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254 :風雪 1話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/18(火) 00:05:27 ID:oWu+uDr+ は自分の顔が嫌いだった。男なのに女みたいな顔が原因でいつもからかわれたから。 僕は自分の手先の器用さを呪った。家庭科の授業の裁縫が上手く出来て女みたいと言われたから。かといってに乱雑にすると先生に怒られた。 僕は自分の父親を呪った。母親と僕を捨てて他に女を作って蒸発したから。 僕は自分の母親が嫌いだった。スナックで働いていた母親が原因でイジメられたから。 僕は自分の存在が嫌いになった。母親が中学の卒業式の前夜に自殺した。僕の中傷が母親を自殺に追いやったんだと思った。残ったのは結構な金額の遺産。 僕は自分が持つ母の遺産が嫌いになった。そんなの要らないから親孝行したいと思ったから。 僕は自分の親戚が嫌いになった。僕を引き取ると言った人間は皆、母が体を売って築いた遺産目当てだった。 僕は自分の運命を呪った。どうして…どうして…! 僕は自分の甘さと弱さを呪った。 目が覚める。僕の一日は午前3時から始まる。独り暮らしを始めて5ヶ月目に突入するが未だにこの時間に起きる事に馴れない。 布団の心地よさを惜しみながらもベットから起きてパジャマからジャージに着替えた。 僕一人だけが住み続けているワンルームマンションのドアを開けて鍵を閉める。 マンションの階段を降りて「YD新聞」と書かれた看板を掲げる新聞屋に入り「おはようございます。」と挨拶をする。 店長や同僚からの大きな「おはよう!」が鼓膜に刺さり眠気が覚める。目が覚めたら新聞を自転車に積む作業に入る。 チラッと見えた見出しには「菊池公太郎が出馬を表明!」と書かれていた。どうでもいいが縦書きなので公太郎がハム太郎に見えた。 自転車に跨ってペダルを漕ぐと車輪は力を加えられて悲鳴をあげながらも前に進み出す。 いつものコースを運転していつもの調子で新聞をポストに入れていく。 配達の途中で日が昇る。この瞬間が僕は好きだ。この景色を目に焼き付けるのが最近の僕の一番の楽しみなのだ。 この朝焼けを見て新聞配達にラストスパートを掛けた。 新聞を配り終える頃には太陽は完全に露出していた。時間はもうすぐ6時になるところ。 僕は自転車を駐輪してから「お疲れ様です」と声を掛けてその場を去った。 階段を上がって4階にある自宅へ戻る。歯を磨き顔を洗ってからテレビを点けてトーストを焼く。 テレビの占いによると今日の僕には素敵な出会いが有るそうだ。まぁ当たらないだろうが。 焼けたトーストにイチゴジャムを塗って齧り付く。噛む行為と齧る行為を繰り返して最後の一口を牛乳で流し込む。 食器を台所に置いて寝室に足を運び学校行きの服に着替えヌイグルミの頭を撫でてドアを開ける。 外に出たるとお隣に住んでいる超ラブラブ夫婦の相田洋介さんと彩子さんがつっ立っていた。 因みにどのくらいラブラブかと言うと夜の営みが激しすぎて隣の僕の部屋にまで2人の声が届くくらいだ。 このマンションの壁が薄いという訳じゃないが特に効果的な防音対策をしていないのも一つの原因だが。 だが近所迷惑(特に彩子さんの喘ぎ声による睡眠妨害。興奮してなかなか寝付けない時が有る)だからやめて欲しいのが本音だ。 このままだと小さな近所迷惑から町内の一部の住民が朝刊を見れないと騒ぐ事になりそうだし。しかし恥ずかしくて意見が出来無いのが現状だ。 今も「いってらっしゃいのキス」をしている最中だ。唇を離して洋介さんが出発しようとすると彩子さんが引き留める。 「もう一回!」 「あーいや、なんだ。