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652 :サトリビト・パラレル ◆8jnT/g1A3Q :2010/06/01(火) 20:54:50 ID:Q4AmEywj 僕たち一行は目的地に到着した。 道中様々な敵と出会い、数多の死闘を繰り広げて(主に僕と太郎君が)ようやくここまでやってこれたのだ。 「どうする?とりあえず先に宿でも取ってくるか?」 太郎君がまるでリーダー気取りに提案してきた。なんとなくムカつく。なんとなく反抗したい。 「まずはごはんだろ?レストランを探そうぜ!」 だが真のリーダーはどちらの意見も突っぱねた。 「まずは教会に行くのが先決でしょ?何かあったらどうするのよ」 あれ?陽菜ってキリスト教徒だっけ? でも僕なんかの疑問は所詮、ハエのようなものなのだ。叩き潰されるのが運命。 なので口にはしなかった。 教会に行くと神父さんから驚きの態度を取られた。 「あ、あの~・・・」 「今日は迷える子羊たちが来ませんね」 「・・・」 先ほどから話しかけているのに、完全にシカトされるのだ。僕たちが何かしたって言うのか? 「・・・どきなさい慶太・・・そいつはきっと魔物が化けているのよ・・・」 陽菜の手に炎の塊ができている。 「だから・・・消す」 「や、やめろーーーーーーーーー!!」 なんとか陽菜に抱きついて止めることができた。・・・ちょっとラッキ♪ 「ちょ、慶太、何やってんのよ///!?」 照れてる顔もかわいいな~・・・しばらくこうしてよっかな? 「・・・陽菜さんがやらないなら私が遺悪で消します」 「だ、だからダメだってばーーーーー!!」 今度は恭子ちゃんに抱きついた。 「あぅ・・・慶太さん・・・♡」 僕は一体何をしてるんだ・・・ その時、恭子ちゃんと陽菜の目があった。なぜかは分からないが、目があった瞬間にお互いが微笑んだ事が・・・怖かった。 「・・・やっぱり私が消すわね?」 「うわーーーー!!」 「・・・いいですよ。私がやりますんで」 「ダメーーーー!!」 このコントが数時間続いた。 「と、とにかく適当に声をかけよう!」 そういうわけで、先ほどから町人、武器屋、防具屋などに声をかけるが、やはり誰もが僕たちを無視した。 なぜか宿屋だけは練習と称して僕たちから金を巻き上げようとしたが・・・ 途方にくれた僕たちは、一番人の出入りが激しい船着き場でずっと座り込んでいた。 「・・・どうしよう・・・」 このまま一生無視され続けるのか、その前に陽菜の怒りが爆発するかは分からないけど、どっちにしろ早く解決しないと大変なことになるのは分かる。 そんな時、救いの手が僕たちに差し伸べられた。 「やっと見つけました。魔王を倒す勇者たちよ」 そこには金髪でグラマーな美人・・・というか姉ちゃんがいた。 653 :サトリビト・パラレル ◆8jnT/g1A3Q :2010/06/01(火) 20:55:44 ID:Q4AmEywj 「あ!名乗りもしないでいきなり話しかけて驚かれましたよね?」 ・・・姉ちゃんだろ?話の内容といい、口調といい・・・笑いを取ろうとしているのか? 「私の名前は祥子と申します」 あ~分かったよ、付き合えばいいんだろ?それで祥子さんは僕達に一体何の用ですかね? 「・・・何の用なの?」 陽菜も僕と同じことを思ったらしい。ただ、質問の真剣さは大きく違ったが。 「あなた達は魔王を倒すべき勇者とその仲間ですよね?それで分かっていただけましたか?」 まったくもって意味不明である。これで分かる奴がいたら何でも言う事を聞いてやるよ。 「つまり、あなたは魔王を一緒に倒す勇者を探していて、それが私たちだから声をかけた、と?」 「さすが勇者様一行。賢さにも秀でていますね」 なんと陽菜が正解してしまった。それにしても自分から勇者達と名乗るなんて、陽菜は恥ずかしくないのか? 「とりあえず・・・あなた達の姿を取り戻すのが先決ですね」 姉ちゃんががビックリ発言をした。姿を取り戻す? 「姿を取り戻すって何?」 「今あなた達の姿はごく一部を除いてこの世界の住人には見えません。きっと魔物の呪いのせいでしょう」 「え!?