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460 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/11/26(月) 12:37:13 ID:USB98JEl 月輪に舞う②  そしてそれから一年の月日が流れた、水雲は奥羽から里に帰る前にさらに尾張の任務に向かわされ… ある日、尾張の町で薬屋に変装して蕎麦屋で食事を取っていると…こんな噂を聞いた。  「-近頃、腕利きの白子のくの一が現れる-」と  水雲は嫌な予感を抑え、必死の思いで任務をこなし…里へ戻った。  里に戻った水雲が見たのは…月日が流れて男らしく成長するどころか…まるきり、そう、まるで鬼灯 の生き写しのように…化粧のよく似合う、女のように育った弧太郎だった。  「お前らは里長にいいように使われてたのさ…」  冬士郎は久々にあった水雲にそう言った…里長は同じ事を弧太郎にいい、そして弧太郎をきつい任務 につかせて…二人を使っている、冬士郎はそう断言した。  「なぜ…そんな事を…」  「お前が不安要素だからさ…お前の力は強いが、抜け人の鬼灯の許婚だ、いつ裏切るかわからない分 こうやって弧太郎っていう子犬を人質に取っておけば裏切られる心配はないし…忠実な子犬を安心して飼う事も出来る…」  「なぜ、我々はこうも…あの子はこうも…辛い目に合わされるのだ?」  「そうするしかないのだよ、それが忍だ…そう割り切らなければ、お前に殺された妹は…鬼灯は、もっと簡単に抜け出せたはずだ…」  二人は同時に俯く、とそこに弧太郎が走ってきた。  「…水雲様…お会いしとうございました!お会いしとうございました!」  弧太郎はそう言うなり水雲をひしと抱きしめた、事態を悟った冬士郎は気を使ってその場を離れる。  「少し、背が高くなったな…ただいま、弧太郎…」  「はい、はい…お帰りなさいませ!!水雲さま…大変お疲れだったでしょう、今夜はごゆっくりお休みくださいませ・・・」  弧太郎の顔は少し痩せているように見えた…そして表情もあの日からあまり変わらず、どこかその瞳も空ろに見えた…。  弧太郎は水雲の体を話すことなく、そのままぼろぼろと涙を流し始める…そんな弧太郎を水雲はせいいっぱいの気持ちで労う為… 口付けをして、その場に弧太郎を押し倒した。       それから数日の間、弧太郎と水雲は交わり続けた、弧太郎は何度となく水雲を求め続け、水雲もそれに応じた…まるで埋められなかった 時間を体で埋めるかのように…そして、事が終われば二人は抱き合って眠りについた…そんな生活が二、三日続いた。  なぜそこまで執拗に弧太郎が体を求めてきたのか?・・・その謎はその日、呼び出された里長の屋敷で判明した…里長は水雲に命じたのだ 門女との結婚を…。   461 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/11/26(月) 12:39:15 ID:USB98JEl 月輪に舞う②    「もう…ここまでなのですかね…」  弧太郎は川原にいた、たった一人・・・里の中でもっとも信頼した師である蓑虫を殺した川原で、手に短刀を持ってたたずんでいた。  弧太郎は悩んでいた…せっかく得た水雲を守るという誓い、たった一人で彼に仕える…その想いすら打ち砕かれる事になってしまう ことに、彼の心はもう耐え切れなかった。  いっそ門女を殺したかった、でもそれは出来なかった…もう誰も傷つけたくない、蓑虫を殺した時のような想いはしたくない…そして 何より、水雲の悲しむ顔を見たくはなかった。  「よせ、自害などするな…」  背後から声をかけたのは冬士郎だった、彼は涙で頬をぬらす弧太郎に手ぬぐいを渡すと弧太郎の横に座った。  「冬士郎様…しかし自分は…怖いのです、このまま壊れて…誰かを傷つけてしまうくらいなら…いっそこの手で…」   「俺の妹も、鬼灯もそうだった…あいつはお前と同じく、心が壊れるのを防ぐために逃げて…最も愛する水雲に殺されたのさ」  「…!!…何故…一体鬼灯さまという方に何があったというのですか!?」  「あいつは心が壊れたのさ…師であるおばあを殺した日から水雲に依存を重ねてたんだ…そしてその挙句、水雲に横恋慕して迫った くの一を殺して…」   里掟を破り、責任を取るべく送り込まれた水雲に殺された…それが鬼灯をめぐる事件の顛末だった。里の友人である門女を人質に 取られた水雲は悩んだ挙句…斬り殺したのだ、鬼灯を。  「うれしいよ…こんな私でも泣いてくれるんだね…水雲…」  彼女はそういって事切れたらしい。  「…私はその方と同じように生きていたのですね…でも、その方と同じになって…水雲さまに迷惑をかけるくらいなら…いっそ! うわあ!!な、何を!?」  言い終わるのを待たずに冬士郎は弧太郎を押し倒した、そしてそのまま一気に着物の服をはだけさせる。 「…俺の話がここで終わると思ったか?