彩子…その…最近胸がちょっと大きくなったな」 キスをせがまれて仕事場に行けなくなりそうな時に付く洋介さんのいつもの嘘だ。彩子さんが着ているエプロンには突起が一切ない。 「きゃー!ホントにー!?昨日おっぱい揉まれ過ぎて大きくなったのかな?洋介さんったらあんなに激しくして…もう!」 「ああ、ホントだ。0.002ミリくらいは大きくなったぞ。んじゃ行ってきます。雪斗君も行こうか。」雪斗と言うのは僕だ。名字は白井で白井雪斗。 「はい、いってらっしゃい!洋介さん!雪斗君も。」 「あ、行ってきます。」心から笑う方法なんてとっくの昔に忘れたから愛想笑いを添えて言葉を返す。 お隣の相田夫婦とはお裾分けを一方的に頂いたりしてる関係だ。というか僕の事情を知って気を遣っているようだ。 「大変ですね。」エレベーターの中で話を振る。 「まあね。」洋介さんは苦笑いをしながら返答する。が、満更でも無さそうな苦笑いだった。 255 :風雪 1話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/18(火) 00:06:05 ID:oWu+uDr+ マンションを洋介さんと共に出る。と、次の瞬間洋介さんがこけた。ドジだよなぁ、この人。 鞄はチャックを締めていなかったらしく携帯電話やら書類やらが散乱した。 風に誘拐される前に落ちた書類を拾い上げる。双葉宮商事と書かれていた。 双葉宮…何処かで聞いた覚えがあって胸に突っかかりを覚える。 因みに双葉宮商事とは我が国でも5本の指に入るほどの大企業だ。この人凄いんだなぁと感心した。ドジだけど。 書類を手渡すと「ありがとう。じゃあ、僕はこっちだから。」と洋介さんが笑顔を振り撒きながら言う。 「ああ、はい。お仕事頑張って下さいね。」そう言って僕は踵を返して学校に向かった。 教室に着くと瓶にささった菊の花が置いてある席が目に映る。普通は死んだクラスメートの机かいじめられっ子に贈られるものだ。 クラスに名探偵が在籍してないから殺人事件は起きないし、盗んだバイクで走り出して事故って死んだ不良少年も居ない。 この学校の人間が1年間程で7人死んだ騒動が有ったがそれは4年前の話。死人の同級生は居ないからこの菊に追悼の効果はない。 つまりこれはいじめだ。と、名探偵ごっこをしてみた。 邪魔なので瓶を窓際の棚の上に移動させ机には自分の鞄を置く。 「おはよう、白井君。」右耳から侵入した声を左耳から出した。要するに無視。 声の主は加藤レラ。クラスの中心人物的女子だ。容姿は綺麗だし頭もいいから中心人物になるのは当然と言える。 まぁ、容姿と中身が比例するとは限らないし、頭とは使い様によっては他人に嫌がらせを提供する事が可能になるのだが。 加藤がこっちに歩み寄るが僕は気にせず座るために椅子を引く。 けれど僕のお尻は椅子に着地せず床に着地した。椅子は加藤の手の中に有った。要するに加藤に椅子を引かれて僕は尻もちを着いた。 クラスメートは笑う者も居れば目を逸らす者も居る。因みに加藤はと言うと不気味な笑顔を浮かべている。 そして尻もちを着いた僕に手を差し伸べる人間が居た。 「大丈夫~?」明らかに僕を軽蔑の眼で見て手を差し伸べているのは広瀬浩二。男子の中心人物って奴だ。 「大丈夫。一人で立てる」 「遠慮すんなよ」広瀬は僕の発言ををパーフェクトに無視して手を握る。ただし必要以上の力を加えて。 苦痛で顔が歪みそうになりながら我慢して立ち上がった。と同時に広瀬の握力が緩んで手が外れる。 「ありがとうは?」嫌みを含んだ感謝の催促が聞こえた。 「ありがと…」嫌みも無いが感謝の気持ちも無い感謝の言葉で対抗する。 とりあえず反撃すればいいじゃないかと思われるだろうが憎悪の感情なんてとっくの昔に無くした。 反撃しても勝てないし、抵抗しなければ早く終わるからというのも理由だ。 