微笑んだ。ビックリするほどかわいらしく。 以前恭子ちゃんが僕の事をズルイと言っていたが陽菜に比べたらかわいいものだ。 今の陽菜は本当にズルイ。 そんな顔をされるとまた理性に歯止めが利かなくなるじゃないか。 「ありがと。・・・俺、もうリビングに戻るよ」 ここに少しでもいたら僕はどうなってしまうかわからない。一刻も早く退散しないと。 そう思い腰を上げ部屋から出ていこうとした僕に対して、陽菜が驚くべき発言をした。 「たまにはさ・・・昔みたいに一緒に寝よっか?」 「な、なんですとー!?」 「ただし、一緒に寝るだけね~」 小悪魔的に笑う陽菜。陽菜は一体何を考えているんだ? 「久しぶりに慶太と二人っきりで話をしても罰は当たらないでしょ?」 は~、どうやら僕は陽菜には逆らえない運命なんだろうな。 「・・・どうなっても知らないからな」 「大丈夫だよ!何て言ったって慶太君は紳士だからね~♪」 僕は踵を返し陽菜の布団に入った。 入ったはいいが・・・緊張のあまり何を話せばいいのかわからない。 「わ、わ~・・・あの頃と違ってなんだかき、緊張するね~?」 頼む!そんなかわいらしく僕に話しかけないでくれ! 「け、慶太?さっきから黙って・・・な、何とか言ってよ~!」 陽菜が僕を揺すってくる。本当にこれ以上はマズい。緊張が欲望に変わりそうだ。 「せめてこっちを向いて―――」 「うわぁぁぁああああぁぁ!!!」 僕は叫ぶと同時に陽菜の方を振り返り、そのまま彼女を抱きしめてしまった。 「け、慶太っっ!?」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」 けど言葉とは裏腹に陽菜を抱きしめる手は強くなる一方。 やっぱり僕には無理だ!好きな子と同じベッドに入って何もしないなんて僕にはできない! 「・・・苦しいよ、慶太」 「うわぁぁぁああぁ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」 陽菜の言葉で我に帰った僕は抱きしめていた手を離した。が、今度は逆の立場になってしまった。 「あんまり強く抱きしめられると痛いよ・・・これくらいの強さで抱きしめて・・・」 陽菜が僕に抱きついてきた。顔を胸にうずめながら。 僕はその要望に言葉ではなく行動で返答した。 ・・・ギュッ・・・ そうして僕たちは無言のまま一晩中抱きしめあった。 140 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:12:07 ID:WfUne3eB 「私、慶太のこと好きだから」 声に出してから自分の発言の迂闊さに気付いた。 私は何を言っているんだ?早く訂正しないと。 「・・・幼馴染として。慶太と友達になれて私は本当に幸せだよ」 訂正はしたがこれはこれで本音だ。 「本当に?俺と幼馴染になれて本当に良かったと思っている?」 最初は思っていなかった。なんでコイツがって・・・でもね?今なら言える。都合がいかもしれないけど、今ならはっきりとこう言える、 「本当に良かったって思ってるよ」 そう告げると自分が心から笑えた気がした。 告白するつもりはないけど、少しは慶太にも知っておいてほしかった。私も慶太の事が好きだってことを。 「ありがと。・・・俺、もうリビング戻るよ」 慶太は私に嫌われないため・・・ううん、私の気持ちを考えて部屋から出ていこうとしている。 でもそんなのは嫌だ。 「たまにはさ・・・昔みたいに一緒に寝よっか?」 「な、なんですとー!?」 「ただし、一緒に寝るだけね~」 私は大丈夫だよ。それにこうやってお互いが近づいた方が全ていい方向に向かう気がする。 「久しぶりに慶太と二人っきりで話をしても罰は当たらないでしょ?」 「・・・どうなっても知らないからな」 そういって慶太が私の布団に入ってきた。 ・・・覚悟はしていた。この家に慶太が来たときから。でも・・・いざ同じ布団に入ると緊張してしまう。 