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429 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十話 ◆AW8HpW0FVA :2010/05/23(日) 22:41:27 ID:Z9+/ToUj 第十話『西方へ』 ニプルヘイムに向かうための難所は、越える時も難所である。 シグナムにとって、半月も山越えに時間を費やす暇はなかった。 正直な所、別なルートを模索したかったが、ニプルヘイムの周辺は、 アムリタ、ソーマ、ネクタル、アンブロシアの四山以外は未開と言ってよく、 下手に踏み込めば二度と出てこれないという有様であり、 ならば川を下るならばどうかというと、切り立った渓谷の間を流れる凄まじい激流が、 いかなる船も沈めてしまうので、これもまた行うのは至難である。 結局は、北方三山を越えなければ、外に出れないというなんとも不便なものだった。 復路の最初のネクタル山を、シグナムとブリュンヒルドは無言のまま歩いていた。 シグナムの表情は暗い。 守ると決めたイリスを、事故死させてしまったのだ。 その事実は、シグナムの心を抉り、シグナムに沈黙を選ばせた。 その沈黙が居た堪れなかったのか、ブリュンヒルドがなにかと話しかけてきたが、 シグナムはそれらを全て無視した。 最初の内は、無視されても話し掛けていたブリュンヒルドだったが、 ついに黙ってしまった。どうやら無駄だと悟ったらしい。 しばらく沈黙の旅が続いたが、 再びブリュンヒルドが声を掛けてきた。 最初の内は無視していたシグナムだったが、 ブリュンヒルドが肩を掴んで強引に顔を合わせてきた。 「どうした?」 「いい考えが浮かびました。上を見てください」 ブリュンヒルドはそう言って、空を指差した。 ブリュンヒルドの指先を見つめるシグナムの目に、太陽の光は眩しかった。 そんな太陽を切り裂く様に、一つの黒い影が横切った。 「あれは……、ガルダか……」 見てみて、そう呟いたシグナムは、ブリュンヒルドに目を向けた。 ガルダは、ファーヴニルに生息する全長二十メートルを越す獰猛な巨鳥である。 その巨鳥が、あれほど小さく見えるという事は、それだけ高く飛んでいるという事である。 あれをどうするというのだ、という意味の視線を向けるシグナムに、ブリュンヒルドは、 「見ていてください」 と、言って、弓矢を取り出した。 ブリュンヒルドが着ている漆黒の鎧と同じ様に、弓矢も漆黒である。 矢をつがえ、遥か高くを飛ぶガルダに照準を合わせる。 一瞬の間の後、ブリュンヒルドは矢を放った。 放たれた矢は異様な唸りを上げて上昇し、ガルダに命中した。 力なく、ゆっくりと落下し、しばらくすると、凄まじい地響きと揺れが二人を襲った。 落下地点に向かうと、そこにはやはりガルダが倒れていた。 しかし、どういう訳か、中ったはずの矢がどこにも見当たらなかった。驚愕しているシグナムに、 「ガルダには矢は中ててませんよ。ただ、頭のスレスレを射ただけです。 ガルダは梟並みの聴力がありますから、 矢の衝撃波で三半規管を狂わせる事が出来ると思ったのでやってみました」 と、ブリュンヒルドはまるでちょっと買い物に行ってきたとでもいう様な口振りで説明した。 シグナムはこれ以上もないほどの空恐ろしさを感じた。 430 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十話 ◆AW8HpW0FVA :2010/05/23(日) 22:42:48 ID:Z9+/ToUj シグナム達は空を飛んでいた。 ブリュンヒルドの言っていたいい考えとはこの事だったのだ。 ガルダは誇り高い動物であり、自分の認めた者以外は乗せないという意思を持っているのだが、 ブリュンヒルドは、その巨鳥を御してみせた。 「ほら、そっちじゃないわよ。まっすぐ飛びなさいよ、この馬鹿鳥が!」 ガルダの首辺りを短刀で突き刺しながら。 ブリュンヒルドが短刀を突き刺す度に、ガルダの首筋から血が滲み出、悲痛な泣き声が上がった。 ガルダの首の皮が厚いのと、刺しているのが短刀であるため、致命傷にはなっていない。 