加藤の手から解放された椅子に座ってから僕が虐められている原因を考えてみた。 思えば僕が加藤にテストの成績1位を譲らないからいじめが始まったらしい。そして広瀬やその他の男女達にもいじめの輪が広がった。 後は男のくせに女顔だから。身長が152cmしか無いチビだから。声が高いから。親が居ないから。 感情が抜け落ちて気持ち悪いから。反撃しないから。抵抗しないから。怖くないから。なにより人間だから。 …こんくらいかな。 チャイムが鳴り教室に教師が入って来たところで思考中断。 陰鬱な一日が今日も始まろうとしていた。けれど、耐えてみせるさ。 シャーペンを持ってノートを開く。さて、頑張りますか。 257 :風雪 1話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/18(火) 00:07:04 ID:oWu+uDr+ 地獄の様な学校が終わり自宅のベッドにダイブする。 「あー冷蔵庫何も無かった気がする。」一人暮らしになってから独り言が増えた気もする。 冷蔵庫にはやはり何も無かった。と言う訳で近くのスーパーに買い物に出かけようと思った。 Tシャツとジーパンに着替えて部屋を後にする。自転車は学校で何者かによりパンクさせられてから修理してないので徒歩で向かう。 徒歩10分でスーパー「エルヒガンテ村山」に到着。何を買おうかねー。と迷っているとカレールーの特売の文字が目に入る。 カレーはいいねぇ。リリンの生み出した文化の極みだよ。日持ちするし。 カレーで思い出したが米も切らしてた事を思い出す。10キロの米袋を持って帰らなきゃならなくなり気落ちする。 冷凍うどんも買って行くか考えたが重さを考慮した結果諦めた。 会計を済ませ米袋を両手に持ち右腕にカレールーを入れた袋をぶら下げる。 腕力の無い僕にとっては重い…。帰ったら自転車修理に出さないとな…。 そんな事を考えてると「そこの君。」と言う女の人の声が後ろから聞こえた。僕には関係ないだろうからスルー。 「いや、そこの米袋を苦しそうに運んでる君だよ。」いや、訂正。僕だった。 振り向いて見ると我が校の制服を着た女性が居た。 黒というより藍色の長い髪。顔はやや釣り目だが大きな瞳が2つ。薄いが色の良い唇。 首から下は胸部の自己主張が激しい。そしてなにより身長が高くて180cm程は有りそうだった。羨ましい。 全体的にクールビューティーを体で表した感じだった。 どこかで見た事あるな…この人。いや、うちの高校の制服着てるからそう思うのは当たり前なんだろうけど…。 いや、それだけじゃ無い。なんか違う。何か大事な事を思い出しそ…… 「どうした?ぼーっとして?」いつの間にか目の前に居た彼女は屈んで僕の顔を覗きこんでいた。 「いや、なんでも。」目の前には彼女の顔があったのでドキッとした。 「それよりか弱そうな女の子なのにそんな米袋を持って…偉いな。親の手伝いか?」 「あの…一応男です」ついでに親も居ません。と心の中で付け足した。 「こんなに可愛いのが男な訳無いだろう。」その台詞…何回言われただろうか。 「あの…失礼します。」体を元の方向に回転させる。 「まぁ待て。その米袋、私が持ってあげよう。」彼女が僕の横に走って来て協力を申し出た。 「いや、悪いですよ。」善意での申し出を跳ね除ける。 「まぁ遠慮するな。」米袋をあっけなく強奪された。取り返そうと思ったが米泥棒さんとの身長の差は歴然で無理だから中止した。 しかも自分は両手でなんとか持ち上げられた米袋を彼女は片手で持ち上げているのを見て少しショックだった。 「それにしても君は愛らしいな。羨ましい。」歩きながら話掛けられる。 「勘弁して下さい。僕は男っぽくなりたいんです。」 「私と同じだな。私もよく男っぽいと言われている。