「わ、わ~・・・あの頃と違ってなんだかき、緊張するね~?」 何を言ってるんだ私は!いつものように冷静にならないとだめじゃない! どうやら慶太も緊張しているらしく、反対の方向を向いたまま一言もしゃべってくれない。 そのことが緊張よりも不安を加速させる。 「け、慶太?さっきから黙って・・・な、何とか言ってよ~!」 今の私は集中力が皆無のためか、慶太の心の声がまったく聴こえない。 どうしよう・・・私の事浅ましい女って思ったのかな・・・? あまりの不安におもわず慶太の肩を揺する。 「せめてこっちを向いて―――」 「うわぁぁぁああああぁぁ!!!」 私がこっちを向いてと言った矢先、急に慶太がこちらに振り返り、そのまま私を抱きしめた。 「け、慶太っっ!?」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」 何があったのか私は理解できなかった。ただ目の前に慶太の胸があることを除いて。 「・・・苦しいよ、慶太」 「うわぁぁぁああぁ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」 慶太が離れる。その時はっきりと気付いた。今慶太が私を抱きしめていたという事を。 初めて受けた慶太の抱擁は悪い意味で私の想像していたものと違っていた。だけど・・・ 「あんまり強く抱きしめられると痛いよ・・・これくらいの強さで抱きしめて・・・」 慶太のぬくもりが消えたことはもっと嫌だった。 そんな私の要望に慶太は行動で示してくれた。 ・・・ギュッ・・・ さっきとは違いとても優しくて、けれど絶対に離れないという気持ちが伝わってきて・・・ 今は慶太との抱擁が想像していたものよりもいいものだと感じられた。 141 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:15:20 ID:WfUne3eB 次の日、目が覚めると陽菜はすでにベッドにはいなかった。 そうすると今までの出来事が全部夢だったように思えるが、ここが陽菜の部屋で今僕がいるのは陽菜のベッドに間違いない。 となると昨晩の出来事はやっぱり本物なのだろう。 「・・・陽菜は下かな?」 ベッドから抜け出した僕は部屋を出てリビングに向かった。 そこでは目的の人物が朝ごはんを作っている最中だった。 「あ、起きたの?ちょっと待ってて、もうすぐできるから♪」 楽しそうに朝ごはんの準備をしている姿も、昨日の抱き合って眠ったことも、きっと一人暮らしのさびしさ故の行動なのだろう。 陽菜にさびしい思いはさせたくないな。 そう思うと僕の口が勝手に動いた。 「これからなんだけど・・・時々、陽菜の家に遊びに行ってもいい?」 僕が純粋に行きたいってのもあるけど、僕がこの家にいる事で少しでも陽菜が楽しいと感じてくれるならそうしたい。 陽菜は僕の意見に一瞬驚いた顔をしてから、 「・・・たまには私の気持ちにも気付いてくれるんだ♪」 嬉しそうにそう言った。 「・・・たまにはってひどいな。僕はこれでも鋭い方なんだぞ?」 陽菜以外に対しては、だけど。 「ふ~ん・・・そうなんだ?」 陽菜が何やらニヤニヤしている。こんな顔の時は大抵いたずらを考えているときだ。 「それなら・・・私の好きな人が誰だかわかる?」 な、何ーーーーーーーっっ!!よ、陽菜は好きな人がいたのかっっっっ!!!!! 「マ、マジで・・・?マジで好きな人がいるの・・・か・・・?」 よ、よく考えるんだ早川慶太!陽菜のそばにいる人で、かつイケメンと言えば・・・ 「ま、まさか大和か!?」 く、くっそー!!殺してやる!!親友でいい奴だけど殺してやる~!! 「ブブー!違います~。ほらーやっぱりたまにしか私の気持ちなんて分からないじゃない」 じゃあ誰だ!?山田!?太郎君!?それとも・・・ 「ま、まさか俺!?」 「・・・慶太ってたまに自信過剰の時があるよね?」 ・・・え?今の発言って・・・え?まさか僕ってばフラれちゃったとか・・・? 