それでも空を飛べれば、曲がりくねり、岩盤の露出した道を通る必要がなく、 これならば、明日の昼には三山を越える事が出来る。 それを思うと、シグナムはガルダには同情するが、助ける気にはなれなかった。 右へ左へふらつきながらも、シグナム達はソーマ山の辺りを通過し、その辺りで日が暮れた。 着陸した辺りで野宿する事を決めると、 ブリュンヒルドはガルダの両足に杭を打ち付け、逃げられないようにしていた。 幼い頃の酷虐な性質は、大人になっても変わらないものだと、シグナムはそれを見て思った。 夕食の準備をするのは、ブリュンヒルドである。 妙に楽しそうに調理をしているブリュンヒルドの手付きを、シグナムは注意深く眺めていた。 まだ完全に疑いが晴れた訳ではないからである。 しばらくそれを見つめていたシグナムは、問題はないと判断し、 「ブリュン、お前は山を越えたら、ファーヴニルに向かってくれ」 と、おもむろに言った。ブリュンヒルドは怪訝な表情になった。 「ファーヴニル……ですか?なぜわざわざ」 「お前には伝えておくが、私がリヴェント大陸に向かう目的は、 国内の擾乱を鎮める事だ。お前もリヴェント大陸の有様は知っているだろう」 「はい。八ヶ国連合の後方援助をしていたために魔王軍に攻められ、 多くの諸国が滅んだため、現在は無政府状態にあると……」 「そうだ。私はその無秩序の国に秩序を取り戻してやりたい。 そのためには、どうしても金が要る。私もいくらかは持ってはいるが、所詮、それは端金だ。 だから、お前にはリヴェント大陸鎮静のための援助金及び食料を借りてきてもらいたいのだ。 これが出来るのは、お前しかいないのだ。頼む、ブリュン」 シグナムの言っている事は、全て本当である。 だが、本当の目的は、ファーヴニル国に出資させ、国を疲弊させる事である。 ガロンヌがそれに気付く可能性もあるが、なんて事はない。 ガロンヌ以外の者達を納得させればいいのである。 周りの者の殆どが賛成すれば、ガロンヌも首を横には振れまい。 後はブリュンヒルドがこの命令に首を縦に振るだけだが、それはあまり心配なかった。 ブリュンヒルドは目を輝かせ、 「分かりました。このブリュンヒルド、身命をとして、この任を全うしてみせます」 と、声高々にのたまったからだ。 これで後に残る難題は、ファーヴニルの重臣達を説得する事だけである。 料理を食べ終えたシグナムは、説得の内容をブリュンヒルドに告げた。 万全に万全を期しても、シグナムには足りないと思えた。 なにせ、この最初の対決が重要だったからだ。 天はシグナムを滅ぼすか、ガロンヌを滅ぼすか、全てはこの一事に掛かっていた。 431 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十話 ◆AW8HpW0FVA :2010/05/23(日) 22:43:57 ID:Z9+/ToUj 念入りな打ち合わせは、深夜まで続いた。 多少疑惑が薄れたとはいえ、ガロンヌの刺客という可能性を捨てていないシグナムは、 ブリュンヒルドと二人だけで眠るという事に、少なからぬ不安を抱いた。 もう、交代で見張る事も出来ず、扉に鍵を掛ける事も出来ない。 あと一日で三山を越えられるのだから、今回は徹夜をしてもいいか、とシグナムが考え始めた頃、 「シグナム様、一緒に寝ましょう」 と、ブリュンヒルドが手招きしながら言ってきた。 あまりにも自然に言ってきたので、シグナムは一瞬なにがなんだか分からなかった。 「…………はぁ…………?ブリュン、冗談だったら笑えないぞ、それ……」 「冗談なんかじゃありませんよ。シグナム様、以前言ったじゃないですか。 私達は仲間なのだから親交を深めるのは当然だ、と。これもその一つではないですか」 にやけ面のブリュンヒルドがそう宣う。あの時の意趣返しか、とシグナムは思った。 「ほら、鎧を脱ぎましたよ。早く来てください」 鎧の下から現れたのは、宿にいたときに幾度となく見た、 服を押し上げるブリュンヒルドの巨乳だった。 十分余裕のある服であるはずなのに、ブリュンヒルドの大きな胸は酷く強調され、 さらにスカートから覗く太ももは、雪の様に白く肉付きがよく、 危うく巨乳フェチから太ももフェチに乗り換えてしまいそうになるほど素晴らしいものだった。 