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667 :囚われし者:2010/06/01(火) 22:16:04 ID:hV5ZaQez 「はい、これが今日の分ですよ。兄さん。」 ちょうど、朝食を食べ終えた僕の前に、水といつものカプセルを置いた。 「ありがとう、優。」 僕はそう自分の妹、柏城優(かしわぎゆう)に礼を言った。 黒い長髪の、僕と同じ遺伝子を継いでいるとは思えないほどの美少女であり、この年ににして医学の権威であり、数々の学会で論文を発表するほどの才女でもある。 それが僕の妹である。 「ちゃんと飲んでくださいね。じゃないと兄さんまた・・・」 「わかってるよ。」 優に渡されたこの薬、これは僕の病気を抑えるための薬である。 僕は5年前、突如意識不明となり病院で生死をさまよったことがある。 そんな僕の命を助けたのが、当時すでに医学を学んでいた優だった。 優が作ってくれた薬のおかげで僕は今でも生活することができている。 だけど、それは根本的に治療されているわけではなく、病気の進行と発作を抑えるのみ、ゆえに、僕は今もこうして薬を飲み続けなければならない。 薬の飲み終えた僕を満足そうに見つめる優 「それじゃあ、学校に行きましょうか。」 668 :囚われし者:2010/06/01(火) 22:16:28 ID:hV5ZaQez 「おはよう。奨悟」 学校につくと、いつものように綾華が声をかけてきた。 周防綾華(すおう あやか)は僕の幼馴染のようなものだ。 綾華の家はあの大手薬品メーカー周防製薬である。 僕の両親が周防製薬のメイン研究グループのリーダーをしていることもあり、周防家の人とは個人的に会食することがあった。 そこで出会ったのが綾華である。 それ以来、綾華とは良き友人として長年やってきた仲だ。 といっても、地味で目立たない僕と違って、綾華の快活な性格と上品な顔立ちのおかげで男女ともに人気が高く、そのため僕と絡むことは少なくなってきたように感じる。 「それにしても、またあの子と一緒に来たの?」 「あの子って優のこと?」 「そうよ。」 「そりゃだって兄妹だし・・・」 「兄妹ならなおさらよ!高校生にもなって妹とあんなにベタベタして登校なんて恥ずかしくないの?」 「いや、まぁ少しは・・・」 正直に言うと僕も恥ずかしいのだが、以前それとなく別々に登校しようと言ったときには 『どうしてそんなこと言うんですか?』と濁った目で延々と詰め寄られたことがある。 それからというもの僕は別々に登校しようなどとは口にできくなった。 「まぁ、それはいいわ。それより明日はちゃんと私の家に来るのよ。」 「え、何で?」 「何でって・・・あんた、明日は私の誕生日でしょ。」 そういえばそうだった。毎年、綾華の誕生日には親しい知人や周防家や周防製薬の関係者を招いたパーティーがあるのだ。 本人はあまりこういうことは好きじゃないらしいが、毎年のことと割り切っているらしい。 「あぁ、必ず行くよ。」 「もちろんよ、絶対着なさいよ。」 そこで彼女の顔から一瞬表情がなくなるのがわかった。 「もし来なかったら・・・・お仕置きだから・・・」 669 :囚われし者:2010/06/01(火) 22:16:52 ID:hV5ZaQez 授業を終え帰宅すると優はもう帰宅していた。 「おかえりなさい兄さん。」 「ただいま。」 簡単に挨拶をすませ普段着に着替える。 「そういえば、明日は晩御飯はいらないよ。」 「?」 そこで、今日の出来事を報告する。 「ほら綾華が明日誕生日だろ?そのパーティーに行くからさ。」 二人そろって行ければいいのだが、今日の反応を見たように、綾華はなぜか優のことをあまり良く思ってないらしい。 そのため、毎年出席するのは僕だけだ。 「またあの女ですか・・・」 「あの女って、そういう言い方はないだろう?」 「気分を害されたのならすいません。ですが、今年はそれは行かないでいいですよ。」 「へ?」 突然ことに思わず声をあげる。 「どういうこと?」 「だって、明日は第2土曜日じゃないですか。」 「そういえば・・・」 第2土曜日というのは僕と優暗黙のルールというかなんというか・・・ つまるところ、この日は兄妹二人で遊びに行ったり外食にでかけたりする日なのである。 ちょうど両親が研究が忙しくなり二人で留守番することが多くなった頃くらいから優が提案したものである。 優曰く、親がいなくても寂しくないように兄妹の絆を深める・・・ことが目的らしい。 「あ~、じゃあ今週の土曜日は『いやですよ。』」 優が僕の言葉を遮る。 「えっと・・・」 「嫌ですよ。あの女の誕生日会に行くから今月はなしだなんて・・・」 僕の言葉を先読みして優が言った。 心なしか優の顔が暗く険しく見える。 「えっと・・・、じゃあ延期っていうのはどうかな?」 「それも嫌です。」 そう濁った瞳で僕を食い入るように見つめながら言う。 あまりの迫力に僕は一歩引いた。 「そもそもおかしいでしょう。なんであんな女のために私の一ヶ月の楽しみを取り上げられないといけないんですか?」 「取り上げるって・・・、一日ずれるだけじゃ・・・」 「だから嫌なんですよ、あの女の誕生日会なんてどうでもいいじゃないですか!」 そう言うと優は僕の肩を掴んだ。 優の整った顔と鋭い瞳が僕を貫く、直視できず顔を背ける。 「明日は、私と過ごしてください。」 そう言うと、優は僕を抱きしめた、女の子とは思えないほど強い力で。 そして、僕の耳元で囁いた。 「じゃないと・・・お薬、あげませんよ?」 僕は背筋が凍った。 薬をもらえない、それは遠回しに・・・ 「じゃあ、兄さん明日はエスコート宜しくお願いしますね。」 さっきまでの迫力が嘘のように明るい笑顔をむけると、優は僕を離して台所へ向かって行った。 だけど、僕は未だに動けずにいた。 そして、改めて実感させられる。 僕は、僕の命は・・・・  優に握られているんだと。

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