そう思っているのに君にこんな事を言って…すまない。」頭を下げられた。 「いえ、別に良いんです。」10キロの米袋を片手で言われても空しさを覚えるだけだった。 「ところで、それ楊獄(やんごく)高校の制服ですよね?」因みに楊獄高校とは僕の通う学校だ。 「ほう、君も楊高生なのか?なら私の事は知ってるはずだが…君は逃げないんだな。私の姿を見た男はすぐに逃げだすぞ?」 「そうなんですか。もしかしていじめっ子ですか?」 「違う。私は風紀委員長で2年の双葉宮風子(ふたばのみやふうこ)だ。」あぁ、何か洋介さんの書類を見た時のモヤモヤ感と何処かで見た女性の謎は解けた気がする。 多分彼女を朝礼で見たんだ。その後「鬼の風紀委員長 双葉宮」とか噂されてた気がする。 けれど、それよりも重要な事を忘れている気がした。なんだ…思い出せ…。 「どうした?またぼーっとして。考え事か?」 隣の風子さんからの声で現実に引き戻される。 「ところで君はなんて名前だ?あと何処のクラスに居る?」 「白井雪斗。一年二組です。」簡単な自己紹介をする。 「なるほど。」僕の名前を聞くと彼女は心なしか嬉しそうに見えた。気の所為だろうけど。 259 :風雪 1話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/18(火) 00:09:43 ID:oWu+uDr+ 結局風子さんは自宅まで着いてきた。実にありがたいのだがこのまま帰すと非常に悪い気分になるので 「お礼と言っちゃなんですがお茶でも飲んで行きます?」と言ってみたところ 「良いのか?その…なんだ…喉も乾いたしお言葉の甘えるとしよう。」という台詞が帰って来た。 ドアを開けて靴を脱いで並べてリビングに行く。 カレールーをテーブルに置いてコンロに鎮座するやかんを持ちあげて食器からコップを2つ出す。 「米はここに置いておくぞ。えっと…」そう言うなりいきなり難しい顔になる。 「どうしました?」 「君の事、なんて呼べば良いのか分からないんだ。」あぁなるほど。 「何でも良いですよ。」これから親しくなるつもりも無いしご自由に。 「じゃあ、あれだ。雪斗と呼んでも良いか?」…! 両親以外から雪斗と呼ばれるのは生まれて初めてだったので眩暈を伴った動揺をしてしまう。 コップを両方手放して重力に逆らうことも無く落下して砕け散る。ガラスの割れた音が鼓膜に響く。 視界が揺れる。「どうした?大丈夫か?」の声が聞こえて意識を律した。 「その…下の名前を呼び捨てにして呼ぶのは駄目か?」心配そうな感情を含んだ双眸で僕を見据えて彼女は言う。 「いえ…初めてでびっくりして…もう大丈夫です」荷物を床に置いて素手でガラスの破片を掻き集める。 「いつ…」安全よりスピードを優先したためか指から血が滲む。 紙で切った時よりも鋭い痛みが脳に伝わり全身が震える。 それを見た彼女は僕の元に駆け寄る。そして血の滲む僕の人差し指を…舐めた…。指に暖かい感覚が走る。 彼女は僕の人差し指から口から離して自身のポケットをまさぐる。絆創膏が握られていた。 「これで大丈夫。」大丈夫じゃねーよ。主に俺の心臓が 無言になる僕。彼女はその様子に見向きもせずやかんとコップを持ち上げる。 「どうした?まだ痛いか?」 「いえ…大丈夫っす。」 「そうか。無理はするなよ。雪斗」二度目はなんとも無かった。 テーブルの上に置かれた、再度食器棚から出したコップを置いて麦茶を注ぐ。注ぎ終わって片方のコップを客人に差し出す。 「ありがとう。」声の源泉を見ると微笑んでいた。 「いえ、こちらこそ米袋を運んでいただいて助かりました。」微笑み返そうとしたが上手く笑えないので断念。 向かい合うと彼女は眼をキョロキョロと見渡した。だがその視線はすぐに固定された。彼女の視線の先を追う。 