何度も見ているはずなのに、思わずどきりときたのは、 ここが外だからか、それとも焚き火のせいだからか、はたまた降り注ぐ月光のせいだろうか。 「シグナム様が来ないのなら、私がそっちに行きますね」 散々迷っていると、痺れを切らしたブリュンヒルドがこちらにやってきて、 なんの躊躇もなくシグナムに抱き着き、押し倒してきた。 シグナムの顔がブリュンヒルドの胸の谷間に埋まった。 ブリュンヒルドの柔らかくハリのある乳肉がシグナムの顔をぐにぐにと圧迫し、 ミルクの様な甘い香りが、鼻腔いっぱいに満たした。 「ふぁ……、シグナム様ぁ、もっと近くに……」 しばらくして、おもむろにブリュンヒルドが左手を掴み、太ももに導いた。 程よく鍛えられたブリュンヒルドの太ももは、ムチムチとしており、触れると手の形にたわんだ。 これほどの至福の中にいるというのに、シグナムの表情は血の気が引いた様に白かった。 未だに刺客であるという疑念を払えず、さらには過去の呪縛に取り付かれているシグナムは、 ブリュンヒルドのこの行動が、いったいなんの前触れなのか、という事が気になり、 目の前の快感よりも、後の恐怖が先立って、まったく喜べなかった。 そんな事などお構いなしに、ブリュンヒルドはシグナムを強く抱き締め、 艶やかな嬌声を闇の中に響かせていた。 結局、ブリュンヒルドが完全に寝付くまで、シグナムは安心して眠る事が出来なかった。 夜明の太陽は、薄っすらと青白かった。 432 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十話 ◆AW8HpW0FVA :2010/05/23(日) 22:46:36 ID:Z9+/ToUj 日が中天から傾く頃、シグナム達は三山を越え、大地に降り立った。 シグナム達を乗せていたガルダは、大地に足を着けたと同時に地響きを立てて倒れてしまった。 首筋の出血と、限界を超えた飛行のせいで、ガルダは死に掛けていた。 そんなガルダを、ブリュンヒルドは値踏みする様な目付きで見つめていた。 「シグナム様、これ、バラしちゃいましょう」 言うなり、ブリュンヒルドは剣を手に持った。 刹那、ガルダの首が胴体から切り離され、血の雨が降った。 シグナムには、ブリュンヒルドの太刀筋が見えなかった。 化け物だ、とシグナムは恐れ戦いた。 「さてと……、ガルダの肉はAランクの品質だから高く売れるし、眼球はポーションの原料、 骨は武器、性器は精力剤になるんだったわね……」 ブリュンヒルドがそう呟くと、再びガルダの身体が裂け、血が飛び散った。 飛び散ったのは血だけではなく、不必要な部分の肉や部位なども飛び散り、 道具屋で売れる部位のみが、その場に残った。 「さぁ、シグナム様、拾いましょう」 振り向いたブリュンヒルドは、返り血一つ浴びておらず、白い肌のままだった。 呆然としていたシグナムは、その声で我に返り、ガルダだったものを拾い始めた。 それ等のアイテムを村の道具屋に売りつけた後、シグナムとブリュンヒルドは分かれた。 シグナムは西の港町のサヴァンへ、ブリュンヒルドは首都のファーヴニルに向かった。 ブリュンヒルドは別れを惜しむように何度も振り向いたが、 シグナムは一度も振り向く事なく、黙々と西に進んだ。 久し振りに一人旅をする事になったシグナムは、 襲い掛かってくる魔物の群れに怯む事なく戦った。 二又の化け猫を右の手刀で切り裂き、九本の尾を持つ狐を仕込み矢で射殺し、 鎧を着た虎人を聖剣シグルドで鎧ごと斬り捨てた。当に獅子奮迅と言ってもよかった。 こうして難なく港町サヴァンに着いたシグナムは、 道具屋でアイテムの整理を行なった後、酒場に向かい、西大陸の情報を収集した。 それらを終えると、もうここには用はないと断じ、船をチャーターした。 ブリュンヒルドはまだ来ていなかったが、本人には目的地を伝えてあるし、 いつまでもここに滞在している余裕がなかった事もあり、シグナムは素早く船を出発させた。 波は穏やかで、風は追い風。これ以上もない最高の船出だった。 この先の西大陸になにが待ち受けているのか、それは天を除いて誰も知らなかった。