・・・でもそんな呪い受けた覚えがないけど・・・」 「いいえそんなはずありません。きっと魔物の呪いです」 「でも本当に―――」 「・・・魔物の呪いのせいだっつってんだろ?」 「あ、そうでした!今思い出しました!」 なんとか三度目の命は守ることができた。やっぱり体は大事にしないとね? 「それであなたに元に戻せるんですか?」 恭子ちゃんがまるでお前ごときにできんのか?という目をしている。いや、僕の天使に限ってそんなはずはない。きっと疲れから幻覚を見ているのだろう。 「まずは材料を取りに行かなくてはいけません。ここから少し南下したところにある洞くつにそれはあるのですが・・・」 言い淀む姉ちゃん。嫌な予感がする。ってか嫌な予感しかしない。 「その洞くつには最近魔物がはびこりだしているんです」 やっぱりね。ならこのままでもいいや。 「ならとっととその洞くつに向かおっか」 「そうですね」 「さすが勇者様一行。頼もしい限りです」 やる気満々の女性陣。対して・・・ 「うぅ!?・・・急にお腹が痛く・・・!」 「大丈夫太郎君!?しかたないな、俺が残って看病するか・・・」 やる気の全くない男性陣。だって僕たちは弱いんだもん。 「何言ってんのよ慶太。あんたも行くのよ」 そう言って僕の手を引く陽菜。嬉しいやら止めてほしいやら複雑な心境になる僕。 「お兄ちゃんは私が心配じゃないの?私が魔物に殺されてもいいの?」 はっ!そうだ、恭子ちゃんを守るのが僕の使命なんだ!・・・ま、僕より数倍も強いんだけどね。 「では四人で向かいましょう」 「え・・・あ・・・あの・・・やっぱり僕も行こっかな?」 「お腹痛いんでしょ?太郎君は休んでていいよ?」 「そうですよ。しっかりと休んでて下さい。いつまでも休んでて結構なんで」 「では行ってきますね」 なぜだろう。戦場に向かう僕より、安全な町で待機する羽目になった太郎君の方が気の毒に思えてしまった。 654 :サトリビト・パラレル ◆8jnT/g1A3Q :2010/06/01(火) 20:56:28 ID:Q4AmEywj よく心霊スポットとかにトンネルが出てくる。 狭くて暗くて風の音が聞こえるトンネル。 それだけでも怖くて、入るのを躊躇ってしまうだろう。 それを何十倍も怖くした場所に今僕たちは来ていた。 「お兄ちゃん、怖~い♡」 そう言って僕の腰にしがみついてくる恭子ちゃん。しがみ付く場所が腕から腰に変わったのはレベルアップした影響だろう。 「・・・ふ~ん・・・今から魔物と戦うってのに・・・ずいぶんと余裕だね、慶太・・・」 先ほどから恐怖で目を閉じている僕が余裕?怖さのあまり姉ちゃんの服をつまんでいる僕が余裕? 「あ、あの・・・どうかされましたか?」 ごめん姉ちゃん。町に帰るまでこうしていてもいいですか? 「・・・選びなさい慶太・・・魔物たちと戦うか・・・私と戦うか・・・」 僕は咄嗟につまんでいた手を離す。そして恭子ちゃんにも言った。 「確かに怖いよね?でもさすがに抱きつかれると二人とも危ないから・・・手をつなぐのでもいいかな?」 「えー!・・・分かりました」 恭子ちゃんはしぶしぶ僕の腰にまわしていた手を離し、手を握ってきた。恋人繋ぎなのはきっと怖いからだろな。それ以外に他意はないよな。 「・・・私も怖いんだけどな・・・」 「ほら・・・陽菜も手をつなごう?」 右手を差し出すと、顔を赤く染めながらも陽菜が手を握ってきた。 この瞬間、僕は最強になった。右手には超攻撃呪文、左手には回復呪文。まさしく最強の装備だ。 ただこの装備には難点が一つだけ存在した。 「・・・なんで陽菜さんまで?陽菜さんは大人なのに洞くつが怖いんですか?」 「大人でも洞くつは怖いよ。でもそれ以上に・・・害虫によって私の宝物が穢されるのが一番怖いかな?」 「あ、奇遇ですね!私も同じ事考えてました!」 なぜか考えることは同じらしいのに、相性は最悪の気がする。 「フフ、仲がよろしいのですね。羨ましいですわ」 姉ちゃんの言葉に僕の両手を握る力が倍増した。かなり痛いんですけど・・・ 「・・・羨ましい?・・・どういう意味?」 「まさかお兄ちゃんと手をつなぎたいんですか?」 さらに力を込める二人。いだだだだだだだだだだだだだーーーーーーー!!! 