…俺はお前に言いたいのだ…弧太郎、もう俺は我慢できん…俺の女…いや、男になれ、俺は 絶対にお前を幸せにする!悲しませることなどしない!…もう嫌なのだ…水雲に、あの男にお前を取られるのは…こたろう、こたろう!!」  「い…いやあ!!お止めくださいませ!!冬士郎様!!あ!ああ!!」  弧太郎の弱弱しい叫びを無視して冬士郎は弧太郎の乳首を舐めまわす…そしてその唇を弧太郎に近づけたとき…冬士郎の首は綺麗こぼれ落ちた。 「あ…ああああああああああ!!!!嫌嗚呼嗚呼アアア!!!!!」  条件反射、といった方がよいのだろうか…弧太郎はいつも、暗殺任務のときにそうしていたように手に隠し持った大型の標で一気に冬士郎の首を 切り落としたのだ…初めて里の皆にあったとき、陽気に自分に話しかけてくれて…まるで実の兄のように遊びを教え、蓑虫と同様に自分を気にかけて くれた男を…冬士郎を…。  「・・・…うああああああああ!!!!ああああああああ!!!!!」  弧太郎は泣いた、泣きながら走り出した…もう何が何かわからなかった、自分の生き方を呪った……自分に優しくしてくれた人を殺し、愛してくれた 男に迷惑をかけ続ける自分を呪った、でも…それでも、弧太郎は…愛していた、水雲を、愛していた。  「あはははははははははは!あはははははは!!水雲様、もう、もう弧太郎に生きる資格はありません! でも、それでも貴方を!貴方が!私は貴方が好きなのです!!!あははははははははは!!」  せめて、里掟にしたがって水雲に自分を殺させないようにと…山の谷に向かって弧太郎は走った。   462 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/11/26(月) 12:41:14 ID:USB98JEl 月輪に舞う②    弧太郎に相談があると呼ばれて、所用で少し遅れながらも川原にたどり着いた門女は冬士郎の 首なし死体を見て…ここで起こった事の全てを悟った。  「…このままじゃだめだ!弧太郎を助けなきゃ!!」  門女は眼帯を取って術を使った…門女の術は一種のレーダーのようなものである、弧太郎の残 した気配をたどれば彼がどこに向かうのかは察しが着いた。  門女はいそいで水雲の家に向かう、そして水雲に全てを話して…自分の持っていた巾着袋を放り投げた。  「このままいけばあの子は自殺しちまうだろうし…もしもそれを食い止められても、里掟でまたあんたは あの子を鬼灯と同じように殺す羽目になる…だから、逃げな…それを持って、唐にでも」   以外に大きな袋の中には金塊と宝石が入っていた、これだけの量が有れば唐まで逃げるのは余裕だろう。  「…かたじけない、しかし…そうなればお前は…」  脱走幇助でどの道死ぬ羽目になる、そう言おうとした瞬間、門女は怒鳴った。  「馬鹿野郎!あの子はアンタが好きなんだよ!蓑虫を殺して!心を壊しながらも忍びになって!冬士郎を 殺せるくらいにあんたの事が好きだったんだよ!?それを…また助けてあげないでどうするのさ!また助け られなかった私はどうなるのさ!…早く行っちまえよ馬鹿野郎!!」  「…すまない、門女…」  そういって水雲は門女に背を向けると、山の谷に向かって走り出した…門女はそれを涙目で見送ると…胸に 短刀を当てながらこう呟いた。  「あの子を幸せにしろよ…大好きだったよ、水雲…」  門女は一気に自分の胸元を短刀で刺し貫いた。    弧太郎は崖の前で立ちすくんでいた…そろそろ、潮時かな…そう考えて崖に飛び込もうとしていた。  このまま飛び込めば下は岩石がごろごろした大きな穴が広がっている、きっと死ぬ事は簡単だろう。  「愛していますよ…水雲様…ふふふ…」  …ありったけの思い出を思い出して、たっぷり感傷に浸った後、弧太郎は一歩一歩、崖に向かって歩き 出した。一歩、また一歩…そして最後の一歩を踏み出そうとしたとき、弧太郎は首根っこを掴まれた。  「なら…死ぬな、ずっと一緒にいよう、弧太郎」  弧太郎はその手の主が誰なのかを一瞬で判断した。  「でも…このまま一緒にいれば…私は必ず貴方を…水雲様を不幸せにしますよ?大切な人の命を奪う かもしれませんよ…もう、もう…私など…貴方のために、死ねたほうが…!!」  ばちいん!!と、弧太郎の頬を叩く水雲、彼はその後すぐに弧太郎の体を抱きしめ、言った。  「俺はお前が好きだ、もう放したくない…たしかにこれまで多くの、俺の大切な人が死んだかもしれない… お前はその人を手にかけたかもしれない…それでも、それでも俺は…お前が愛しいのだ!!お前と一緒にいたい たとえ病めるときも…老いて死ぬときも…片時も離れずに、同じく死に、腐れ落ちる…俺はそうありたいのだ! …たとえ里も、国も…全てを敵に回してでも!!俺はお前が好きなのだ!」  水雲の言葉に偽りはなかった、鬼灯への想いは…未練と後悔は、捨てていた。  「本当に…いいのですか…本当に…わたしなど、わたし…う、うああああああああああああああ!!!!ああああ ああああ!!!!!」  弧太郎は水雲の胸で泣いた、水雲はそれを抱きしめた。  