429 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十話 ◆AW8HpW0FVA :2010/05/23(日) 22:41:27 ID:Z9+/ToUj 第十話『西方へ』 ニプルヘイムに向かうための難所は、出る時も難所である。 シグナムにとって、半月も山越えに時間を費やす暇はなかった。 正直な所、別なルートを模索したかったが、ニプルヘイムの周辺は、 アムリタ、ソーマ、ネクタル、アンブロシアの四山以外は未開と言ってよく、 下手に踏み込めば二度と出てこれないという有様であり、 ならば川を下るならばどうかというと、切り立った渓谷の間を流れる凄まじい激流が、 いかなる船も沈めてしまうので、これもまた行うのは至難である。 結局は、北方三山を越えなければ、外に出れないというなんとも不便なものだった。 復路の最初のネクタル山を、シグナムとブリュンヒルドは無言のまま歩いていた。 シグナムの表情は暗い。 守ると決めたイリスを、事故死させてしまったのだ。 その事実は、シグナムの心を抉り、シグナムに沈黙を選ばせた。 その沈黙が居た堪れなかったのか、ブリュンヒルドがなにかと話しかけてきたが、 シグナムはそれらを全て無視した。 最初の内は、無視されても話し掛けていたブリュンヒルドだったが、 ついに黙ってしまった。どうやら無駄だと悟ったらしい。 しばらく沈黙の旅が続いたが、 再びブリュンヒルドが声を掛けてきた。 シグナムは無視を決め込むつもりだったが、 ブリュンヒルドが肩を掴んで強引に顔を合わせてきた。 「どうした?」 「いい考えが浮かびました。上を見てください」 ブリュンヒルドはそう言って、空を指差した。 ブリュンヒルドの指先を見つめるシグナムの目に、太陽の光は眩しかった。 そんな太陽を切り裂く様に、一つの黒い影が横切った。 「あれは……、ガルダか……」 見てみて、そう呟いたシグナムは、ブリュンヒルドに目を向けた。 ガルダは、ファーヴニルに生息する全長二十メートルを越す獰猛な巨鳥である。 その巨鳥が、あれほど小さく見えるという事は、それだけ高く飛んでいるという事である。 あれをどうするというのだ、という意味の視線を向けるシグナムに、ブリュンヒルドは、 「見ていてください」 と、言って、弓矢を取り出した。 ブリュンヒルドが着ている漆黒の鎧と同じ様に、弓矢も漆黒である。 矢をつがえ、遥か高くを飛ぶガルダに照準を合わせる。 一瞬の間の後、ブリュンヒルドは矢を放った。 放たれた矢は異様な唸りを上げて上昇し、ガルダに命中した。 力なく、ゆっくりと落下し、しばらくすると、凄まじい地響きと揺れが二人を襲った。 落下地点に向かうと、そこにはやはりガルダが倒れていた。 しかし、どういう訳か、中ったはずの矢がどこにも見当たらなかった。驚愕しているシグナムに、 「ガルダには矢は中ててませんよ。ただ、頭のスレスレを射ただけです。 ガルダは梟並みの聴力がありますから、 矢の衝撃波で三半規管を狂わせる事が出来ると思ったのでやってみました」 と、ブリュンヒルドはまるでちょっと買い物に行ってきたとでもいう様な口振りで説明した。 シグナムはこれ以上もないほどの空恐ろしさを感じた。 430 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十話 ◆AW8HpW0FVA :2010/05/23(日) 22:42:48 ID:Z9+/ToUj シグナム達は空を飛んでいた。 ブリュンヒルドの言っていたいい考えとはこの事だったのだ。 ガルダは誇り高い動物であり、自分の認めた者以外は乗せないという意思を持っているのだが、 ブリュンヒルドは、その巨鳥を御してみせた。 「ほら、そっちじゃないわよ。まっすぐ飛びなさいよ、この馬鹿鳥が!」 ガルダの首辺りを短刀で突き刺しながら。 ブリュンヒルドが短刀を突き刺す度に、ガルダの首筋から血が滲み出、悲痛な泣き声が上がった。 ガルダの首の皮が厚いのと、刺しているのが短刀であるため、致命傷にはなっていない。 それでも空を飛べれば、曲がりくねり、岩盤の露出した道を通る必要がなく、 これならば、明日の昼には三山を越える事が出来る。 