「なにその顔~、本当に自分だと思っていたの?」 ・・・えっと、どうしよっか?とりあえずどこかの屋上に行こうかな?あ、そうだ!今すぐ姉ちゃんにブスって10回言おう! 「ヒントは最近よく遊ぶ人かな~?」 訂正、太郎君と山田君をピーした後に屋上に行こう・・・ってまさか女の子達――― 「・・・一応言っとくけど私が好きな人は男の人だからね?」 わ~!!そんなに何度も好きな人がいるって言わないでよー!!僕の心臓が止まっちゃったらどうすんの!? 「ハイ、この話はおしまいね!」 そう言って陽菜が強引に話を打ち切った。まだ肝心の誰かを聞いてないのに。 でも陽菜が楽しそうで良かった・・・んだよ・・・そう思えよ、僕・・・ 「ほら、早く座ってよ!朝ごはんができたんだから」 「あ・・・うん・・・」 陽菜の作った朝ごはんを食べる二人。まるで僕たちは新婚みたいだ。いっその事このまま一気に――― 「あ~・・・今頃太郎君は何を食べてるのかな~・・・(クスッ)」 うおおおおおおおおおおおおおぉっぉぉぉぉぉぉぉ!!太郎のくそ野郎、ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅうううぅぅぅ!!!!! 僕はせっかくの陽菜の手料理を味あわずに食べてしまった。 142 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:16:04 ID:WfUne3eB 目が覚めると隣で慶太が寝ていた。 「・・・そっか、昨日慶太と抱き合ったまま寝たんだっけ・・・」 慶太の寝顔を見る。ぐっすりと気持ち良さそうに眠っている。 いつもこんな風に眠っているのかな?それとも私と一緒に寝たからこんな顔をしているのかな? 後者だったら嬉しいな、と思いながらベッドからでる。 そのまま部屋から出ようとしたところで、あることを思いついた。 ・・・慶太と結衣ちゃんは見せかけだけのカップルなんだし別にいいよね? そう思い、もう一度慶太に近づく。 ファーストキスが私で嬉しいでしょ?ちなみに私は慶太が初めてでうれしいよ。 ゆっくりと顔を近づけていき――― ・・・チュッ・・・ 「・・・えへへ~♪初彼女はとられちゃったけど、初チューは私だもんね~!」 そう言って私は部屋からでた。 「あ、起きたの?ちょっと待ってて、もうすぐできるから♪」 慶太が起きてきた。う~ん、やっぱり寝起きの慶太もかわいいな~。ワンピース姿がシュールだけど・・・ 朝からいいものが見れた私は料理を作る腕に力が入る。 ・・・でも今日だけなんだよね・・・慶太がこの家に居てくれる日は・・・ 私が一人で落ち込み始めたとき、思わぬ言葉が慶太の口から発せられた。 「これからなんだけど・・・時々、陽菜の家に遊びに行ってもいい?」 驚きのあまり思わず手を止めて慶太の方を見る。 慶太が私の気持ちを理解してくれた。私がずっと願っていたことを慶太が叶えてあげると言った。 「・・・たまには私の気持ちにも気付いてくれるんだ♪」 たった一言で人間はこんなにも気分が高揚するものなのか。 「・・・たまにはってひどいな。僕はこれでも鋭い方なんだぞ?」 「ふ~ん・・・そうなんだ?」 嬉しいな・・・楽しいな・・・やっぱり慶太の事を好きになって正解だったな・・・ 「それなら・・・私の好きな人が誰だか分かる?」 結衣ちゃんに対して本気になろうと思ったけどやめよう・・・ 「マ、マジで・・・?マジで好きな人がいるの・・・か・・・?」 それよりももっと慶太と仲良くなろう・・・もっと慶太と一緒にいるようにしよう・・・ 「ま、まさか大和か!?」 「ブブー!違います~。ほらーやっぱりたまにしか私の気持ちなんて分からないじゃない」 恭子ちゃんや祥姉に対しても攻撃はやめよう・・・もっと仲良くするようにしよう・・・ 「ほら、早く座ってよ!朝ごはんができたんだから」 「あ~・・・今頃太郎君は何を食べてるのかな~・・・(クスッ)」 (うおおおおおおおおおおおおおぉっぉぉぉぉぉぉぉ!!