「そういう事ではありません。ただ・・・弟の事を考えてしまって・・・」 ん?僕の事? 「実は私には弟がいまして・・・とは言ってもあなた達のように仲が良かったわけではありませんでしたが・・・」 そりゃそうだろうね。なんせ僕の中での姉ちゃんの記憶と言ったら、殴られ、蹴られ、罵倒を浴びせられた事が8割以上を占めているんだから。 「小さい頃に生き別れたっきりで・・・もうかれこれ10年近く会っていないんです・・・」 え?僕の記憶が正しければ一週間くらい前には会ったような・・・? 「名前は輝(テル)と言って、とてもかわいい弟でした・・・」 ここまで来たらさすがの僕でもショックを受けた。弟の名前を間違えるなんて・・・あんまりじゃない? 「そうなんだ・・・もう一度、弟さんに会えるといね」 「はい・・・実は旅をしていたのも弟を探すという目的が含まれていたんです」 「私もできるだけ協力します!やっぱり姉弟(兄妹)は一緒にいなきゃだめですよ!」 「恭子さん・・・有難うございます!」 なにやら女性陣に奇妙な関係が生まれた。それよりも僕はどうすればいいのだろう?今さら僕が弟ですと名乗れるような雰囲気ではない。 「そうと決まれば一刻も早く元の姿を取り戻さないとね!」 意気揚々と三人+一人は洞くつに入っていった。 655 :サトリビト・パラレル ◆8jnT/g1A3Q :2010/06/01(火) 20:57:08 ID:Q4AmEywj 洞くつに入って早々、僕は目が点になった。 「百怒!」 なぜなら姉ちゃんも呪文が使えたからだ。しかも一瞬で敵を凍らせてしまうほどの。 「・・・本当にごめんなさい。役に立たなくてごめんなさい」 もう消えたい。 「大丈夫だよ!慶太だってレベルが上がれば強くなるよ!」 そう言われればこの洞くつに来る途中、初めて一人でスライムを倒したのだ。・・・薬草三枚を使って。 「それにこの前も言ったけど、私はお兄ちゃんがいるだけで十分だから!」 恭子ちゃんのセリフは嬉しいが、この場では言ってほしくなかった。なぜならその瞬間から右腕が再び悲鳴を上げだしたからだ。 そうやって右手を失ったらごはんはどうやって食べようかな?と考えていたとき、大きな鏡が目の前に現れた。 「悪魔の鏡!?」 どうやら敵だったようだ。名前的に。 「まさかこんな所で出てくるなんて・・・っ!」 姉ちゃんが苦虫を噛んだように顔をしかめる。そんなに強い敵なのか? もう一度敵を見るが、とても強そうには見えない。ってかただの鏡にしか見えない。 「皆さん、アイツの鏡を見てはダメよ!」 だが姉ちゃんの警告は一歩遅かった。すでに僕とその両側にいる人物が鏡を見てしまったのだから。 次の瞬間、鏡が急に光りだし姿を変えた。 「くっ・・・遅かった・・・!」 鏡はそのままぐにょぐにょと動き、やがて収束した。その姿は・・・ 「「「え?」」」 なんと恭子ちゃんだった。 「これがアイツの能力です。自分を見た者の姿や記憶、さらには能力までもコピーしてしまうという恐ろしいヤツなのです」 なんだって!?それなら最強じゃないか!僕はいくら敵だからと言って偽恭子ちゃんを攻撃なんて――― 「眼羅巳ぃいぃぃぃぃぃ!!!」 そんな中陽菜は迷いや躊躇といったものを全く感じさせず、いやむしろ親の仇を討つかの如く特大の火の球を放った。 「ウハハハハハハハハハハ!!!死ね、死ね、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 相手は最初の一撃で黒こげになったにもかかわらず、陽菜は攻撃の手をやめない。 その光景に誰もが息を飲んだ。恭子ちゃんに至っては顔面蒼白で震えている。 「よ・・・陽菜・・・?」 「!」 僕が声をかけると、ようやく陽菜は我に帰った。 「ア、アハハハ・・・あまりにも呪文の調子が良かったから・・・つい・・・」 ついだと・・・?ついであそこまで・・・相手が灰になるまで火の球を放ったとでも言うのか? 「そ、それじゃあ先に進もうね!」 陽菜は攻撃時に離した手を握り戻してきた。 先ほどまでは嬉しかったはずのその行為が・・・止めてほしいと思えた。 