それを思うと、シグナムはガルダには同情するが、助ける気にはなれなかった。 右へ左へふらつきながらも、シグナム達はソーマ山の辺りを通過し、その辺りで日が暮れた。 着陸した辺りで野宿する事を決めると、 ブリュンヒルドはガルダの両足に杭を打ち付け、逃げられないようにしていた。 幼い頃の酷虐な性質は、大人になっても変わらないものだと、シグナムはそれを見て思った。 夕食の準備をするのは、ブリュンヒルドである。 妙に楽しそうに調理をしているブリュンヒルドの手付きを、シグナムは注意深く眺めていた。 まだ完全に疑いが晴れた訳ではないからである。 しばらくそれを見つめていたシグナムは、問題はないと判断し、 「ブリュン、お前は山を越えたら、ファーヴニルに向かってくれ」 と、おもむろに言った。ブリュンヒルドは怪訝な表情になった。 「ファーヴニル……ですか?なぜわざわざ」 「お前には伝えておくが、私がリヴェント大陸に向かう目的は、 国内の擾乱を鎮める事だ。お前もリヴェント大陸の有様は知っているだろう」 「はい。八ヶ国連合の後方援助をしていたために魔王軍に攻められ、 多くの諸国が滅んだため、現在は無政府状態にあると……」 「そうだ。私はその無秩序の国に秩序を取り戻してやりたい。 そのためには、どうしても金が要る。私もいくらかは持ってはいるが、所詮、それは端金だ。 だから、お前にはリヴェント大陸鎮静のための援助金及び食料を借りてきてもらいたいのだ。 これが出来るのは、お前しかいないのだ。頼む、ブリュン」 シグナムの言っている事は、全て本当である。 だが、本当の目的は、ファーヴニル国に出資させ、国を疲弊させる事である。 ガロンヌがそれに気付く可能性もあるが、なんて事はない。 ガロンヌ以外の者達を納得させればいいのである。 周りの者の殆どが賛成すれば、ガロンヌも首を横には振れまい。 後はブリュンヒルドがこの命令に首を縦に振るだけだが、それはあまり心配なかった。 ブリュンヒルドは目を輝かせ、 「分かりました。このブリュンヒルド、身命をとして、この任を全うしてみせます」 と、声高々にのたまったからだ。 これで後に残る難題は、ファーヴニルの重臣達を説得する事だけである。 料理を食べ終えたシグナムは、説得の内容をブリュンヒルドに告げた。 万全に万全を期しても、シグナムには足りないと思えた。 なにせ、この最初の対決が重要だったからだ。 天はシグナムを滅ぼすか、ガロンヌを滅ぼすか、全てはこの一事に掛かっていた。 431 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十話 ◆AW8HpW0FVA :2010/05/23(日) 22:43:57 ID:Z9+/ToUj 念入りな打ち合わせは、深夜まで続いた。 多少疑惑が薄れたとはいえ、ガロンヌの刺客という可能性を捨てていないシグナムは、 ブリュンヒルドと二人だけで眠るという事に、少なからぬ不安を抱いた。 もう、交代で見張る事も出来ず、扉に鍵を掛ける事も出来ない。 あと一日で三山を越えられるのだから、今回は徹夜をしてもいいか、とシグナムが考え始めた頃、 「シグナム様、一緒に寝ましょう」 と、ブリュンヒルドが手招きしながら言ってきた。 あまりにも自然に言ってきたので、シグナムは一瞬なにがなんだか分からなかった。 「…………はぁ…………?ブリュン、冗談だったら笑えないぞ、それ……」 「冗談なんかじゃありませんよ。シグナム様、以前言ったじゃないですか。 私達は仲間なのだから親交を深めるのは当然だ、と。これもその一つではないですか」 にやけ面のブリュンヒルドがそう宣う。あの時の意趣返しか、とシグナムは思った。 「ほら、鎧を脱ぎましたよ。早く来てください」 鎧の下から現れたのは、宿にいたときに幾度となく見た、 服を押し上げるブリュンヒルドの巨乳だった。 十分余裕のある服であるはずなのに、ブリュンヒルドの大きな胸は酷く強調され、 さらにスカートから覗く太ももは、雪の様に白く肉付きがよく、 危うく巨乳フェチから太ももフェチに乗り換えてしまいそうになるほど素晴らしいものだった。 