太郎のくそ野郎、ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅうううぅぅぅ!!!!!) そうすればもっと楽しくなるよね?もっと好きになってくれるよね?もっと幸せだって思えるよね? 私は自分の将来が明るくなっていく気がした。 143 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:20:10 ID:WfUne3eB この日、学校が終わって(太郎君に嫌がらせをして)から例の教授のところに向かった。 その道中、今日一日何か忘れている気がしたが、それが何なのかは結局思い出せなかった。 病院に着き教授の部屋に入ると、いきなり誰かが僕に飛びついてきた。 「も~慶太君ったら困ったときにしか来てくれないんだから!」 「すいません・・・ってか抱きつかないでください。誰かに見られたらどうするんですか」 「その時は・・・結婚?」 ちなみに抱きついてきた人物こそが今日会いに来た野村奈緒教授だ。20代で教授になった天才で、今年で30になる女性。独身。 「・・・ねぇ慶太君、今ものすごく失礼なこと考えなかった?」 「いえ、何も。それより本題に入ってもよろしいですか?」 「その前に結婚について答えてよ~!」 先生の発言を完璧に無視した僕は強引に話を聞いてもらった。 「・・・というわけなんですが。何が原因なんですかね?」 真剣な表情で悩む先生。 「サトリ能力が不安定・・・か・・・う~ん、難しいな~」 (ちぇっー!!私に愛の告白でもしに来たのかと思ったのにつまんな~い!!) 全然真剣に考えてくれなかった。 「・・・先生は僕がサトリだってことをお忘れではないですよね?」 「え?・・・っっ!?オ、オホホホホホ///」 ゴホン、と咳払いを一つした後先生が語り始めた。 「正直言って分からないわ。サトリに関してはあなた以外で実験をしたことがないからね」 「そうですか。お時間を取らせてしまいすいませんでした。ではこれで」 「いや~ん、冷たいな~!まだ話は終わってないのよ~!」 先生はもうすぐ三十路ですよね?言葉使い、直した方がいいですよ? でも恐ろしくてそんなことは口が裂けても言えなかった。 「実は12月5日に世界規模の学会があるんだけど、そこである教授がサトリについて何か重大な発表をするって噂があるのよね~」 「っ!ぼ、僕もそれに連れて行っていただけませんか!?」 「でもそれって一般の人は立ち入り禁止なんだけどな~。それにせいぜい私とその助手一名くらいしか行けないんだよな~」 「・・・」 「あと他の教授や知人、私のところの准教授とかにもぜひ私を連れて行って下さいって言われてるのよね~」 「・・・僕は一体何をすればよろしいんでしょうか?」 多分ものすごい要求を突きつけるんだろうな・・・ 「別に何もしなくてもいいよ?慶太君が行きたいっていうのなら慶太君を連れて行ってあげる。もちろん、旅費も私持ちで♪」 すごい。破格の条件だ。でも何か裏が・・・ってあれ?旅費? 「あ、あの・・・会場は遠いのですか?」 「場所はニューヨークだよ?それにこの学会は3日あって全部の教授の発表を聞きたいから、少なくとも5日以上の旅行だね♪」 5日!?5日も先生と二人っきり!? 「どうするの?行くの?行かないの?」 先生は僕が絶対に断れないと自信に満ちた顔をしている。悔しいけど・・・その通りです・・・ 「ぜひお伴させてもらえないでしょうか?」 「いやったー!!慶太君と二人っきりで海外旅行だ!!」 ・・・みんなには黙っといた方がいいよな、うん。 「それでは失礼しました」 どこか妄想の世界に入り込んだ先生を置いて僕は部屋を出た。 しかしこの後、僕はなぜこんなにも大事なことを忘れていたのかと後悔する羽目になる。 病院を出てから一本の電話が鳴った。相手は・・・恭子ちゃんだ。 電話に出た僕は衝撃を受けた。一つはそれが恭子ちゃんのお父さんからだったこと。