ベッドの上にある小さくて可愛らしい猫のヌイグルミが視界に入った。主観的に見れば思い出の品だが彼女から見ればどうだろう。 男の部屋のベッドにあるから気持ち悪いと思ってるかも知れない。 「どうかしましたか?あのヌイグルミが気になりますか?あげませんよ。」何せ形見なのだから。 「そうか、残念だ。質問するがベッドの上に置いてあるという事は抱いて寝ているのか?」ギクッ。 「     」 「黙秘してるという事は…その通りという事でokという解釈でいいな?」正解者に10P。集めても特にメリットは無いが。 「…まぁそうですね。男のくせに気持ち悪いでしょ?」少し間を置いて正直に答えて自虐的な台詞を口にする。 彼女は僕の台詞を聞くと小さく笑っていた。僕はしかめ面になる。 「失敬。いや、君がパジャマを着てあのヌイグルミを抱いて寝てると想像すると可愛らしくてな。」 「今すぐ部分的な記憶喪失になって下さい。」 「嫌だ。」彼女はからかうように微笑んだ。 僕は頭をガリガリ掻いた。「この人苦手だなぁ。」なんて考えて。 260 :風雪 1話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/18(火) 00:10:11 ID:oWu+uDr+ 「じゃあ、また」 「あ、はい。」30分程で彼女は僕の部屋を後にした。 その後は簡潔に言うとカレーを作って食べて風呂に入り歯を磨き予習と復習をした。 残る予定は就寝のみだ。時間は夜9時前。 ベッドに入って小さな猫のヌイグルミを抱きしめて小さく呟く。 「母さん…」決してヌイグルミを母親と錯覚した訳じゃない。してたら精神病院行けと言われかねんだろうが。 このヌイグルミは生前の母が「捨て猫を飼いたい」なんて駄々をこねた僕に買い与えた物だ。 懐かしき昔を回顧する。小学4年生の10月に段ボールに住む子猫を見つけた。 母さんに飼いたいと言ったが聞いて貰えなかった。 猫を飼えなかった理由は住んでいるマンションはペット禁止だし、なにより家計が圧迫されるからからだ。 その話題の猫はまだ小さくて白い色をした猫で目が愛くるしかった。 家では飼えないから猫に給食の残ったパンとかをあげて養っていた。そうやって人間じゃ無い物に縋っていた。 けれど、それすらも僕には許されなかった。 12月のある日、近所の子供…当時の僕より上級生に前足を掴まれて、もう一人に木の枝で叩かれて虐められていた。 その光景を見て僕は声を荒げて言った。 「やめろよ!」 「なにお前。」「なんで指図されなきゃいけねーんだよ。」叩く音と鳴き声が肥大化する。 「あーお前、4年の白井だろ?弟がいつもお前が女みたいでキモイって言ってんぜ!」 「なにこいつ!虐められっ子!?」 僕は目頭が熱くなった。足を踏み出して猫を束縛してる方の人間の顔を殴る。猫は地面に着地して逃げ去る。 「てめー!」殴られる。抵抗したが上級生2人には無意味だった。 傷と一緒に家に帰ると夜9時。いつもは僕が寝ている時間に帰ってくる母さんが居た。 怒られて抱きしめられて泣かれた。痛いほど抱きしめられた。横を見ると傷だらけの僕が鏡に映っていた。 何があったのか聞かれたけど何も言わなかった。虐められている事実を知られたく無かったから。 で、しばらくしてまた怒られた。 「今日はお前の誕生日なのに…全く。まあ、まず手を洗ってリビングに来なさい。」 指示通りに動いた。リビングに行くとケーキと猫のヌイグルミがテーブルにあった。 「誕生日プレゼント。猫は飼えないから代わりに猫のヌイグルミ。どう?」 「ありがとう…」ヌイグルミなんて欲しく無いが母さんの気持ちを酌んだ。 「明日になったらこのヌイグルミを白猫に見せて自慢してやる」とか考えながらケーキを食べた記憶がある。 なんだかんだで気に入ってたのだろう。