何度も見ているはずなのに、思わずどきりときたのは、 ここが外だからか、それとも焚き火のせいだからか、はたまた降り注ぐ月光のせいだろうか。 「シグナム様が来ないのなら、私がそっちに行きますね」 散々迷っていると、痺れを切らしたブリュンヒルドがこちらにやってきて、 なんの躊躇もなくシグナムに抱き着き、押し倒してきた。 シグナムの顔がブリュンヒルドの胸の谷間に埋まった。 ブリュンヒルドの柔らかくハリのある乳肉がシグナムの顔をぐにぐにと圧迫し、 ミルクの様な甘い香りが、鼻腔いっぱいに満たした。 「ふぁ……、シグナム様ぁ、もっと近くに……」 しばらくして、おもむろにブリュンヒルドが左手を掴み、太ももに導いた。 程よく鍛えられたブリュンヒルドの太ももは、ムチムチとしており、触れると手の形にたわんだ。 これほどの至福の中にいるというのに、シグナムの表情は血の気が引いた様に白かった。 未だに刺客であるという疑念を払えず、さらには過去の呪縛に取り付かれているシグナムは、 ブリュンヒルドのこの行動が、いったいなんの前触れなのか、という事が気になり、 目の前の快感よりも、後の恐怖が先立って、まったく喜べなかった。 そんな事などお構いなしに、ブリュンヒルドはシグナムを強く抱き締め、 艶やかな嬌声を闇の中に響かせていた。 結局、ブリュンヒルドが完全に寝付くまで、シグナムは安心して眠る事が出来なかった。 夜明の太陽は、薄っすらと青白かった。 432 :ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十話 ◆AW8HpW0FVA :2010/05/23(日) 22:46:36 ID:Z9+/ToUj 日が中天から傾く頃、シグナム達は三山を越え、大地に降り立った。 シグナム達を乗せていたガルダは、大地に足を着けたと同時に地響きを立てて倒れてしまった。 首筋の出血と、限界を超えた飛行のせいで、ガルダは死に掛けていた。 そんなガルダを、ブリュンヒルドは値踏みする様な目付きで見つめていた。 「シグナム様、これ、バラしちゃいましょう」 言うなり、ブリュンヒルドは剣を手に持った。 刹那、ガルダの首が胴体から切り離され、血の雨が降った。 シグナムには、ブリュンヒルドの太刀筋が見えなかった。 化け物だ、とシグナムは恐れ戦いた。 「さてと……、ガルダの肉はAランクの品質だから高く売れるし、眼球はポーションの原料、 骨は武器、性器は精力剤になるんだったわね……」 ブリュンヒルドがそう呟くと、再びガルダの身体が裂け、血が飛び散った。 飛び散ったのは血だけではなく、不必要な部分の肉や部位なども飛び散り、 道具屋で売れる部位のみが、その場に残った。 「さぁ、シグナム様、拾いましょう」 振り向いたブリュンヒルドは、返り血一つ浴びておらず、白い肌のままだった。 呆然としていたシグナムは、その声で我に返り、ガルダだったものを拾い始めた。 それ等のアイテムを村の道具屋に売りつけた後、シグナムとブリュンヒルドは分かれた。 シグナムは西の港町のサヴァンへ、ブリュンヒルドは首都のファーヴニルに向かった。 ブリュンヒルドは別れを惜しむように何度も振り向いたが、 シグナムは一度も振り向く事なく、黙々と西に進んだ。 久し振りに一人旅をする事になったシグナムは、 襲い掛かってくる魔物の群れに怯む事なく戦った。 二又の化け猫を右の手刀で切り裂き、九本の尾を持つ狐を仕込み矢で射殺し、 鎧を着た虎人を聖剣シグルドで鎧ごと斬り捨てた。当に獅子奮迅と言ってもよかった。 こうして難なく港町サヴァンに着いたシグナムは、 道具屋でアイテムの整理を行なった後、酒場に向かい、西大陸の情報を収集した。 それらを終えると、もうここには用はないと断じ、船をチャーターした。 ブリュンヒルドはまだ来ていなかったが、本人には目的地を伝えてあるし、 いつまでもここに滞在している余裕がなかった事もあり、シグナムは素早く船を出発させた。 波は穏やかで、風は追い風。これ以上もない最高の船出だった。 この先の西大陸になにが待ち受けているのか、それは天を除いて誰も知らなかった。

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