そして、 「恭子が・・・また例の病気を再発させてしまった・・・」 この瞬間から僕の人生の歯車が大きく狂い始めた。 144 :サトリビト:2010/05/13(木) 19:21:13 ID:WfUne3eB この日、学校が終わってからお金を下ろすため、私は銀行に向かった。 その途中、私は両親の事を考えていた。 私の事を思ってお金を入れてくれるのか、はたまた私を怒らせたくない一心でお金を入れているのかは知らないが、遠く離れたところにいても私の事を考えてくれているんだ な・・・ そう思うと今まで嫌いと思っていた両親が少しだけ好きになれた気がした。 そうだ、今度私から電話をかけてみよう!お父さんもお母さんも喜んでくれるかな? だが期待は銀行に着いた途端に裏切られることとなった。 預金残高・・・・・・・・960,000。 あれ?なにこの数字? 私は一ヶ月の生活費代として4万円を下ろした。そしてこの口座は私が一人暮らしを始めたときに作ったものだ。 それなのに・・・なんで口座に96万も残っているの? 私の家はこんな馬鹿げたお金を送ってくるほど裕福ではない。 分かっている。なんで急にこんな大金を手に入れる事が出来たのか。でも・・・絶対に認めたくなんかない。 私はそれを確かめるために自宅に急いだ。 自宅に着いた私は家中をひっくり返した。 机やタンスはもちろん、お風呂やトイレまで。 しかし何も出てこなかった。 やっぱり私の思い過ごしだ・・・きっと宝くじでも当たったとか、そんなところなんだ・・・ 少し落ち着いてベッドに座り込むと、一つだけ、まだ探していなかったものが目に入った。 いや・・・まさかね・・・? だがこれ以上条件に当てはまるものはない。普通より少し大きめの写真立て。しかもこれは何処に行くにしても私が肌身離さず持ち歩いていたものだ。多分この先どんなこと があろうと失くしたり捨てたりしない物。 そしてなにより・・・このことを両親は知っている。 私はおそるおそる写真立てに手を伸ばす。 お願い!何も出てこないで! 写真立ての裏側についている簡易なロックを外す。そして下敷き板を取り出してよく見ると――― 「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」 そのまま『それ』が埋め込まれていた下敷き板を地面にたたきつけて、思いっきり踏みつける。何度も何度も。 「くそっ、くそっ、くそっっ!!」 何度も踏みつける内に『それ』は小さな音を立てて壊れた。 「・・・はぁ・・・はぁ・・・」 壊れた『それ』を見ていると、私の気持ちが無意識に口からこぼれ始めた。 「・・・何でよ・・・何で私ばっかりがこんな目にあわないといけないのよぉぉ!!」 ひどい・・・確かに私だってお父さんやお母さんにひどいことを言ったと思う・・・だけど・・・ 「・・・これってあんまりじゃないの?・・・なんで自分の娘を売ったのよぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」 私はその場で泣き崩れた。 少しだけ両親の事を好きになった矢先にこれだ。 この時・・・私の心は完全に壊れてしまった。 「・・・ヒック・・・きっと罰が当たったんだ・・・私が浮気をしたから・・・」 結衣ちゃん達を好きになろうと思ったこと。両親を少しでも好きになってしまったこと。慶太以外の人を好きに・・・ 「・・・慶太だけ・・・慶太だけを好きにならないと・・・そうだ、慶太のお母さんも諦めないと・・・」 慶太以外は好きになってはいけない。それどころか・・・敵だ。所詮は普通の人間なのだから。 「・・・ごめんね慶太・・・きっと慶太に『も』迷惑がかかると思うけど・・・許してくれるよね・・・」 慶太なら私の気持ちを分かってくれる。だって・・・ 慶太も私と同じサトリなんだから

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