656 :サトリビト・パラレル ◆8jnT/g1A3Q :2010/06/01(火) 20:57:54 ID:Q4AmEywj 洞くつの先へと進んで行った僕達に、再び奇怪な光景が現れた。 「・・・ヒック・・・ここに来れば姿が戻るって聞いたのに・・・ヒック・・・道に迷っちゃったよ~・・・」 なんと女の子が泣いていたのだ。 こんなところに女の子一人なんて罠以外に考えられなかったが、その子が可愛らしかったのでまんまと引っ掛かってしまった。 「あの・・・大丈夫ですか?」 声をかけるとその子は驚いて顔をあげた。 ・・・はぁ・・・何となく想像できたけど・・・やっぱりね・・・ 「わ、私が見えるの!?」 「・・・見えるし、多分君の名前も言えるよ。・・・結衣でしょ?」 「!」 その子・・・岡田はこれでもかというくらいに目を見開いて僕を見つめた。 「も・・・もしかしてあなたが・・・///」 何やら急に頬を染めだした。その様子といい、真横から感じるプレッシャーといい、なぜかこの先は言わせてはいけない気がする。 「ま、まって―――」 「私の将来の旦那なの!?」 「「「「!」」」」 場が凍った。 「おばあちゃんに言われたとおりだ・・・私が困っているときに助けてくれて、尚且つ名前を言い当てた人と私は結婚するって・・・!」 ずいぶん具体的だな。そんなの僕で確定みたいじゃないか。 「しかもお互い姿を失くした状態なんて・・・運命で結ばれてるんだ!」 岡田は僕の両手が見えてないのか、弾丸のように抱きついてきた。姉ちゃんといい岡田といい、最近は性格を変える遊びでもはやっているのか? 「う~ん・・・初めて会ったのにもうドキドキしてる・・・♡」 頼むからやめてくれ。頼むから顔をすりすりするのはやめてくれ。僕の両サイドの御方の顔が見えないのか? ついに我慢の限界が来たのだろう。僕の左手が先制口撃をしかけた。 「・・・3秒以内に離れて下さい。さもないとあなたの両足を吹き飛ばしますよ?」 恭子ちゃんに変なスイッチが入った。 「・・・今日はやっぱり呪文の調子が良さそうだな♪」 陽菜の顔が悪い意味で輝きだした。 「んふ~大好き♡」 それでも岡田は二人に気がつかなかった。かわいそうな岡田・・・恨むなら優柔不断な僕を恨んでくれ・・・ しかし彼女の身には危害が及ぶことはなかった。なぜなら――― ・・・グチャッ!!・・・ 「ウギャァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」 「け、慶太!?一体どうした・・・の・・・」 「お、お兄ちゃ・・・ん・・・」 「どうしたの!?何かあった・・・の・・・」 「何やってるの二人とも!恭子ちゃんは早く保井美を!陽菜さんと結衣さんは早く薬草を!」 「ウギャァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」 「くっ!・・・だめだわ・・・血が止まらない・・・!」 「い、嫌だよぉ!しっかりしてよお兄ちゃん!」 「大丈夫!?ねぇ大丈夫!?」 「ウギャァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」 二人の握力がどれだけあったのかは分からないが・・・とりあえず僕の想像していた数値の軽く100倍はあったんじゃなかろうか? 僕の両手がグチャッといった。 657 :サトリビト・パラレル ◆8jnT/g1A3Q :2010/06/01(火) 20:58:44 ID:Q4AmEywj 「た、大変な目に会った・・・」 なんとか回復呪文と薬草のおかげで僕の腕は元どうりになった。だが心の方までは元どうりになるはずもない。 「ねぇ慶―――」 「ダメ!さっきこの人には近付かないって約束したでしょ!また手を潰す気なの!?」 さっきから僕のそばから岡田が離れない。対照的に陽菜と恭子ちゃんは僕のはるか後ろをとぼとぼとついてくる。 なぜなら僕が土下座までして懇願したからだ。しばらくそっとしといて下さいと。 「信じられない・・・この人の手を握り潰すなんて・・・それでも仲間なの!?」 突っ込みどころはそこだけではない。人の手を潰すって・・・二人はいったい何者なの? 