そして二人は手をとり、里から街道へ抜ける道を、手をつないで目指した。  瞬間、ぐさり!という音と共に血を噴出して水雲は倒れた。  青ざめる弧太郎たちを…鉄砲を持った忍の群れが囲んでいた。理由は一つしかない…抜け忍に対する 制裁行為だろう。  パン!パン!パン!パン!!   次々に弾丸が飛び交う、水雲は弧太郎を守るべく必死に立ち上がって自分の体を盾にしようとしたが… それもむなしく、二人は倒れこんだ。 463 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/11/26(月) 12:43:06 ID:USB98JEl 月輪に舞う②  里長は二人が死んだ事の報告を受けて、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。  自分の娘である鬼灯と、出来損ないとはいえ息子の冬士郎の仇が討てたのだ… それも鬼灯の仇である水雲はさんざん苦悩させた挙句、一番の幸福を与えてから殺す というサディスティックな方法が行えた…里長にとってこれほど嬉しい事はなかった たとえ里にとっては逸材の、とても優秀な忍を二人失う結果になったとしても、である。  里長は村を守らねばならない立場だ、でもそれでも…掟で、自分が命令を出したとはいえ …娘を殺した水雲が憎かった…いや、誰かを憎まねば気がすまなかった。  冷酷な里掟の矛先は…歪んだ男の逆恨みの復讐劇を成就させた、たとえその行為が矛盾だらけ な上に…全く理のないものだとしても、男…里長は満足していた。  ふと、里長が床に眼をやると…そこには何かが転がっていた。よくよく見ればそれは…見覚えの ある七つの玉…七本槍に与えた、さまざまな色の義眼だった。  「たあああああああ!!!」  里長が手槍を取って身構えた瞬間、その首は簡単に落とされた。  里長の背後には、標を構えた弧太郎がいた。  「あはははははは、あはははははははははは!!!!」  弧太郎の体は血にまみれていた、先ほど鉄砲で撃たれた傷の出血も十分に酷かったが…その血の殆どは …水雲を殺そうとした七本槍と…それを見てみぬ振りをした、村人達の返り血だった。  「あははははは!あはははははは!!!」  弧太郎の心は完全に壊れた、そしてその怒りを村の住人にぶつけて…本気で暴れた結果、小さな村は一夜に して軽々と全滅したのだ…。   かつて死を恐れぬと言われた南洋の戦士は第一次世界大戦の際、十二発もの弾丸を心臓と頭部に打ち込まれ ながらも動き回り、二人の騎兵を軽々と切り殺したと言う…忍の天才である弧太郎にとって、重傷を負いながら の戦闘行為は…至極可能なものだったのかもしれない。  戦闘が終わり、村に朝日が昇る頃…弧太郎は再度崖の近くに向かい…そして、水雲と一緒に埋まれるような、大きな 大きな墓穴を掘った。  「老いて死ぬときも…片時も離れずに、同じく死に、腐れ落ちる…ふふふ、いっしょですよ、ずーっといっしょですよ すいうんさま…」  穴に綺麗に水雲の死体を寝かせると、そんな言葉を呟きながら…弧太郎は穴に入って水雲の死体を抱きしめ…その中で ようやく絶命した。  …自分が上になっていいのかなあ…水雲さま、きっと恥ずかしがるだろうなあ…。  そんな事を考えながら、弧太郎の意識は途絶えた。 464 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/11/26(月) 12:44:20 ID:USB98JEl 月輪に舞う エピローグ  …おしまいおしまい、と…ああ、猛こんな時間かい…悪かったない、こんな遅くまで くだらねえ忍者の話なんかでつき合わせちまってよう…って、泣いてんのかい?… 涙もろいやねえ兄ちゃんはよお…。  へ?二人が可哀想だって?まあまだ話には続きがあってさね…このあと二人は地獄に 落ちるってんだけどよお、あの世で二人を哀れに思った閻魔様は…二人を畜生…狐にして この筑摩の山に夫婦として永遠に転生させるってことに決めたってんだわなあ…。  そうして今でもあの山では…二人は中むつまじく、夜もすればおどってんだとよ…どうだい? これで安心したかい…っと、これで店じまいだな、お代はいらねえよ…くだらねえ年寄りの話に 付き合ってくれたお礼だ…また来てくんな、今度はもっと泣ける話をしてやっからよお…。      筑摩の山ではかつての里の跡も消え、今では木々が広がっていた。  そしてちょうど木々がなくなった原っぱでは…満月ともなれば、どこからともなく二匹の狐が現れて くるくると…まるでダンスを踊るかのように双方が回って、戯れていた。  空には月がさしていた、そしてそこには弧太郎と水雲の二人がいた。  二人の愛は、たとえ姿が変わっても永遠だったのだ。  …山河と筑摩…その意はただ二人、永久に月輪に舞う…    FIN  

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