けれどその子猫と会う事は二度と無かった。 そして僕のいじめもエスカレートしていった。理由は喧嘩だろう。 回顧終了。さて、寝よう。僕は意識の電源を落とした。 261 :風雪 1話 ◆f7vqmWFAqQ :2010/05/18(火) 00:10:34 ID:oWu+uDr+ 新しい朝が来た。僕からしたら希望もクソも無い。 新聞配達を完遂して朝食を掻き込む。身支度を整えて自宅を出る。 今朝も相田夫婦のイチャラブ劇場が開演してたが気分でスルーした。 学校の席に着くなり加藤と広瀬と不愉快な仲間達(取り巻きでも表現可)が僕の眼前に来た。 「お前さ、これわたしてくんね?」青い便箋を差し出される。 「何これ。」手に取り見ると裏に『2-3組 双葉宮風子様へ』と書いてる。 「ラブレターか。」そう言うと机を蹴られた。 「いいから渡してこいよ!!」顔を赤らめていた。分かりやすい奴…。 触らぬ神に祟り無し。早々に教室を後にした。 階段をあがり2-3に到着。ドアを開けようとすると 「何をしてるんだ。雪斗」後ろから聞きなれた声がした。風子先輩だ。 「あぁ、どうも。」後は他人が書いたラブレターを渡すだけ。緊張も一切なしで押し付ける。 「なんだこれは?果たし状か?言っておくが私は強いぞ?」 「まぁ…似たようなもんッすよ。」 「そうか。後で読んでおく。」屈託のない笑顔で言う。 「どうも。んじゃまた。」手を振ってその場を後にした。 そして時間は止まることなく放課後。いやー今日もいろいろ疲れた。 何がってそりゃ加藤と広瀬のサンドバックになってましたからねぇ、えぇ。 帰宅しようと荷物を詰めているといきなり大きな声が鼓膜を揺すった。 「白井雪斗はいるか!!」風子先輩だった。 「はい…。」正直に手を挙げる。つーか、ラブレターを渡した広瀬を呼ばない?普通 …はっ!まさかあの手紙には鬼の風紀委員長を怒らせる誹謗中傷と俺の名前が…。やられた。 なんて考えてると目の前に風子先輩が来た。声が出ない。 身長差約30cmの出す威圧感と彼女の決意を決めたような顔が僕を黙らせる。 「お前の想い…受け取った。」はい?あれは広瀬の手紙じゃ…!!…は? 思考が停止した。口が塞がれた。つまり皆の目の前でキスされたのだ。…えええええええええ!? 口が離れる。教室が沈黙に包まれる。沈黙を破ったのは広瀬。 「な!!!風子さん!!なにしてんすっか!?!?」怒りと当惑が混じった声で叫ぶ。 「そっちこそなんだ?恋人同士が口付けをして何が悪い。指導室常連の広瀬。」場所が悪い。てか今恋人同士って… 「な、今日こいつが出したラブレターは…」 「あぁ、差出人の名前が無いから雪斗と判断したが何か問題あるか?」差出人を書いて無かった様だ。あほだな。 「え、ああ、その…」どもる広瀬。風子先輩はそれをスルーして僕と再び向かい合う。 「じゃ、帰ろうか」ニコっと眩しい笑顔を浮かべて下校を誘う先輩。 「え、いや、あの…」当惑する俺。 「嫌か…?」涙目になる先輩。 周りの視線が痛いので「行きますか」と言って先輩の手を引いて教室を出た。 私は一部始終を見た。彼の横で彼が奪われる様を…。 私はそう思って悔しくなり下唇を噛んだ。血の味がした。 私からすれば後から割り込んで堂々と美味しい所をかっさらう奴は正義の味方なんかじゃ無くて邪魔ものでしかない。 いつだってそう。 後から生まれた妹は私よりも両親に可愛がられている。 小学時代は転校生に人気を奪われた。 中学時代は部活のレギュラーの椅子を取られた。 そして今は好きな人を取られた。あっさりと。だけど3度目は守りきって見せる。 そう決意した加藤レラは席を立って教室を後にした。

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