「まぁまぁ二人とも反省してるんだし・・・そのくらいで止めとこうよ」 そんなのんきなこと言わないでよ姉ちゃん!僕は手を潰されたんだよ!グチャッてされたんだよ! 「まぁまぁ」 「血や骨が飛び出たんだよ!目茶目茶痛かったんだよ!」 「・・・・・・・・・・・・・あ?」 「・・・なんかとてもすっきりした気分になったよ。それに僕も筋トレをしないとね」 「それはいい心がけね」 もう嫌だ・・・早くここから出たい・・・ 「あ~!あれじゃない!」 その時岡田が叫んだ。 岡田の指さした方には、僕の願いが通じたのか、姉ちゃんの言っていた材料のキノコが生えていた。 「そうね、色や形からしてあれで間違いないわね」 「いよっしゃぁぁぁぁあああ!!」 今日一番嬉しい瞬間だった。これでやっと帰ることができる! だがキノコを抜く前に鏡が再び現れた。 「それは俺の食糧なんだ。勝手に持っていかれたら困るな~?」 なんと魔物が日本語で話しかけてきた。意外に頭がいいんだな。 「コイツは・・・悪魔の鏡じゃない!?」 姉ちゃんが言った通り、よく見るとソイツはさっきの奴とは微妙に色や大きさが違った。きっと突然変異なのだろう。だから頭がいいのかも。 「どうしても欲しいってんなら俺を倒してからにしな!」 いかにも悪者っぽいセリフの後に、鏡は岡田に変身した。しまった!岡田に教えるのを忘れていた! 「ハハハ!なるほど・・・コイツは魔力が高くて使える人間だぜ!残念だったな!」 ちなみに僕が心配なのは味方の心配ではない。どちらかと言うと相手の心配だ。 「お前!今すぐ僕に変身しろ!後悔するぞ!」 「ハァ?テメーみたいなクズに変身したらやられちまうだろが」 コイツは分かっていない。その姿が今一番危険だという事を。 「フフ・・・フフフ・・・アハハハハハハ!!!!!!」 「アイツは魔物ですよね、お兄ちゃん?だから殺しても何の問題もないですよね、お兄ちゃん?」 遅かったか・・・ 「眼羅巳ぃ!罵犠魔ぁ!」 「遺悪!遺悪!遺悪羅ぁ!」 「な、何ーっ!?」 二人は笑いながら持てる最高の呪文を放ち続けた。そのせいで今にも洞くつが崩れそうだ。 「アハハハハハハハハハハ!!醜い顔しちゃって何様のつもりなの!この害虫がぁぁぁぁああああ!!!」 「ゴキブリの分際でよくもお兄ちゃんと・・・死ねよぉぉぉぉおおおおお!!!」 なぜか二人は魔物というより・・・まるでその姿に対して攻撃しているようだった。 658 :サトリビト・パラレル ◆8jnT/g1A3Q :2010/06/01(火) 20:59:38 ID:Q4AmEywj 「く・・・くそ・・・なんて魔力なんだ!?」 さすが突然変異の魔物。なんとか生き延びているようだ。 「こうなったら・・・」 偽岡田がこっちを見た。 「一か八か別の奴に変身するしかない!」 偽岡田は再び光りだして僕に姿を変えた。・・・陽菜に変わればよかったものを。 「くっ!?何だこの体は!筋肉や魔力をまるで感じないぞ!これではスライム以下じゃないか!」 失礼な奴だな。スライムは僕でも倒せるんだぞ。その前に50連敗したけど。 だが敵にとって奇跡が起こった。 「あ・・・う・・・慶太・・・」 「なんて卑怯なの!お兄ちゃんに変身するなんて!」 二人が攻撃をやめたからだ。 「?・・・成程・・・そう言う事か」 くっ!恭子ちゃんはともかく、陽菜が偽僕を攻撃しない理由が分からないのに、アイツは分かるとでも言うのか!なんか悔しい! 「まずいわね・・・こうなったら私が・・・百怒!」 氷の刃が偽僕を襲う。 ・・・自分ではないんだけど、自分の姿をしたものが攻撃されるのって嫌な気分だな。 「ぐわっ!」 偽僕は直で喰らったにもかかわらず、まだ生きていた。なんとなくだけど嬉しい。 「頼む恭子・・・お、俺に保井美をかけてくれ・・・」 僕の声と姿を利用して、敵は恭子ちゃんに救いを求めた。 は!恭子ちゃんがそんなのに騙されるか! 「で、でも・・・」 え? 「愛してる・・・お前が好きだ・・・恭子・・・」 「!」 あ、あの野郎!僕の姿と声でなんてこと言いやがる! 「頼む・・・恭子・・・」 「・・・保井美!」 なんと恭子ちゃんがアイツを回復させてしまった。いや、それより・・・ 「それで・・・さっき言ったことは本当なの?私の事・・・あ・・・愛してるって///?」 「本当だよ。それに・・・陽菜、お前の事も愛してるよ」 「!?・・・け、慶太・・・」 「だから・・・俺達の幸せを邪魔するあいつらを・・・片づけてくれないか?そうしたらご褒美のキスをあげるよ」 さっきから何なんだ!僕に対する嫌がらせか!拒否られたら僕は一生のトラウマになるぞ! 「お兄ちゃんのキス・・・分かりました」 「その約束・・・守ってよね」 二人は交渉の末・・・敵に寝返った。そんなバカな! 「お、おい二人とも正気か!?僕たちを殺したら僕とキスするはめになるんだぞ!」 言っていることは滅茶苦茶だったが、意味は通じるだろう。 「・・・わ、分かってます///」 「お願い慶太・・・死んで」 「死ねるかーーーーーーー!!」 僕は逃げた。多分自己最速タイムを更新するスピードで逃げ出した。でも捕まった。 「嫌だーーーー誰か助けてくれーーーー!!!」 その時リアルシスターが僕を助けるつもりで叫んだ。 「二人ともよく聞いて!慶太君はさっき偽物を倒したらキスに加えて添い寝までするって言ってたわよ!」 だが内容は絶望的なものだった。 659 :サトリビト・パラレル ◆8jnT/g1A3Q :2010/06/01(火) 21:00:54 ID:Q4AmEywj 「お兄ちゃんのキスに加えて・・・」 「添い寝・・・?」 二人が動きを止める。ぎりぎり、若干僕の鼻がやけどを負ったが、ぎりぎりで命が助かった。 「そうよ!なんなら本人に直接聞いてみれば!」 二人が僕を見下ろす。もしここで肯定しなければ・・・確実に焼かれる気がする。 「するよ!なんでもする!だから偽物をやっつけて!」 「ちょっ!将来の奥さんがいるのになんてこと言うの!」 すまん岡田。でもここでしんだら旦那もクソもなくなるだろ?だからこらえてくれ。 「「絶対?なんでもする?」」 「します!します!何でもします!!」 僕の返答に二人は満足したのかニコッと笑った。これまでの経過がなかったらきっと一目ぼれしそうなくらい綺麗に。 「お兄ちゃんがそう言うなら・・・私はアイツをやっつけるね♡」 「慶太が何でもするか~・・・楽しみだな~♪」 そのまま彼女達は偽僕に掌を向け、アイツにとって最後であろう言葉をかけた。 「挫羅鬼」「遺悪羅」 「うっ!」 偽僕は絶命した後、体が粉々にはじけ飛んだ。そ、そこまでしなくても・・・一応僕の姿をしてるんだから・・・ 「と、とりあえずキノコを採って早く帰ろう!」 やっと平和な町へ帰れる! 確かにこの時はそう思った。 だが町に帰った僕達にはさななる悲劇が待ち構えていた。いや、僕だけに。 「そ、それで・・・その・・・お兄ちゃん・・・キ、キスは///?」 せめて誰もいない場所で言ってほしかったな。怖くて岡田さんの方に振り返れないでしょ? 「なんでもか~・・・まずは・・・私の事を世界で一番愛してるって言って?」 そ、それくらいなら平気かな――― 「慶太・・・だっけ?妻がいるのに・・・もしそんなこと言ったら・・・どうなるか分かるよね?」 「み、みんな冷静になろうよ!キスとか愛してるとかは冗談だよね!?僕をからかって楽しんでるだけだよね!?」 よく何でもするってセリフを聞くけど、実際は何でもはしないよね?それと同じだよね? だが恭子ちゃんはすでに何度かレベルアップしていたのを忘れていた。 「・・・嘘・・・ついたんですか?嘘だったんですか?嘘?嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘・・・」 何!?恭子ちゃんが何だかとてつもなく怖いんですけど!? 「・・・フフ・・・アハッ・・・アハハハハハハハハハハハハ!!」 陽菜はレベルが上がっていないはずなのに、なんでこんな黒い笑い方をするの!?もしかして最初っからクライマックスレベル!? 「分かったよ!僕は陽菜を世界で一番愛しています!恭子ちゃんはキスするから早くこっちに来て!」 その後、この町は一人の少女によって半壊した。ちなみに僕の体も。

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